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1章後半 デビルサイド編
22.森は誰のものか
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翌朝…と言っても、昼前の十一時頃。
ブランチの匂いに釣られて僕は目を覚ました。
周りを見るとまだ巡回を共にした男達は眠ったままのようだ。
とするとこの匂いは…?
「オマエが一番なんて珍しいな…」
鍋の前で味見をしていた、エプロン姿のお頭が首だけ振り向いて言う。
「俺っちも手伝うぜ」
「当たり前だ。氷室にルイベ漬けの残りがあるから取ってこい」
「おう。他にとって来るもんあっか」
「そうだな……いや、ない。持ってきたら配膳に回りな」
お頭にそう言われ、氷室を探してログハウスの中をグルグルしていると、
「氷室は外だろうが。寝ぼけてんのか」
と言われて、外に蹴りだされた。
昨日のことと言い、どうやら随分足癖の悪いお嬢さんらしい。
見た目は十四~五六だが、身に纏うカリスマが彼女をこのログハウスに君臨するボスにしているようだ。
外に出ると、体感温度はマイナス十度ぐらいで、もう春だというのに地面が凍っていた。
歩くとシャクシャクと霜柱を倒す音が聞こえてくる。
ログハウスの隣にある小さい家には、下に繋がる階段があり、階段の下は更に寒くなっていた。
人間の食糧庫を見る機会なんてないから期待していたのだけれど、うちの蔵とそんなに代わり映えのない蔵だ。
「えーと…ルイベルイベ~……っと、これか」
布をめくってみると、鮭のルイベが保管されていた。
倉庫を一周見渡すと他にもテンサイやジャガイモといった野菜や酒の備蓄があったが、不思議なことにこの鮭のルイベ以外の魚や肉を見当たらない。
最も不自然なのは、魔物の素材もないことだ。
森で狩猟をして生活しているなら、この木こり達も獲物を保管していてもおかしくない。なぜだ?
「肉や魚がないって? そりゃあお前、買いに行かなきゃあるワケねえだろ……うしっ、完成っと…んなこと考える前にとっとと配膳済ませちまえよ」
アツアツのジャガイモスープを作り終えたお頭は、頭ではなく手を動かせと重ねた皿を僕に手渡した。
それを並べながら、雑談の一つとして彼女に質問を投げかける。
「海は無理でも森で狩りすれば……」
「おい」
全てを言う前に、理解したのかお頭は話を一度止めた。
「うん」
「この森が誰の所有物か忘れたのか? …いや、知らなくても仕方ないか。なんでそんなこと気にするんだ。昨日の夜からお前、少し変だぞ」
森の所有者…お頭からおかしな言葉が出てきた。
森は皆の共有財産ではないのか?
いや、魔族がそうというだけで人間達は違うのか。
しかしこれ以上の追求は流石に怪しいか…。
「ちょっと気になっただけだからよ。気にしないでチョ」
「そうか……いや、いい時期かもな。食事の時に話をしてやろう。他の奴らを起こしてこい」
♢♢♢
「美味しく召し上がれ」
皆が口々に食事をする前にそう言うので、僕もそれを習って「美味しく召し上がれ」と口にした。
僕らで言うところの「いただきます」だろう。
宗教的なものかは定かではないけれど、食事前に何かするというのは同じらしい。
それからはズルズルガチャガチャと音を立てながらの、賑やかな朝食が始まった。
朝食と言っても、獣に紛れて食事をするような感覚だ。
品性の欠片もない食べ方で辟易するが、時期にこれもなれるはず。
感情を殺し、見様見真似でスープを飲み干した。
「ウッ…グッ…グッ…プフゥ……」
僕らの食べっぷりに満足したのか、お頭は先ほどの疑問を話題に出して話をしてくれた。
なぜ肉がないのか、森で狩りをしないのかと言う話だ。
「いいかい、この森はまずこの領地を統治する貴族様の物だ。アンタらだってそれは知ってるだろう」
みんな眠たい眼を擦りながら、何の話だと言いたげに頷いている。
「けれど森は広いからね、森のあちらは向こうの領主、こちらの森はまた別の領主、そしてココは例外、でも権利はココの領主……なんて例外の例外が複雑に絡みあっているのさ」
人間は面倒臭いな…そこまでする理由があるというのだろうか。
「鹿の角の権利はあちらに、ネオプロンの口ばしはコチラに、なんて他にも。全部理解する頃にはまた冬が来ているだろうさ」
お頭はそんなルールを決めた相手を心底バカにしているようだった。
ルールなんてものは、モラルを守れない者が生まれた時に出来るものだと存じ上げているが、人間はそんなにモラルがないのだろうか?
「それでアンタの言ってたことへのアンサーだ。肉を勝手に狩ろうものなら、アタシ達は晴れて密猟者の仲間入りだ」
スプーンをコチラに向けてお頭は僕を注意した。それに対して、話を聞いていた三つ編み髭の男が「バレなきゃいいんじゃないのか」と聞いた。
「領主のところには血の臭いを覚えた犬が多くいるからね。狩って持ちかえったらその時点で、全員同罪地獄世行。だからアタシ達は規律が重要なのさ。誰も破れない鉄の規律がね。アンタ達分かったね? 」
「朝から説教なんて勘弁しろよ」
背の高い男が肘をつけてスプーンをくるくる回しながら言う。
「そろそろ暖かくなってくるからね。町に買い物を頼むことも増えるだろう。この時期に言っておくのが一番なのさ」
オジサンが自分の娘のような歳の子に説教されるという不思議な光景を見ながら、僕は食事を進めた。
人間を見ながら食事をとっていると、どうしても舌が人間を求めたけれど、それも食後のウォッカを飲んで落ち着かせた。
ブランチの匂いに釣られて僕は目を覚ました。
周りを見るとまだ巡回を共にした男達は眠ったままのようだ。
とするとこの匂いは…?
「オマエが一番なんて珍しいな…」
鍋の前で味見をしていた、エプロン姿のお頭が首だけ振り向いて言う。
「俺っちも手伝うぜ」
「当たり前だ。氷室にルイベ漬けの残りがあるから取ってこい」
「おう。他にとって来るもんあっか」
「そうだな……いや、ない。持ってきたら配膳に回りな」
お頭にそう言われ、氷室を探してログハウスの中をグルグルしていると、
「氷室は外だろうが。寝ぼけてんのか」
と言われて、外に蹴りだされた。
昨日のことと言い、どうやら随分足癖の悪いお嬢さんらしい。
見た目は十四~五六だが、身に纏うカリスマが彼女をこのログハウスに君臨するボスにしているようだ。
外に出ると、体感温度はマイナス十度ぐらいで、もう春だというのに地面が凍っていた。
歩くとシャクシャクと霜柱を倒す音が聞こえてくる。
ログハウスの隣にある小さい家には、下に繋がる階段があり、階段の下は更に寒くなっていた。
人間の食糧庫を見る機会なんてないから期待していたのだけれど、うちの蔵とそんなに代わり映えのない蔵だ。
「えーと…ルイベルイベ~……っと、これか」
布をめくってみると、鮭のルイベが保管されていた。
倉庫を一周見渡すと他にもテンサイやジャガイモといった野菜や酒の備蓄があったが、不思議なことにこの鮭のルイベ以外の魚や肉を見当たらない。
最も不自然なのは、魔物の素材もないことだ。
森で狩猟をして生活しているなら、この木こり達も獲物を保管していてもおかしくない。なぜだ?
「肉や魚がないって? そりゃあお前、買いに行かなきゃあるワケねえだろ……うしっ、完成っと…んなこと考える前にとっとと配膳済ませちまえよ」
アツアツのジャガイモスープを作り終えたお頭は、頭ではなく手を動かせと重ねた皿を僕に手渡した。
それを並べながら、雑談の一つとして彼女に質問を投げかける。
「海は無理でも森で狩りすれば……」
「おい」
全てを言う前に、理解したのかお頭は話を一度止めた。
「うん」
「この森が誰の所有物か忘れたのか? …いや、知らなくても仕方ないか。なんでそんなこと気にするんだ。昨日の夜からお前、少し変だぞ」
森の所有者…お頭からおかしな言葉が出てきた。
森は皆の共有財産ではないのか?
いや、魔族がそうというだけで人間達は違うのか。
しかしこれ以上の追求は流石に怪しいか…。
「ちょっと気になっただけだからよ。気にしないでチョ」
「そうか……いや、いい時期かもな。食事の時に話をしてやろう。他の奴らを起こしてこい」
♢♢♢
「美味しく召し上がれ」
皆が口々に食事をする前にそう言うので、僕もそれを習って「美味しく召し上がれ」と口にした。
僕らで言うところの「いただきます」だろう。
宗教的なものかは定かではないけれど、食事前に何かするというのは同じらしい。
それからはズルズルガチャガチャと音を立てながらの、賑やかな朝食が始まった。
朝食と言っても、獣に紛れて食事をするような感覚だ。
品性の欠片もない食べ方で辟易するが、時期にこれもなれるはず。
感情を殺し、見様見真似でスープを飲み干した。
「ウッ…グッ…グッ…プフゥ……」
僕らの食べっぷりに満足したのか、お頭は先ほどの疑問を話題に出して話をしてくれた。
なぜ肉がないのか、森で狩りをしないのかと言う話だ。
「いいかい、この森はまずこの領地を統治する貴族様の物だ。アンタらだってそれは知ってるだろう」
みんな眠たい眼を擦りながら、何の話だと言いたげに頷いている。
「けれど森は広いからね、森のあちらは向こうの領主、こちらの森はまた別の領主、そしてココは例外、でも権利はココの領主……なんて例外の例外が複雑に絡みあっているのさ」
人間は面倒臭いな…そこまでする理由があるというのだろうか。
「鹿の角の権利はあちらに、ネオプロンの口ばしはコチラに、なんて他にも。全部理解する頃にはまた冬が来ているだろうさ」
お頭はそんなルールを決めた相手を心底バカにしているようだった。
ルールなんてものは、モラルを守れない者が生まれた時に出来るものだと存じ上げているが、人間はそんなにモラルがないのだろうか?
「それでアンタの言ってたことへのアンサーだ。肉を勝手に狩ろうものなら、アタシ達は晴れて密猟者の仲間入りだ」
スプーンをコチラに向けてお頭は僕を注意した。それに対して、話を聞いていた三つ編み髭の男が「バレなきゃいいんじゃないのか」と聞いた。
「領主のところには血の臭いを覚えた犬が多くいるからね。狩って持ちかえったらその時点で、全員同罪地獄世行。だからアタシ達は規律が重要なのさ。誰も破れない鉄の規律がね。アンタ達分かったね? 」
「朝から説教なんて勘弁しろよ」
背の高い男が肘をつけてスプーンをくるくる回しながら言う。
「そろそろ暖かくなってくるからね。町に買い物を頼むことも増えるだろう。この時期に言っておくのが一番なのさ」
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