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6.決戦の刻
2.百花繚乱 浮世に舞うー羽翼ー
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「うわー、飛んじゃったか」
咲夜さんはヤバイねとつぶやいた。
ボクも、「どこまで行くんだろう?」って手の届かないところからの攻撃に備え、身を固くした。
魔術師への覚醒で勢いづいているこちらに焦りを覚えたのか、邪の女は高く空へと舞い上がろうと羽を強く羽ばたかせる。
――バチンッ!!
「あれ?なんか弾かれてる?」
見えない何かに邪魔をされ、一瞬ふらついたように見えた。
ボクの声が零れたタイミングで、再び邪の女は上へと体勢を整え上空を目指す。
――バチッ!バチンッ!!
紫電が走り、進行を阻まれたことに気づいた邪の女が、怒りの咆哮を轟かせた。
――グギャアアアァァッ!
「神社の敷地内から出られない?もしかして…結界ってちゃんと機能してるのか!?」
咲夜さんは、ハッとしてあたりを見回している。
ボクは大好物なワードに反応して、咲夜さんに尋ねた。
「結界!オタクとしてはそそられるワードだよー、何か儀式とかして張ってるの?」
「いや、アニメとかだと術式とかで出すじゃん?リアルはそういう感じじゃないんだわ。ウチだと鳥居と、ご神木と、しめ縄で、神社は外界とは隔てられた領域だよって示してあるんだけど…」
そう言って、咲夜さんは列挙した存在がある方角を、それぞれ手で示す。
確かに、坂を上り切ったところに鳥居はあったし…
この居住区の奥には立派な1本の木があって、それがご神木なんだね。
それと…本殿を挟んで、居住区の反対側には、紙垂って言うんだっけ?白い紙の飾りみたいなのが付いたしめ縄も、大きな石に巻き付けた形で存在してたと思う。
「たったそれだけの事で、ちゃんとここが神域であると本当に認識されてるんだなって、驚いたんだよ。特に毎日何かしてるってワケでもないのにねぇ…」
「確かに、お守りも含めて、ああいうアイテムの効果って、誰が発見したんだ?本当に効くのか??って思ってた…昔ながらの迷信じゃないのかって」
翼が、不意に会話に参加をして、咲夜さんは「だよねー」って同調してるけど、「咲夜さん、アナタ神社の息子ですよね?」ってボクが言うと、ちょっとバツの悪そうな顔をした。
「いや、まあ…実際にこうやって見るまでは、例え神社の息子だって、半信半疑なヤツも居るんです。特に、オレは不心得者だったしね」
「あ、懐かしいね、斜に構えてた頃の咲夜、今度、そのころの咲夜の話をしてあげようか」
「吾川さん!?」
横から顔を出して、ちょっと黒い笑顔を浮かべる吾川さん。
慌てた様子の咲夜さんを面白がって、翼が「え!聞きたい」とニヤリとした。
「ちょ、ちょっと!?人の黒歴史を突くのは…」ってボクが止めに入ると、「あー、大樹は良い子だぁー」って咲夜さんにヨシヨシされた。
その後、咲夜さんは「んん゛っ!」て咳ばらいをして、真面目な顔に戻る。
「こういう場での結界って、外との領域を区分けして、ここを神聖な領域って位置づけたうえで、神様に向き合って真摯に祈りを捧げるってのが本来の用途なんだけど――今は逆に、外界に邪なものが漏れださないための防護壁になってくれているみたいだ」
「じゃあ、結界を邪の女が破ったら…?」
再び、結界に挑み始めた邪の女を見上げながら、翼が心配そうに声を発する。
咲夜さんも、目線は邪の女に向けたまま頷いた。
「まあ大惨事だよね、邪に染まった魔力に影響されて、魔法使いじゃない人にも被害が出る」
「そうだよねー…、そうなる前に、このイヤな感じの魔力を浄化できればいいのにねー」
ボクの言葉へ返答をくれたのは、意外にも吾川さんだった。
吾川さんは、じーっと翼を見ながらつぶやく。
「うーん…浄化ね、浄化、、、こじつけに近いけど、試してみようか」
「え?なに?視線が怖いんですけど」
視線に気づいた翼はたじろいで、ジリッと後退りをした。
そんな翼にニコッと笑顔を張り付けて、吾川さんは問答無用で問いかけている。
「植物って光合成するんだよ、知ってる?」
「ええっと、理科でやった気がするな。確か…二酸化炭素と水と光で、酸素が出る?みたいな」
違ったっけ?と自信なさげに答えた翼は「助けて」って目線をボクに送ってくる。
「はい、正解!その要領で、翼くんの出す花に、浄化の力を持たせたり出来ないかなー?ねっ翼、やってみようか!――”鑑定・渡瀬 翼”」
「えー!?ちょ、待って、待って!こんな軽いノリで覚醒するの?俺!!」
彗さんの時と同じく、蛍光グリーンの光に包まれて、その収束した先は右手の甲。
いつの間にか側に来ていた悟さんが「うんうん、なるほど」って目を細めている。
「おおっ!翼くんは右手かぁ、原石発見!覚悟は良い??――Refine・sapphire!」
「返事まだしてなっ!?」
翼は、銀色の波動に右手の甲を撃ち抜かれて、思わず手のひらをブンブンと振っている。
何回か繰り返して、その動きをピタリと止めた。
「あ…ああ、なるほどね、製錬されるってこんな感じなんだ。悪くないじゃん?」
「どう?浄化行けそう?」
悟さんの横で黙っていたライトが、覗き込んで聞いている。
「あー…たぶん、イケそう。こんなのでどうかな?」
右手を胸に置き、その手の甲を包むように左手を重ねる。
瞼をそっと閉じて、すうっと息を吸い込むと、翼特有の少し鼻にかかったような、優しい声が朗々と魔力に語り掛けた。
「柳薄荷の咲き乱れるとき その香に清浄を乞う――浄化の藍・花回廊!」
結構、詩的な呪文だなって思ったけど、言ったら恥ずかしがるかもってボクは我慢した。
ラベンダーみたいな形の、ミントっぽい匂いのする青い花が翼を中心に渦を巻くように広がって行き、結界の境界線に何重にも円を描いていく。
「おおー!綺麗だなぁ、青い花の絨毯みたい」
薫さんも侑李さんを伴って集まってきて、状況を見守った。
柳薄荷はきっと普通にその辺に生えているソレとは少し違うんだろう。
柔らかな青い光を灯しているように見えて、その灯りが点滅するたびに、結界が反応しているのか、ボクには赤黒い魔力の霧が、一段と薄まったのを肌で感じられた。
少し、呼吸もしやすくなったような気がして、歓喜しながら翼に飛びついた。
「本当に効いてる!カイフーク草も作れるし、翼、聖女みたい!!」
「落ち着け、落ち着けって、、、で、なんで聖女?」
飛びつかれた翼は、ボクの頭をワシワシと撫でながら、困惑気味に聞いてくる。
ボクは、にへっと笑顔で「それはもちろん!」と返事をした。
「最近ハマっているマンガに出てくる、転生モノの女の子がこんな感じで聖女に成り上がっていくの!結構面白いよ」
「もしもし?俺、女じゃないんだけど」
吾川さんがボクたちのやり取りに入ってくる。
「まあまあ、案外的確な表現かも。これで邪の女の勢いは削げたんじゃない?」
ボクはそれに応えるように、グッドサインを作って突き出した。
侑李さんは興味深げに翼に聞いてくる。
「ちなみに、魔力の消費状況どんな感じ?」
「あ、確かに発動時の消費はめっちゃ少ない、これなら何回か使えそう」
翼も少しだけテンションが上がった様子で、嬉しそうに答えた。
「ちなみに、あの蛾をパクっと食べてくれる食虫植物とか生み出せたりは?」
「それは流石に無理じゃない?」
咲夜さんが冗談交じりに邪の女を指して尋ねる、その端から彗さんが「規模がデカすぎるでしょ」と真面目に返している。
「だよねー、そんな化け物出したら漏れなくボクたちも食べられちゃうよ」
ボクは想像だけで、ゾッと身を震わせた。
そんなボクの肩に、ぽんっと置かれた翼の手。
どうした?って首をひねると、翼は少しだけ躊躇ってから口を開いた。
「俺さ、魔法のイメージって薫さんの炎とか侑李さんの氷みたいな攻撃系をイメージしてたんだけど、自分が手にしたのが、まさかの補助系でちょっと残念だなて思ってたんだよね」
「あ、分かる!確かに、ドーン!バーン!って炸裂する系、男の子のロマンだよね」
「うんうん」と、それに同意して頷くと、「だよな」って返ってくる。
「そう、大魔法とかぶっ放すの、カッコイイなって思ってたんだけど、でもさ…補助系も実はめちゃくちゃカッコイイな」
「うん、路線は違うけど、翼っぽいカッコイイってこんな感じだよね!」
そう、花屋だからってだけじゃない。
翼に”結実”の魔力はよく似合っている。
「翼ってさ『おいおい、仕方ねえなぁ』って言いながら、さりげなくフォロー入れてくれる時とかよくあるじゃん?そういうカッコイイ性格そのまんまの、カッコイイ魔法だねっ」
「おー、ありがとうな。じゃあ、もう一個行くぞ!」
翼は、嬉しそうに照れて、「ヨシッ!」って気合を入れると、また一つ魔術を紡ぎ始めた。
「溢れる”天使の祝福”をここに――回復の白・花籠!」
ぽわぽわと場に広がる白い花、これはボクでも分かる、メジャーな花――カスミソウだ!
さっきの”花回廊”とは違って今度は外から内に集まって行くようにボクたちをカスミソウが包み込む。
「え?わわっ!くすぐったい…あれ?」
ボクが気づいたのと同じく、彗さんも驚いた声を上げた。
「なんだか、魔力が湧いてくる?」
「あ、俺…怪我が――」
吾川さんは、カイフーク草の本数を減らさないように怪我を治すの後回しにしてたんだったよね。
(それも治ったなんて凄い、凄いよ、翼!)
咲夜さんも同じ感想を持ったみたいで、興奮気味に「嘘だろ?!こんなことができるのか」って言っている。
「いや、マジで聖女様だろ」
なんて、ライトから声が零れて、翼に「そこ!聖女はやめろ!」って指摘を受けている。
その横で、「これ、どうやったん?」って薫さんが翼に声をかけた。
「さっき浄化で集めた魔力を使ってみた」
「そんな事ができるの?」
侑李さんも不思議そうに翼に問いかけた。
それに返したのは吾川さん。
「だって、翼の魔力は”結実”つまり、何かをやった成果が得られる力なんだよね。だから、浄化という行動に対して魔力って収穫物が得られたという事だよね」
「流石は吾川さん、その通り!で、いっぱい魔力が手に入ったから”花籠”で、皆に還元してみたってワケ」
翼が得意げに言って、薫さんは嬉しそうに手を叩いた。
「邪の女の収奪に匹敵する力じゃん!むしろそれを仲間に分配できる分、翼の方が優秀だわ」
「なんか、ありがとう…そう言ってもらえると嬉しい。カッコイイ補助系魔術師目指してみるわ」
照れながら言う翼に、「翼くん、最高~!」ってライトがキャーって声を上げた。
「よし!じゃんじゃん邪の女から奪って行こう!」って吾川さんが両手をグーにして気合を込めて、「運が向いてきたな、このまま畳みかけるぞ」って咲夜さんも邪の女にビシッと青龍刀を突き付けている。
なんだが、すっごくアニメの主人公パーティっぽい!ボクはワクワクして頷いた。
咲夜さんはヤバイねとつぶやいた。
ボクも、「どこまで行くんだろう?」って手の届かないところからの攻撃に備え、身を固くした。
魔術師への覚醒で勢いづいているこちらに焦りを覚えたのか、邪の女は高く空へと舞い上がろうと羽を強く羽ばたかせる。
――バチンッ!!
「あれ?なんか弾かれてる?」
見えない何かに邪魔をされ、一瞬ふらついたように見えた。
ボクの声が零れたタイミングで、再び邪の女は上へと体勢を整え上空を目指す。
――バチッ!バチンッ!!
紫電が走り、進行を阻まれたことに気づいた邪の女が、怒りの咆哮を轟かせた。
――グギャアアアァァッ!
「神社の敷地内から出られない?もしかして…結界ってちゃんと機能してるのか!?」
咲夜さんは、ハッとしてあたりを見回している。
ボクは大好物なワードに反応して、咲夜さんに尋ねた。
「結界!オタクとしてはそそられるワードだよー、何か儀式とかして張ってるの?」
「いや、アニメとかだと術式とかで出すじゃん?リアルはそういう感じじゃないんだわ。ウチだと鳥居と、ご神木と、しめ縄で、神社は外界とは隔てられた領域だよって示してあるんだけど…」
そう言って、咲夜さんは列挙した存在がある方角を、それぞれ手で示す。
確かに、坂を上り切ったところに鳥居はあったし…
この居住区の奥には立派な1本の木があって、それがご神木なんだね。
それと…本殿を挟んで、居住区の反対側には、紙垂って言うんだっけ?白い紙の飾りみたいなのが付いたしめ縄も、大きな石に巻き付けた形で存在してたと思う。
「たったそれだけの事で、ちゃんとここが神域であると本当に認識されてるんだなって、驚いたんだよ。特に毎日何かしてるってワケでもないのにねぇ…」
「確かに、お守りも含めて、ああいうアイテムの効果って、誰が発見したんだ?本当に効くのか??って思ってた…昔ながらの迷信じゃないのかって」
翼が、不意に会話に参加をして、咲夜さんは「だよねー」って同調してるけど、「咲夜さん、アナタ神社の息子ですよね?」ってボクが言うと、ちょっとバツの悪そうな顔をした。
「いや、まあ…実際にこうやって見るまでは、例え神社の息子だって、半信半疑なヤツも居るんです。特に、オレは不心得者だったしね」
「あ、懐かしいね、斜に構えてた頃の咲夜、今度、そのころの咲夜の話をしてあげようか」
「吾川さん!?」
横から顔を出して、ちょっと黒い笑顔を浮かべる吾川さん。
慌てた様子の咲夜さんを面白がって、翼が「え!聞きたい」とニヤリとした。
「ちょ、ちょっと!?人の黒歴史を突くのは…」ってボクが止めに入ると、「あー、大樹は良い子だぁー」って咲夜さんにヨシヨシされた。
その後、咲夜さんは「んん゛っ!」て咳ばらいをして、真面目な顔に戻る。
「こういう場での結界って、外との領域を区分けして、ここを神聖な領域って位置づけたうえで、神様に向き合って真摯に祈りを捧げるってのが本来の用途なんだけど――今は逆に、外界に邪なものが漏れださないための防護壁になってくれているみたいだ」
「じゃあ、結界を邪の女が破ったら…?」
再び、結界に挑み始めた邪の女を見上げながら、翼が心配そうに声を発する。
咲夜さんも、目線は邪の女に向けたまま頷いた。
「まあ大惨事だよね、邪に染まった魔力に影響されて、魔法使いじゃない人にも被害が出る」
「そうだよねー…、そうなる前に、このイヤな感じの魔力を浄化できればいいのにねー」
ボクの言葉へ返答をくれたのは、意外にも吾川さんだった。
吾川さんは、じーっと翼を見ながらつぶやく。
「うーん…浄化ね、浄化、、、こじつけに近いけど、試してみようか」
「え?なに?視線が怖いんですけど」
視線に気づいた翼はたじろいで、ジリッと後退りをした。
そんな翼にニコッと笑顔を張り付けて、吾川さんは問答無用で問いかけている。
「植物って光合成するんだよ、知ってる?」
「ええっと、理科でやった気がするな。確か…二酸化炭素と水と光で、酸素が出る?みたいな」
違ったっけ?と自信なさげに答えた翼は「助けて」って目線をボクに送ってくる。
「はい、正解!その要領で、翼くんの出す花に、浄化の力を持たせたり出来ないかなー?ねっ翼、やってみようか!――”鑑定・渡瀬 翼”」
「えー!?ちょ、待って、待って!こんな軽いノリで覚醒するの?俺!!」
彗さんの時と同じく、蛍光グリーンの光に包まれて、その収束した先は右手の甲。
いつの間にか側に来ていた悟さんが「うんうん、なるほど」って目を細めている。
「おおっ!翼くんは右手かぁ、原石発見!覚悟は良い??――Refine・sapphire!」
「返事まだしてなっ!?」
翼は、銀色の波動に右手の甲を撃ち抜かれて、思わず手のひらをブンブンと振っている。
何回か繰り返して、その動きをピタリと止めた。
「あ…ああ、なるほどね、製錬されるってこんな感じなんだ。悪くないじゃん?」
「どう?浄化行けそう?」
悟さんの横で黙っていたライトが、覗き込んで聞いている。
「あー…たぶん、イケそう。こんなのでどうかな?」
右手を胸に置き、その手の甲を包むように左手を重ねる。
瞼をそっと閉じて、すうっと息を吸い込むと、翼特有の少し鼻にかかったような、優しい声が朗々と魔力に語り掛けた。
「柳薄荷の咲き乱れるとき その香に清浄を乞う――浄化の藍・花回廊!」
結構、詩的な呪文だなって思ったけど、言ったら恥ずかしがるかもってボクは我慢した。
ラベンダーみたいな形の、ミントっぽい匂いのする青い花が翼を中心に渦を巻くように広がって行き、結界の境界線に何重にも円を描いていく。
「おおー!綺麗だなぁ、青い花の絨毯みたい」
薫さんも侑李さんを伴って集まってきて、状況を見守った。
柳薄荷はきっと普通にその辺に生えているソレとは少し違うんだろう。
柔らかな青い光を灯しているように見えて、その灯りが点滅するたびに、結界が反応しているのか、ボクには赤黒い魔力の霧が、一段と薄まったのを肌で感じられた。
少し、呼吸もしやすくなったような気がして、歓喜しながら翼に飛びついた。
「本当に効いてる!カイフーク草も作れるし、翼、聖女みたい!!」
「落ち着け、落ち着けって、、、で、なんで聖女?」
飛びつかれた翼は、ボクの頭をワシワシと撫でながら、困惑気味に聞いてくる。
ボクは、にへっと笑顔で「それはもちろん!」と返事をした。
「最近ハマっているマンガに出てくる、転生モノの女の子がこんな感じで聖女に成り上がっていくの!結構面白いよ」
「もしもし?俺、女じゃないんだけど」
吾川さんがボクたちのやり取りに入ってくる。
「まあまあ、案外的確な表現かも。これで邪の女の勢いは削げたんじゃない?」
ボクはそれに応えるように、グッドサインを作って突き出した。
侑李さんは興味深げに翼に聞いてくる。
「ちなみに、魔力の消費状況どんな感じ?」
「あ、確かに発動時の消費はめっちゃ少ない、これなら何回か使えそう」
翼も少しだけテンションが上がった様子で、嬉しそうに答えた。
「ちなみに、あの蛾をパクっと食べてくれる食虫植物とか生み出せたりは?」
「それは流石に無理じゃない?」
咲夜さんが冗談交じりに邪の女を指して尋ねる、その端から彗さんが「規模がデカすぎるでしょ」と真面目に返している。
「だよねー、そんな化け物出したら漏れなくボクたちも食べられちゃうよ」
ボクは想像だけで、ゾッと身を震わせた。
そんなボクの肩に、ぽんっと置かれた翼の手。
どうした?って首をひねると、翼は少しだけ躊躇ってから口を開いた。
「俺さ、魔法のイメージって薫さんの炎とか侑李さんの氷みたいな攻撃系をイメージしてたんだけど、自分が手にしたのが、まさかの補助系でちょっと残念だなて思ってたんだよね」
「あ、分かる!確かに、ドーン!バーン!って炸裂する系、男の子のロマンだよね」
「うんうん」と、それに同意して頷くと、「だよな」って返ってくる。
「そう、大魔法とかぶっ放すの、カッコイイなって思ってたんだけど、でもさ…補助系も実はめちゃくちゃカッコイイな」
「うん、路線は違うけど、翼っぽいカッコイイってこんな感じだよね!」
そう、花屋だからってだけじゃない。
翼に”結実”の魔力はよく似合っている。
「翼ってさ『おいおい、仕方ねえなぁ』って言いながら、さりげなくフォロー入れてくれる時とかよくあるじゃん?そういうカッコイイ性格そのまんまの、カッコイイ魔法だねっ」
「おー、ありがとうな。じゃあ、もう一個行くぞ!」
翼は、嬉しそうに照れて、「ヨシッ!」って気合を入れると、また一つ魔術を紡ぎ始めた。
「溢れる”天使の祝福”をここに――回復の白・花籠!」
ぽわぽわと場に広がる白い花、これはボクでも分かる、メジャーな花――カスミソウだ!
さっきの”花回廊”とは違って今度は外から内に集まって行くようにボクたちをカスミソウが包み込む。
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ボクが気づいたのと同じく、彗さんも驚いた声を上げた。
「なんだか、魔力が湧いてくる?」
「あ、俺…怪我が――」
吾川さんは、カイフーク草の本数を減らさないように怪我を治すの後回しにしてたんだったよね。
(それも治ったなんて凄い、凄いよ、翼!)
咲夜さんも同じ感想を持ったみたいで、興奮気味に「嘘だろ?!こんなことができるのか」って言っている。
「いや、マジで聖女様だろ」
なんて、ライトから声が零れて、翼に「そこ!聖女はやめろ!」って指摘を受けている。
その横で、「これ、どうやったん?」って薫さんが翼に声をかけた。
「さっき浄化で集めた魔力を使ってみた」
「そんな事ができるの?」
侑李さんも不思議そうに翼に問いかけた。
それに返したのは吾川さん。
「だって、翼の魔力は”結実”つまり、何かをやった成果が得られる力なんだよね。だから、浄化という行動に対して魔力って収穫物が得られたという事だよね」
「流石は吾川さん、その通り!で、いっぱい魔力が手に入ったから”花籠”で、皆に還元してみたってワケ」
翼が得意げに言って、薫さんは嬉しそうに手を叩いた。
「邪の女の収奪に匹敵する力じゃん!むしろそれを仲間に分配できる分、翼の方が優秀だわ」
「なんか、ありがとう…そう言ってもらえると嬉しい。カッコイイ補助系魔術師目指してみるわ」
照れながら言う翼に、「翼くん、最高~!」ってライトがキャーって声を上げた。
「よし!じゃんじゃん邪の女から奪って行こう!」って吾川さんが両手をグーにして気合を込めて、「運が向いてきたな、このまま畳みかけるぞ」って咲夜さんも邪の女にビシッと青龍刀を突き付けている。
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