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1章後半 デビルサイド編
60.ハンバーグ!…に歴史あり
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ハンバーグ当日。
処刑を免れた領主が、我々客人をおもてなしする日がやってきた。
不安だ。誰か後ろから惨殺されたりしないだろうか。警備兵として配置されたのはいいものの、物騒な式典に生唾が留まるところを知らない。
できることならこんなふざけた式典止めてくれ、提案した僕がそう思うのは勝手なことだろうか。
場所はデビルサイドの中央に位置する噴水前広場。様々な料理道具が集められ、すぐにでも式典は始まろうとしていた。
メニューはもちろん、ハンバーグ。
町の料理人が両脇に立ち、全力のサポート体制を構築しつつ、デビルサイドの人々と我々魔族が見守る調理が始まった。
ハンバーグの調理中に手とか切ったりしないだろうか、怪我した血を見て魔族が涎を垂らしたりしないだろうか。そんな亀裂が生まれるような出来事が一つでも起きて欲しくないこの式典。固唾をのんで見届けるしかない。早く終わってくれ。
「おっ、おい、なんかフライパンから良い香りがしてきたぞ」
兵士の一体がそう呟く。そんな警備の眼を引くようなことをボソッと言わないでもらいたい。こういう警備の眼を盗んで犯行というのは行われるのだ。やる側ならば、こんな機会を逃しはしないだろう。
だから僕は彼らに変わって目を光らせてはいたが、そんな人物は出てこなかった。警戒するに越したことはないにせよ、そのほとんどが不要な監視であることに少しの平和と幸せを感じられる。本当に魔族と人間が和平を結べるなんて、変な気分だ。
「警戒を怠らないよう、お願いしますよ」
皆の眼が散るのを確認すると、僕もそっと、料理道具を持って歩くハンバーグさんをみる。
「…ふん」
シュールすぎる光景に僕は思わず鼻で笑ってしまった。
小さな戦争の終結が条約の調印式じゃなくて、ハンバーグ作りだなんて、歴史上はじめてのことだろう。
人間のお偉いさんが魔族のお偉いさん相手にハンバーグを作っている。
両者共に困惑顔でハンバーグ作りが進んで行く、このシュールな光景。
こんな馬鹿馬鹿しい馴れあいを提案した自分が、今はとても誇らしい。
抱腹絶倒とはまさにこの喜劇のことを指すが、ほくそ笑むぐらいしか、できないのが非常に歯がゆい。こんなことなら、セシリーに変化して大笑いできる状態にしておくべきだった。
残念ながら今はこの喜劇の幕が閉じるのを、黙って見送るしかないだろう。
そうして見ていると、作られたハンバーグが、白い食器の上に乗せられて、路上に置かれた机に運ばれて行った。
座っているのは、当然アラーニ閣下。魔族四天王と呼ばれる力の象徴が、ナプキンを敷いて人間が運んでくる料理を律儀に待っているなんて、僕には噴飯もののコントに見えるが、ココは黙って拍手して迎える必要があった。
ぱちぱちぱちぱち。
手を叩けば叩くほど、笑いが込み上げてくる。ココにいる全員僕含めて全員バカだ。自信なさげにハンバーグを机に運ぶハンバーグさんも、それに満足気なアラーニ閣下も、その周りで拍手をする我々魔族も、皆大バカ者である。
「お召し上がり下さい。デビルサイド名物、ハンバーグでございます」
ハンバーグを一口、アラーニ閣下は満足気に頷くと、人間達から安堵の声が漏れていた。
人間のために作られたハンバーグが魔族のアラーニ閣下の口に合うかどうかは定かではないけれど、アラーニ閣下もそこは大人だ。例えハンバーグが美味しかろうと、不味かろうと、同じ対応をして見せただろう。
「ワインはあるか」
アラーニ閣下は部下にそう言って、持ってこさせた上等なワインを口にすると、フ~と息を吐いた。
「このハンバーグはどうやって思いつかれたのです? 」
閣下は人間達に向けて、丁寧な丸みのある声で問いかけられた。すると代表して、机の反対に立ったハンバーグさんが何やら語りだした。
「硬い肉料理を食べられない人々の思いが集まり、このハンバーグは出来たんですよ」
興味を持った閣下が「ほう? というと」と、聞き返す。僕も少しこの料理誕生秘話は興味が湧いた。
「ここデビルサイドは、ご存知の通り魔族と近い位置関係にあります。当然危険も多い、ですからこの町に流れてくる人々は何かしら抱えてくるモノばかりなのです」
人間達にしてみれば、確かに端も端だ。足を運びたくてやって来る者たちの方が少ないだろう。誰に聞いたって後ろ暗い話が飛び出してくる、それがこの町の住人の正体ということか。
「殆どが冒険者と共にきた娼婦達ですが、彼女達の中には歯がない者たちが多くいまして」
「ほう? それはなぜだ」
アラーニ閣下は不思議そうに聞いた。
「それはその…、彼女達の仕事に歯があると不便なので」
ハンバーグさんの話を不思議そうに聞くアラーニ閣下。歯があって仕事に支障をきたすというのは、よくわからなかったが、それが彼女達に求められたものだったのだろう。
理解出来そうもなかったのか、閣下はその話を聞き流し、ハンバーグの話に戻した。
「そうなのか。それで取り除いたら、硬い肉が食えなくなったというわけか」
「ええはい。仰る通りです。ですから、そんな者たちにも食べやすいよう、挽肉を使った料理を発明したところ、今に至るわけです」
歯がなくても、食べられるように工夫した結果がこの料理だったということらしい。面白い、これが文化交流か。
知性があれば文化がある。人間の文化なんて大したものではないと高をくくっていたけれども、中々に面白い話だった。
処刑を免れた領主が、我々客人をおもてなしする日がやってきた。
不安だ。誰か後ろから惨殺されたりしないだろうか。警備兵として配置されたのはいいものの、物騒な式典に生唾が留まるところを知らない。
できることならこんなふざけた式典止めてくれ、提案した僕がそう思うのは勝手なことだろうか。
場所はデビルサイドの中央に位置する噴水前広場。様々な料理道具が集められ、すぐにでも式典は始まろうとしていた。
メニューはもちろん、ハンバーグ。
町の料理人が両脇に立ち、全力のサポート体制を構築しつつ、デビルサイドの人々と我々魔族が見守る調理が始まった。
ハンバーグの調理中に手とか切ったりしないだろうか、怪我した血を見て魔族が涎を垂らしたりしないだろうか。そんな亀裂が生まれるような出来事が一つでも起きて欲しくないこの式典。固唾をのんで見届けるしかない。早く終わってくれ。
「おっ、おい、なんかフライパンから良い香りがしてきたぞ」
兵士の一体がそう呟く。そんな警備の眼を引くようなことをボソッと言わないでもらいたい。こういう警備の眼を盗んで犯行というのは行われるのだ。やる側ならば、こんな機会を逃しはしないだろう。
だから僕は彼らに変わって目を光らせてはいたが、そんな人物は出てこなかった。警戒するに越したことはないにせよ、そのほとんどが不要な監視であることに少しの平和と幸せを感じられる。本当に魔族と人間が和平を結べるなんて、変な気分だ。
「警戒を怠らないよう、お願いしますよ」
皆の眼が散るのを確認すると、僕もそっと、料理道具を持って歩くハンバーグさんをみる。
「…ふん」
シュールすぎる光景に僕は思わず鼻で笑ってしまった。
小さな戦争の終結が条約の調印式じゃなくて、ハンバーグ作りだなんて、歴史上はじめてのことだろう。
人間のお偉いさんが魔族のお偉いさん相手にハンバーグを作っている。
両者共に困惑顔でハンバーグ作りが進んで行く、このシュールな光景。
こんな馬鹿馬鹿しい馴れあいを提案した自分が、今はとても誇らしい。
抱腹絶倒とはまさにこの喜劇のことを指すが、ほくそ笑むぐらいしか、できないのが非常に歯がゆい。こんなことなら、セシリーに変化して大笑いできる状態にしておくべきだった。
残念ながら今はこの喜劇の幕が閉じるのを、黙って見送るしかないだろう。
そうして見ていると、作られたハンバーグが、白い食器の上に乗せられて、路上に置かれた机に運ばれて行った。
座っているのは、当然アラーニ閣下。魔族四天王と呼ばれる力の象徴が、ナプキンを敷いて人間が運んでくる料理を律儀に待っているなんて、僕には噴飯もののコントに見えるが、ココは黙って拍手して迎える必要があった。
ぱちぱちぱちぱち。
手を叩けば叩くほど、笑いが込み上げてくる。ココにいる全員僕含めて全員バカだ。自信なさげにハンバーグを机に運ぶハンバーグさんも、それに満足気なアラーニ閣下も、その周りで拍手をする我々魔族も、皆大バカ者である。
「お召し上がり下さい。デビルサイド名物、ハンバーグでございます」
ハンバーグを一口、アラーニ閣下は満足気に頷くと、人間達から安堵の声が漏れていた。
人間のために作られたハンバーグが魔族のアラーニ閣下の口に合うかどうかは定かではないけれど、アラーニ閣下もそこは大人だ。例えハンバーグが美味しかろうと、不味かろうと、同じ対応をして見せただろう。
「ワインはあるか」
アラーニ閣下は部下にそう言って、持ってこさせた上等なワインを口にすると、フ~と息を吐いた。
「このハンバーグはどうやって思いつかれたのです? 」
閣下は人間達に向けて、丁寧な丸みのある声で問いかけられた。すると代表して、机の反対に立ったハンバーグさんが何やら語りだした。
「硬い肉料理を食べられない人々の思いが集まり、このハンバーグは出来たんですよ」
興味を持った閣下が「ほう? というと」と、聞き返す。僕も少しこの料理誕生秘話は興味が湧いた。
「ここデビルサイドは、ご存知の通り魔族と近い位置関係にあります。当然危険も多い、ですからこの町に流れてくる人々は何かしら抱えてくるモノばかりなのです」
人間達にしてみれば、確かに端も端だ。足を運びたくてやって来る者たちの方が少ないだろう。誰に聞いたって後ろ暗い話が飛び出してくる、それがこの町の住人の正体ということか。
「殆どが冒険者と共にきた娼婦達ですが、彼女達の中には歯がない者たちが多くいまして」
「ほう? それはなぜだ」
アラーニ閣下は不思議そうに聞いた。
「それはその…、彼女達の仕事に歯があると不便なので」
ハンバーグさんの話を不思議そうに聞くアラーニ閣下。歯があって仕事に支障をきたすというのは、よくわからなかったが、それが彼女達に求められたものだったのだろう。
理解出来そうもなかったのか、閣下はその話を聞き流し、ハンバーグの話に戻した。
「そうなのか。それで取り除いたら、硬い肉が食えなくなったというわけか」
「ええはい。仰る通りです。ですから、そんな者たちにも食べやすいよう、挽肉を使った料理を発明したところ、今に至るわけです」
歯がなくても、食べられるように工夫した結果がこの料理だったということらしい。面白い、これが文化交流か。
知性があれば文化がある。人間の文化なんて大したものではないと高をくくっていたけれども、中々に面白い話だった。
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