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おバカ貴族とバカサル
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ヴェズィラーザム家の屋敷から、何かが爆発音と共に飛び出した。
城下町を巡回していた衛兵二人は、空を舞うその「黒い影」を見上げ笑う。
「おっ、今日も飛んでんなー。カサル坊! 」
「ああ……今日は一段と高く飛んでるな」
彼らの視線の先には風を纏って優雅に着地する、ゴシックドレス姿の美少年──カサル・ヴェズィラーザムの姿があった。
彼は石畳の上に降り立つと、カーテンコールに応じるようにドレスの裾を摘まみ上げた。
「んー、我ながら完璧な着地だと評価してよかろう。10.0点」
カサルは独りごちると懐から扇子を取り出し、パタパタと仰ぎ始めた。
ただ扇いでいるだけではない。彼が扇ぐたびに、周囲の砂埃が魔法的な風圧で吹き飛ばされ、道行く人々の顔の肉が波打っている。
「うわっ、ワシのカツラがッ!」
「きゃあ!?」
市場は一時騒然となったが、犯人がカサルだと分かると、ぼさぼさになった髪の城下町の人々から怒りは消え、代わりに「生暖かい諦め」の色が浮かんだ。
「なんだ、バカサル様か……」
「今日も元気だねぇ。あんな綺麗な顔して頭の中身は綿菓子なんだから、可愛いねぇ」
行き交う領民達に手を顔の横にもってきて挨拶をしながら、子供が横切ればその目線に立ち挨拶をした。
「おー息災か。未来の宝たちよ」
「カサルマン!! カサルマン!! 」
カサルが降り立てば、すぐさまそこは子供達によって埋まる。始めてカサルを見る子供は、指を指して「アーアー」と興味深げに彼を見た。
「こらっ、指をさしちゃいけません。馬鹿がうつりますよ」
そんな興味を何とか防ごうと、城下街の親たちはカサルをガードをしようとするが、目につけば子供は全員カサルの下に集合して彼を中心に子供達の輪ができた。
それを忌まわしそうに見る親たちの視線など、カサルにとってどこ吹く風である。笛を吹いていないのに、子供達が集まる。それがカサル・ヴェズィラーザムという貴族だった。
カサルは衛兵たちの前まで歩いてくると、尊大な態度で彼らの道を塞いだ。
「おい、そこの衛兵たち」
「……はい。なんでしょう、カサル様」
衛兵は慣れた様子で、棒読みの敬礼を返す。まともに相手をしてはいけないと、新人研修で教わっているからだ。
「この辺りで、ビキニの似合う踊り子を見かけなかったか? 肌の露出度は高ければ高いほど良い」
真昼間の大通りで、貴族の長男が堂々と発する言葉ではない。
衛兵はこめかみを押さえた。日中にそんな人間を探している時点で特上のバカだ。
そんなものは夜の酒場に行かなければ会うことはできない。
ビキニの踊り子は希少な動物などではないのだから。
「……見かけておりません。それにカサル様、本日はお誕生日でしょう? 屋敷にお戻りにならなくては、イザーム様が……」
「父上など放っておけ。それより、無能な貴様らにとっておきの情報をやろう」
カサルはニヤリと笑うと、衛兵の肩をぴょんとジャンプして叩いた。
「風の噂によると、この先の草原に『賢者の石』が落ちているらしい。拾ったら不老不死になれるぞ? フーーーハッハッハッハッハ!」
と、意味不明な供述を残し、カサルは黒い日傘を開くと、スキップ混じりの足取りで城門を抜けていった。
残された衛兵たちは、顔を見合わせる。
「……賢者の石? 」
「ほっとけ。どうせまた、綺麗な石ころか何かを見つけて『賢者の石だ!』とか騒ぐつもりだろ。前にもあっただろう、手頃な木の枝を拾って『ミステルティンだ!』って吼えてた時が 」
「違いない。……はぁ。ヴェズィラーザム家も、弟のザラ様がしっかりしているのが唯一の救いだな。カサル様はその……将来食事に困っていたら、飯にでも連れってやりましょう」
「ああ、妙に憎めないんだよな。バカだけど」
「ええ、根はイイ子なんですよね。バカだけど」
衛兵たちは憐れむようにカサルの背中を見送った。
そんな視線に気がつきつつ、カサルは笑って城下町を華麗に出て行った。
そうして一人、街道へ出た瞬間──カサルの足がピタリと止まる。
ヘラヘラとした笑みが消え、アメジストの瞳が鋭く上空を射抜いた。
「……今日は風が騒がしいな」
口にするだけで勇気の必要な言葉を、それも春風に語り掛ける少年。
しかしその中に、微かな、しかし決して無視できない「血と鉄」の匂いが確かに混じっていた。
今日の散歩は、どうやら退屈しそうにない。
カサルは日傘をくると回し、不穏な風が吹く方角へと歩き出した。
城下町を巡回していた衛兵二人は、空を舞うその「黒い影」を見上げ笑う。
「おっ、今日も飛んでんなー。カサル坊! 」
「ああ……今日は一段と高く飛んでるな」
彼らの視線の先には風を纏って優雅に着地する、ゴシックドレス姿の美少年──カサル・ヴェズィラーザムの姿があった。
彼は石畳の上に降り立つと、カーテンコールに応じるようにドレスの裾を摘まみ上げた。
「んー、我ながら完璧な着地だと評価してよかろう。10.0点」
カサルは独りごちると懐から扇子を取り出し、パタパタと仰ぎ始めた。
ただ扇いでいるだけではない。彼が扇ぐたびに、周囲の砂埃が魔法的な風圧で吹き飛ばされ、道行く人々の顔の肉が波打っている。
「うわっ、ワシのカツラがッ!」
「きゃあ!?」
市場は一時騒然となったが、犯人がカサルだと分かると、ぼさぼさになった髪の城下町の人々から怒りは消え、代わりに「生暖かい諦め」の色が浮かんだ。
「なんだ、バカサル様か……」
「今日も元気だねぇ。あんな綺麗な顔して頭の中身は綿菓子なんだから、可愛いねぇ」
行き交う領民達に手を顔の横にもってきて挨拶をしながら、子供が横切ればその目線に立ち挨拶をした。
「おー息災か。未来の宝たちよ」
「カサルマン!! カサルマン!! 」
カサルが降り立てば、すぐさまそこは子供達によって埋まる。始めてカサルを見る子供は、指を指して「アーアー」と興味深げに彼を見た。
「こらっ、指をさしちゃいけません。馬鹿がうつりますよ」
そんな興味を何とか防ごうと、城下街の親たちはカサルをガードをしようとするが、目につけば子供は全員カサルの下に集合して彼を中心に子供達の輪ができた。
それを忌まわしそうに見る親たちの視線など、カサルにとってどこ吹く風である。笛を吹いていないのに、子供達が集まる。それがカサル・ヴェズィラーザムという貴族だった。
カサルは衛兵たちの前まで歩いてくると、尊大な態度で彼らの道を塞いだ。
「おい、そこの衛兵たち」
「……はい。なんでしょう、カサル様」
衛兵は慣れた様子で、棒読みの敬礼を返す。まともに相手をしてはいけないと、新人研修で教わっているからだ。
「この辺りで、ビキニの似合う踊り子を見かけなかったか? 肌の露出度は高ければ高いほど良い」
真昼間の大通りで、貴族の長男が堂々と発する言葉ではない。
衛兵はこめかみを押さえた。日中にそんな人間を探している時点で特上のバカだ。
そんなものは夜の酒場に行かなければ会うことはできない。
ビキニの踊り子は希少な動物などではないのだから。
「……見かけておりません。それにカサル様、本日はお誕生日でしょう? 屋敷にお戻りにならなくては、イザーム様が……」
「父上など放っておけ。それより、無能な貴様らにとっておきの情報をやろう」
カサルはニヤリと笑うと、衛兵の肩をぴょんとジャンプして叩いた。
「風の噂によると、この先の草原に『賢者の石』が落ちているらしい。拾ったら不老不死になれるぞ? フーーーハッハッハッハッハ!」
と、意味不明な供述を残し、カサルは黒い日傘を開くと、スキップ混じりの足取りで城門を抜けていった。
残された衛兵たちは、顔を見合わせる。
「……賢者の石? 」
「ほっとけ。どうせまた、綺麗な石ころか何かを見つけて『賢者の石だ!』とか騒ぐつもりだろ。前にもあっただろう、手頃な木の枝を拾って『ミステルティンだ!』って吼えてた時が 」
「違いない。……はぁ。ヴェズィラーザム家も、弟のザラ様がしっかりしているのが唯一の救いだな。カサル様はその……将来食事に困っていたら、飯にでも連れってやりましょう」
「ああ、妙に憎めないんだよな。バカだけど」
「ええ、根はイイ子なんですよね。バカだけど」
衛兵たちは憐れむようにカサルの背中を見送った。
そんな視線に気がつきつつ、カサルは笑って城下町を華麗に出て行った。
そうして一人、街道へ出た瞬間──カサルの足がピタリと止まる。
ヘラヘラとした笑みが消え、アメジストの瞳が鋭く上空を射抜いた。
「……今日は風が騒がしいな」
口にするだけで勇気の必要な言葉を、それも春風に語り掛ける少年。
しかしその中に、微かな、しかし決して無視できない「血と鉄」の匂いが確かに混じっていた。
今日の散歩は、どうやら退屈しそうにない。
カサルは日傘をくると回し、不穏な風が吹く方角へと歩き出した。
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