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天上の楽園
第四章6話『『元』究極メイド、道中の村にて』
しおりを挟むスターターを数時間前に出発し、フレグの故郷へと向かっている最中、アミナたちは小さな村へと到着した。
村の名前はコリジン。
街道の道中にある、至って普通の小さな村だ。
アミナたちはその村で休息を取りながら、一晩泊めてもらう事にした。
勿論タダではない。
出張アミナ雑貨店とは名ばかりの、無料で道具などを直すサービス。
そして、フレグが子供たちと戯れてくれる。それが泊めてもらうお礼と条件として提示された為、アミナは二つ返事で承諾した。
今はまだ夕暮れ前な為、皆村でしばらく休んでいた。
「のどかでいいですねぇ~」
「だねぇ~。街じゃ得られない栄養が詰まってるよ……」
村のベンチに座りながら、アミナとルナはのんびりしながらくつろいだ。
フィーは相変わらずモフモフされてうんざりしていたが、不思議な事にまんざらでもないようにも見える。
カルムは現在、アミナの代わりに道具の修理をしてくれている。
アミナが働き過ぎだと彼女は言う為、言葉に甘えて代わってもらったのだ。
カルムの物を作る腕は日に日に上達しており、アミナのような回復薬や武器は作れなくとも、簡単な補修や修理なんかは手際よくこなしてしまう。
アミナ雑貨店の副店長はカルムでいいか、などと思っていると、緩みきった顔をしているところへ水が差された。
「何ジジババみてぇな事言ってんだよ。安泰求めるにゃ早ぇだろ」
「そんな事言われましてもメイさん、こんな平和なかなかないですよ。元気に子供たちが走り、魔物との戦いもなく、ただ穏やかな時間が流れる。これほどの贅沢がありますか」
腑抜けた面を晒し、溶けそうになっている程に体をだらけさせているアミナを見下ろしていたメイは、ため息をついてから腰に手を当てて更に口を開いた。
「休むのは結構だが、こんなのんびりしてて巨人のおっさんの心臓は平気なのかよ」
メイのその指摘に一気に背筋が伸びた。
そうだ。彼は今生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされているのだった。
豪快な態度が覆いかぶさっていてすっかり忘れていた。
「ど、どどどど、どうしましょう!!今から向かいますか!?し、しかし今はもう暗くなり始める頃。それに村長さんには泊まっていくと言ってしまった上に寝床ももう用意してくださっているようですし……あぁどうしましょう!!」
「落ち着けアホ」
2人の会話そっちのけでのんびりとしているルナの横で、頭を引っ叩かれるアミナ。
未だに焦るとよくない部分が顔を覗かせる。
「ですが実際大問題ですよね……。どうして当の本人はあそこまで余裕そうなんでしょうか……」
彼の態度にはどこか矛盾があるように思えてならない。
仲間の命まで危険に晒されている状態にも関わらず、アミナたちへの態度に深刻さは現れていない。
だがその目は真剣そのもので、嘘をついてふざけているようにも思えない。
その矛盾こそが、アミナの思考をかき乱していた。
「それは心臓を破壊できる道具が存在しないのと、心臓を奪った相手に心当たりがあるからだ、店長殿」
そう大きな声で呼ばれて振り返ると、そこには案の定フレグがいた。
地面を大きく揺らしながら、子供たちを手の上に乗せて近づいてきた。
「そぉら、そろそろ家に帰れ。暗くなり始めるぞ」
大きな手を地面へとゆっくり下げて、子供たちを1人ずつ降ろしていく。
最後の最後まで子供たちが笑顔を絶やさなかった為、彼の子供への愛情は本物だと見て取れる。
去り際まで子供たちはフレグへと手を振り、最後の男の子がいなくなってようやくアミナは声をかけた。
「あの、さっきの話はどういう事ですか?」
「言葉通りの意味だ。俺たち巨人の心臓石は道具による破壊が不可能で、心臓を盗んだ相手に覚えがあるという事だ」
「ん?でもお店では、破壊されてしまえば俺たちは死んでしまう……と……」
「確かにそう言った。だがそれは、あくまで道具を使わないで破壊する場合だ。俺たちの心臓は道具なしで破壊出来る程ヤワじゃない。しかし、道具でも破壊は不可能。これは呪いによるものだ」
何を言っているのか分からなくなってきた時に、ちょうどしばらく振りに聞いた言葉が出てきた。
「呪い、ですか」
「そうだ。俺たちの世代が生まれる前、つまりは俺の親父や祖父の世代が、他の種族と争っていた時代があったんだ。その中にはもちろん、力をつける前の魔人もいたりしたらしいが、真相はよく知らん。だが巨人族の作り出した兵器や武器が大勢の種族を殺したせいで、その戦争以降、俺たちは呪いをかけられた。道具による心臓の破壊の拒絶。命を軽んじて殺し合った俺たちは、自分たちの心臓を強固なものとされ、戦いの中で散るという、戦士にとっての名誉を潰されたのだ」
普通ならば死ぬリスクが低下するそれを喜ぶのだろうが、フレグはその真逆で、全く嬉しそうではない。
だがそれもまた道理だろう。
何せ、苦しませる為にかけられた呪いであるそれを、巨人族が喜んでいては呪いをかけた意味がない。
一般人にとって死とは恐怖の対象だが、戦士にとって死とは誇りであり誉なのだろう。
くだらないとは思わない。誰にだって譲れないものがあるだろう。それが巨人族にとってはたまたま洗浄で散るという事なのだろう。
そう、くだらないとは言わないが、もっと命を大事にしてほしい。
アミナはひっそりとそう考えた。
「そんで?盗んだ相手に心当たりがあるって話だったが、そいつも詳しく教えろよ」
すかさずメイが次の問いを投げる。
その問いかけにも「あぁ」と呟いてから、フレグはすぐに答えた。
「そもそも我々の体に埋め込まれている心臓石だが、正しくは空洞の中にういているというのが正しい。しかし皮膚の下にあるのには変わりないのだが……これを見てくれ」
そう言って自身の服をめくると、彼の胸には傷一つついていなかった。
先程の彼の話では、取り出すには胸部を切る必要性があるハズだ。にも関わらず、彼の胸は綺麗なまま。
それにアミナたちは疑問を抱いた。
「見てもらった通り、この体には傷一つない。だが傷をつけずに我々の硬い皮膚を掻い潜り、心臓石を取り出す事の出来る者など、この世に数人といないだろうと、集落ではそう結論づけられた」
「んで、肝心のその犯人は?」
言葉を濁したフレグに違和感を覚えていたメイは畳み掛けるように言葉を投げる。
スターターを出るまで、そしてこの村に到着するまではハッキリと喋っていたフレグが、犯人に心当たりがあると言った途端に言葉を詰まらせている。
その事にはアミナもルナも気がついており、メイ同様、違和感を覚えていた。
メイの問いかけにフレグはしばらく沈黙を貫いていたが、喉仏がゴクリと動くと、留めていたものが吐き出されるように言葉が流れ落ちた。
「……恐らく、我々の心臓を盗み出した張本人は……俺の、娘なんだ」
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