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1章後半 デビルサイド編
28.とある冒険者達の会話
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「どういうことだ? 」
「ここ最近、教会が蘇生の神事を執り行わないようになったの」
「どうして? 」
「さぁね? このアポライ神に見捨てられたってもっぱらの噂だけど。真相はまだ分かっていないわ。神父様は何か知っているようだったけど。どうにもできないの一点張りでね。どうしようもなかったの」
二週間前と言えば、丁度僕がコボルトの町を復興した時だ。
これは偶然か?
「それで冒険者の流出か。冒険者がいなくなれば、この町の人たちは大変だよな。どうするんだ? 」
「もう既に領主が騎士を呼んでいるに決まっているじゃない。到着にはもう少しかかりそうだけれど、この辺りの魔物もかなり減らしたから、それぐらいなら問題ないわ」
僕を安心させようと、彼女はそんな魔族相手には絶対できないような内容まで話をしてくれた。
「このタイミングで魔族の大群が襲ってきたらどうするんだ? 」
「……そうね。でもそうなった時は、必ず私が命を賭けて皆を逃がす。だから心配要らないわ」
無策ではないにしろ、万全な状態ではないといったところか。
「ありがとさん。アンタみたいな人を、英雄って言うんだろうな~」
「英雄って言葉…私は嫌い。他人任せで、褒めておけば良いように動いてくれる、みたいな風に聞こえるから。やりがい搾取よ」
「おぉ……そうなのか。じゃあ、お礼だけ。ありがとう」
「別にまだ仕事をしたワケじゃないし。言われる筋合いはないわ」
そう言ってはいるものの、氷の魔法使いの顔は先ほどとは明らかに違って、リラックスした状態になっていた。
しかしまだほんの少し警戒しているのか、やはり浴槽に足より上を入れるということはしなかった。
「あ~……にしても結構温まってきたぜ。なんか知りたいことあっか? ねぇなら俺っちはそろそろ……」
「もう出るの? 」
「あぁ。もうふやけちまった」
一瞬自分が人間だということを忘れて、おにぎり小僧として話をしてしまったことにギョッとしたが、よく考えると人間の皮もふやけて柔らかくなるので、それを思い出したらホッとなった。
「彼方がモノを知らないせいで、私の方が話をしてしまったわ。これは不公平じゃないかしら」
「情報の価値で考えてみろよ。俺っちの情報は危険な魔物や魔族がいる森での貴重な目撃情報だぜ? そんなの無料同然で教えてあげたんだから、この後メシを奢ってくれたって良いぐらいだぜ」
「洗いざらい話すなら…私は別にそれでも構わないけれど? 」
「……風呂入ってねえじゃん」
「もう十分温まったわ」
浴場にやって来て湯船に足だけつけて帰るヤツを、僕は生まれて初めて見た。
♢♢♢
そんなこんなで、引くに引けなくなった僕は浴場の前で彼女と待ち合わせをすると、この町に二カ所あると言う酒場の内の一つに足を運ぶことになった。
「どうしてこうなった……」
メニュー表と彼女の顔を交互に見ながら苦悩する。人間の文字なんて読めないから、何があるのかさえ分からない。
「読めねぇ」
そう言ってメニュー表を渡した。
「は? ……なんでも良いのね」
「穀物系が良いな。米とか」
「豆のスープならあるけど? 」
「それは嫌だ」
「………」
彼女はなぜか舌打ちをした後に、注文を取ると少し不機嫌にテーブルに肘をついた。行儀が悪い。
それになにを怒っているのかさっぱり分からない。腹が減っているせいか?
「聞きたいことがあるんじゃねえの? 」
「ハァー……」
酒場の椅子に座って料理が来るのを待つ間、僕は彼女から質問攻めに全て対応しながら、酒場の雰囲気に心を落ち着かせた。
昼間だからか客は少なく、僕と彼女、それに数組のペアが離れて座っているような程度だった。
その中で、ふと注文を待っていると冒険者二人の会話が聞こえてくる。一人は腰に剣を携えた若い冒険者、そしてもう一人は宝石を全身に身に着けた老いた冒険者だった。
♢♢♢
「お前さんはまだこの町に残るのか」
「門前じゃあ連日ごたごたしてるし、どうしたもんかな」
男達の前には一ポンド以上ありそうな肉塊が、湯気を上げて並べられている。
「教会で蘇生が出来ないんじゃ狩りの効率も悪い。ワシは一つ前の町に戻るつもりだ」
老人の冒険者がそう言って肉にかぶりついている。
流石最前線までくるような冒険者だ。もはや自身の命すら効率で捉えているらしい。それから話を聞いていると、どうやら彼ら冒険者には町への愛着はないようで、故に狩りに充分な設備が整っていない町は容易に切り捨てるという考えなのだろう。この町に冒険者がいないことも考えると、どうやらこの老冒険者の考えが一般的のようだ。
「でも、二代目魔王が討たれて今三代目になったばっかりだろ? 今が魔族を潰す一番の好機じゃないか」
熱意ある青年は机をドンと鳴らす。その青年の表情はこれまで積み上げてきた自信と誇りで輝いているように見えた。
「だからなんだというのだ。魔王城にでも攻め入る気か? 」
「それは機会があれば…アンタは違うのか」
青年の言葉に老人は肉を口に含んだまま豪快に笑った。そして老いた冒険者以外の、この酒場にいた冒険者も二人の会話を聞いていたのか、クスクスと笑っている。
「わざわざババを率先して引きたいヤツがいるか? 」
老冒険者は笑い涙を拭いながらそう言った。
「魔王は倒せる時に倒すべきだ。連合だってそう言ってる」
訝し気に聞く青年に老冒険者は頷いた。
「そりゃあなぁ。国っちゅうもんは明確な敵がいると楽だからのぉ。まあ、よいではないか。連合が魔族と敵対しているおかげで、我らがこうして飯を食えておるのだから」
♢♢♢
そんな二人の会話を聞いて、不機嫌な顔になっていたのは、僕の前に座るパオンだった。
自分たちの利益ばかり考えている二人に、心底軽蔑の眼差しを向けている。彼女も意外と分かりやすい性格をしているようだ。
「俺っちはこの町が好きだ。誰にも渡したくない」
「アナタじゃ何もできないでしょ」
そう言った彼女の顔には、少し嬉しそうな表情が浮かんでいた。しかし、欲しいという気持ちは、僕の心からのものだった。
注文をしてからしばらく経つと、厨房からいい匂いが漂い始めてきた。何を注文したのかは全く分からないが、焼き料理であることは音でわかった。厨房から聞こえるじゅうじゅうという音がしばらく続き、やがてその音が消えたことから、何かで蓋をしたのだろうと推測できる。だとしたら、蒸す工程が加わったのかもしれない。
そう考えると、考えられるのは…何かの包み焼きかな? 肉の種類は匂いからすると、多分豚…それとも牛もあるのか? いや、流石に混合種なんて人間が作れるわけがないし、どちらかだと思うけれど、一体何だろう。
「話を逸らさないで」
目の前の彼女の話に、料理の期待とは裏腹に、いい加減飽き飽きしてきていた。
「何が来るか今から楽しみだなーこりゃあ」
適当な返事を返していると、机のエールがパキパキと音を立てて氷ついた。これは少し面白い。どうやら彼女は呼吸するように魔法を使えるらしい。これでは人間というより、魔族のようだ。
怪人ブリザードマン――いや、ブリザードウーマンか。
「おい、これじゃ飲めねぇよ」
そう言うと、彼女は少し驚いた様子で、「驚かないのね」と言った。
何を驚くことがあるんだろうと思いながら、その言葉の意味を少し考え、自分の浅はかさを呪った。そういえば、イソマルトは木こりで、目の前に座る彼女が氷の魔法使いであることを知らない人間だった。驚いた様子がまったくないと、彼女に変な疑いを持たれるかもしれない。ここは不自然でも多少驚いておくべきか? いや、無理だな。しかし、何か言い訳が欲しいところだ。
脳のトルクを高回転させ、解を探し出す。
「あぁ…おう、女湯に入ってた事実に比べたら、そんなに驚くことでもないかってさ」
これだ!
「それはそうね。」
ふぅー、よかった。すでに頭のおかしい野郎だと思われていたおかげで、何とか誤魔化せたみたいだ。
「ここ最近、教会が蘇生の神事を執り行わないようになったの」
「どうして? 」
「さぁね? このアポライ神に見捨てられたってもっぱらの噂だけど。真相はまだ分かっていないわ。神父様は何か知っているようだったけど。どうにもできないの一点張りでね。どうしようもなかったの」
二週間前と言えば、丁度僕がコボルトの町を復興した時だ。
これは偶然か?
「それで冒険者の流出か。冒険者がいなくなれば、この町の人たちは大変だよな。どうするんだ? 」
「もう既に領主が騎士を呼んでいるに決まっているじゃない。到着にはもう少しかかりそうだけれど、この辺りの魔物もかなり減らしたから、それぐらいなら問題ないわ」
僕を安心させようと、彼女はそんな魔族相手には絶対できないような内容まで話をしてくれた。
「このタイミングで魔族の大群が襲ってきたらどうするんだ? 」
「……そうね。でもそうなった時は、必ず私が命を賭けて皆を逃がす。だから心配要らないわ」
無策ではないにしろ、万全な状態ではないといったところか。
「ありがとさん。アンタみたいな人を、英雄って言うんだろうな~」
「英雄って言葉…私は嫌い。他人任せで、褒めておけば良いように動いてくれる、みたいな風に聞こえるから。やりがい搾取よ」
「おぉ……そうなのか。じゃあ、お礼だけ。ありがとう」
「別にまだ仕事をしたワケじゃないし。言われる筋合いはないわ」
そう言ってはいるものの、氷の魔法使いの顔は先ほどとは明らかに違って、リラックスした状態になっていた。
しかしまだほんの少し警戒しているのか、やはり浴槽に足より上を入れるということはしなかった。
「あ~……にしても結構温まってきたぜ。なんか知りたいことあっか? ねぇなら俺っちはそろそろ……」
「もう出るの? 」
「あぁ。もうふやけちまった」
一瞬自分が人間だということを忘れて、おにぎり小僧として話をしてしまったことにギョッとしたが、よく考えると人間の皮もふやけて柔らかくなるので、それを思い出したらホッとなった。
「彼方がモノを知らないせいで、私の方が話をしてしまったわ。これは不公平じゃないかしら」
「情報の価値で考えてみろよ。俺っちの情報は危険な魔物や魔族がいる森での貴重な目撃情報だぜ? そんなの無料同然で教えてあげたんだから、この後メシを奢ってくれたって良いぐらいだぜ」
「洗いざらい話すなら…私は別にそれでも構わないけれど? 」
「……風呂入ってねえじゃん」
「もう十分温まったわ」
浴場にやって来て湯船に足だけつけて帰るヤツを、僕は生まれて初めて見た。
♢♢♢
そんなこんなで、引くに引けなくなった僕は浴場の前で彼女と待ち合わせをすると、この町に二カ所あると言う酒場の内の一つに足を運ぶことになった。
「どうしてこうなった……」
メニュー表と彼女の顔を交互に見ながら苦悩する。人間の文字なんて読めないから、何があるのかさえ分からない。
「読めねぇ」
そう言ってメニュー表を渡した。
「は? ……なんでも良いのね」
「穀物系が良いな。米とか」
「豆のスープならあるけど? 」
「それは嫌だ」
「………」
彼女はなぜか舌打ちをした後に、注文を取ると少し不機嫌にテーブルに肘をついた。行儀が悪い。
それになにを怒っているのかさっぱり分からない。腹が減っているせいか?
「聞きたいことがあるんじゃねえの? 」
「ハァー……」
酒場の椅子に座って料理が来るのを待つ間、僕は彼女から質問攻めに全て対応しながら、酒場の雰囲気に心を落ち着かせた。
昼間だからか客は少なく、僕と彼女、それに数組のペアが離れて座っているような程度だった。
その中で、ふと注文を待っていると冒険者二人の会話が聞こえてくる。一人は腰に剣を携えた若い冒険者、そしてもう一人は宝石を全身に身に着けた老いた冒険者だった。
♢♢♢
「お前さんはまだこの町に残るのか」
「門前じゃあ連日ごたごたしてるし、どうしたもんかな」
男達の前には一ポンド以上ありそうな肉塊が、湯気を上げて並べられている。
「教会で蘇生が出来ないんじゃ狩りの効率も悪い。ワシは一つ前の町に戻るつもりだ」
老人の冒険者がそう言って肉にかぶりついている。
流石最前線までくるような冒険者だ。もはや自身の命すら効率で捉えているらしい。それから話を聞いていると、どうやら彼ら冒険者には町への愛着はないようで、故に狩りに充分な設備が整っていない町は容易に切り捨てるという考えなのだろう。この町に冒険者がいないことも考えると、どうやらこの老冒険者の考えが一般的のようだ。
「でも、二代目魔王が討たれて今三代目になったばっかりだろ? 今が魔族を潰す一番の好機じゃないか」
熱意ある青年は机をドンと鳴らす。その青年の表情はこれまで積み上げてきた自信と誇りで輝いているように見えた。
「だからなんだというのだ。魔王城にでも攻め入る気か? 」
「それは機会があれば…アンタは違うのか」
青年の言葉に老人は肉を口に含んだまま豪快に笑った。そして老いた冒険者以外の、この酒場にいた冒険者も二人の会話を聞いていたのか、クスクスと笑っている。
「わざわざババを率先して引きたいヤツがいるか? 」
老冒険者は笑い涙を拭いながらそう言った。
「魔王は倒せる時に倒すべきだ。連合だってそう言ってる」
訝し気に聞く青年に老冒険者は頷いた。
「そりゃあなぁ。国っちゅうもんは明確な敵がいると楽だからのぉ。まあ、よいではないか。連合が魔族と敵対しているおかげで、我らがこうして飯を食えておるのだから」
♢♢♢
そんな二人の会話を聞いて、不機嫌な顔になっていたのは、僕の前に座るパオンだった。
自分たちの利益ばかり考えている二人に、心底軽蔑の眼差しを向けている。彼女も意外と分かりやすい性格をしているようだ。
「俺っちはこの町が好きだ。誰にも渡したくない」
「アナタじゃ何もできないでしょ」
そう言った彼女の顔には、少し嬉しそうな表情が浮かんでいた。しかし、欲しいという気持ちは、僕の心からのものだった。
注文をしてからしばらく経つと、厨房からいい匂いが漂い始めてきた。何を注文したのかは全く分からないが、焼き料理であることは音でわかった。厨房から聞こえるじゅうじゅうという音がしばらく続き、やがてその音が消えたことから、何かで蓋をしたのだろうと推測できる。だとしたら、蒸す工程が加わったのかもしれない。
そう考えると、考えられるのは…何かの包み焼きかな? 肉の種類は匂いからすると、多分豚…それとも牛もあるのか? いや、流石に混合種なんて人間が作れるわけがないし、どちらかだと思うけれど、一体何だろう。
「話を逸らさないで」
目の前の彼女の話に、料理の期待とは裏腹に、いい加減飽き飽きしてきていた。
「何が来るか今から楽しみだなーこりゃあ」
適当な返事を返していると、机のエールがパキパキと音を立てて氷ついた。これは少し面白い。どうやら彼女は呼吸するように魔法を使えるらしい。これでは人間というより、魔族のようだ。
怪人ブリザードマン――いや、ブリザードウーマンか。
「おい、これじゃ飲めねぇよ」
そう言うと、彼女は少し驚いた様子で、「驚かないのね」と言った。
何を驚くことがあるんだろうと思いながら、その言葉の意味を少し考え、自分の浅はかさを呪った。そういえば、イソマルトは木こりで、目の前に座る彼女が氷の魔法使いであることを知らない人間だった。驚いた様子がまったくないと、彼女に変な疑いを持たれるかもしれない。ここは不自然でも多少驚いておくべきか? いや、無理だな。しかし、何か言い訳が欲しいところだ。
脳のトルクを高回転させ、解を探し出す。
「あぁ…おう、女湯に入ってた事実に比べたら、そんなに驚くことでもないかってさ」
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