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雷鳴は思わぬ方角へ
第三章 63話『『元』究極メイド、お姫様と入れ替わる』
しおりを挟む「急いで急いで。騎士団の声がどんどん近づいてきた」
2人はお互いの服を交換し、着替えている。この後騎士団員にカイネに着替えたアミナが見つかり、王城へと戻る三段だ。
しかし今、意外にもアミナが、その着替えに手間取ってしまっている。不慣れな工程の多い服に苦戦している真っ最中だ。
「そうは言われましてもこの服……!キツくて中々……。お姫様ってやっぱり細かったんですね。……って、胸はどうしましょう!」
アミナはカイネが自身の服を着ているのを見てふと思った。それを聞いたカイネは「胸!?」と今そんな事気にするのかと驚いてアミナの胸部を見る。
そして自分とは違う貧相な体にちょっと気の毒そうな態度になった。
「そんなに違う………わね」
「流石にお姫様でもハッ倒しますよ」
こんな事を言っているが、かなりの大問題だ。胸の大きさなどすぐにバレてしまう。そうすればアミナが偽物として捕まる事となってしまう。これは誘拐と同義であり、どんなにアミナに有利に働いたとしても、死刑は免れられない。
「でも代わりになるようなものなんて、こんな路地裏にはどこにも……」
カイネは周囲を見回して呟く。
アミナも続いて周辺を見回すと、そこはなんとも形容し難い普通の路地裏だ。あるのは石ころやゴミ箱のみ。胸に入れられる物など無い。そう思われた時、アミナはおもむろにゴミ箱を漁り始めた。
「ちょっ!何やってるの?」
カイネの問いかけにも答えず黙々と漁る事数秒。アミナはゴミ箱の中から1つの物を取り出した。
「それは……ぬいぐるみ?」
アミナの手にはクマのぬいぐるみが握られており、所々綿が中から飛び出している。
「はい。王都の人口はとても多いです。そうなると子供の割合も多いでしょう。だから捨てられている子供用の衣類やおもちゃがあってもおかしくないと思いました。一かバチかでしたが、あって良かったです」
アミナはそう言って胸にぬいぐるみの中の綿を詰め始めた。綿を抜いている歳中は申し訳なさそうにし、アミナはカイネと同等程の胸部へとなった。
「さぁ、これで大丈夫です。お姫様は早く行ってください。このまま普通に路地を出るのは危険ですので、この壁を駆け上がって遠回りをして下さい。貴女のあの脚力なら、それが出来ます」
恐らくエルミナですら一瞬反応が遅れた程の走り。その脚力はアミナの想像を超えているだろう。
アミナも出来ない訳では無いが、壁を飛び移って駆け上がるなど基本的には出来ない。
だが一国の姫にはそれが出来る。驚きと憧憬が混ざっているのは言うまでもなかった。
「……うん。分かった」
カイネはそう言うと、路地裏の壁を交互に飛び移りながら高く上がっていき、建物の1番上へと辿り着いた。
やはり出来る。カイネの身体能力の高さは恐らく父親であるセディウス由来だろう。
エルミナ達に聞いた話では、セディウスは昔、前線に出ていた戦士だったらしい。その戦いぶりは凄まじく、それこそ一国を落とすとまで言われていた。
その逸話から、国王でありながら『国崩し』という通り名までついていたようだ。
「ちゃんと戻るからね。アミナ」
「はい。ですが、この数日間は私の事は忘れて思い切り楽しんで下さい」
大きく手を振り、影が見えなくなっていくカイネを見送る。
そして手を振るのをやめると、ちょうどいいタイミングでそこに騎士団員がやってきた。
「見つけましたぞ!カイネ様!さぁ、早く王城に帰りましょう」
騎士団員数人に囲まれ、アミナは振り返る。全員屈強な肉体をしている。逃げられない訳ではない。だが今は逃げる役割ではない。
振り返ったアミナは笑顔を作り、騎士団員達へと向けた。
「はい。申し訳ありませんでした。直ぐに戻りましょう」
普段とは違うカイネの対応に、騎士団員達は驚き、目を見開いていた。普段ならば駄々をこね、拗ねてしまい、笑顔など見せてはくれなかった。
しかし彼等の仕事はカイネを城に連れ帰る事。困惑しながらも一同はアミナの後ろを歩き、城への道を示した。
素直に従うアミナは路地裏を振り返ると、この数日間を自由にできるカイネの安全をただ祈っていた。
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