美少女おにぎり

星島新吾

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1章後半 デビルサイド編

54.黄昏の門

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おにぎり小僧が目覚めるまであと数刻。
重要な機密書類を手に、私は破壊された商業ギルドの中にいた。ギルドの中には組織の人間だけが利用できる隠し部屋がある。もしもメンバーの生き残りがいるならば、ココに来ているはず。そんな一縷の望みが私をこの場所に突き動かしていた。
「お願い…誰でもいい。生きてて…」
埃っぽい部屋を開けると、私を警戒して剣を構えた二つの影があった。
「誰だ…!? 」
部屋の間接照明に浮かび上がったのは、枝垂桜色の毛を持つ獣人、黄昏の門(トワイライト・ゲート)初期メンバーのメープルだった。
「メープル! 私! マリソルだよ! 」
「オメェがマリソルだって…? なんの冗談だ」
彼女達の警戒心は強く、剣を下ろして貰えない。それも仕方がないことだった。今の私は姿がまるで違う。…でもどうしたら私だって、伝えられる?
「お頭。この部屋を知っている人物というのは限られています。一度彼女の話を聞いてみてもよいかと」
そう言って私達の間に入ってくれたのは、メープルが取り仕切る炭焼き職人の一人、ホクロさんだった。
「ホクロさん! 」
「どうやら俺のことも知っていらっしゃるようですから」
そう言って頭をボリボリと掻くホクロさん、そしてそんなホクロさんを見て口を栗のようにして呆れているメープル。今はこの二人が生きていることが何よりも心強かった。
「アンタがマリソルだっていうなら、証拠を見せてみな」
「証拠? 」
「なんかあんだろ。こう、マリソルと私しか知らない事とかよ」
メープルと私しか知らないこと…。そんなの沢山あってどれを話したらいいか分からないけれど。一番インパクトのある思い出は出会った時のことだ。
「あなたが密猟者だった時、森の動物を狩った貴女の処刑を止めたのはこの私だったよね。あの日は凄い雨でさ、メープルってば全身ずぶ濡れで、鹿にかぶりついていたっけ」
そんな話をすると、彼女が私を見る目を変えたのがすぐに分かった。
「お前……マジでマリソルなのか? 」
「そうだよ、メープル。今はこんな姿だけど。わたしは私」
剣をようやく下ろしてくれたメープルに駆け寄って、私は強く彼女を抱きしめた。獣臭さも木の臭いもメープルのままだ。何も変わらない。私の友達だ。
「にゃ!? …この撫で方。本当にマリソルだ。相変わらず撫でるの下手くそだなぁお前」
「よかったですな。お頭。マリソルのお嬢が元気そうで」
「…ふん、まあな。それにコイツにゃ色々聞かなきゃならねえことが沢山ある」
彼女に言われてハッとした。そうだ私は彼女に伝えなければならないことと、託さなければならない物があるんだった。時間はない。手短に説明をしないと。
「メープル。私の話を聞いて欲しいの」
「抱きしめたまんま話す気かよ」
「…ダメ? 」
「ダメに決まってんだろ暑苦しい。そこ座れよ。椅子あんだろ」
もふもふを手放し、椅子に腰を掛ける。肉球の感触がまだほんのりと手に残ったまま話を始めた。ココに至るまでの顛末を。そしてこれからのことを。
♢♢♢
「はぁ? てことは何だ、アタシ達はそのおにぎり小僧ってヤツがいるのに気が付かなかったってことか? 」
おにぎり小僧の正体を知って驚いた様子のメープルとホクロさん。彼が一体いつからイソマルトとして生活していたのか定かではないけれども、言われてみれば不審な点はいくつもあったらしい。
「彼は変身の名人みたいだからね、仕方ないよ」
「チックショー! 何かアイツを判別できる方法はねえのか」
「大丈夫、あるよ。おにぎり小僧は人間の記憶を覗くことは出来ないみたいなんだ。だからメープルが私にしてくれたみたいに、記憶について質問をすれば…」
「アイツは答えられねえってことか」
私は頷いた。この方法が一番コストもなく誰でも判別することが出来る。
退魔のブローチでも彼を判別できるかも知れないけれど、あのブローチは高価だし、一般の人全員に配って歩くことは出来ない。
「他のメンバーにもいくつか暗号パターンを用意して、配布する必要がありそうですね」
「ホクロ、早速用意にかかってくれ」
「了解した」
二人の迅速な行動に安心を覚えつつも、それより早くやって貰いたいことが私にはあった。
「メープル、ホクロさん。二人には届けて貰いたいものがあるの」
そう言ってスクロールを懐から出した。そう簡単には中身を見ることが出来ないように呪いが掛けてある。
「さっすがデビルサイド一の才女様だぜ。こんな呪いもお茶の子さいさいってか」
「アハハハハ……コレを東の国、バルファーレの王様に渡して欲しいの」
「どういうことだ? 」
そう言いつつメープルは受け取ったスクロールの匂いを嗅いだり、引っ張ったりして破けないかを確かめている。
「おにぎり小僧の目的は、人間が広げた生存圏の縮小化。そして魔界に取り込んだ人類の総家畜化なんだ。そんなの絶対に許せないでしょ」
スケールの大きさに驚いているメープルだったけど、彼がしていることを的確に言うならまさに侵略戦争だ。
「とんでもねぇ化物じゃねえか。今すぐアイツを倒すことは出来ねぇのかよ」
「…残念だけど、まだ私はそれほど信用されてはいないの。寝ている時も常に警戒状態を解いていないみたいで」
「じゃなくて真正面からぶっ潰してやりゃ、スッキリすんだろ」
「……んん」
もしかすれば、彼一人なら倒せるかも知れない。でも、この町を滅ぼす選択をしなかったのもまた彼だ。もし私達がいつ反抗しても対応できると考えているならば、秘められたその力は計り知れない。
「なんだ、ビビってんのか? 」
「成功するかもって作戦なら、私は止めておいた方が良いんじゃないかって…」
「別にわけわかんねえ奴に変身する前に叩くなら今じゃねえのか」
「…この町にいるのは何も、おにぎり小僧だけじゃないから。きっと彼がいなくなったらこの町の魔族は怪しむと思う」
「町のために生かしておかなきゃいけねぇってことか…クソッ! 」
「大丈夫。私はこれから彼と共に進むから。そうしたら、きっと彼の命を取れる時がくるはずだから」
「どういうことだよ? 」
「彼についてくるように言われているの。私がとも知らずにね」
「なるほどな…。ヘヘッ、そいつは面白れぇな。侵略戦争を仕掛ける化物の傍でずっと命狙えるポジションなんてよ」
「アハハ……代ろうか? 」
「マジなトーンで言ってくんなよ。折角ならその怪物も手籠めにしちまえよ。そのデッけえ胸と尻でさ」
「私のこと道具っていうヤツだよ? 」
「道具ってことは、家畜じゃねえってことじゃね? 」
そんなことまるで気づきもしなかったけれど、確かにそうだ。たまにメープルは核心を突いたことを言って来るから、ビックリしてしまう。
「…ホントだ」
「つまーり。既にマリソルちゃんは、化物の心の内側に侵入しているってことだろ? 時間がたちゃあ誘惑も遅効性の毒みてぇに効いてくるぜ、コレはよ」
「ハハハ……平行してやってみるけど、期待はしないでね」
「わぁーてるよ。…実は大穴でそれが一番の近道だったりしてな」
メープルの言葉にギョッとする私。そうならないよう祈るばかりだ。

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