ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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お店経営編

第二章 66話『『元』究極メイド、地上へ急ぐ』

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 走った。ただひた走った。
 地上からの揺れが、地下にいたアミナ達にも伝わり、更に足の回転を上げる。

 間に合え。間に合え間に合え間に合え間に合え。
 心と体がそう叫んでアミナは速度を上げる。
 地上を目指して走り出したアミナ一行は、下水道から続いていた隠し通路から元の道へと戻り、今まで通ってきた道を真っ直ぐに引き返していた。

『で……い……でん……い……伝令……!!』

 ザーザーと不快な音がアミナ達の耳へと届く。それと同時に1人の男の声が聞こえる。
 その声の招待は、アミナ達をザストルクまで馬車を運転して連れてきてくれた兵士の声に間違いなかった。
 彼の声がした通信用の水晶をイーリルが取って全員に聞かせる。

『只今、謎の仮面を被った集団に街が襲われています!!その顔の紋章からして魔人会だと……!!』

「やはりか……街の対応はどうなっている!」

『ザストルクにある警備隊が対応していますが、いつまで持つか……。ですが幸いな事にまだ負傷者は出ていないそうです!』

 彼のその報告にアミナは一瞬心を救われたが、走る足を緩めたりなどはしない。話を聞きながら、今も尚走る速度を上げている。

「敵の数はいくつだ」

『分かりません……ですが、ざっと40人はいると思われます!』

「マジか……なんつー数だ」

 ベルリオが低く呟く。魔人会の構成員は全員が武闘派で、先日の事を考えると、並の騎士ではとてもじゃないが討伐は不可能。それが40名以上もいるとなれば、街の壊滅など容易いだろう。

「私達もすぐに向かう!それまで絶対に被害者を出すな!」

『りょ、了解!!』

 イーリルはそこで通話を切った。途中やはりザーザーと雑音が入っていたのが気になるが、その違和感を解決するのは地上に出てからだ、とアミナは余計な考えを振り払う。

 その時、曲がり角を曲がった所で、見覚えのある仮面をした集団がアミナ達の前に立ち塞がる。忘れようとしても忘れない。無関係で無実な人々を壁に杭で打ち込んで、挙句の果てには長々とそれを放置する。そんな所業をする連中の見姿を忘れる訳が無かった。

「魔人会……!!」

 フィーに乗ったカイドウが目の前の敵達の総称を口にする。
 彼等の姿を見るなり、メイは「開け一門」と呟いて短剣を取り出す。そして風すら置き去りにする速度で魔人会構成員の懐にまで潜り込み、その一閃で胴体を縦に真っ二つにした。

 彼女に続いてカルムとベルリオが剣を引き抜いてもう1人ずつ撃破した。事が始まった以上、もう話を聞き出す時間も意味も無くなり始めている。今大切なのは守られるべき命が失われるのを防ぐ事だった。

「急ぐぞ。死なせたくなきゃな」

 メイはそれだけを言って1人走り出した。彼女の言葉通り、誰も死なせてはならない。アミナは頷いてメイに続いて走る。

 アミナ達は、メイが走っている後ろを走っているが、彼女がどこをを目指しているか全く知らなかった。しかし彼女の事だ。何か策があるのだろう、と信じてメイの後ろを走っている。
 しばらく走ると、メイは立ち止まって天井を見上げた。

「ここ登んぞ」

 メイは軽くジャンプをして天井を突き破った。何故そんな簡単に……と思っていると、アミナは思い出した。そこが一体どこなのか。アミナもメイに続いて天井に空いた穴に向かって跳んだ。
 彼女に続いて他の面々も跳び上がる。
 一同が上がった先に着地すると、アミナとメイ以外は驚きの表情を浮かべた。

「ここは……」

「総合倉庫。この街の要だ」

 メイが目指していたのは、先程アミナが確認した総合倉庫に空いた穴だったのだ。そこには魔人会の構成員が潜り込んだであろう跡である穴でがあり、軽くて大きい木箱によって塞がれていた。メイはそれを頭突きで破壊し、地上へと跳び上がったという訳だ。

「……お、おねぇさん達……だぁれ?」

 アミナはふと声をかけられた。振り返るとそこには、小さな少女がいた。
 ――いや、それだけでは無い。その少女をキッカケに、隠れていた人々が続々と姿を表した。

「まさか……街の住人?」

「そのようですね。私とメイ様がお話を伺った情報通の方が端の方に見えました。恐らく、魔人会の暴挙から避難してきたのでしょう。ここなら物資もありますし、何より泥棒を防ぐ為の結界のようなものが張り巡らされているようです」

「へっ。そのクセ魔人会入れちまうなんて世話ねぇな」

 カルムの説明にメイが悪態をつきながら総合倉庫の大きな出入り口へと向かう。
 メイを目で見送ったアミナは先程の少女の目線に合わせてしゃがむ。少女の顔はとても不安そうだ。そんな少女にアミナは微笑みを向ける。

「お姉さん達はね。この街を守る為に来たんです。だから安心して下さい。ここからは何もさせません」

 それだけ言って、アミナは再びメイの後ろを歩いた。
 カイドウやフィー、ベルリオとイーリルとカルム。彼等もそれぞれ周囲が気になっているようだったが、今は外に出て状況を確認しなければならない、と理解していた為、各々の気になった事は後回しにした。

 全長10メートル以上ありそうな総合倉庫の扉を、メイは片手で開き、街の中へと出た。
 アミナ達はどんな修羅場が待っているのだろうか、と身構えたが、街の中はとても静かで、魔人会の構成員のまの字も見つからなかった。

「どうなってんだこりゃ……」

「魔人会は見当たらないようだが……破壊の痕跡だけはきっちり残っているな」

 ベルリオとイーリルが目の前の静けさに驚いて思わず呟く。
 だが街の崩壊具合は凄まじく、この街に来たばかりの時はとても綺麗で洗練されたデザインだった建物達が焼け焦げ崩れ落ち、今にも倒壊寸前の建築物も数個では無く、見える範囲のほとんどがそういった状態だった。

「とりあえずアミナさんとベルリオさんの行った本庁舎に行ってみよう。ここからそこそこあるけど、今はそれを面倒臭いなんて言ってられない」

 カイドウの提案に一同は頷き、街の中を颯爽と駆け抜けていった。その間魔人会の構成員がいないかどうかを注視しながら走ったが、それらしい影は全く見えなかった。まるでこつ然と消えたように――。


 普通の人の足で走れば数十分以上かかる所を、アミナ達はものの数分で到着した。
 本庁舎の前に到着したアミナは扉を叩いて返事を待つ。ここに誰もいなければ先程の総合倉庫に戻って事情を聞くしか無い、と先の事を考えながら沈黙をやり過ごす。

 しばらくして、扉が軽く開いた。その扉の小さな隙間から見えたのは、元冒険者でこの街の代表を努めているタットの目だった。衰えてはいるが、鋭い眼光はそのまま。そんな目だったのをアミナはよく覚えていた。

「ベルリオ様!それにアミナ様まで!」

 彼は驚きと喜びの間で揺れたようにして2人の名を呼んだ。それに対してベルリオは「すまないが中に入れてくれ。今後の事と今さっきの事を話し合いたい」と言った。

「勿論ですとも。ささ、お連れ様もどうぞこちらへ」

 長年に渡って商人達を仕切っていた事で鍛え上げられた目なのか、冒険者時代の直感なのか。アミナとベルリオの後ろで立っていた他の面々を敵意無しと感じ取り、2人の連れだと確信したタットは中へ入るように催促した。

 魔人会の目的は全くもって見えない。
 だが私達がわざわざ派遣された以上、この街を壊滅させたりなんかしない。
 アミナは心の中でそう固く誓い、これから始まるであろうザストルクを救う為の作戦会議をする部屋へと足を進めた。
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