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6.決戦の刻
6.魂の叫びを轟かせー風来ー
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「結構意外だったわ、俺に着いてくるとか」
暗い夜道を駆け抜けながら、チラッとオレを見て薫さんが言う。
ハッキリ言って、薫さんの足はメチャクチャ速い。
付いていくのもやっと、なんとか言葉を絞り出す。
「だって、さとるっち吾川さんに取られちゃったし…」
「俺は年齢が一番近い彗を選ぶと思ってた」
「今は年齢とか話しやすさとかより、魔法の相性でしょ?薫さんとオレの魔法、相性良いと思ったんだよ」
「お前、偉いなぁ。そんくらいの歳だったら、仲良いヤツと組もうとする方が多いぞ」
少しペースを落として、オレに並走して薫さんが笑顔を浮かべた。
笑うと目じりが下がって、普段の強面が嘘みたいに優しい表情になる。
その表情に、兄に褒められたときみたいな懐かしい喜びを感じる。
嬉しいんだけど、そんな事で喜んじゃえる、まだ大人になり切れてない自分に気づかされた。
なんとも言えない複雑な感情…。
だから、オレは目線を逸らせて、ボソッと呟く。
「やめて、褒められるの、、、なんかシンドイから」
「照れるな、照れるな、よしよし!」
背中をポンポンと叩かれて、いよいよ子ども扱いだ。
夜会で先に帰された時、さとるっちから邪の女との戦いに省かれそうになった時も、感じた悔しい気持ちが蘇る。
感情の昇華の仕方が分かんなくって、ちょっとムッとした気持ちをそのままに吐き出す。
「もー、子ども扱いっ!怒るよっ!?」
「あーっはっはっ!なに?お前って案外、褒められ慣れてないの?顔、あかーい」
「いいって、もう…ほら、もうすぐ着くよ」
揶揄われるのも、しょうがない…だって、自分でもこんな反応、子どもっぽいし素直じゃないって分かってる。
――けど、上手く受け流せないんだもの。
鳥居の手前まで着くと、そこからは慎重に歩を進める。
整備されているとは言え、山道をハイペースで下ったのだから、流石に呼吸が乱れた。
でも、前を歩く薫さんは、流石で全く疲れた様子を見せない。
「若いのに、もう息あがってんの?もうちょっと体鍛えた方が良いぞ?」
オレの様子を肩越しに確認して、薫さんは「動けるか?」ってこの後の戦いに備えて聞いてくる。
「一応、動ける。これでも、日々欠かさずランニングやってるんだけどね、薫さんとは鍛え方が違うみたい」
「じゃあ、今度一緒にトレーニングするか?何が足りないか、とか見てやれるかもだよ?」
「マジで?いいの?」
なんだか誘ってくれたことが意外で、友達に接するみたいに返事を返してしまった。
でも、薫さんは気にする様子もなく、そのまま受け答えをしてくれる。
「学校は基本、土日休みだろ?俺の非番と被る時に誘ってやるよ」
「じゃあ、オレの仕事のない日に!」
「あー、そうかお前モデルもやってたんだよなぁ…OK、じゃあその予定で。後で連絡先交換しようなー」
(友達感覚で話しても大丈夫…なのかな?)
フランクというか、薫さんは、たぶん仲間と認めた人には平等なんだ。
警察っていう、上下関係厳しい環境に居るんだから、本当なら生意気って注意されても仕方ないのに…、仕事とそれ以外は分けてて、私的な時は年下にタメ口使われても気にしない心の広さもあるんだろう。
だから、オレも気にしない、友達に言うみたいに話すことにする。
「うん!あのさ、あと、さとるっちも誘っていいかな?」
「アイツを?大丈夫かな…お前以上に体力無さそうだけど」
「だからこそ、じゃない?今回みたいに、いざって時のためにさとるっちも備えた方が良いと思うんだよ」
うーん?って一瞬考えて、後頭部を掻きながら、それでも薫さんは受け入れてくれる。
「まあ、予定が合えばだな――さて、どんな状況になってるか…なっ!?」
いよいよ鳥居に近づいて、ピタッと足を止める。
「なんだ、あれ?」って先に鳥居に近づいた薫さんが眉を顰めた。
オレも、その異様に気づいて目を細め、鳥居の足元をじっくり見つめる。
「何か動いてる?」
「うひぃっ!?え…えっ?俺、虫とかムリなんだけど!」
薫さんは正体に気づいてピョンッと後ろに飛び退いて、さらに二歩ほど後退した。
「意外なんですけど?!その見た目で虫ダメなの?まあ…アレは虫平気でも引くけどねー。どっから湧いたんだろ?」
鳥居の足元を黒々と染める、両掌サイズの虫。
ダンゴムシのような見た目だけど、甲羅みたいな硬さはなくて、脚もないから、そこは芋虫みたい。
よく聞くと、ガリリッ!パキッ!!と石を削るような齧ってるような音が聞こえる。
(鳥居を齧ってる?)
オレが観察していると、袖を引っ張られて、薫さんが首を横に振りながら言う。
「ダメ、気付いちゃったらもうムリ、これ以上近づけないぃぃー」
「よかったよねー、オレたち遠距離攻撃派で」
さっきと逆で、今度はオレが背中をヨシヨシってしながら落ち着かせる立場だ。
「えー…攻撃したら、アレ、襲ってこない?」
「そしたら吹き飛ばせばいいよ、サイズ的に”爆風”には耐えられないでしょ?しめ縄ないタイプの鳥居だし、跡形も無くすくらいの温度で焼いちゃえば?」
「ね?」って顔を覗き込む。
薫さんは、後頭部をまたガシガシって掻いて、まだ躊躇っている。
「鳥居に炎向けるのってなーんかバチ当たりな気がするんだよなぁ」
「大丈夫でしょ、なんでそうしてるのかは良くわかんないけど、鳥居に齧り付いて壊そうとしている虫の駆除なんだから神様も許してくれるって、たぶん!」
「ほーらぁ、がんばれー」って励ますオレに、「もう一声」って要求してくる薫さん。
「頑張ったら、お菓子あげるから!」
「お菓子…じゃあ、チョコレートがいい」
「え?チョコ??あ、うん、チョコね…後でチョコレートあげるから、頑張って!!」
(何故チョコレート?え?好物とか?マジ?意外だわー)
甘いものよりタンパク質!って言いそうなのにねって思いながらも、とりあえずやる気を出して貰うために、そこは突っ込まない事にした。
「まー…そうか、そうだよな、、、やるしかないよな?じゃあ、行くぞー」
「りょーかい!炎が出たら、追い風送って残らず殲滅だね」
ようやくヤル気を出した薫さんが、手のひらを鳥居に向けて突き出す。
一瞬、焦げ臭いような香りが空気を染めたかと思うと、ブワっと熱気が広がって、白い炎の玉が産み出される。
オレは、その炎の行き先を示すように腕の中で育てた風の渦を前方へと飛ばす。
――コォォォォッ!!
地面と平行に尾を引いて放たれた火球が鳥居にぶつかると、そこに集う可燃性のモノ…つまり蟲に燃え広がる。
(良い焼けっぷり)
焚火に当たった時のような、芯から温められるような熱と、うっかり鍋を焦がしてしまったときのような臭いが空気に広がる。
やがて、焔の中で、蟲は次々とボロッと崩れていき、それと共に徐々に炎は弱まって、後には真っ白に燃え尽きた灰が積もった。
それも、風に流されて霧散する。
「さて、残党は?」
顛末を見届けて、薫さんは辺りを見回しながら声を零す。
「上の方に逃げたのが居るね、風で吹き寄せてまとめるから、そこにファイヤーボールでっ!」
「なんかのゲームの初級魔法みたいなネーミングしないで、ねぇ?」
「えー、でも”炎の魔法”とか呼ぶのダサいじゃん、なんか」
「そうかなぁ?」
そんな会話をしながら、二つの風の渦を繰り出して、鳥居をよじ登って逃げた蟲たちを吸い上げる。
今度は、手のひらの中に発生させた炎を投球するように、薫さんが風の渦に放り投げる。
上昇気流に火柱が立ち上って、蟲たちは成す術もなく、また灰と化す。
たった3回、風の渦を生み出しただけでそこそこの魔力を持っていかれていることが感覚として分かる。
手のひらをグッパーって何回か動かして、オレは愚痴を漏らす。
「できればオレたちも先に精錬して欲しかったよねぇ…さとるっちが魔力の元みたいなの見つけるのヘタだから、見つけたタイミングでいいやって諦めてたけど、吾川さんが見つけてくれて、直ぐ製錬できるんならやって欲しかったな」
「まあまあ、戻ったらやって貰えばいいじゃん?」
そんな風に取り成してくれる薫さん。
ちょっと調子にのってイジってみちゃう。
「したらさぁ、薫さんの呪文みたいなのってどんなのになるんだろうね?」
「呪文とか言わなきゃダメ?まずその時点で痒いんだけど」
えーって薫さんが笑う。
(後頭部を掻くの、クセなんだろうなぁ)
「さあ?無くても行けるんならそれでもいいんだろうけど、あった方が周りに迷惑掛かんないよね、いきなり無詠唱で大技繰り出したら、オレらが逃げ遅れて丸焦げよ?」
「あー、そのための詠唱かぁー」
「だったら言わなきゃだよな」って、根はマジメなのがよくわかる。
ふと、薫さんの頭越しに邪の女の様子が見えた。
闇に溶けるような漆黒の羽、目玉のような赤い模様だけが不気味に発光している。
その羽から、地上に降り注ぐように、赤黒い粉が舞い降りる。
「あれ?第二フェーズかな、邪の女の辺りなんか…粉舞ってる」
「ん?どれ――本当だ、鱗粉?吸い込みたくねぇー」
反射的に、薫さんは袖口を手に当てて、心底イヤそうな顔をする。
「アレ吸ったらどうなるのかな?」
「考えるまでもなく、あんなの害にしかならないだろ?」
オレの知的好奇心を薫さんはバッサリと切り捨てる。
(まあ、たぶん、その通りではあるよね)
「だよねー。じゃあ、上手く行くか分かんないけどやってみる?粉塵爆発」
「は?粉塵――?なにそれ?」
この前、流行りの漫画を読んで、そういう現象があるって知った。
だから、似たようなこの状況で試してみたいなって思ってしまったんだ。
「粉と言えば!の大技だよ、もはやテンプレ」
「そうなの?」
「そうなの!空気+炎+可燃性の粉=爆発的炎上だよ、はい、この公式テストに出るよ!」
「どこのテストだよ」
(んー、なかなか良いツッコミ!)
でも、今は「だよね!」って言って欲しかった気もする。
だから、ちょっとだけ恨み言を言ってみる。
「大樹さんなら、だよねーって言ってくれそうなのになぁ…あと、吾川さん」
「――悪かったな、ノってやれなくて」
予想外にシュンとしてしまった薫さんに驚いて、計算違いに、今度はオレがオロオロする。
「気にしないでー。さっさとヤっちゃおう!お誂え向きに導火線もあることだし、ね!?」
上空の、魔力を吸うっていう黒い糸を指さしてみる。
薫さんは、眩しいわけでもないのに目の上に手のひらを翳して、オレの指す方を見上げる。
「なるほどっ、じゃあ、火種はそんなに大きくなくていいって事だな?」
オレが頷いたのに、頷き返して、指先に小さな炎を灯す。
「OK。じゃあ着火ー」
”(呪文が)あった方が周りに迷惑掛かんない”ってオレが言ったのを律儀に守って、ちゃんと声を発してくれたんだって気付いた。
実験のワクワクと、律儀な薫さんに上機嫌になって、オレは鼻歌交じりに風を腕の中で育てる。
「ふっふっふーん♪」
そして、黒い糸の導火線が、鱗粉の粉まで到達するタイミング――
そのギリギリまで抑え込んで、そして声と共に風を解き放った。
「いけーっ!」
――ドッ!オオオォン!!
ボワッと広がった炎が、信じられない規模に広がって爆音を響かせた。
邪の女にも相当のダメージが入った様子だった。
暗い夜道を駆け抜けながら、チラッとオレを見て薫さんが言う。
ハッキリ言って、薫さんの足はメチャクチャ速い。
付いていくのもやっと、なんとか言葉を絞り出す。
「だって、さとるっち吾川さんに取られちゃったし…」
「俺は年齢が一番近い彗を選ぶと思ってた」
「今は年齢とか話しやすさとかより、魔法の相性でしょ?薫さんとオレの魔法、相性良いと思ったんだよ」
「お前、偉いなぁ。そんくらいの歳だったら、仲良いヤツと組もうとする方が多いぞ」
少しペースを落として、オレに並走して薫さんが笑顔を浮かべた。
笑うと目じりが下がって、普段の強面が嘘みたいに優しい表情になる。
その表情に、兄に褒められたときみたいな懐かしい喜びを感じる。
嬉しいんだけど、そんな事で喜んじゃえる、まだ大人になり切れてない自分に気づかされた。
なんとも言えない複雑な感情…。
だから、オレは目線を逸らせて、ボソッと呟く。
「やめて、褒められるの、、、なんかシンドイから」
「照れるな、照れるな、よしよし!」
背中をポンポンと叩かれて、いよいよ子ども扱いだ。
夜会で先に帰された時、さとるっちから邪の女との戦いに省かれそうになった時も、感じた悔しい気持ちが蘇る。
感情の昇華の仕方が分かんなくって、ちょっとムッとした気持ちをそのままに吐き出す。
「もー、子ども扱いっ!怒るよっ!?」
「あーっはっはっ!なに?お前って案外、褒められ慣れてないの?顔、あかーい」
「いいって、もう…ほら、もうすぐ着くよ」
揶揄われるのも、しょうがない…だって、自分でもこんな反応、子どもっぽいし素直じゃないって分かってる。
――けど、上手く受け流せないんだもの。
鳥居の手前まで着くと、そこからは慎重に歩を進める。
整備されているとは言え、山道をハイペースで下ったのだから、流石に呼吸が乱れた。
でも、前を歩く薫さんは、流石で全く疲れた様子を見せない。
「若いのに、もう息あがってんの?もうちょっと体鍛えた方が良いぞ?」
オレの様子を肩越しに確認して、薫さんは「動けるか?」ってこの後の戦いに備えて聞いてくる。
「一応、動ける。これでも、日々欠かさずランニングやってるんだけどね、薫さんとは鍛え方が違うみたい」
「じゃあ、今度一緒にトレーニングするか?何が足りないか、とか見てやれるかもだよ?」
「マジで?いいの?」
なんだか誘ってくれたことが意外で、友達に接するみたいに返事を返してしまった。
でも、薫さんは気にする様子もなく、そのまま受け答えをしてくれる。
「学校は基本、土日休みだろ?俺の非番と被る時に誘ってやるよ」
「じゃあ、オレの仕事のない日に!」
「あー、そうかお前モデルもやってたんだよなぁ…OK、じゃあその予定で。後で連絡先交換しようなー」
(友達感覚で話しても大丈夫…なのかな?)
フランクというか、薫さんは、たぶん仲間と認めた人には平等なんだ。
警察っていう、上下関係厳しい環境に居るんだから、本当なら生意気って注意されても仕方ないのに…、仕事とそれ以外は分けてて、私的な時は年下にタメ口使われても気にしない心の広さもあるんだろう。
だから、オレも気にしない、友達に言うみたいに話すことにする。
「うん!あのさ、あと、さとるっちも誘っていいかな?」
「アイツを?大丈夫かな…お前以上に体力無さそうだけど」
「だからこそ、じゃない?今回みたいに、いざって時のためにさとるっちも備えた方が良いと思うんだよ」
うーん?って一瞬考えて、後頭部を掻きながら、それでも薫さんは受け入れてくれる。
「まあ、予定が合えばだな――さて、どんな状況になってるか…なっ!?」
いよいよ鳥居に近づいて、ピタッと足を止める。
「なんだ、あれ?」って先に鳥居に近づいた薫さんが眉を顰めた。
オレも、その異様に気づいて目を細め、鳥居の足元をじっくり見つめる。
「何か動いてる?」
「うひぃっ!?え…えっ?俺、虫とかムリなんだけど!」
薫さんは正体に気づいてピョンッと後ろに飛び退いて、さらに二歩ほど後退した。
「意外なんですけど?!その見た目で虫ダメなの?まあ…アレは虫平気でも引くけどねー。どっから湧いたんだろ?」
鳥居の足元を黒々と染める、両掌サイズの虫。
ダンゴムシのような見た目だけど、甲羅みたいな硬さはなくて、脚もないから、そこは芋虫みたい。
よく聞くと、ガリリッ!パキッ!!と石を削るような齧ってるような音が聞こえる。
(鳥居を齧ってる?)
オレが観察していると、袖を引っ張られて、薫さんが首を横に振りながら言う。
「ダメ、気付いちゃったらもうムリ、これ以上近づけないぃぃー」
「よかったよねー、オレたち遠距離攻撃派で」
さっきと逆で、今度はオレが背中をヨシヨシってしながら落ち着かせる立場だ。
「えー…攻撃したら、アレ、襲ってこない?」
「そしたら吹き飛ばせばいいよ、サイズ的に”爆風”には耐えられないでしょ?しめ縄ないタイプの鳥居だし、跡形も無くすくらいの温度で焼いちゃえば?」
「ね?」って顔を覗き込む。
薫さんは、後頭部をまたガシガシって掻いて、まだ躊躇っている。
「鳥居に炎向けるのってなーんかバチ当たりな気がするんだよなぁ」
「大丈夫でしょ、なんでそうしてるのかは良くわかんないけど、鳥居に齧り付いて壊そうとしている虫の駆除なんだから神様も許してくれるって、たぶん!」
「ほーらぁ、がんばれー」って励ますオレに、「もう一声」って要求してくる薫さん。
「頑張ったら、お菓子あげるから!」
「お菓子…じゃあ、チョコレートがいい」
「え?チョコ??あ、うん、チョコね…後でチョコレートあげるから、頑張って!!」
(何故チョコレート?え?好物とか?マジ?意外だわー)
甘いものよりタンパク質!って言いそうなのにねって思いながらも、とりあえずやる気を出して貰うために、そこは突っ込まない事にした。
「まー…そうか、そうだよな、、、やるしかないよな?じゃあ、行くぞー」
「りょーかい!炎が出たら、追い風送って残らず殲滅だね」
ようやくヤル気を出した薫さんが、手のひらを鳥居に向けて突き出す。
一瞬、焦げ臭いような香りが空気を染めたかと思うと、ブワっと熱気が広がって、白い炎の玉が産み出される。
オレは、その炎の行き先を示すように腕の中で育てた風の渦を前方へと飛ばす。
――コォォォォッ!!
地面と平行に尾を引いて放たれた火球が鳥居にぶつかると、そこに集う可燃性のモノ…つまり蟲に燃え広がる。
(良い焼けっぷり)
焚火に当たった時のような、芯から温められるような熱と、うっかり鍋を焦がしてしまったときのような臭いが空気に広がる。
やがて、焔の中で、蟲は次々とボロッと崩れていき、それと共に徐々に炎は弱まって、後には真っ白に燃え尽きた灰が積もった。
それも、風に流されて霧散する。
「さて、残党は?」
顛末を見届けて、薫さんは辺りを見回しながら声を零す。
「上の方に逃げたのが居るね、風で吹き寄せてまとめるから、そこにファイヤーボールでっ!」
「なんかのゲームの初級魔法みたいなネーミングしないで、ねぇ?」
「えー、でも”炎の魔法”とか呼ぶのダサいじゃん、なんか」
「そうかなぁ?」
そんな会話をしながら、二つの風の渦を繰り出して、鳥居をよじ登って逃げた蟲たちを吸い上げる。
今度は、手のひらの中に発生させた炎を投球するように、薫さんが風の渦に放り投げる。
上昇気流に火柱が立ち上って、蟲たちは成す術もなく、また灰と化す。
たった3回、風の渦を生み出しただけでそこそこの魔力を持っていかれていることが感覚として分かる。
手のひらをグッパーって何回か動かして、オレは愚痴を漏らす。
「できればオレたちも先に精錬して欲しかったよねぇ…さとるっちが魔力の元みたいなの見つけるのヘタだから、見つけたタイミングでいいやって諦めてたけど、吾川さんが見つけてくれて、直ぐ製錬できるんならやって欲しかったな」
「まあまあ、戻ったらやって貰えばいいじゃん?」
そんな風に取り成してくれる薫さん。
ちょっと調子にのってイジってみちゃう。
「したらさぁ、薫さんの呪文みたいなのってどんなのになるんだろうね?」
「呪文とか言わなきゃダメ?まずその時点で痒いんだけど」
えーって薫さんが笑う。
(後頭部を掻くの、クセなんだろうなぁ)
「さあ?無くても行けるんならそれでもいいんだろうけど、あった方が周りに迷惑掛かんないよね、いきなり無詠唱で大技繰り出したら、オレらが逃げ遅れて丸焦げよ?」
「あー、そのための詠唱かぁー」
「だったら言わなきゃだよな」って、根はマジメなのがよくわかる。
ふと、薫さんの頭越しに邪の女の様子が見えた。
闇に溶けるような漆黒の羽、目玉のような赤い模様だけが不気味に発光している。
その羽から、地上に降り注ぐように、赤黒い粉が舞い降りる。
「あれ?第二フェーズかな、邪の女の辺りなんか…粉舞ってる」
「ん?どれ――本当だ、鱗粉?吸い込みたくねぇー」
反射的に、薫さんは袖口を手に当てて、心底イヤそうな顔をする。
「アレ吸ったらどうなるのかな?」
「考えるまでもなく、あんなの害にしかならないだろ?」
オレの知的好奇心を薫さんはバッサリと切り捨てる。
(まあ、たぶん、その通りではあるよね)
「だよねー。じゃあ、上手く行くか分かんないけどやってみる?粉塵爆発」
「は?粉塵――?なにそれ?」
この前、流行りの漫画を読んで、そういう現象があるって知った。
だから、似たようなこの状況で試してみたいなって思ってしまったんだ。
「粉と言えば!の大技だよ、もはやテンプレ」
「そうなの?」
「そうなの!空気+炎+可燃性の粉=爆発的炎上だよ、はい、この公式テストに出るよ!」
「どこのテストだよ」
(んー、なかなか良いツッコミ!)
でも、今は「だよね!」って言って欲しかった気もする。
だから、ちょっとだけ恨み言を言ってみる。
「大樹さんなら、だよねーって言ってくれそうなのになぁ…あと、吾川さん」
「――悪かったな、ノってやれなくて」
予想外にシュンとしてしまった薫さんに驚いて、計算違いに、今度はオレがオロオロする。
「気にしないでー。さっさとヤっちゃおう!お誂え向きに導火線もあることだし、ね!?」
上空の、魔力を吸うっていう黒い糸を指さしてみる。
薫さんは、眩しいわけでもないのに目の上に手のひらを翳して、オレの指す方を見上げる。
「なるほどっ、じゃあ、火種はそんなに大きくなくていいって事だな?」
オレが頷いたのに、頷き返して、指先に小さな炎を灯す。
「OK。じゃあ着火ー」
”(呪文が)あった方が周りに迷惑掛かんない”ってオレが言ったのを律儀に守って、ちゃんと声を発してくれたんだって気付いた。
実験のワクワクと、律儀な薫さんに上機嫌になって、オレは鼻歌交じりに風を腕の中で育てる。
「ふっふっふーん♪」
そして、黒い糸の導火線が、鱗粉の粉まで到達するタイミング――
そのギリギリまで抑え込んで、そして声と共に風を解き放った。
「いけーっ!」
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