カラダで熱を確かめて

タマ鳥

文字の大きさ
上 下
28 / 29

番外夜3(坂本side)

しおりを挟む
高校まで、学校で1番モテているのは俺だという自負があった。スポーツもできて頭も良い。オマケに生徒会長にまでなれちゃう。彼女が出来ても、告白されることもあった。


大学に行ったら、ミスターなんてものにも出ちゃおうかななんて、そんな野望も持っていた。しかし、本当にかっこいい人は、ミスターなんてものに出なくてもモテるのだ。



という名前は、大学に入学してからよく聞いた。大学1年の春は、まだゼミなんてものが本格的に始まる訳では無いので、色々な学部の奴らが一年のうちに必要な単位を取るためにジャンルの垣根もなく授業を選ぶ。



その時に、女の子たちの間でかっこいい人がいるという噂が飛び交い、その噂の的が黒田薫と言うらしい。




「ねぇねぇ隆太、今年話題の1年君ってどんな子なの?」



大学に入り、速攻でテニサーという名の飲みサーに入った俺は、5月の新歓コンパにて2年の先輩からそんな質問をされた。



正直俺は噂しか聞いておらず、授業でも男友達と騒ぐのに夢中で黒田薫になんて会ったこともない。だから女の先輩に聞かれたって



「俺男なんで、女の子の噂の的の男の子になんて興味無いっすよ~。」


と笑って誤魔化すしかない。



「ほらほら、せっかくなんで俺じゃなくて女の子の1年に聞いてくださいっす!きっといい答え聞けますよ!!」



そう言って、その女の先輩を追い返した。女の子は好きだ。でも、俺を1番に思ってくれる子限定だけど。



1年生の夏休みは、友達と旅行に行ったりサークルの男女でお揃いのコーデをしながらテーマパークに行ったりとめちゃくちゃ盛り上がった。



夏休みだから、黒田薫の名前は聞かないし、渋谷に飲みに行けば俺の顔に釣られる女が沢山声を掛けてきたので、やっぱり俺は天狗になっていた。



そして、夏休みが終わり、後期が始まる10月、事件は起きたのだ。





後期から始まるゼミで、まさかいるとは思わなかった。黒田薫を初めて見た時の印象は、イケメンと言うよりは、美しいだった。筋の通った鼻に、まつ毛がびっしりと生えた二重の目。それに分厚い唇。顔のパーツ全てが色気を纏っている。



…こりゃあ話題になるわ。俺は敢えて黒田薫の席の近くに行く。それから

 

「おっ!お前めっちゃ有名だよな。顔がいいって俺の周りの女の子が騒いでるよ。」


どかっと隣の席に座り、黒田薫に声をかけた。



「…ども。」



返された言葉は、妙に色気のある低音ボイスで2文字だけ。それから、ゼミの度に俺が一方的に話してるだけの図。でも不思議なことに、薫は俺を追い返そうとはしない。ただ黙って、俺の事を受け入れてくれているのだけは分かった。



こうして薫と接することが増えてきた俺。将来目指すところも、俺も薫も総合職を希望していたこともあり、必要な情報を交換するためにLINEまで貰った。


普通、LINEのアイコンってこんなにイケメンなら自撮りにしてもいいはずなのに、薫のLINEのアイコンは何故かカレー。聞けば、この前食べに行ったからとだけ返ってきた。



それから、俺が薫とよく話しているということが1部の女子たちの間で話題になったのか



「薫くんを紹介して?」


「薫くんに振られて連絡取れないから隆太からも掛け合ってくれない?」



このふたつがよく俺のところに舞い込んでくることになった。



「なぁ薫。また元カノのLINEブロックしたべ?俺ん所に来てんだけど。話したいってさ。」



薫と出会って1年と半年。3年生の頃には俺は薫のこうした女にだらしないところを受け入れるようになっていた。それに、薫のLINEのアイコンも今度はどこかのナポリタンに変わっていた。こいつは半年に1回だけ何故か食べ物のアイコンに変えるのだ。



「別に別れたんだからこれ以上何も話すことないんだけど。」



薫は冷たくそう言い放つと、最近始まった公務員を目指す人たちの講座の準備をし始めた。



「いやいや、俺ん所にめっちゃきてんのよ。薫くんにちょっと酷いこと言ったら別れ告げられたから話して謝りたいって子もいるよ?」



「でも初めに別れたいって言ったのはそっちなはずだよ。今更復縁とかありえないし、坂本にわざわざ行くのも意味わかんない。ほら、そんなことより坂本も準備しなよ。」



女の子には申し訳ないけど、俺の方が彼女より大切にしてもらっている気がする。こんな風に俺のことを心配してくれるのも、1年半ずっと薫に付きまとった結果なのかもしれない。



でもさ、俺のようにしつこいやつの方が珍しいわけで、女の子なんかこんなふうに冷たい態度ばかり取られてしまったら、そりゃあめそめそしちゃうのが当たり前じゃない?


「お前って誰とでも付き合うくせに、誰にも心を許さないよな。」


薫にそんなことを言うと、薫は少し憂いを帯びた顔で、「…そうかもな。」と言った。



「嘘嘘!!!俺は思ってるぜ?薫は俺には心開いてくれてるってさ!!!」



「ウザ。キモい。」


「ひでぇそんな事言うなよ!!」


それからギュッと薫の背中に抱きつく。薫は俺の事を必死で剥がそうとしてきたので、俺も負けじと力を込めた。







薫も俺も、大学3年から大学4年にかけてはとにかく総合職の勉強で追われていた。有難いことに俺たちは見事現役合格し、同じ職場に務めることになった。



薫は働き始めてからは忙しいからか大学の頃のように女を取っかえ引っ変えすることはなくなった。


でも何を考えているのかは相変わらず。俺たちの業界は3年目になると転勤が付き物になる。



「俺、県外行きたい。」



2年目の1月。初めて薫の弱音を聞いた。なんで?と聞くと、ぼーっとしたように、「なんかもういろいろと耐えられない」と述べた。初めは仕事の忙しさなのかと思ったが、仕事面では俺より全然スマートに片付けてるし、薫を見るに、仕事ではなくプライベートの方面のようだった。



「何かあったのか?」



今なら、薫の奥に踏み込めるかもしれない。俺は詳しく聞こうと薫に訪ねるが、薫はハッと意識を戻し、「あ、ごめん何でもない。」とだけしか返してくれなかった。あの弱音は無意識に心の底から出た本心のようだった。


そういや大学の頃に、薫のLINEのアイコンがプリンに変わったから当時付き合っていた薫の彼女にに「薫とプリン食べに行ったの?」と聞いたらデートなんか行ってないと言われたことがある。


意味深に半年に1度変わる食事のアイコンに、彼女に愛を与えない姿勢。それから今転勤したいという弱音。もしかしてこいつ、叶わない相手にでも恋してんのか?



「お前、不倫はおすすめしないぞ?」



俺は至極真面目な顔で薫に忠告すると、先程までの弱々しい顔から一変、馬鹿にした顔で



「するか馬鹿。」


と笑った。


結局俺は埼玉に、薫は金融庁に転勤になり、俺らの距離が離れることは無かった。


5年目の4月、ようやく転勤期間が終わり、また薫と同じ職場に戻る。薫は相変わらず、俺以外の奴とはつるまず、俺は相変わらず職場の女の子に薫の事を聞かれる2番手ポジション。


大学の薫のことなど知らず



「黒田係長って今彼女募集してるんですかね?」


「告白しても大丈夫ですか?」


なんて俺に聞いてくる職員の女の子たち皆に、薫はやめとけと言いたい。声を大にして言いたい。でも、恋する乙女は可愛いし、俺に邪魔する権利なんてないから、残念なことに俺は彼女達の背中を押すことしか出来ない。



しかし、3月下旬頃から女の子たちの質問が「黒田係長って彼女できましたか?」に変わった。その頃の俺は忙しさで自分のことしか見えていなかったが、よくよく考えれば薫と昼を食べていると、たまにスマホを見ては穏やかな顔で笑ったり、時たまぽ~っと気の抜けた顔を見せるようになっていた。



「なぁ薫。お前彼女できたべ。」


昼下がり、俺は薫にそう聞くと、「あーうん。出来たけどなんかある?」と答えが返ってくる。



「やっぱりな~。事務の子達から『黒田さんが最近幸せオーラ纏ってるんですけど彼女でも出来たんですか聞いといてください~』って言われてたんだよ。確かにお前最近うぜえくらいお花畑だからな。ま、それでも残業が当たり前で可哀想だなって思ってんだけどな!」


ぷぷぷっと笑うと、薫は照れたようにうっせえと俺を肘で小突いた。



「で、今度の彼女も可愛いの?てか、お前も成長したんだな。今まで彼女が出来てもこんなふうに浮かれたところなんて見せなかったのに。ようやく愛するという心を手に入れたんだな!」



大学の頃の、あの女に対して冷めたような態度の薫しか知らなかったので、俺は、こうして彼女が出来て浮かれるような薫を初めて見た。



「で、彼女の写真とかないの?ってあるわけねえか。お前そういうの残さないタイプだもんな。」


でも流石に彼女の写真なんか見せるタイプでは無いと思ったので、少しだけ攻めた質問をすると、



「ん。あるよ。これ彼女。」



なんと薫は自分のスマホから、写真をタップし俺に見せてきたのだ。俺はびっくりして思わずコーヒーを吹き出してしまった。



「えっ!?まじかよお前そういうの残さないタイプじゃん!!!やっぱり変わった!!!ってかめっちゃ癒し系?すごい可愛いな。」


写真に写る薫の彼女は、ぱっちりとした二重に小さな唇、全体的に白い肌とどこかのアイドルグループに所属してそうな顔だ。なので素直に褒めると




「坂本、俺のだからダメ。」


…天変地異か。あの、薫がだと言ったのだ。どんな女の子に対しても、あっさりと別れてきた薫がだ。



「束縛!?まじそんなこと言うタイプだっけ!めっちゃ溺愛してんじゃん!!!てかそんな可愛い子とどこで出会えたのさ。俺にも恵んでくれよ~。」



「今の彼女は小一からの幼なじみだから、昔から知ってた。」


その時、何故かふと何かが繋がった。もしかしたら、LINEのアイコンのお出かけしていた相手は、転勤したいと弱音を吐くほど思っていた子は、不倫とかではなく、この幼なじみの子なのかもしれない?俺の中でひとつの疑念が生まれる。



「へぇ。良かったな、薫。」


思わず素で、俺は薫に良かったなと言う。



「うん。今すっごい幸せ。」


薫も本当に幸せそうに答えるものだから、こっちまで嬉しくなった。


「里村ちゃん、薫の彼女を生で見たって回ってきたんだけど~。俺だって写真でしか見た事ないのに!俺も会いたい!!!薫の彼女に会いたい~!!!!」


とある日、新入社員の里村さんが薫の彼女に会ったという噂が職場内を駆け巡った。俺ですら会ったことは無いのにと薫に無茶を承知で頼み込む。


「坂本だけは絶対嫌。だって絶対俺の彼女と気が合うし、口説こうとする。それに俺のあることないこと吹き込んでくるじゃん。」



…俺にどんな印象を抱いてるんだよ。別に薫がこんなに好きになってる子を俺が口説くわけが無い。



「別に薫と仲悪くなんかなりたくないから口説かねえっつの。それよりも俺は、あの薫がベタ惚れしてる彼女に、この人でなしを人間にしてくれてありがとうって感謝をせねば。」




「…分かったよ。でも俺たちの仕事上金曜日か土曜日だからな。空いてる日連絡してくれれば梓に聞いておくよ。」


薫は、渋々承諾する。俺はすぐさま薫の手帳を勝手に開き、空いてる日にマークをつけた。



俺と薫の彼女の都合のつく日は、俺が頼み込んでからすぐの土曜日だった。


「おっ、ここが薫と彼女の愛の巣?」


最寄り駅から徒歩5分以内。セキュリティのしっかりした賃貸マンションが薫たちの家のようだ。


「うるさい。茶化すようなら帰らせるよ。」


「茶化してねえって。おじゃましまーす。」



それから勝手にドアを開ける。すると小動物のような女の子がパタパタと駆けつけ、俺を出迎えてくれた。



「どうぞいらっしゃいませ~。」


それにしても随分と可愛らしい子だな。ノースリーブニットにフレアスカートを履き、ポニーテールにしている薫の彼女を見ていると、本当に家にアイドルがいるような感覚になる。肝心の薫はどんな顔をしているのか拝んでやろうと、ちらりと薫の方を見ると、



「薫、なんでお前の顔がにやけてんだよ。めっちゃ珍しい顔見せやがって。」


「…うっせ。」


本当に彼女が好きだと分かる。口元を手で隠し誤魔化そうとしているものの、指の隙間から幸せそうに顔を緩めた薫がいた。




「初めまして。薫と付き合ってる三森梓と言います。」



「はじめまして~。話は聞いてるよん。薫とは同僚で大学の頃に知り合った坂本隆太と言います。よろしくね梓ちゃん。」



彼女の名前は梓と言った。本当、顔に負けず可愛らしい名前だ。それから家の中に入り、梓ちゃんとお話をする。薫と同じ、無口な子かとも思っていたが、梓ちゃんは全然そんな子ではなく、むしろ俺のノリに近い方だと感じる。…そういや薫もそんなこと言ってたな。なーんてキャッキャと2人で会話をしていると、ローテーブルの上に、どかっと湯のみが置かれた。すっと置いた手を見ると、やっぱり珍しい。今度はまたもや見た事もない拗ねた顔をしているのだ。


「薫ごめんね?」

と、気を使って謝る梓ちゃん。

「薫くんありがと!気が利くじゃん!」


でも俺は面白くって薫をからかう。


「梓、こいつばっかじゃなくて俺にも構ってよ。」


そうすると薫は俺の方ではなく、梓ちゃんの方に行き、俺にも構ってと甘えたモードに入ったのだ。



「えっ、お前そういうキャラだっけ?なんかいっつも俺たちとは違う世界のオーラ出してたじゃん!」


やっぱりこんな薫は珍しい。思わず俺の方がツッコミを入れると、



「もしかして大学の時もそうだったの?高校の時もさ、薫人と関わろうとしないから女の子たちの間で孤高の君って呼ばれて崇められてたんだよ!」


ふむ……どうやらこの甘えたモードは梓ちゃん限定のようだ。それにしても



「何それ!!孤高の君www。ただのコミュ障なだけなのになwwwww。」



誰ともつるまない薫に対して当時の女子高生が着けたあだ名があまりにも面白くて爆笑してしまった。それにしても君ってwww。今の世の中平安時代じゃあるまいしそんなあだ名つけられてる高校生なんて薫くらいだろう。



「だからさ、坂本だけだったな。俺にグイグイ食らいついてきてくれんの。大学はゼミとかあったから地味に坂本がいてくれて助かってた部分もあるよ。」


 
 笑っていたら、薫の口から突然俺に関することが語られる。そっか、薫は俺の事こんなふうに思ってくれてたんだな。


照れてしまいそうだが、照れたら逆に薫に馬鹿にされそうだから、俺は照れ隠しの意味も込めて薫にされたことを梓ちゃんに言う。梓ちゃんは友達にそんな言葉言っちゃダメだよと薫を叱ると、やはり珍しく薫はしゅんとするのだ。


「私は高校までの薫しか知らなかったんだけど、大学の頃ってどういう感じだったの?」


今度は梓ちゃんから質問が来る。


「あーこいつほとんど人と絡もうとしなかったな。俺だって同じところ目指してて一緒に勉強とか教えてもらったりして友達になってるって感じ。LINEとかも他の子とかには教えてないじゃん。そのせいで俺に全部来んの。」



女の子に向ける冷酷な態度の薫を思い返しては、それを梓ちゃんに伝えると、


「あら。それは大変だったねえ。」

なんて、のほほんとした答えが返ってきた。


「そう!しかも彼女の前で言うのもあれなんだけど、付き合う子にはLINE教えるのに別れるとブロック。だから元カノからの恨みの言葉は全部俺行き。しかも一、二ヶ月でポイが定番だからもー大変。梓ちゃん、こいつと別れないでやって?珍しく梓ちゃんとは長く続いてるから。」


思わず過去の薫の愚痴を梓ちゃんにしてから、別れないでやってねと念を押すと、「絶対手放さないようにしますね。」と力強い返答をくれた。



「それよりも梓ちゃんは薫のどこが好きなの?こいつ顔以外は本当に最悪じゃない?」


向かいに座る薫が、俺たちの会話をずっとソワソワして聞いているので、思わずぶっ込んだ質問をする。



「ほら、薫も気にしてるじゃーん。」


「…うるさい。」



梓ちゃんはは顎に手を置き、うーんと考える。それから


「そうだなぁ。顔も好きだけど、性格はそこまで最悪ではないかな?好きなところは沢山あるけどとりあえず、薫は分かりやすく愛を伝えてきてくれるよね。それに、見えないところでも細やかな気遣いしてくれるし!日常の一つ一つで毎日愛情を与えてくれるところが1番好き。」


どうやら梓ちゃんは俺の知らない薫をよく知っているらしい。付き合ってきた女の子たちは、「薫くんに愛されてる自信が無い。」「薫くんに内緒で愛を試すために浮気をしたら振られた。」などそんな相談ばっかりだったから。こうして愛情を感じるなんて言う子に初めて出会った。



「へぇ~。こいつに優しさなんてあるんだ。」



「うん、あるよ。恥ずかしい話なんだけど、日常生活で薫の方が忙しいはずなのに、私毎日甘やかされてばっかり。そろそろ私もなにか返せればと思ってるんだけどね。でも私ね、薫は坂本くんのことも大切に思ってると思うよ?だって、連絡先を教えてくれて、こうして休日に会ってくれるんでしょ?付き合って見てわかるけど薫って誰かと関わっていくことをしなくても生きて行けちゃうから、私たちは幸せ者だね!」


梓ちゃんに幸せ者だねなんて言われると、本当にこっちも幸せ者のように感じる。でも、薫の愛は、実は俺にも向けられていたことにここで改めて気付かされた。




「えへっ!俺もそう思う!厳しいこと言うけどなんやかんやで溺愛の彼女にも会わせてくれるしさ!きっと信用してくれてんだろうな。」



「坂本のことは昔から色々お世話になってるからな。昔から、俺のだらしない所をフォローしてもらってるし。本当にありがとう。」



「なんだよ薫、急にデレ期か?



少しだけ照れた薫をいじると、恥ずかしさからか、昼ご飯をご馳走すると言って台所へと向かっていった。梓ちゃんもはじめ、薫の後をひょこひょことついて行ったのだが、すぐさま俺のところに戻ってきた。本当、子どもみたいな子だな。せっかくなので俺は自分が抱いていた疑問を梓ちゃんにぶつけてみることにした。




「ねぇ梓ちゃん。薫が半年に1度のペースでLINEのアイコン変えるじゃん?あれって梓ちゃんとなにか関係があったりする?」



梓ちゃんはそこには注目していなかったのか、すぐさまスマホを開き、確認する。



「あぁ。これは京都に行った時に食べた昆布締めの写真だね。確かに薫のアイコン食べ物系多いかも!!」


うーん、聞きたいこととイマイチズレるかも。もっと直接聞こうかな、そう意気込んだ時だった。



「確かに、その前のメロンソーダも薫と遊びに行った時に飲んだやつかも。あ!その前のプリンもそうじゃん!!」



梓ちゃんも気になったのか、何かを確認し、思い出すようにアイコンの真相を語ってくれた。俺の疑念はビンゴで、やっぱり薫は梓ちゃんの事がずっと昔から好きなようだ。



「ねぇ梓ちゃん。薫は梓ちゃんのことすっごく好きなんだね。」


「えっ?LINEのアイコンでそんなこと分かるの!?」



ニコッと笑い、梓ちゃんに言うと、梓ちゃんは驚いたように俺を見る。



「そーそー、俺、超能力者だから。」


「えーなんか胡散臭い~。」


「あははっ、ふっつーに嘘だから!でもさ俺、大学生活では薫とずっとつるんでたから、薫の元カノとかに話しかけられることが多いの。で、その時に薫のLINEのアイコンが変わって思わず口を滑らせちゃったんだよね。プリン屋さん行ってきたんだって。その当時薫のアイコンがプリンに変わってたからついデートで行ったのかなとか思ったわけですよ。」



「あ、もしかしてそれってこの時かも!!私、薫に付き合ってもらって神保町の喫茶店のプリン食べに行ったんだよね。そしたらそれがアイコンになってたことあった!!」



「やっぱり梓ちゃんだったかぁ~。俺そん時当時の元カノにすげえ当られたんだよ。あんたのせいで浮気疑ったら別れたじゃんって。だから俺、ずっと薫不倫でもしてんのかなとか思ってたわ。」


梓ちゃんは、何故かその話を深刻そうに聞き、それは坂本くんに申し訳ないことしてしまったねなんで謝る。「本当なら謝るべきなのは薫さん本人なんですけどね。」なんて嫌味たらしく大きな声で言ったら、台所からごめんなさい!なんて大きな声で薫からも謝罪の言葉が飛んできた。



それから薫の作ってくれたランチメニューを3人でつつきながらお開きになる。



「その、本当に今まで色々ごめん。それと、気付いたと思うけど俺大学入ってからもずっと梓のことが好きで、梓が好きなタイプの男になろうとしてずっと最低なことばっかり繰り返してた。だから坂本にもたくさん迷惑かけてた。本当ごめんな。」


アパートから出る時、薫が先程俺が梓ちゃんにしていた会話を気にしてか、頭を下げてきた。別に俺は気にしていないのだが、薫からすれば本当に申し訳ないと思っているのだろう。当時に比べれば随分と丸くなったものだ。



「俺は別に気にしてねえよ。でも、あれは大学生の暇な時だったから良かったけど、今忙しくなった時にそんなことされちゃあ俺はもう手に負えないから、本当に好きな子なら絶対手放すんじゃねえよ?」


それはつまり、梓ちゃんとずっと幸せになれよという俺からのメッセージ。薫はそれを受け取って



「絶対に別れない。」



なんて、先程帰り際に見た梓ちゃんと同じような穏やかな笑顔で笑った。愛し合うもの同士は表情や顔つきが似てくると言うが、もしかして最近の薫は梓ちゃんに似てきたのかもしれない。


羨ましいぜ!なんて捨て台詞を吐いて、俺は電車に乗り込んだ。




それから結局一年後には結婚までして、梓ちゃんのお腹には子どももいるとお手紙を頂いた。
薫は今、幸せの絶頂らしく、送られてきた写真の中にはすっかり同じ雰囲気になった幸せそうな夫婦の姿。

あーあ、俺にも顔が似てくるくらい愛し合える恋人が欲しいものだ。
なーんて、その手紙を読みながら思ったりして。


~fin~


しおりを挟む

処理中です...