彼女と彼女の想いとぶれない僕の想い

金子真子

文字の大きさ
11 / 29

嘘っぽい物語

しおりを挟む
 今日は学校に早く着いた。というか一番乗りだった。流石に今日は猫がひかれるところを見ることはなかった。僕は教室に入り誰もいない教室というのを楽しみつつとある席に座る。僕の席だ。嘘だ。別の奴の席だ。僕の次に教室に入る奴の席だ。

 教室の扉がガラガラと開く。

「よう。佳華」

 僕はこの席の所有者に爽やかな挨拶する。いや爽やかではなかったな。

「あなた。なぜこんなところにいるの?」

 佳華は怪訝な表情でこちらを見る。

「ここの学校の生徒だからだよ」

「そうだったの?」

「知らなかったか?」

 佳華はたいそう驚いた表情でこちらを見ているが驚いているのはこっちだ。ん?なぜ佳華が次にここに来るかわかったかって。彼女はこの学校に来るのが一番早いからだ。有名な話だ。僕が特別彼女に詳しいわけではない。僕が一番手に来たならば次に来るのはいつも一番手の佳華になるというわけだ。

「あなた名前は?」

 昨日言ったはずだが聞いてなかったのか?いちいち失礼な女だ。

「鳴宮悠斗」

「鳴宮?あなた自体はそれほどかっこよくないくせに名字だけは無駄にかっこいいのね」

「それほどかっこよくないは余計だ」

 本当に余計だ。なんなら邪魔だ。

「じゃあとりあえずごみ宮君とでも呼びましょうか」

「無駄にかっこいいだけでごみ呼ばわりか?」

 確かに僕はゴミみたいな奴だがわざわざそれを名前にするのは失礼極まりない。

「当たり前でしょう。それよりごみ宮君。わざわざ一番に教室に着いてまでなぜ私の席に座っているの?変態なの?」

 佳華は酷く冷たい目でこちらを見る。こいつ口先の勝負で僕と戦うつもりか?いいだろう。クリークだ。

「お前は男に席を座られただけでそういうことを意識してしまうのか?意外とうぶなんだな」

「私はあなただから警戒しているのよ。ごみ山くん」

 名前の唯一あっていた部分を間違えやがったがそのことはあえて無視だ。

「それは僕を意識しているともとれるがな」

「そうよ。意識しているわ。危険人物としてだけどね」

 降参。敗北である。どうやら完璧美少女に唯一勝てそうな口先で負けたらしい。いや負けることにおいてはこの女に勝っているのではないか、と思ったがそれは負け惜しみだった。

「お前はあれだな。ポケモンで言うと毒タイプだな」

「あら、独タイプならあなたも同じでしょう?」

「ポケモンにそんなタイプはない」

 佳華真音という女は昨日のことを省くと今日が初めて面と向かって話すのにも関わらず生き生きと毒を吐いてくる女だった。

「まあなんだ。ちょっと言いたいことがあってな。昨日のことなんだが僕にしてみればあんなこと興味にすらなりえないことだ。要するにどうでもいいことだ。そして僕はどうでもいいことはすぐに忘れる。良かったな。お前の秘密は守られるぞ」

 そう言うと彼女は驚いていた。

「あなたってそんな目をしているのに割と気が利くのね」

 彼女は笑った。その儚げながらも凛とした笑顔を見て自分の目のことを卑下されているというのに不覚にもかわいいと思ってしまった。嘘だ。いやそれが嘘かもしれない。

「いやー。青春ってやつだねー」

 その声を発したのは僕でも佳華でもない。

「おっ、いい表情だ。お前はそんな表情でも絵になるな。佳華真音」

 声の主は教卓の上に座っていた。スーツ姿の中年の男で偉そうに足を組んでいる。

「知り合いか?」

 少なくとも学校の職員にこんな奴はいないだろう。だとしたら佳華の、不思議な力関連の、知り合いなのだろうというよみだが

「違うわ」

外れたらしい。こんな奴が将来探偵になっていいのか。

「あなた誰?」

 佳華は男に問う。

「俺か?俺の名は神ノ原神。崇めよ、奉れ。俺様は神様だ」

 は?こいつは何を言っているんだ。神だかごみだか知らないが通報した方がよさそうだ。

「ごみはお前だろ?ごみ宮悠斗」

 ん?今の声に出てたか?

「俺は神だぜ。全知全能だ。人の心ぐらい読める。だが今の登場は無粋だったな。反省しよう。お前らは今だけしかできない初々しい会話を続けろ。あと小野坂圭吾(おのさかけいご)という男には気をつけろよ。じゃあな」

 と、言い残して神を名のる謎の男は窓から飛び降りた。ん?おい何やってんだ。急いで窓の下を見るとそこには飛び降りたはずの男の姿はなかった。下ではなく上にいた。自称神様は空を飛んでいた。駄目だ。よく分からん。

「何だったんだ?」

「さあ、分からないわ」

 彼女は少し不安そうに言った。

「なんだったら今日一緒に帰るか?」

「なにそれ気持ち悪い」

「それはないだろう」

「そうね。今日は特別に私と共に帰ることを許可するわ」

 猫を生き返らせることができる毒舌女に、空を歩き人の心を読める自称神、か。ただでさえ噓っぽい僕の物語がさらに嘘っぽくなってしまうな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...