149 / 288
お店経営編
第二章 118話『『元』究極メイド、感謝をする』
しおりを挟む「おい!!目覚めたってマジか!?――アミナ!!」
ククルセイのテントの布が大きくめくられる。
そう叫んだのはメイだった。
普段は飄々としている彼女だったが、今だけは一段と必死で、呼びに行ったハズのケイを置き去りにしていた。
「なんと……!!片手に空気を掴み、それをわざと生成物に混ぜ込む事で片手による構築を可能にしていたのか!!だからあの鉄の剣も脆かったのだな!!」
「はい。直接の剣のぶつかり合いとかには向いてないんですけど、投げて飛ばす分には特に問題無いので。……実はこの方法を思いついたのは、ガレキオーラとの戦闘時なんです。その時も地面に穴を掘ったのですが、どうしてもそこに空気を送る必要があるんです。だから片手には空気を、もう片方の手は地面に付き、空気を入れ込んだトンネルを作ったんです」
「そんなに前から思いついていたのか!腕が飛んでも他の腕があれば使用できたり、見本があれば触れただけで模倣して構築できたりと、貴女のスキルには本当に驚かされるな!!」
「いやそんな事は……」
「なーんか、随分と楽しそうだなおい」
2人の嬉々とした会話にメイが口を挟んだ。
突然現れたメイに驚き、2人共テントの入口へと目をやった。
「あ、メイさん。おかえりなさい」
アミナは焦りの汗をかきつつも、メイへ言葉をかける。
それに対してメイは何か思う所があったのか、唇を噛んでアミナに近づき―――一発拳骨を食らわせた。
「いだぃ゙っ!!」
「おかえりなさいじゃねぇよ馬鹿野郎が!!こっちがどんだけ心配したと思ってんだ!!!」
「す、すみません……」
アミナがメイに対して謝罪の言葉を言うと、もう一つ、アミナに小さな影が飛びついてきた。
メイの後ろから飛び出してきた影は、アミナに飛びつくなり暖かい掌を頬に触れさせた。
「フィーちゃん……」
「みゃうみゃみゃ」
フィーが何かを言う。
メイが「通訳いるか?」と獣族の言葉を理解できないのに言ってくる。
しかし、彼女がそう言うという事は、アミナにもフィーの言いたい事が何となく理解できていた。
「はい……ごめんなさい。もうしません」
相変わらずふわふわでサラサラな毛並みに触れ、フィーを抱きしめた。
普段なら嫌がるフィーだったが、今回だけはと優しいぬくもりをアミナに感じさせた。
「はぁ……はぁ……ちょっとぉ……。メイさんとフィーちゃん足速いんだからぁ……」
ようやくメイとフィーに追いついたケイが大きな杖を持ったまま入ってきた。
身の丈以上の杖など置いて行けばよかったのに、とその場にいた全員がそう思っていた。
「あーー喉乾いた……ちょっとお水貰うね」
そう言ってケイは水の入った大きな樽の中へと頭を突っ込み、水を飲んだ。
そしてそのまま死んだように動かなくなり、テント内に静けさが広がった。
「……ってケイさぁぁぁん!!!ちょっとメイさん!!引っ張り出して上げてください!!」
「やだ、めんどくさい」
「もーーっ!!」
メイの変わりにフィーが服を咥えて持ち上げ、ケイを水樽の中から救出する。
どうやら眠っているようで、幸せそうな笑顔をしていた。
「どうして水の中で寝るんでしょうか……」
「フフ、まぁケイは夜通しアミナさんのそばにいたからな。私とアミナさんが戦いを始めたのが戦争開始から丁度2時間程度、そこから十数分の戦いの後、ここへ運び込まれた訳だからな。治療が終わるまで数時間、そこから寝ず休まずで看病していたのだ。疲れていても仕方がない。……まぁ、行儀の悪さは直して欲しいがな」
エルミナが困ったような表情で言う。
ケイが疲れていたのは自身のせいだとも知らずにどうして、と言った事を恥じた。
身勝手に暴れて勝手に倒れて治療されなければ危なかったというのにこの態度はあまりにも恥知らず過ぎた。
アミナは眠っているケイに向かって礼を言う。
「ありがとうございます、ケイさん」
そう言われ、ケイは寝ながらも「フヒッ」と小さく笑った。
子供のような寝顔に、アミナは久しぶりの平穏と、少しの安心を感じていた。
―――
しばらくして、再びテントの布がめくられた。
テントの中に屈んで入ってきたのは、それなりの量の薪を抱えたギーラだった。
鉄鉱平原を見て回っている最中出会ったククルセイの医療班から受け取った薪を抱え、彼等に変わって運搬をしていたのだ。
「おーい、戻ったぞ。アミナさんはどうなって………」
顔を上げてテントの中の光景を見て唖然とする。
まず視界に飛び込んできたのは、水樽に頭を突っ込んだまま微動だにしないケイ。
まるで意識を水底に置き忘れたかのような静止っぷり。背中からは小さな泡がぷくぷくと浮かんでいる。
窒息してないか心配になるが、ギーラの足はなぜか動かない。むしろ視線はその隣へと吸い寄せられる。
アミナの頭の上には小さなフィーがちゃっかり鎮座しており、器用に前足でアミナの髪を押さえながら、ガジガジと地味な音を立てて頭を甘噛していた。それをアミナは完全にスルーして苦笑い。
まるで「まぁ仕方ないよね」とでも思っているかのような納得顔。
だが本当のやばいはここからだった。
体全体に包帯を巻いているエルミナが「さぁメイさん!!ミイラ剣士エルミナに勝てるかな!!」と叫んでいる。
それに対してメイは「うるせぇ!!ガキみてぇな事言ってねぇで離れろ!!」と引っ付いてくるエルミナを突き放そうとする。
包帯まみれなのは怪我をしていたからだが、それにしても巻き過ぎなのにギーラは気が付き、きっと自分で無茶苦茶に巻いたんだろうなと思う。
「……もう少し外で時間潰すか」
一瞬の無言の後、ギーラはそう呟いてテントから出ようとした。
すると、「あぁ、ギーラさん。待って下さい、行かないで下さい」とアミナの声が聞こえた為、体の向きを戻した。
「ったく、あんた等何やってんだ」
呆れたようにギーラが全員を正座させて問いかける。
するとそれぞれが端的にツラツラと答えていった。
「喉が渇いて」
「説教されてて」
「暑苦しくて」
「みゃうみゃ」
「有り余った元気を発散したくて」
「全員ガキか!!フィーは何言ってるか分かんねぇけどよ!!」
心底呆れたギーラは「はぁ」とため息をついた後、アミナに言葉をかける。
「……怪我、もういいのか?」
「はい、お陰様で。先程、治療班の方々がいらっしゃって、事情を話した所リヴァルハーブを分けて頂きました。……これで、カイドウさんを救える……」
その言葉には、深く、静かな決意が宿っていた。もう迷いはなかった。
手の中にある希望を、彼女は確かに信じていた。
ギーラはほんの一瞬、目を細めた。どこか遠くを見るような瞳。呆れも怒りも、もはや彼の中にはなかった。ただ、長い戦いの末にようやく見つけた小さな安堵が、胸の奥を優しく撫でていく。
「……そうか」
彼はそう言って、ほんのわずかに微笑んだ。アミナの傍に歩み寄ると、無言のまま、その肩に手を置いた。
誰もがそれぞれの痛みを抱え、誰かのために動いている。
そう思えた瞬間、アミナは心の奥でそっと何かが解けるのを感じた。
「皆さん。本当に――ありがとうございます」
20
あなたにおすすめの小説
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした
夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。
しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。
やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。
一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。
これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる