56 / 71
6.決戦の刻
1.柔よく剛を制すー彗星ー
しおりを挟む
氷の一部が欠落してしまうと、邪の女は勢いを増して氷を割り始める。
彗さんはその度に、落ちてくる破片を鎖で正確に跳ね飛ばしていく。
ボクの心は焦っていたけど、吾川さんはそれでもゆったりとした口調で話しを続けた。
「つまり、俺はこんな事ができるってコト、見てて――”鑑定・白井 彗”」
ふわんと蛍光グリーンの光が蛍の明かりのように彗さんを包む。
その光が、左手の辺りに凝縮されて輝きを増し、しばらくしてから消え失せた。
「そこにあったか!行くよ、彗くん――Refine・Onyx!!」
今度は悟さんの声と共に放たれた銀の弾丸のような波動が鎖を巻き付けた彗さんの左手の甲に貫通する。
反動で跳ねるように手が動き、鎖も消え失せる。
左手を抑えて、ガクッと崩れた彗さん。
「何があった!?」
状況が分からない薫さんが心配そうに駆け寄る。
「大丈夫だよ、薫。でも危ないから離れてて!」
吾川さんが声を飛ばして、薫さんは一瞬ためらったが、後ろに飛び退く。
更に2、3歩後退って距離を開けた。
それを確認した吾川さんは優しく起こすような声で、彗さんへ話しかける。
「だよね、彗?さあ、思った通り暴れてごらん」
「――うん、問題ない…そうか、この力ってこうやって使うこともできるんだ」
ゆらっと立ち上がった彗さんは、ヘラっと笑って、両手を天に高く挙げた。
「さて、反撃の時間だ――新たに生まれておいで、超新星…飛来せよ――彗星!」
赤黒い空に、銀色の筋が一つ、二つ…尾を引いて現れる。
やがて無数の彗星が、正確に邪の女に向かって落ちてくる。
――ガガガガガガッッ!!
幾度となく落石に打たれて、侑李の張った氷はすべて砕かれてしまったが、連撃は確実に邪の女に効いたようだ。
――ギシャアアァァッ!?
苦しそうな叫び声をあげて、体勢を崩し、ズシャァアと地面に倒れ込む。
「まだまだ足りないな…さあ生まれておいで、生命の息吹!拘束せよ、蔦鎖!」
今度は地面に向けた手を緩くカーブさせながら持ち上げる。ダンスでも踊っているようなしなやかな腕の動きに合わせ、濃い緑の蔦草がスルスルと伸びあがる。
そして手を邪の女に向けて放つと、しなやかな蔦が鋭く動いてその体躯を押さえた。
――グギギッ!?グギャアァッ!!
怒りに任せて引きちぎろうと邪の女は身をよじっている様子だけど、蔦は切れることなく更に強く拘束をする。
「おお、すげえ!全然魔力消費してる感じがしない」
彗さんは自分の手を見下ろして、珍しく興奮気味に声を発した。
吾川さんが「ナイスー!」とその肩をポンと叩いて、にっこりと微笑んでいる。
「じゃあ、彗が抑えてくれている間に事情説明をさっくり終わらせちゃおうかな」
咲夜さんは邪の女の様子を見て、大丈夫そうだと判断したようだ。
まだ取り残されたままの薫さんと侑李さんの方を向いて話し始める。
「どこまで話したっけ?ああ、そうだ…3つの役割について話してたんだよね。今ようやく3つ目が進行中ってのは見ての通り」
そういって、覚醒を果たした吾川さんと彗さんの方に手を向けて示す。
「それで…”なぜ魔術師への変化が必要なのか”だけど。今、邪の女がこんな事になっているでしょう?夜烏がこういう事が起こると予見してて、そうなった時にオレたちが負けてしまわないために必要だったから」
「前に言ってた”人の命が多く奪われる、そんな未来が来るかもしれない”ってこの事やったん?」
悟さんは心当たりがあったようで、「これかー」とこの光景を改めて見回している。
「そう、邪の女が強欲なのか…”収奪”の性質が奪う事だからか、どこまでもアレは奪い続ける。魔力に限らず無数の命をもね。良かったよ、ギリギリのところで対抗策になりうる”魔術師”への覚醒方法が分かったんだから」
夜烏は失ってしまったけどね、とつぶやく咲夜さんの瞳が憂いを帯びて揺れた。
「待った、もっと早く教えてくれても良かったよね?特に、邪の女がこうなること」
「言えなかったんだよ、薫には」
異を唱える薫さんに、今度は侑李さんが声を発した。
「なんでだよ?」
「この状況は、本当なら薫の闇堕ちが切っ掛けで起こるはずの事象だったから」
侑李さんの言葉に、薫さんは両手を広げて反論を返す。
「俺、闇堕ちしてないけど?なんで、こうなった?」
「代わりにオレが闇堕ちしちゃったから、だね」
未来を視て、回避したはずの”魔法使いの闇堕ち”という事象。
それでも完璧には避けられないイベントのように、咲夜さんの闇堕ちが発生して、事は起こってしまった。
「は?なんで俺の代わりにお前が闇堕ちしてんの?」
「それは、薫の所為でしょう?咲夜に罪のない人間を傷つけさせたのは誰?」
侑李さんは少しだけ怒りの感情を混ぜたような強めの声で割って入る。
「え?お前、俺にケガさせたくらいで闇堕ちしちゃったの?なんで?」
「薫、そんな言い方ない。人を切るって本当に精神が消耗するんだからね?病を治すためって分かってても、最初はメスを持つ手が震える。咲夜はきっとそれ以上だったと思うよ?だって、意図しない相手を、そんなつもりないの大怪我させちゃったんだから」
侑李さんは「分かるよ」って咲夜さんを肩越しに一度見つめる。
咲夜さんはなんだか照れたように、前髪の間に指を突っ込んで視線を外した。
「それに、分かってるでしょ?闇堕ちしちゃうくらいに、咲夜も薫が大事なんだよ」
侑李さんは「薫だって大事に思ってるよね?」って少し首をかしげて、「ん?」って何か言うように促す。
「…ごめん、もー!悪かったって」
後頭部をカリカリ掻いて、こちらも照れた様子。
「なんかオッサンたちが青春してるー」と茶化しにかかったライトの口を押えて、ボクは「しーっ!」て黙らせる。
様子を見守ってると、ふーって一端大きく息を吐いて、薫さんは仕切りなおすように尋ねた。
「で?咲夜が闇堕ちした上に、さっきから夜烏が見えないって事は、邪の女に喰われた?」
「うん、、、ただ夜烏の魔力は邪の女の腹には入りきらないサイズだったから、こうやって暴走してる。でも、邪の女も受肉体を捨てたのか、神格が上がったのか、だんだん魔力を操れるようになってきているね」
咲夜さんの声に反応したのは侑李さんの方。
「そうか、あの体はもう無いんだね?」と、確認するように尋ねる。
「暴走の時に消失したんじゃないかって思うけど…なんで?」
「あの身体はコハちゃんの完全なるクローン体だったからさ、邪の女はコハちゃんの魂も収奪したって言ってて、身体が不要になったらそこにコハちゃんの魂を入れて動けるようにするって言ってたんだけどね」
「そっか、もうないのか」ってほんの少し残念そうに言って肩を落とす。
その様子に「どういうこと?」って薫さんが深堀する。
「まあ、できるかなんて分からないけど、コハちゃんの蘇りが出来たかもねって話。相手は邪神でも神様じゃない?ちょっと信じたくなっちゃったんだよね」
「それで、邪の女に情報を流したりって協力をしてたってこと?」
さっき諭されていた薫さんが、今度は怒る番だ。
この二人はお互いしっかりしている大人に見えて、案外危ういところがあるのかな?それをお互いがこうやって窘めたり、慰めたりしながら補い合っているんだなって思えた。
「知的好奇心半分、薫が喜ぶかなって気持ち半分――悪かったって思ってます」
「そんなことでスパイみたいな事したの?蘇生とかできるわけないじゃん、頭良いけど馬鹿じゃんお前」
「馬鹿だよね、でもそれだけ俺も薫が大事だったんだよ」
「なんで俺が大事でスパイになるんだよ、お前は」
(多分それはね、薫さんが小春さんを大事にしてたから、少しでもある可能性が捨てられなかったんだよね?薫さんのために自分の手が汚れても構わないって思うくらい)
ボクは、ボクだったらどうだっただろう?隣にいる翼をチラッと見て思ったことを言うべきか、ボクは少し迷った。
その間に、咲夜さんの声が響く。
「たぶん、その身体に河合 小春の魂を戻したうえで残忍に殺してやるとか脅迫されたり?」
「――まあ、うん、そんなことは言われた」
「河合 小春に似ているっていうだけで、人の太刀筋に飛び込めるバカ男だからね、彼女が蘇った途端に目の前で殺されたら、まあ闇堕ちまっしぐらだよね。馬鹿とバカでお似合いの二人だよ」
さっきの仕返しとばかりに咲夜さんは薫さんを煽る様に笑う。
「薫が堕ちたら、俺も無事じゃいられなかったと思うから――保身も兼ねてたんだよ。まあ言い訳なんだけどね――覚悟はしてる、ちゃんと罰は受けるよ」
誰も喋ることができず、一瞬の静寂が流れて、そこに吾川さんが声を投じる。
「一個だけ良い?舞耶ちゃんが亡くなったあの事故の件、侑李は美姫ちゃんに部屋を用意した?」
「目的は知らないけど、少し前にウィークリーマンションの契約はした」
「じゃあ、事故が起きた日はどこにいた?」
「木曜日だから…午前中は病院に、午後は、借りるように指示のあった部屋に寄った」
記憶をたどりながら、それでも淡々と吾川さんの問いに応えていく。
淀みなく進む尋問のテンポが一瞬滞る。
そして、再び吾川さんの言葉から再開された。
「それは、舞耶ちゃんを担ぎ込むため?」
「何のことかな?俺は、アレに言われて食料を玄関口に置いただけだよ、信じてくれるかは分からないけどね」
「――いいや、信じられる…だって、俺は”真価”を使えるんだよ」
そうだ、吾川さんの魔力は相手の偽りを見抜いてしまう。
緩く首を横に振って、吾川さんは苦い表情を浮かべた。
「侑李は嘘は言ってない。でも、加担はしてた――だから、俺は許せないよ。事情は分かってるつもり、でも、人の命が奪われて良い訳がない、だから…、だけどっ」
「幸人さん、唇、切れちゃう」
そっと頬に手を当てる彗さんの心配そうな表情に反応して、きゅっと噛みしめた唇を緩めた。
侑李さんを見つめたまま、吾川さんは言葉を連ねる。
「だけど…その罪を問うのは今じゃない、今は、精一杯誠意を見せて欲しい、邪の女としっかり戦って」
「うん――」
侑李さんの言葉に重なる様に、悟さんの声が鋭く響く。
「おい!嘘だろ…そこから飛べる?!」
皆の視線が一気に邪の女に集まった。
少し赤黒い空気がわずかに薄まった気がする。
それに比例して邪の女の羽に一層力がこもって、グンッと体が持ち上がる。
――ブチブチッ...ビキッ、、、バツンッッ!!
ついに、蔦鎖を千々に引き裂いて邪の女は飛翔した。
彗さんはその度に、落ちてくる破片を鎖で正確に跳ね飛ばしていく。
ボクの心は焦っていたけど、吾川さんはそれでもゆったりとした口調で話しを続けた。
「つまり、俺はこんな事ができるってコト、見てて――”鑑定・白井 彗”」
ふわんと蛍光グリーンの光が蛍の明かりのように彗さんを包む。
その光が、左手の辺りに凝縮されて輝きを増し、しばらくしてから消え失せた。
「そこにあったか!行くよ、彗くん――Refine・Onyx!!」
今度は悟さんの声と共に放たれた銀の弾丸のような波動が鎖を巻き付けた彗さんの左手の甲に貫通する。
反動で跳ねるように手が動き、鎖も消え失せる。
左手を抑えて、ガクッと崩れた彗さん。
「何があった!?」
状況が分からない薫さんが心配そうに駆け寄る。
「大丈夫だよ、薫。でも危ないから離れてて!」
吾川さんが声を飛ばして、薫さんは一瞬ためらったが、後ろに飛び退く。
更に2、3歩後退って距離を開けた。
それを確認した吾川さんは優しく起こすような声で、彗さんへ話しかける。
「だよね、彗?さあ、思った通り暴れてごらん」
「――うん、問題ない…そうか、この力ってこうやって使うこともできるんだ」
ゆらっと立ち上がった彗さんは、ヘラっと笑って、両手を天に高く挙げた。
「さて、反撃の時間だ――新たに生まれておいで、超新星…飛来せよ――彗星!」
赤黒い空に、銀色の筋が一つ、二つ…尾を引いて現れる。
やがて無数の彗星が、正確に邪の女に向かって落ちてくる。
――ガガガガガガッッ!!
幾度となく落石に打たれて、侑李の張った氷はすべて砕かれてしまったが、連撃は確実に邪の女に効いたようだ。
――ギシャアアァァッ!?
苦しそうな叫び声をあげて、体勢を崩し、ズシャァアと地面に倒れ込む。
「まだまだ足りないな…さあ生まれておいで、生命の息吹!拘束せよ、蔦鎖!」
今度は地面に向けた手を緩くカーブさせながら持ち上げる。ダンスでも踊っているようなしなやかな腕の動きに合わせ、濃い緑の蔦草がスルスルと伸びあがる。
そして手を邪の女に向けて放つと、しなやかな蔦が鋭く動いてその体躯を押さえた。
――グギギッ!?グギャアァッ!!
怒りに任せて引きちぎろうと邪の女は身をよじっている様子だけど、蔦は切れることなく更に強く拘束をする。
「おお、すげえ!全然魔力消費してる感じがしない」
彗さんは自分の手を見下ろして、珍しく興奮気味に声を発した。
吾川さんが「ナイスー!」とその肩をポンと叩いて、にっこりと微笑んでいる。
「じゃあ、彗が抑えてくれている間に事情説明をさっくり終わらせちゃおうかな」
咲夜さんは邪の女の様子を見て、大丈夫そうだと判断したようだ。
まだ取り残されたままの薫さんと侑李さんの方を向いて話し始める。
「どこまで話したっけ?ああ、そうだ…3つの役割について話してたんだよね。今ようやく3つ目が進行中ってのは見ての通り」
そういって、覚醒を果たした吾川さんと彗さんの方に手を向けて示す。
「それで…”なぜ魔術師への変化が必要なのか”だけど。今、邪の女がこんな事になっているでしょう?夜烏がこういう事が起こると予見してて、そうなった時にオレたちが負けてしまわないために必要だったから」
「前に言ってた”人の命が多く奪われる、そんな未来が来るかもしれない”ってこの事やったん?」
悟さんは心当たりがあったようで、「これかー」とこの光景を改めて見回している。
「そう、邪の女が強欲なのか…”収奪”の性質が奪う事だからか、どこまでもアレは奪い続ける。魔力に限らず無数の命をもね。良かったよ、ギリギリのところで対抗策になりうる”魔術師”への覚醒方法が分かったんだから」
夜烏は失ってしまったけどね、とつぶやく咲夜さんの瞳が憂いを帯びて揺れた。
「待った、もっと早く教えてくれても良かったよね?特に、邪の女がこうなること」
「言えなかったんだよ、薫には」
異を唱える薫さんに、今度は侑李さんが声を発した。
「なんでだよ?」
「この状況は、本当なら薫の闇堕ちが切っ掛けで起こるはずの事象だったから」
侑李さんの言葉に、薫さんは両手を広げて反論を返す。
「俺、闇堕ちしてないけど?なんで、こうなった?」
「代わりにオレが闇堕ちしちゃったから、だね」
未来を視て、回避したはずの”魔法使いの闇堕ち”という事象。
それでも完璧には避けられないイベントのように、咲夜さんの闇堕ちが発生して、事は起こってしまった。
「は?なんで俺の代わりにお前が闇堕ちしてんの?」
「それは、薫の所為でしょう?咲夜に罪のない人間を傷つけさせたのは誰?」
侑李さんは少しだけ怒りの感情を混ぜたような強めの声で割って入る。
「え?お前、俺にケガさせたくらいで闇堕ちしちゃったの?なんで?」
「薫、そんな言い方ない。人を切るって本当に精神が消耗するんだからね?病を治すためって分かってても、最初はメスを持つ手が震える。咲夜はきっとそれ以上だったと思うよ?だって、意図しない相手を、そんなつもりないの大怪我させちゃったんだから」
侑李さんは「分かるよ」って咲夜さんを肩越しに一度見つめる。
咲夜さんはなんだか照れたように、前髪の間に指を突っ込んで視線を外した。
「それに、分かってるでしょ?闇堕ちしちゃうくらいに、咲夜も薫が大事なんだよ」
侑李さんは「薫だって大事に思ってるよね?」って少し首をかしげて、「ん?」って何か言うように促す。
「…ごめん、もー!悪かったって」
後頭部をカリカリ掻いて、こちらも照れた様子。
「なんかオッサンたちが青春してるー」と茶化しにかかったライトの口を押えて、ボクは「しーっ!」て黙らせる。
様子を見守ってると、ふーって一端大きく息を吐いて、薫さんは仕切りなおすように尋ねた。
「で?咲夜が闇堕ちした上に、さっきから夜烏が見えないって事は、邪の女に喰われた?」
「うん、、、ただ夜烏の魔力は邪の女の腹には入りきらないサイズだったから、こうやって暴走してる。でも、邪の女も受肉体を捨てたのか、神格が上がったのか、だんだん魔力を操れるようになってきているね」
咲夜さんの声に反応したのは侑李さんの方。
「そうか、あの体はもう無いんだね?」と、確認するように尋ねる。
「暴走の時に消失したんじゃないかって思うけど…なんで?」
「あの身体はコハちゃんの完全なるクローン体だったからさ、邪の女はコハちゃんの魂も収奪したって言ってて、身体が不要になったらそこにコハちゃんの魂を入れて動けるようにするって言ってたんだけどね」
「そっか、もうないのか」ってほんの少し残念そうに言って肩を落とす。
その様子に「どういうこと?」って薫さんが深堀する。
「まあ、できるかなんて分からないけど、コハちゃんの蘇りが出来たかもねって話。相手は邪神でも神様じゃない?ちょっと信じたくなっちゃったんだよね」
「それで、邪の女に情報を流したりって協力をしてたってこと?」
さっき諭されていた薫さんが、今度は怒る番だ。
この二人はお互いしっかりしている大人に見えて、案外危ういところがあるのかな?それをお互いがこうやって窘めたり、慰めたりしながら補い合っているんだなって思えた。
「知的好奇心半分、薫が喜ぶかなって気持ち半分――悪かったって思ってます」
「そんなことでスパイみたいな事したの?蘇生とかできるわけないじゃん、頭良いけど馬鹿じゃんお前」
「馬鹿だよね、でもそれだけ俺も薫が大事だったんだよ」
「なんで俺が大事でスパイになるんだよ、お前は」
(多分それはね、薫さんが小春さんを大事にしてたから、少しでもある可能性が捨てられなかったんだよね?薫さんのために自分の手が汚れても構わないって思うくらい)
ボクは、ボクだったらどうだっただろう?隣にいる翼をチラッと見て思ったことを言うべきか、ボクは少し迷った。
その間に、咲夜さんの声が響く。
「たぶん、その身体に河合 小春の魂を戻したうえで残忍に殺してやるとか脅迫されたり?」
「――まあ、うん、そんなことは言われた」
「河合 小春に似ているっていうだけで、人の太刀筋に飛び込めるバカ男だからね、彼女が蘇った途端に目の前で殺されたら、まあ闇堕ちまっしぐらだよね。馬鹿とバカでお似合いの二人だよ」
さっきの仕返しとばかりに咲夜さんは薫さんを煽る様に笑う。
「薫が堕ちたら、俺も無事じゃいられなかったと思うから――保身も兼ねてたんだよ。まあ言い訳なんだけどね――覚悟はしてる、ちゃんと罰は受けるよ」
誰も喋ることができず、一瞬の静寂が流れて、そこに吾川さんが声を投じる。
「一個だけ良い?舞耶ちゃんが亡くなったあの事故の件、侑李は美姫ちゃんに部屋を用意した?」
「目的は知らないけど、少し前にウィークリーマンションの契約はした」
「じゃあ、事故が起きた日はどこにいた?」
「木曜日だから…午前中は病院に、午後は、借りるように指示のあった部屋に寄った」
記憶をたどりながら、それでも淡々と吾川さんの問いに応えていく。
淀みなく進む尋問のテンポが一瞬滞る。
そして、再び吾川さんの言葉から再開された。
「それは、舞耶ちゃんを担ぎ込むため?」
「何のことかな?俺は、アレに言われて食料を玄関口に置いただけだよ、信じてくれるかは分からないけどね」
「――いいや、信じられる…だって、俺は”真価”を使えるんだよ」
そうだ、吾川さんの魔力は相手の偽りを見抜いてしまう。
緩く首を横に振って、吾川さんは苦い表情を浮かべた。
「侑李は嘘は言ってない。でも、加担はしてた――だから、俺は許せないよ。事情は分かってるつもり、でも、人の命が奪われて良い訳がない、だから…、だけどっ」
「幸人さん、唇、切れちゃう」
そっと頬に手を当てる彗さんの心配そうな表情に反応して、きゅっと噛みしめた唇を緩めた。
侑李さんを見つめたまま、吾川さんは言葉を連ねる。
「だけど…その罪を問うのは今じゃない、今は、精一杯誠意を見せて欲しい、邪の女としっかり戦って」
「うん――」
侑李さんの言葉に重なる様に、悟さんの声が鋭く響く。
「おい!嘘だろ…そこから飛べる?!」
皆の視線が一気に邪の女に集まった。
少し赤黒い空気がわずかに薄まった気がする。
それに比例して邪の女の羽に一層力がこもって、グンッと体が持ち上がる。
――ブチブチッ...ビキッ、、、バツンッッ!!
ついに、蔦鎖を千々に引き裂いて邪の女は飛翔した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる