ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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お店経営編

第二章 118話『『元』究極メイド、感謝をする』

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「おい!!目覚めたってマジか!?――アミナ!!」

 ククルセイのテントの布が大きくめくられる。
 そう叫んだのはメイだった。
 普段は飄々としている彼女だったが、今だけは一段と必死で、呼びに行ったハズのケイを置き去りにしていた。

「なんと……!!片手に空気を掴み、それをわざと生成物に混ぜ込む事で片手による構築を可能にしていたのか!!だからあの鉄の剣も脆かったのだな!!」

「はい。直接の剣のぶつかり合いとかには向いてないんですけど、投げて飛ばす分には特に問題無いので。……実はこの方法を思いついたのは、ガレキオーラとの戦闘時なんです。その時も地面に穴を掘ったのですが、どうしてもそこに空気を送る必要があるんです。だから片手には空気を、もう片方の手は地面に付き、空気を入れ込んだトンネルを作ったんです」

「そんなに前から思いついていたのか!腕が飛んでも他の腕があれば使用できたり、見本があれば触れただけで模倣して構築できたりと、貴女のスキルには本当に驚かされるな!!」

「いやそんな事は……」

「なーんか、随分と楽しそうだなおい」

 2人の嬉々とした会話にメイが口を挟んだ。
 突然現れたメイに驚き、2人共テントの入口へと目をやった。

「あ、メイさん。おかえりなさい」

 アミナは焦りの汗をかきつつも、メイへ言葉をかける。
 それに対してメイは何か思う所があったのか、唇を噛んでアミナに近づき―――一発拳骨を食らわせた。

「いだぃ゙っ!!」

「おかえりなさいじゃねぇよ馬鹿野郎が!!こっちがどんだけ心配したと思ってんだ!!!」

「す、すみません……」

 アミナがメイに対して謝罪の言葉を言うと、もう一つ、アミナに小さな影が飛びついてきた。
 メイの後ろから飛び出してきた影は、アミナに飛びつくなり暖かい掌を頬に触れさせた。

「フィーちゃん……」

「みゃうみゃみゃ」

 フィーが何かを言う。
 メイが「通訳いるか?」と獣族の言葉を理解できないのに言ってくる。
 しかし、彼女がそう言うという事は、アミナにもフィーの言いたい事が何となく理解できていた。

「はい……ごめんなさい。もうしません」

 相変わらずふわふわでサラサラな毛並みに触れ、フィーを抱きしめた。
 普段なら嫌がるフィーだったが、今回だけはと優しいぬくもりをアミナに感じさせた。

「はぁ……はぁ……ちょっとぉ……。メイさんとフィーちゃん足速いんだからぁ……」

 ようやくメイとフィーに追いついたケイが大きな杖を持ったまま入ってきた。
 身の丈以上の杖など置いて行けばよかったのに、とその場にいた全員がそう思っていた。

「あーー喉乾いた……ちょっとお水貰うね」

 そう言ってケイは水の入った大きな樽の中へと頭を突っ込み、水を飲んだ。
 そしてそのまま死んだように動かなくなり、テント内に静けさが広がった。

「……ってケイさぁぁぁん!!!ちょっとメイさん!!引っ張り出して上げてください!!」

「やだ、めんどくさい」

「もーーっ!!」

 メイの変わりにフィーが服を咥えて持ち上げ、ケイを水樽の中から救出する。
 どうやら眠っているようで、幸せそうな笑顔をしていた。

「どうして水の中で寝るんでしょうか……」

「フフ、まぁケイは夜通しアミナさんのそばにいたからな。私とアミナさんが戦いを始めたのが戦争開始から丁度2時間程度、そこから十数分の戦いの後、ここへ運び込まれた訳だからな。治療が終わるまで数時間、そこから寝ず休まずで看病していたのだ。疲れていても仕方がない。……まぁ、行儀の悪さは直して欲しいがな」

 エルミナが困ったような表情で言う。
 ケイが疲れていたのは自身のせいだとも知らずにどうして、と言った事を恥じた。
 身勝手に暴れて勝手に倒れて治療されなければ危なかったというのにこの態度はあまりにも恥知らず過ぎた。
 アミナは眠っているケイに向かって礼を言う。
 
「ありがとうございます、ケイさん」

 そう言われ、ケイは寝ながらも「フヒッ」と小さく笑った。
 子供のような寝顔に、アミナは久しぶりの平穏と、少しの安心を感じていた。


―――


 しばらくして、再びテントの布がめくられた。
 テントの中に屈んで入ってきたのは、それなりの量の薪を抱えたギーラだった。
 鉄鉱平原を見て回っている最中出会ったククルセイの医療班から受け取った薪を抱え、彼等に変わって運搬をしていたのだ。

「おーい、戻ったぞ。アミナさんはどうなって………」

 顔を上げてテントの中の光景を見て唖然とする。
 
 まず視界に飛び込んできたのは、水樽に頭を突っ込んだまま微動だにしないケイ。
 まるで意識を水底に置き忘れたかのような静止っぷり。背中からは小さな泡がぷくぷくと浮かんでいる。
 窒息してないか心配になるが、ギーラの足はなぜか動かない。むしろ視線はその隣へと吸い寄せられる。

 アミナの頭の上には小さなフィーがちゃっかり鎮座しており、器用に前足でアミナの髪を押さえながら、ガジガジと地味な音を立てて頭を甘噛していた。それをアミナは完全にスルーして苦笑い。
 まるで「まぁ仕方ないよね」とでも思っているかのような納得顔。

 だが本当のやばいはここからだった。

 体全体に包帯を巻いているエルミナが「さぁメイさん!!ミイラ剣士エルミナに勝てるかな!!」と叫んでいる。
 それに対してメイは「うるせぇ!!ガキみてぇな事言ってねぇで離れろ!!」と引っ付いてくるエルミナを突き放そうとする。
 包帯まみれなのは怪我をしていたからだが、それにしても巻き過ぎなのにギーラは気が付き、きっと自分で無茶苦茶に巻いたんだろうなと思う。

「……もう少し外で時間潰すか」

 一瞬の無言の後、ギーラはそう呟いてテントから出ようとした。
 すると、「あぁ、ギーラさん。待って下さい、行かないで下さい」とアミナの声が聞こえた為、体の向きを戻した。

「ったく、あんた等何やってんだ」

 呆れたようにギーラが全員を正座させて問いかける。
 するとそれぞれが端的にツラツラと答えていった。

「喉が渇いて」
「説教されてて」
「暑苦しくて」
「みゃうみゃ」
「有り余った元気を発散したくて」

「全員ガキか!!フィーは何言ってるか分かんねぇけどよ!!」

 心底呆れたギーラは「はぁ」とため息をついた後、アミナに言葉をかける。

「……怪我、もういいのか?」

「はい、お陰様で。先程、治療班の方々がいらっしゃって、事情を話した所リヴァルハーブを分けて頂きました。……これで、カイドウさんを救える……」

 その言葉には、深く、静かな決意が宿っていた。もう迷いはなかった。
 手の中にある希望を、彼女は確かに信じていた。

 ギーラはほんの一瞬、目を細めた。どこか遠くを見るような瞳。呆れも怒りも、もはや彼の中にはなかった。ただ、長い戦いの末にようやく見つけた小さな安堵が、胸の奥を優しく撫でていく。

「……そうか」

 彼はそう言って、ほんのわずかに微笑んだ。アミナの傍に歩み寄ると、無言のまま、その肩に手を置いた。

 誰もがそれぞれの痛みを抱え、誰かのために動いている。
 そう思えた瞬間、アミナは心の奥でそっと何かが解けるのを感じた。

「皆さん。本当に――ありがとうございます」
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