33 / 64
1章後半 デビルサイド編
33.牢屋でお喋り
しおりを挟む
暗闇の中、暇を持て余していた僕達は自然と色々な会話をするようになっていた。その中でも暗闇の向こう側にいる男の気を引いたのは、この町が魔族に襲われたら、という例え話だった。
「もしこの町が襲われたなら、アンタどうする? 」
「…物騒な話題だな」
「まあまあ、答えてくれよ。もしも今の状態で魔族に襲われたらどうすんのかなって」
「考えるまでもない。戦う」
特に勝算がある、というわけでもないのにそうするのはなぜなのだろう。
「そりゃ凄い勇気だなぁおい。戦ったって負けるのは確定してんだぜ? 逃げるってことはしねぇのかよ? 」
「魔族が弱っている今、奴らに力をつけさせる前に叩いておくのが、今後を考えると楽だという話だ。結局逃げたところで奴らとは戦わねばならない」
魔族が弱っているというのは、人間の生存圏が拡大して魔王城の喉元まで人間の町が出来ている状況のことを言っているのだろうか。だとしたら、それは大きな間違いだが…。
「皆そうなのかね。俺っちは戦わないで済むならそれに越したことねぇんだけど」
「…軟弱者め。貴様がどこの誰かは知らんが、魔族の恐ろしさを知らんようだな…。逃げれば町は燃やされ、後に残るのは瓦礫の山と死の世界だ…!」
商人の男は強く意志の籠った声でそう言った。誰にそんな話を吹き込まれたのか定かではないけれど、その声につられて看守が注意しに来るぐらいには、男の声は大きなものだった。
「貴様ら静かにせんかぁ! 」
ガンガンと牢屋を蹴り、去って行く看守。
その看守の腰に、光る鍵束がぶら下がっているのが目に入った。男の大声が思わぬ幸運を僕に呼び寄せているようだった。
「じゃあ、もしも負けて魔族に町が支配されてもアンタはソレに従わないのか? 」
「当たり前だ。町から魔族が消えるまで戦い続ける」
やはり僕が想定した通り、デビルサイドの人間は魔族を異常に嫌悪しているようだ。…そんな一般人だからこそ、この質問が出来る。
「そんで人が減ったらガキ産んで、そのガキに槍でも持たせんのか? 」
「…くどいぞ。なにを当たり前の事を言っているんだ」
男は静かに怒っているようだった。顔は見えなくとも頭に青筋が浮かび上がっているのが用意に想像できる。そろそろ会話も難しくなってくるだろう。
しかし、おかげで占領した後でも元気に子供をこさえてくれると言質を取ることも出来た。
「じゃあ最後の質問なんだけどさ。もしもさ、魔族が人間は襲わないから仲良くしよう、って言ってきたらアンタなら―――――」
「そんなマヌケが相手なら、仲良くするふりをして後ろから刺し殺すだろうな」
なるほど、なるほどそうか。人間はそういう気持ちなんだな。
ありがとう。最後の最後まで紳士に回答をして貰ったことに敬意を表したい。
「ふっ、ふふふっ、ふははははは」
「何がおかしい」
笑いたくもなる。どんなに恨みがあっても、友好関係結ぼうとしてくる相手を後ろから刺すだなんて。あり得ないよ。
やっぱりまだまだ人間は獣だな。
「いや…いやいや、それは確かに名案だと思ったんだ。どこの誰かは知らないけどさ」
「…フン」
「アンタが初めてだよ」
「……なんの話だ? 」
僕をこんなに失望させたのは、人間では彼方が初めてだ。
「……さあね。そろそろ行かなくちゃ」
自身を繋ぐ鎖に力を入れる。鎖の両端が壁にしっかりと固定されているため、力を入れると強い抵抗があったが、それも一瞬の事だった。金属が壁の隙間から徐々に引き抜かれ、捻じれ、悲鳴をあげる。そしてついに、バコッという音と共に周りの石もろとも引き抜かれた鎖は、床にだらりと垂れ下がった。
差し込む月光が薄暗い牢にわずかな明かりをもたらし、金属の表面でキラリと反射する様子に、僕は外が夜になっていることに気がついた。鎖を引き抜く際、少し負傷したものの、想定通り自由になる時が来た。
これだけの時間が経てば、氷の魔法使いもこの兵舎から出て行っているだろう。
―――数時間の拘束なんて全く問題ないと高を括っていたのに…意外に答えるものだ。まるで永遠のように感じられた。
「なんの音だ! 」
遅れて看守が牢屋に近づいてくる足音が耳に届いた。彼が近づく間に、僕は腕の感触を確かめながら、下に垂れ下がった鎖の状態を確認する。振り回して扱うには十分な長さがあった。
「貴様一体何をしている! 」
牢の前に立った看守は、異常な光景に驚愕の色が浮かび上がっていた。その刹那、僕は牢屋から鎖を飛ばし、相手の首に巻き付けた。ぐぇ、という看守のうめき声に手ごたえを感じながら、僕は鎖を引き寄せて彼を牢に近づける。
その瞬間、チャリッと音を立てる鍵束が彼の腰に見える。素早くそれを手に入れ、牢屋の鍵穴にガチャリと差し込んだ。そしてキィと、悲鳴にも似た音で開く鉄格子。
「楽しかったぜ。おじさん。俺っちはもう行くけど。迎えが来てもしばらくここに居た方がいいかもな。そんじゃ。もう二度と会うことねぇだろうけどさ」
暗闇に繋がれた男にひらひらと手を振り、僕は地下牢を後にした。
♢♢♢
地下牢の階段から地上へ戻ると、星空と月が出迎えに来ていた。
そんな素敵な夜だというのに、兵舎の門前には、例の門番が包帯をグルグル巻きにして立っていた。
あんなに傷を与えたのにどうしてまだ職務を全うしているのか理解に苦しむが、とりあえず後ろから襲い掛かって、今度こそ息の根を止めておこう。
門番を後ろから音もなく迫り、風を切る一撃をお見舞いした。元々重症だった体に鞭を打って立っていたのだろう。門番は前のめりに力なく倒れた。
「ふー。まだ息はあるみたいだけど、この寒さだ。ぜってぇ死ぬよな」
ふと門番が手に持った槍に視線をやったが、なにもそこまでする必要はないかと思い、そのままの足で宿屋へと向かった。
「もしこの町が襲われたなら、アンタどうする? 」
「…物騒な話題だな」
「まあまあ、答えてくれよ。もしも今の状態で魔族に襲われたらどうすんのかなって」
「考えるまでもない。戦う」
特に勝算がある、というわけでもないのにそうするのはなぜなのだろう。
「そりゃ凄い勇気だなぁおい。戦ったって負けるのは確定してんだぜ? 逃げるってことはしねぇのかよ? 」
「魔族が弱っている今、奴らに力をつけさせる前に叩いておくのが、今後を考えると楽だという話だ。結局逃げたところで奴らとは戦わねばならない」
魔族が弱っているというのは、人間の生存圏が拡大して魔王城の喉元まで人間の町が出来ている状況のことを言っているのだろうか。だとしたら、それは大きな間違いだが…。
「皆そうなのかね。俺っちは戦わないで済むならそれに越したことねぇんだけど」
「…軟弱者め。貴様がどこの誰かは知らんが、魔族の恐ろしさを知らんようだな…。逃げれば町は燃やされ、後に残るのは瓦礫の山と死の世界だ…!」
商人の男は強く意志の籠った声でそう言った。誰にそんな話を吹き込まれたのか定かではないけれど、その声につられて看守が注意しに来るぐらいには、男の声は大きなものだった。
「貴様ら静かにせんかぁ! 」
ガンガンと牢屋を蹴り、去って行く看守。
その看守の腰に、光る鍵束がぶら下がっているのが目に入った。男の大声が思わぬ幸運を僕に呼び寄せているようだった。
「じゃあ、もしも負けて魔族に町が支配されてもアンタはソレに従わないのか? 」
「当たり前だ。町から魔族が消えるまで戦い続ける」
やはり僕が想定した通り、デビルサイドの人間は魔族を異常に嫌悪しているようだ。…そんな一般人だからこそ、この質問が出来る。
「そんで人が減ったらガキ産んで、そのガキに槍でも持たせんのか? 」
「…くどいぞ。なにを当たり前の事を言っているんだ」
男は静かに怒っているようだった。顔は見えなくとも頭に青筋が浮かび上がっているのが用意に想像できる。そろそろ会話も難しくなってくるだろう。
しかし、おかげで占領した後でも元気に子供をこさえてくれると言質を取ることも出来た。
「じゃあ最後の質問なんだけどさ。もしもさ、魔族が人間は襲わないから仲良くしよう、って言ってきたらアンタなら―――――」
「そんなマヌケが相手なら、仲良くするふりをして後ろから刺し殺すだろうな」
なるほど、なるほどそうか。人間はそういう気持ちなんだな。
ありがとう。最後の最後まで紳士に回答をして貰ったことに敬意を表したい。
「ふっ、ふふふっ、ふははははは」
「何がおかしい」
笑いたくもなる。どんなに恨みがあっても、友好関係結ぼうとしてくる相手を後ろから刺すだなんて。あり得ないよ。
やっぱりまだまだ人間は獣だな。
「いや…いやいや、それは確かに名案だと思ったんだ。どこの誰かは知らないけどさ」
「…フン」
「アンタが初めてだよ」
「……なんの話だ? 」
僕をこんなに失望させたのは、人間では彼方が初めてだ。
「……さあね。そろそろ行かなくちゃ」
自身を繋ぐ鎖に力を入れる。鎖の両端が壁にしっかりと固定されているため、力を入れると強い抵抗があったが、それも一瞬の事だった。金属が壁の隙間から徐々に引き抜かれ、捻じれ、悲鳴をあげる。そしてついに、バコッという音と共に周りの石もろとも引き抜かれた鎖は、床にだらりと垂れ下がった。
差し込む月光が薄暗い牢にわずかな明かりをもたらし、金属の表面でキラリと反射する様子に、僕は外が夜になっていることに気がついた。鎖を引き抜く際、少し負傷したものの、想定通り自由になる時が来た。
これだけの時間が経てば、氷の魔法使いもこの兵舎から出て行っているだろう。
―――数時間の拘束なんて全く問題ないと高を括っていたのに…意外に答えるものだ。まるで永遠のように感じられた。
「なんの音だ! 」
遅れて看守が牢屋に近づいてくる足音が耳に届いた。彼が近づく間に、僕は腕の感触を確かめながら、下に垂れ下がった鎖の状態を確認する。振り回して扱うには十分な長さがあった。
「貴様一体何をしている! 」
牢の前に立った看守は、異常な光景に驚愕の色が浮かび上がっていた。その刹那、僕は牢屋から鎖を飛ばし、相手の首に巻き付けた。ぐぇ、という看守のうめき声に手ごたえを感じながら、僕は鎖を引き寄せて彼を牢に近づける。
その瞬間、チャリッと音を立てる鍵束が彼の腰に見える。素早くそれを手に入れ、牢屋の鍵穴にガチャリと差し込んだ。そしてキィと、悲鳴にも似た音で開く鉄格子。
「楽しかったぜ。おじさん。俺っちはもう行くけど。迎えが来てもしばらくここに居た方がいいかもな。そんじゃ。もう二度と会うことねぇだろうけどさ」
暗闇に繋がれた男にひらひらと手を振り、僕は地下牢を後にした。
♢♢♢
地下牢の階段から地上へ戻ると、星空と月が出迎えに来ていた。
そんな素敵な夜だというのに、兵舎の門前には、例の門番が包帯をグルグル巻きにして立っていた。
あんなに傷を与えたのにどうしてまだ職務を全うしているのか理解に苦しむが、とりあえず後ろから襲い掛かって、今度こそ息の根を止めておこう。
門番を後ろから音もなく迫り、風を切る一撃をお見舞いした。元々重症だった体に鞭を打って立っていたのだろう。門番は前のめりに力なく倒れた。
「ふー。まだ息はあるみたいだけど、この寒さだ。ぜってぇ死ぬよな」
ふと門番が手に持った槍に視線をやったが、なにもそこまでする必要はないかと思い、そのままの足で宿屋へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる