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Episode:1
始まり
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「おい、リナト!」
「……………ん?」
強く肩を揺すられ、青年の意識はやっと覚醒した。
「あー……」と呟きながら額を押さえ、頭が痛そうにしている。
「真っ昼間だぞ。具合が悪いなら、家に帰った方がいい」
「いや、心配ない。少し意識を持ってかれてただけだ。起こしてくれてありがとう、ベネット」
「意識を持っていかれてた?おいおい、白昼夢だろ、そりゃあ!悪いことは言わねぇ。リナト、今日は帰った方がいい」
青年の名前は、リナト・キャンベル。
そして、リナトを起こしたのは、ベネット・ピアソン。壮年の男性だった。
「大丈夫だ。心配しなくていい」
「心配にもなるさ。女王殿下の親衛隊隊長になって、まだ一年目。殿下直々の推薦で、陛下から賜った大切なお役目とはいえ……お前は休む暇もなくせっせか働いてる。風邪や病気をしないか心配だ」
リナトもベネットも、一国の騎士団に所属している。
この世界____『アルメリア』の中でも、世界一大きいとされる、『グズマニア大陸』を統べる王国。
その首都であり、王の家とも言える、『王都・ハルジオン』で二人は騎士を務めており、現在は城門の警備に就いている。
「風邪って……心配性だな。それに、陛下や殿下の信頼あってこその、今の地位だ。俺は王家の期待に応えなければいけない義務と責任がある。それを果たさずに、騎士なんて名乗れない。さっきのは、完全に俺の不注意だった。だから、気にしなくていい」
極めて冷静に言い放つリナトだったが、誰から見てもその疲労は確かだった。
目に隈ができ、顔色も良くない。
端正な顔つきが、もったいないほど変わり果てており、それがベネットの心配を余計に掻き立てる。
自身、疲れていないとは言えない。実際に疲れている。……が、文句など言っている暇はなく、目まぐるしく日々は移ろっていた。
「…ったく、頑固なとこは小さい頃から変わらないな」
「悪いな。余計な心労ばかりかけて」
「別にいいさ。俺が勝手にしてることだから。……そういや、お前がここに来てから、十年くらい経つんだよな」
「正しくは九年だな」
「細けぇことはいいんだよ!……そうか、もう、リナトも十八歳か……くく、時が経つのは早いねぇ」
もうそんなに経ってしまったのか。
そう口から零すところを、リナトは無理矢理心に押し込めて、小さく笑った。
「あぁ……あの頃はまだベネットも老けてなかったし、腰をやるなんてことなかったよな」
「老けた言うな!俺はな、まだ現役で剣振り回せるんだよ!」
「野蛮だな」
「野蛮で結構!……っと、こんな言い合いしてる場合じゃない。リナト、本当に今日はもう、帰って大丈夫だぞ」
ベネットは懐中時計を取り出し、蓋を開け中を見る。
リナトも横から覗き見ると、すぐにベネットの言葉の意味を理解した。
「…あぁ、見張りの交代がもうすぐ来るのか」
「おうよ。次はエドガーが来るはずだ。あいつは予定の時間より数十分早めに来る。多分もうそろそろだ」
「ほら」と言うように、ベネットが前方を指を差す。
つられて前を見ると、階段の随分下の方から騎士が一人歩いて来る姿が見えた。
「…早いな」
「エドガーは優秀だから、何も心配するこたぁねぇよ。たまにはゆっくり休むといい。今日のところは、もう任務は入ってないんだろ?」
「まぁ……」
「なら少しでも寝とけ」
「……お前は俺の父親か」
本気で心配してくれているベネット。
少しむず痒くなったリナトは、つい子どものようなことを言ってしまう。
が、そんなことを気にした様子もなく、彼は笑ってリナトの頭を撫でた。
「馬鹿野郎、父親同然だ。こんなちっちゃい頃から一緒にいるんだぞ。しかも、いつの間にか俺より偉くなっちまって、毎日疲れたような顔してるんだ。自分が不甲斐なくて仕方ねぇよ」
「そんなことない。俺はベネットにたくさん助けられてるし、甘えさせてもらってる。むしろ、俺みたいなのが先に出世して、妬ましくないか?」
「何言ってる、お前は俺の息子同然だって言ったろ?息子を妬ましく思う親がどこにいんだ」
また、ベネットがにこやかに笑う。
その温かさに、リナトは表情を綻ばせた。
「……お言葉に甘えて、今日はもう休むことにする」
「あぁ。もし、さっきみたいな白昼夢見たり、変な症状出るようなら、医者にかかるようにしろよ」
「わかった。あとは任せる。ありがとう、ベネット。じゃあな」
ちょうど、交代のエドガーもやってきたようで、軽く挨拶を済ませ、階段を下りる。
「……買い物して帰るか」
リナトは市街地へ足を向ける。
ここ数日、まともに買い物が出来ず食材を切らしていたことを思い出した。
頭の中で「あれもこれも」と考えているうちに、必要なものが相当あることに気づいた。
「主人。林檎を二つと、人参と玉ねぎ、ジャガイモを三つずつくれ。…あぁ、今日は苺が出ているのか」
購入した野菜と果物の分の金を渡しながら、リナトは疑問を口にした。
「騎士様、それはただの苺じゃないんですよ。海の向こう側のスイレン大陸にある都の近くに、湖畔があるらしくてね。その奥の大木の麓に群生してる木苺なんです!そりゃもう仕入れが大変で!」
自分の身体が反応を示すのがわかった。
リナトは、怪訝な目をして店の主人を見つめる。
「…アザミ湖畔に?」
「おや、向こうの地理をご存知で?」
「…あ、いや。俺はスイレンの方の出身なんだ。都じゃなく、ごくごく小さな村だけどな」
「へぇ、そりゃまた遠くからここまで来たもんだ!」
店の主人は感動した様子だった。
だが、リナトとしては思い出したくもないものだったので、早々に話を切り替えることにした。
「……それより、あの気候の中で木苺が群生してるなんて、珍しいな。聞いたことなかったぞ」
「あ、そうそう!気候に変化がある訳でもないってんで、恐らく植生自体が環境に適応したって専らの噂なんですよ。毒味も調理もした上で、今ようやく市場に出回って、私もようやく手に入れましてね。少し値が張りますが、店に出してみたんですよ」
「その割に売れてないな?」
「はは。いやぁ、面目ない。皆、物珍しいせいか、逆に買う手が伸びないらしい。普通の苺と違って、色も少し黒いせいもあると思いますが……」
「…ふむ」
この手のものは、苺と言うよりは、ベリーに近いか。
少し贅沢になるが、ジャムにすると良いかもしれない。
保存もきくから家を空けがちな自分でも大丈夫だし、むしろ任務中の荷物に入れておけばパンと一緒に食べられる。
そう考えたリナトは、主人に伝えた。
「よし、この木苺も買っていく。量り売りか?」
「そんな、騎士様にケチケチしたことなんて言いません!こちらは無料でお譲りしますよ」
「えっ…いいのか?赤字にならないのか?値が張るって、さっき言ってただろ」
「いいんですいいんです!騎士様が初めて買うって言ってくださったんです。私の厚意ですから、ぜひもらってください!」
と、袋に入れて主人が渡してくれた。
重さから見るとかなりの量だ。
それでも、まだまだ余裕なくらい、売るための残りがあるようだが。
「…じゃあ、ありがたくもらっておく。恩に着るよ。任務中の食費が浮いた」
「いえいえ!いつも王都を守ってもらってんですから、お礼くらいさせてください!それに、野菜の分はお金をいただいてますしね!あとはこれからもご贔屓にしてくだされば、文句なしです!」
「はは、本当に商売上手だな、王都の商人は。ありがとう、助かった。また買い物のときは寄らせてもらう」
「はいよ!ありがとうございました!」
八百屋の主人に手を振ると、今度はベーカリーでパンを、その後は雑貨用品店で生活用品を購入し、帰る頃にはもう両手が荷物で塞がれている状態だった。
大きな茶色の紙袋から、食材やら何やらがはみ出ており、リナトの顔の半分を隠してしまっている。
これ以上はもう必要ないと、やっとリナトは家路についたのであった。
「……………ん?」
強く肩を揺すられ、青年の意識はやっと覚醒した。
「あー……」と呟きながら額を押さえ、頭が痛そうにしている。
「真っ昼間だぞ。具合が悪いなら、家に帰った方がいい」
「いや、心配ない。少し意識を持ってかれてただけだ。起こしてくれてありがとう、ベネット」
「意識を持っていかれてた?おいおい、白昼夢だろ、そりゃあ!悪いことは言わねぇ。リナト、今日は帰った方がいい」
青年の名前は、リナト・キャンベル。
そして、リナトを起こしたのは、ベネット・ピアソン。壮年の男性だった。
「大丈夫だ。心配しなくていい」
「心配にもなるさ。女王殿下の親衛隊隊長になって、まだ一年目。殿下直々の推薦で、陛下から賜った大切なお役目とはいえ……お前は休む暇もなくせっせか働いてる。風邪や病気をしないか心配だ」
リナトもベネットも、一国の騎士団に所属している。
この世界____『アルメリア』の中でも、世界一大きいとされる、『グズマニア大陸』を統べる王国。
その首都であり、王の家とも言える、『王都・ハルジオン』で二人は騎士を務めており、現在は城門の警備に就いている。
「風邪って……心配性だな。それに、陛下や殿下の信頼あってこその、今の地位だ。俺は王家の期待に応えなければいけない義務と責任がある。それを果たさずに、騎士なんて名乗れない。さっきのは、完全に俺の不注意だった。だから、気にしなくていい」
極めて冷静に言い放つリナトだったが、誰から見てもその疲労は確かだった。
目に隈ができ、顔色も良くない。
端正な顔つきが、もったいないほど変わり果てており、それがベネットの心配を余計に掻き立てる。
自身、疲れていないとは言えない。実際に疲れている。……が、文句など言っている暇はなく、目まぐるしく日々は移ろっていた。
「…ったく、頑固なとこは小さい頃から変わらないな」
「悪いな。余計な心労ばかりかけて」
「別にいいさ。俺が勝手にしてることだから。……そういや、お前がここに来てから、十年くらい経つんだよな」
「正しくは九年だな」
「細けぇことはいいんだよ!……そうか、もう、リナトも十八歳か……くく、時が経つのは早いねぇ」
もうそんなに経ってしまったのか。
そう口から零すところを、リナトは無理矢理心に押し込めて、小さく笑った。
「あぁ……あの頃はまだベネットも老けてなかったし、腰をやるなんてことなかったよな」
「老けた言うな!俺はな、まだ現役で剣振り回せるんだよ!」
「野蛮だな」
「野蛮で結構!……っと、こんな言い合いしてる場合じゃない。リナト、本当に今日はもう、帰って大丈夫だぞ」
ベネットは懐中時計を取り出し、蓋を開け中を見る。
リナトも横から覗き見ると、すぐにベネットの言葉の意味を理解した。
「…あぁ、見張りの交代がもうすぐ来るのか」
「おうよ。次はエドガーが来るはずだ。あいつは予定の時間より数十分早めに来る。多分もうそろそろだ」
「ほら」と言うように、ベネットが前方を指を差す。
つられて前を見ると、階段の随分下の方から騎士が一人歩いて来る姿が見えた。
「…早いな」
「エドガーは優秀だから、何も心配するこたぁねぇよ。たまにはゆっくり休むといい。今日のところは、もう任務は入ってないんだろ?」
「まぁ……」
「なら少しでも寝とけ」
「……お前は俺の父親か」
本気で心配してくれているベネット。
少しむず痒くなったリナトは、つい子どものようなことを言ってしまう。
が、そんなことを気にした様子もなく、彼は笑ってリナトの頭を撫でた。
「馬鹿野郎、父親同然だ。こんなちっちゃい頃から一緒にいるんだぞ。しかも、いつの間にか俺より偉くなっちまって、毎日疲れたような顔してるんだ。自分が不甲斐なくて仕方ねぇよ」
「そんなことない。俺はベネットにたくさん助けられてるし、甘えさせてもらってる。むしろ、俺みたいなのが先に出世して、妬ましくないか?」
「何言ってる、お前は俺の息子同然だって言ったろ?息子を妬ましく思う親がどこにいんだ」
また、ベネットがにこやかに笑う。
その温かさに、リナトは表情を綻ばせた。
「……お言葉に甘えて、今日はもう休むことにする」
「あぁ。もし、さっきみたいな白昼夢見たり、変な症状出るようなら、医者にかかるようにしろよ」
「わかった。あとは任せる。ありがとう、ベネット。じゃあな」
ちょうど、交代のエドガーもやってきたようで、軽く挨拶を済ませ、階段を下りる。
「……買い物して帰るか」
リナトは市街地へ足を向ける。
ここ数日、まともに買い物が出来ず食材を切らしていたことを思い出した。
頭の中で「あれもこれも」と考えているうちに、必要なものが相当あることに気づいた。
「主人。林檎を二つと、人参と玉ねぎ、ジャガイモを三つずつくれ。…あぁ、今日は苺が出ているのか」
購入した野菜と果物の分の金を渡しながら、リナトは疑問を口にした。
「騎士様、それはただの苺じゃないんですよ。海の向こう側のスイレン大陸にある都の近くに、湖畔があるらしくてね。その奥の大木の麓に群生してる木苺なんです!そりゃもう仕入れが大変で!」
自分の身体が反応を示すのがわかった。
リナトは、怪訝な目をして店の主人を見つめる。
「…アザミ湖畔に?」
「おや、向こうの地理をご存知で?」
「…あ、いや。俺はスイレンの方の出身なんだ。都じゃなく、ごくごく小さな村だけどな」
「へぇ、そりゃまた遠くからここまで来たもんだ!」
店の主人は感動した様子だった。
だが、リナトとしては思い出したくもないものだったので、早々に話を切り替えることにした。
「……それより、あの気候の中で木苺が群生してるなんて、珍しいな。聞いたことなかったぞ」
「あ、そうそう!気候に変化がある訳でもないってんで、恐らく植生自体が環境に適応したって専らの噂なんですよ。毒味も調理もした上で、今ようやく市場に出回って、私もようやく手に入れましてね。少し値が張りますが、店に出してみたんですよ」
「その割に売れてないな?」
「はは。いやぁ、面目ない。皆、物珍しいせいか、逆に買う手が伸びないらしい。普通の苺と違って、色も少し黒いせいもあると思いますが……」
「…ふむ」
この手のものは、苺と言うよりは、ベリーに近いか。
少し贅沢になるが、ジャムにすると良いかもしれない。
保存もきくから家を空けがちな自分でも大丈夫だし、むしろ任務中の荷物に入れておけばパンと一緒に食べられる。
そう考えたリナトは、主人に伝えた。
「よし、この木苺も買っていく。量り売りか?」
「そんな、騎士様にケチケチしたことなんて言いません!こちらは無料でお譲りしますよ」
「えっ…いいのか?赤字にならないのか?値が張るって、さっき言ってただろ」
「いいんですいいんです!騎士様が初めて買うって言ってくださったんです。私の厚意ですから、ぜひもらってください!」
と、袋に入れて主人が渡してくれた。
重さから見るとかなりの量だ。
それでも、まだまだ余裕なくらい、売るための残りがあるようだが。
「…じゃあ、ありがたくもらっておく。恩に着るよ。任務中の食費が浮いた」
「いえいえ!いつも王都を守ってもらってんですから、お礼くらいさせてください!それに、野菜の分はお金をいただいてますしね!あとはこれからもご贔屓にしてくだされば、文句なしです!」
「はは、本当に商売上手だな、王都の商人は。ありがとう、助かった。また買い物のときは寄らせてもらう」
「はいよ!ありがとうございました!」
八百屋の主人に手を振ると、今度はベーカリーでパンを、その後は雑貨用品店で生活用品を購入し、帰る頃にはもう両手が荷物で塞がれている状態だった。
大きな茶色の紙袋から、食材やら何やらがはみ出ており、リナトの顔の半分を隠してしまっている。
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