ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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天上の楽園

第四章 5話『『元』究極メイド、巨人を知る』

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 スターターを出発してから2時間程が経過した。
 相変わらず荒野の中にスターターはあるが、少し行けば緑が生い茂っている。
 綺麗な湖もあれば森もある。この辺はいつも資源や素材を採取しに来る。もはや見慣れた光景だ。

 歩む速度は、フレグがアミナたちに合わせてくれた。
 フィーが体を大きくし、それに荷物とアミナが乗る。
 そしてそれを守るように前方にルナ、横方向のフレグとは反対側にカルム、そして後方にメイが陣取っている。

 前方にルナがいるのは、彼女が瞬間的な火力で最も優れているからだ。
 しかし故に広範囲を巻き込まない為に先頭を歩いている。
 そしてカルムが横に待機しているのは、彼女が気配を察知する能力が誰よりも高いからだ。
 メイの嗅覚や触覚でも感じ取れない事はないが、メイに関して言えば更に厄介な後方へと注意を向けている為、カルムが担当をしている。
 何か異変を感じとればすぐさまルナへと伝達し、攻撃の構えを取る。
 それは後方にいるメイも同様な為、まさに完璧な布陣と言えるだろう。
 ……最も、巨人が横にいて、巨大な魔獣を使役している集団に戦いを挑む馬鹿がいればの話なのだが。

「それでフレグさん。今回の依頼の詳しい事をお聞きしたいのですが、よろしいですか?」

「もちろんだ店長殿。なんでも聞いてくれ」

 大口を開けて同意する巨人族の長は、ゆっくりと歩を進めながらアミナの問いかけに答えた。
 頭の中でいくつかの質問と疑問を整理してから、あみなは最初の質問を投げかけた。

「その、最初に気になったのですが、巨人族というのはどういった種族なのですか?」

 第四大陸には巨人がいない。
 先程の言葉からはそう解釈する事が出来る。
 それと同時に、巨人族というのは第二大陸にしかいないのかもしれないという可能性も出てきた。
 しかしアミナは、仕えていた主の領地内しか把握していない為、ただ存在を知らないというだけかもしれないが。

「むぅ……どういった種族かと問われると難しいな……」

「でもフレグさんは巨人で一番偉いんですよね?」

「そうだが、長というのはあくまで集落の中でだ。それに店長殿もヒト族とはどういったものか問われても難しかろう」

 確かにその通りだ。
 自分が何者で、どういった存在なのかなんて、正直な話誰にも分からない。
 結局は、他者から与えられた印象しか残らないのだから。

「巨人族はね、戦士の一族って言われる程義理堅くて強くて、長命故に歴史も凄い長い種族なんだよ」

 前方からそう聞こえてきた。
 声の主はただ1人、普段は巨大なハンマーを携えている少女、ルナだった。
 今は危険がない為、ハンマーのサイズを小さくして収納している。

「巨人に関するおとぎ話も多くてね。例えば、山を引っ張って動かしたとか、湖を飲み干してそこに市場を作ったとか……」

「や、山を動かす……なんだかとんでもない話ですね……」

 そこまで山というものへの造形が深くないアミナですら、山の巨大さと壮大さは知っている。
 事実では無いにしろ、そんなものまで動かすという話が作られてしまう巨人族のスケールの大きさには驚かされる。

「あぁ、その話か。確かにあったな」

「事実なんですか!?」

 訂正だ。
 どうやら事実らしい。

「昔、魔人とかいう連中が幅を利かせていた時期があってな。戦士は大丈夫だったんだが、やがて女子供への被害が出始めたんだ。だから俺の父や祖父の世代の者たちが山を複数集め、そこで魔人から皆を守ったらしい。俺は当時20歳の幼子だった為に、あまりハッキリと覚えてはいないがな」

 フレグはそう言ってから大笑いをした。
 正直笑えるような話ではないとしか言いようがないが、それでもこの巨人族の長は笑いながら魔人から生き延びた話をしている。
 か弱い人間からすれば、魔人というのは死の象徴とでも言えよう。
 しかしかの時代を生き抜いたとハッキリ言われた。
 そしてそのような時代も本当にあったのだと、改めて自覚させられる。

「20歳が幼子って……それに魔人がいた時代からそんな事を……。それでは湖を飲み干したというのは……?」

「そうだな。あれは魔人が封印されたと噂が流れてからしばらくした頃だったな。道行く行商人と交流をしていたのだが、その行商人が商売出来る場所を構えたいと言い出してな。その辺の土地に作ればいいと言ってやったら、せっかく仲良くなった貴方たちに関係する場所がいいと言ったんだ。だから俺たちは、近くにあった湖の水を全て飲み干し、そこから出てきた魚を含めて商品として出し、そこをヤツの市場としてやったんだ」

「話のスケールは相変わらずですね……ん?さっきの話し方的に、もしかしてそれをフレグさんがやったって事ですか?」

「その通りだ。当時は俺も50の若造だった。ヤンチャしたい年頃だったのだろうな」

 再び大口を開けて爆笑する。
 もはややっている事に頭が追いついてこない。
 50で若造。巨人ならばそうなのだろう。
 しかし何故飲み干す。ただ抜くだけではダメだったのだろうか。
 本来どうでもいい事なのかもしれないが、考えれば考える程沼にハマってしまいそうだ。

「なるほど……そういう事だったんですね」

 助け舟を出して欲しい頃合いになった時、カルムが顎に手を当てながらそう呟いた。
 彼女が一体何に気がついたのか、アミナは沼から抜け出す為に問いかけた。

「何がですか?」

「いえ、第二大陸には山が円形に連なった土地があるのですが、周囲には全く山が無いにも関わらず、そこにだけ山が集中しているのです。ずっと気になっていたのですが、そのような理由があったのですね……」

「ちなみにその土地というのは?」

 アミナが続いて問を投げると、カルムは一瞬口を噤んで答えなかった。
 心做しか彼女の顔が少し暗くなっているように見えた為疑問に思っていると、メイが深く息を吐いて代わりに答えた。

「その土地ってのが、カルムが奴隷やってた国―――ガゼルバだ」

 その国の名前を聞いてアミナはハッとした。
 それはカルムとまだ知り合った当初聞いた名前だった。
 コルネロ帝国の大臣からの招集に応じる為にコルネロ帝国の帝都へ向かっている最中、カルムの過去の話を聞いた。
 その時に出てきた国の名前が、メイの口にしたガゼルバという国だ。

 そこは四六時中雪が降り注ぎ、一年間を通して季節がないのではないかと思わされる程の極寒の地らしい。
 ガゼルバでは日夜奴隷が裸同然の服装で働かされており、カルムもその一員だった。

 しかしガゼルバで内戦が勃発し、死者数十万人を巻き込んだ大乱戦となった。
 カルムはその混乱に乗じて逃げ出し、戦場で転んでしまったところをメイに助けられ今に至る。

 そんな畏怖や憎しみしか残っていない土地の事を口に出させようとしまった事をアミナは悔いた。
 アミナ自身も「す、すみません……」と呟いてから口を噤んだ。
 だが失言を悔やんでいるアミナへカルムは「構いません。最初に口にしたのは私ですので」と軽く微笑みながら言った。
 
「もしかしてその土地というのは北の方か?」

「はい。第二大陸の北部に位置しています」

「ふむ、間違いないようだな。当時は正確な地図など無かったが、北方向にしばらく行けば海が見えた。昔は雪など降っていなかったのだが……時間の流れというのは非情なものだな」

 フレグも昔の事に思いを馳せながら腕を組んだ。
 彼にとっても良い思い出とは言いづらい記憶だろうに、彼は今も変わらず快闊に笑っている。
 カルムに関しても、気にしていないように振る舞うのが異様に上手い。
 それは恐らく、奴隷時代の習慣が自然ににじみ出てしまっているからであろう。

 彼女の性格は、奴隷時代になるべく酷い扱いをされないようにと敬語を使い、行動の一つ一つに気をつけて過ごし、なるべく感情を表に出さないようにしていた。
 だが以前に比べると、カルムはだいぶ感情を表に出すようになった。
 しかしそれと同時に少し口数が減ったような気もする。
 普通は逆だと思うが、深まった仲に言葉はいらない的なものなのだろうか。最近は遠目からアミナたちのワチャワチャを眺めている。まるで母親のようだ。

 ……そう考えると、自身は全く成長していない。アミナはそう心の中で呟いた。
 皆辛い時期を乗り越えたというのに、アミナは未だに過去に執着し、親族との繋がりを重視してしまっている。
 それが悪い事だとは決して思わないが、すがっているだけでは成長する事は出来ない。

 時々夢に見る、母親の墓の前で泣き崩れている少女。
 それは紛れもないアミナ自身だが、今でも夢に見るという事は、乗り越える事が出来ていないという事でもある。
 血の繋がりも、絆も、思い出も、全てが薄れてしまいそうで、アミナは未だに過去の辛かった頃を心の奥へと仕舞い込む事が出来ていない。

「皆さんは本当に凄いですね」

 アミナの小さな呟きは、フィー以外の誰にも届かなかったが、彼女の中では新たな決意が生まれた。
 しかしそれを実行するにはまだ早い。
 もうしばらくしたら実行に移そう。
 そう考えながら、アミナたちは巨人族の集落へと向かって足を進めた。

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