ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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お店経営編

第二章 67話『『元』究極メイド、作戦会議をする』

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「皆さん。よくぞご無事でした」

 開口一番、タットがアミナ達に向けて言う。
 今日知り合ったアミナ達の事も心配だったのだろう。この数時間で明らかに服装が乱れて顔に疲れが出ている。きっとアミナとベルリオが本庁舎を後にしたあとも、何か手がかりがないか探していてくれたに違いない。

「いえ。タットさんもご無事で何よりです。それよりも現況は?」

「はい。皆さん分かっての通り、魔人会の構成員が突然街中で爆発系の魔術を放ったのです。それで住人達は一目散に近くの避難所へ向かいました。すると何故か、人がいなくなったのを見た魔人会は破壊行動を止めたのです」
「また意味分からねぇ事してんのかあの野郎共は……!!」

 ベルリオの怒りの声が響く。それに続いてイーリルも静かに握り拳を作り、怒りを表す。
 この2人は以前、自分達の故郷が戦争の最前線になった事があった。その事を考えると、この街で今行われている破壊行動が、当時の事を連想させるのだろう。

「今は特に被害は出ておらず、街の警備隊が見回りをしながらまだ避難できていない人を探しています」

「敵の数は?」

「ざっと確認しただけですが、40人程度かと」

「そうか。……じゃあまず考えんのはタイムリミットだ。魔人会の連中がこの街の人間を皆殺しにする事が壊滅の条件だとしてんだとしたら、それまでの時間を考えねぇと作戦もクソも立てられねえ。おい、カイドウ。この街の人口はどんなモンだ」

「……え?僕?……えっと、ちょっと待ってね」

 メイからの突然の指示にカイドウは一瞬困惑したようだったが、すぐさま顎に手を当てて考え出した。

「……ザストルクは、おおよそ55平方キロメートル。交易の要所だから、城壁内の中心市街地が25平方キロメートル、外縁部の倉庫街や宿場が30平方キロメートルってところかな。中心市街地の人口密度をざっと9000人とすると、住んでいるのは22万5000人……いや役所とか倉庫の広い敷地を考慮するともう少し減るか。じゃあ、8000人として20万人弱。外縁部は倉庫や工房、それに宿場町が占める割合が多い。密度は3000から5000人ほど。まぁ、物流都市としては妥当な数字かな。更に外側の交易所を含めれば、昼間はもっと多くの人間が行き来してるだろうが……夜間人口はほぼ固定される――」

 カイドウはメイに言われた事について淡々と考えている。その集中力は凄まじく、どれだけの独り言を口にしているのか、本人は自覚していないだろう。

「――この規模なら21万4366人かな。少しズレはあるかもしれないけど。……で、魔人会の構成員は約40人。単純計算で一人あたり5300人ちょっとを殺せば、街は完全に沈む。……いや、そう単純にはいかないな――」

 ぶつぶつと呟きながら考えているカイドウの発言について「あっているんですか?」と小声でタットに訪ねた。すると彼は「えぇ……人口をピタリと言い当てています」と驚きの表情をしていた。

「まず、初動。市街地での奇襲なら、開始から10分ほどは誰もまともに動けない。警備の騎士が即応できるとしても、せいぜい数百人。彼等は、先日見た魔人会の構成員1人の戦闘力を考えれば、申し訳無いけど最初の30分以内にほぼ全滅する。次に市民。避難しようとして混乱するのは間違いない。都市の構造上、主要な避難路に人が殺到するはずだけど……そこを魔人会が塞いだ場合、街の外に出られる者は限られる。封鎖されたエリア内での殺戮……いや、処理速度を考えた方がいいかな――」

「その点については問題ありません。住人のほとんどは総合倉庫や、それに酷似した場所を避難所として集まるよう普段から言い続けているので」

「そういえば私達が総合倉庫から出た時も大勢の方がいましたね。避難民、その一部という訳ですか」

 カルムがタットの補足の説明に頷いた。
 先程アミナ達は、下水道の天井に空いていた穴から地上へと脱出した。その穴の出口が総合倉庫の木箱の下になっており、そこから出ると大勢の人が隠れていた。
 なるほど、やけに早くあそこに人がいたのは日々賜物だったという訳だ。
 だが集合が速い故に逃げ遅れた人も大勢いるハズだ。彼等を安全な所まで連れて行くというのも課題となってくるだろう。

 「――40人、それぞれが5秒に1人ずつ殺られるとする。単純計算で、1分で480人、一時間で2万8800人……いや、抵抗がなければもっと速い。3時間もあれば、市民の半数は片付くかな。住人の抵抗や魔人会が人を見つけるのに手間取る時間。それを加味すると、結論として……この街が壊滅するまでに要する時間は、4時間から6時間といったところだね」

 タイムリミットが算出された。彼の思考に基づいたそれは現実的だが、かなりの時間を要する。つまりこちらも、魔人会が攻撃を始めなければ作戦を立てる時間は大いにあるという事だ。

「よし。今のところ攻撃はねぇみてぇだし、このまま作戦立てんぞ。……っつっても、敵戦力がどんなモンなのか分からねぇからな……」

 今後の作戦を立てよう、となった所で早速躓く。敵に関する情報が皆無の今、どこに誰が行って何をするのか、それすらも計画出来ない。
 そんな時、本庁舎の扉が勢いよく開かれた。息切れをしながら入ってきたその丸い球体のような男は、ゼェハァと膝に手をつきながら体を休めていた。

「ヒューリーさん!!」

「おぉ……これはこれはアミナさん!!それにタットさんもいらっしゃいましたか……」

「どうしたんですか、こんなにボロボロになってしまって……」

 タットはそう言ってヒューリーに肩を貸した。そして部屋にあったソファに座らせて息を整えさせた。

「じ、実は……タットさん。貴方とのお話を終えた後に街の散歩していたのですが……その時に魔人会が集結していたのを私目撃してしまったのです……!!」

 突然の告白に一同は驚くが、いちいち声を上げてはいられない。全員が彼に先を話すように、黙ったままだった。

「リーダーのようなローブを着た人物が1人……仮面を着けた方達に命令していました。『住人が隠れ終わるまで追い回せ。街は破壊してしまって構わない』……と」

 またしても理解不能な言葉が飛び出す。
 街の壊滅が目的である魔人会の連中、しかもそのリーダーのような人物が街の人間が逃げ終わるまで追い回すだけという指示を出した。一体何がしたいのだろうか。

「……それじゃあ敵の主戦力は1人。他の構成員の相手を考えればこちらで対応出来ない程では無いな」

 イーリルが見解を述べる。それに関して言えば、アミナも同意だった。
 こちらの戦力を考えれば一般の騎士が勝てないレベルの敵なら対応できるし、リーダーと思しき人物の戦闘力は未知数だが、メイやベルリオよりも強いという事はまず考えられない。

「他には何か言ってたかい?」

「えぇ……そのローブの女性は街の北に身を隠すと言っていました。他の構成員達も南以外……つまり東と西に散らせているそうです」

「戦力を分散させるという事か……広い街が仇になったな」

 率直な感想をベルリオは呟く。
 先程カイドウが人数を割り出した時に言っていたように、この街は55平方キロメートルだ。コルネロ帝国の最重要な部分を担っているという事もあり、街としてはそこそこ広く作られている。
 街の両端に拠点を構える事で、向かってくる戦力をバラけさせようとしているのかもしれない。
 だが勘違いしてはいけないのは、街としては広いが、人口的に考えるとそうでもないという事だ。逃げ遅れて人も大勢いると考えると、その保護も必要になってくる。想像よりも骨が折れそうな作戦なのだ。

「あとは誰がどこへ向かうかですね……」

 アミナが最低限の決めるべき事の最後を口にする。
 全員が沈黙している中、突然メイが口を開く。

「そのリーダー格のヤツの所には私が行く」

 一番危険が伴う場所に彼女は名乗りを上げた。しかしそんな彼女をアミナは止める。

「駄目です!メイさんは私達の中で一番強いです!もし何かあった時の為に残ってくれないと……」

「一番強ぇから私が行くんだよ。最初から負ける可能性考慮して物事考えてんじゃねぇ。最初から勝つ為に私が行く。それで終いだ」

 最もな事を言うメイにアミナ以外の全員が納得していた。しかしアミナはまだ納得がいっていないような表情をして「ですが……」と俯いている。

「残りの東と西の雑魚狩りは東がイーリルとベルリオ。西にはフィーを向かわせる。いいな」

 彼女の指示に3人は頷く。イーリルも戦場にしばらく出ていないとはいえ、元々は動ける方だった為心配はいらないだろうとメイは判断した。
 そこにカルムが確認としてメイに言う。

「私とアミナ様とカイドウ様は、避難してきた方の手当や治療、身の回りのお世話をすればいいのですね」

「あぁ。そっちは頼んだぞ」

「お任せ下さい。この命に変えても」

 作戦が決まると、メイ達は早速出入り口へと向かって歩き出した。
 ベルリオは剣を少し鞘から引き抜いて確認をし、フィーは体を少し大きくし、イーリルは魔道銃器と剣を携えて歩く。
 そんな彼等を「待って下さい」と言ってアミナは引き止めた。4人は黙って振り返った。心做しか、フィーだけは悲しそうな顔をしている気がした。

「――ご武運を……!」

 アミナは一言、それだけを言った。
 その言葉を聞いたメイはニヤリといつも通りの笑顔を浮かべた。

「へっ。……んなモンいらねぇよ」

 アミナの言葉にそれだけを返し、4人は部屋を後にし、それぞれの戦場へと向かっていった。

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