彼女と彼女の想いとぶれない僕の想い

金子真子

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出会いその2

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 佳華と一緒に帰ることになったが彼女はボランティア部があるらしく僕はそれが終わるまで暇になった。まあいつも暇なんだが。

 これはそんな暇人が校舎内を目的もなくぶらぶらしていた時のことだ。

「いた。いた。先輩」

 後ろから声をかけられた。振り返ってみるとそこには薄い金髪ショートの色白な女がいた。そうあの女だ。

「先輩とは僕のことを指しているのか?」

「はい。私雨嶋佳那っていいます」

「そうか。僕は――」

「ちょっと待ってください」

 は?

「私全生徒の名前を暗記しているので今から言い当てます」

 ほう。クラスの奴は知らないであろう僕の名前を知っているというのか。やるな。と思ったが存外苦戦しているようだった。

「中島さんですか?」

 僕は磯野の友達か?

「そうだ。僕は中島だ。中島弘だ」

 嘘だ。ちなみに弘は中島くんの下の名前だ。

「本当ですか?実は先輩の名前だけ思い出せなくて当てずっぽうだったんですけど、当たっていて良かったです」

 思い出せなかった?最初から覚えていなかったの間違えじゃないか?

「それは良かったな。それじゃあ」

 と彼女の元を去る。

「ちょっと待ってくださいよ。私明らかに先輩に用がある感じで話しかけましたよね。去って行くの酷くないですか?」

 やれやれ。鬱陶しいから話しかけるなという意思表示がこいつには伝わらないのか?

「そうだったかな。で、用って何だ?空き地で野球でもするのか?」

「実は私にもあるんです。不思議な力が」

 不思議な力って佳華や神ノ原が使って見せたあれか?僕が知らないだけで不思議な力を使えるものは結構いるのかもしれない。





 あれから雨嶋が延命しているという化学部に行くことになった。部員は彼女一人だ。

「お前化学が好きなのか?」

「いいえ。嫌いです。でもこの学校って強制的に部活動に入らなきゃいけないですか」

 そうだったな。雨嶋に言われて思い出した。

「じゃあ何で数ある部活の中からこの部活を選んだんだ?部員がお前一人なら延命するのも大変だろう?」

「大変ですよ。おかげで文化部なのに毎日活動してますしね。でもここってこの学校で一番高い四階じゃないですか?好きなんです。高いところから人を見下ろすのが」

 性格の悪い奴だ。こいつが王様にでもなったら独裁政治でも始めそうだ。

「中島先輩は何の部活に入っているんですか?」

「剣道部だ」

「え?剣道部って今も練習してますけど行かなくていいんですか?」

「ああ。僕は幽霊部員だからな」

「え?」

 そう。この学校の校則には割と穴がある。部活には強制的に入れとは言っているが毎日行けとは言っていない。所属するのは強制だが参加するかは自由だ。

「それで何も言われないんですか?」

「それがな。この学校幽霊部員対策として文化部の方は結構厳しかったりするんだが運動部の方は割とゆるゆるなんだ。それでも剣道部の奴には色々と言われたぜ。けどその時は面倒だから相手しないでおいたよ」

「剣道部だけにですか?」

「ああ。剣道部だけに。で、雨嶋。お前にも不思議な力があるのか?」

 適当なシャレをかましたところで本題に切り込んだ。

「はい。昨日佳華先輩が猫を生き返らせていたところを見たんですよ。その場に先輩もいたのでこの力に何か関係があるのだろうと思い相談しました」

 どうして佳華の方ではなく僕の方に来た?と思ったがなんというかあいつは怖い。ツンツンしている。あいつは僕のことを独タイプだと言ったがあいつもあいつで独タイプだ。人のことは言えない。そのツンツンした先輩よりも、影がうすうすとした先輩の方つまり僕の方が話しかけやすかったのかもしれないな、と想像できたので納得できた。

「悪いな。僕はその不思議な力とやらにはなんの関係もない。ただ目撃したというだけだ」

 僕にしては珍しく素直に本当のことを言った。ガチャで星5当たるぐらいレアだぞ。これは。

「そうだったんですね」

 雨嶋は残念そうに言った。こいつも不思議な力とやらずっと悩まされていたのだろうか。どうでもいいことだが何か力があるのも面倒なことなのだろうかと考えた。

「僕は、そんな変な力の存在を昨日知ったばかりだ。だが知らない奴よりかはお前の話に乗れるかもしれない。もしお前がいいと言うなら愚痴ぐらいは聞いてやってもいいぜ」

 僕がそう言うと

「はい。是非」

と雨嶋は笑顔で答えた。

「この部活昼にも活動しているのでぜひ来てください」

「ああ。分かった。じゃあ今日はこの辺で帰らせてもらうぞ」

 ふと時計を見ると佳華の部活が終わる時間帯だった。

「はい。ではまた明日」
 
「おう。じゃあな」

 また明日、か。明日もここへ来るのが前提か。まあ僕から言い出したことだし後輩の悩みを聞いてやることにしよう。それより時間がまずい。長居しすぎた。あいつ、少しでも遅れたら「殺すわよ」とか言いそうだ。早くいかなければ。あっ、でも大事なことを言い忘れた。

「雨嶋。僕は中島じゃない。鳴宮だ。鳴宮悠斗。忘れんなよ」
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