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6.決戦の刻
5.綴られる物語ー天幸ー
「俺は別にね、鬼って言われても構わないよ。コレが外に解き放たれてしまった場合の被害を考えると、誹りを受けるくらいどうってことない。それで君の気が済んで、やる気を出してくれるならそれでいいよ」
それぞれに赴く仲間を見送った後、吾川さんは咲夜さんの背中に向かってそう語り掛けた。
コンクリートブロックを机替わりに、札に何かを書き込んでいる咲夜さんの動きが一瞬止まる。
「――どこまで見えてる?」
ふっと優しい笑みを浮かべて、額に手を持っていくと、吾川さんは問いに応える。
「ほぼ、見通せてる。でも、咲夜の視ていた映像のような未来じゃない。フローチャートのように散りばめられた事象から、最良を選んでいくような感じ」
その答えに、咲夜さんは肩をすくめて見せる。
「そっか吾川さんにはそう見えるのか…それはそれで、たぶん凄く疲れるでしょう?」
「心配してくれるんだ?」
「いや、その疲れを知っているだけ――集中するから」
「ん、ごめん、、、頼んだ」
2人にだけ分かる未来という結末。
どんなに壮絶な世界を視たんだろうか…推し量ることもできない。
邪の女に目線を移してから、吾川さんは口を噤んだままだ。
「吾川さん?」
「ああ、気にしないで。さあ、そろそろ邪の女から反撃が来るんじゃないかな?」
僕の問いかけに、吾川さんはピクッと反応すると、取り繕うようにそう言った。
嵐の前の静けさのようだ、、、
黒い糸が侵食してくる以外、攻撃はピタリと止まった。
僕は肯定の意を示して頷く。
「だよね、イヤな予感がする」
「覚醒が終わっていないのは、あと3人…いや、4人だね」
吾川さんは、目線は邪の女に向けたまま、方向性を変えて話し続ける。
「え?来音ちゃんと、薫さんと、侑李さんで3人じゃ?」
「あと、悟も残ってるでしょ?」
「え?僕?!」
自分も数に入っていることに驚いていると、「当たり前でしょー」って吾川さんがビシッとこちらに人差し指を突き付ける。
「自分自身は精錬できないとでも?自分磨きっていう言葉もあるじゃない?」
「なーんか使い方違う気がするんやけど?」
「違わないって!この状況を打破出来たら、ぜひ一回試してみよう」
邪の女に次のアクションが見受けられ、身構える。
吾川さんの言葉が終わるかどうかというタイミングで、邪の女の羽から粉のようなものが地表に降り注いだ。
「なにあれ?鱗粉?」
「遠距離からの範囲攻撃かい!厄介やなぁ」
鼻の頭をカシッと掻いて、ボヤく僕。
吾川さんは背中越しに指の動きだけで手招く。
「行くよ!先手必勝!!――空間鑑定・Particle Counter」
「お、新技!何か分かります?」
「うん、あの鱗粉みたいなのを吸うと、魔力が奪われるみたい」
「危なっ?!え、どうすれば?」
「んー、たぶん大丈夫」
吾川さんは余裕の表情で、お社より少し下方に位置する辺りに目線を移す。
僕もつられてそちらを向くと、太陽の光と見まごう明るい火柱が邪の女に目掛けて斜めに放射された。
――ドッ!オオオォン!!
鱗粉に次々に引火して、爆発的に広がった炎は巨大な塊となり邪の女の真下で破裂した。
――ギャッ!!ギシャアァァッ!?
辺りに焦げ臭いにおいが充満して、邪の女の叫びが鼓膜を震わせる。
「はい、出ました粉塵爆発!お決まりというか…鉄板ネタだよね」
「お決まりなん…?」
耳を擦りながら尋ねると、吾川さんは興奮気味に「そりゃあ、粉といったらこの戦法でしょー」って笑う。
「来音が薫にくっ付いて行ったでしょ?鱗粉まき散らすとか、粉の出るチャンスがあったらやるかもなって思ったんだよね」
「予測済みかーい!」って僕のツッコミにVサインで応える吾川さん。
その背後で、デカい影が迫っていることに気づく。
「あ…邪の女、落ちて――来る、うわ、来る!こっち来る!!?」
「次は俺たちの番だね、落ちてくれたなら手が届く」
鉄扇をパッと広げて、顔の前で翳す吾川さんは、どこかのご令嬢のように優雅だ。
空中に何とか留まろうとする邪の女は、ヨロヨロとしているがなかなか落ちてこない。
僕も手にした双剣の感触を確かめながら、咲夜さんへ泣き言をいう。
「いざって時は咲夜さんも応戦してくださいよー?!」
「それは無理だと思う。今、声かけても気づかないと思うよ」
ほらって顎で示されて、咲夜さんを覗き込むけど、僕という存在にまったく反応を示さない。
何やら美しい魔法陣みたいな模様が描かれていて、その周りを見たこともない文字で囲っていく作業中だ。
(細かっ!?毛筆で米粒大の文字て…もはや達人やな)
その真剣な横顔に、なんだか新鮮な感覚を覚え、ほわーって声が漏れる。
「咲夜さんって、雰囲気美人さんやなぁって思ってたけど、実際、ちゃんと美人なんよねって…今、思った」
「今頃?遅いなぁ―」
俺は知ってたよって表情で、何故か得意げな吾川さん。
長いまつ毛、真剣な表情なのになぜか優し気な瞳。
白い肌に房飾りのピアスが揺れている。
「できれば、こんな危ない得物じゃなくて、カメラ構えてたかったな」
「まあ、仕事中ならいつでも見られる姿じゃない、日常に戻ったらお願いしてみれば?」
「絶対モデル料請求してくるでしょ、あの人なら」
「まあ、そこは否定しない」
ふふっ、ははっ、って二人して笑い声が零れた。
吾川さんは、ひとしきり笑うと、扇をヒラヒラさせながら、片眉を下げた。
「それにしても、双剣と鉄扇って…近距離攻撃しかできないって、結構分が悪いよね」
「それこそ、今頃?だわー。もし、吾川さんとボクがやられたらどうするん?」
「全員の覚醒が終わらなかったら、今後確実に詰むよねー。何としても生き延びないと!」
――グギギッ、、、シャギャァアアッ!!
ついに邪の女が空中で堪えられず、急降下してくる。
僕はビックリして堪らず叫んだ。
「来たぁああっ!」
「もー、そんな大声出さないで!咲夜がビックリして筆を誤ったらタイムロスが発生するんだからね!」
「そうおっしゃっても、いきなりブワーって来られたら叫ばないのムリやってぇ…」
墜落をギリギリで回避して、邪の女は超低空飛行で突っ込んでくる。
――ギヤワワァァッ!!
「ほら、しっかりして、ちゃんと捌く!」
「ひぃぃぃぃっ、脚がいっぱい、ムリー!」
闇雲に、双剣を振り回して何とか迫って来る脚を退け、伸びてくる黒い糸も断ち切る。
すると――切ったその破片が、小さく丸まって行くと、ウゾウゾと動く蟲となった。
ダンゴムシと芋虫の間のような姿に怖気が走る。
「え…うっそだぁ」
「厄介な――これ、魔力に反応して食いに来てるぞ」
吾川さんが、自分に這い上がって来ようとする一体を扇で払いのける。
これを相手にしつつ、親玉の相手もあるのかと、投げ出して逃げたくなる。
精神的にも削られて、意気消沈しかけたとき、バッと立ち上がる姿があった。
「できたぁぁぁ!!っしゃ、行くぞ!――蜜月・反復・模写」
咲夜さんがそう命じると、手のひらの上に書き上げたお札を捧げ持つ。
そうすると、残りの短冊が自動的に浮き上がり、咲夜さんの周りをぐるりと囲んだ。
かと思うと、手元のお札が光り出し、その光に焼かれるように白紙の短冊に同じ文様がプリントされていく。
プリントが終わったお札は、静かに咲夜さんの手の中に納まって行った。
「咲夜だけ、呪文が3段なのなんでだろうね、、、そういえば大樹は何か呪文言ってたかな?あとで聞いてみよう」
吾川さんは見た目に反して蟲は平気そうで羨ましい。
動き続けて、体力も気力も消耗して、僕は顎を伝う汗をぬぐいながら呟く。
「何体?蟲だから何匹か…何匹倒した??」
「双剣は連撃入れないといけないから消耗が早そうだね、さあ、次は親玉もご登場のようだよ…俺達で太刀打ちできるか…」
先ほどの低空飛行のまま、ぐるっと回って再度こちらに狙いを定めた邪の女の突進が来る!
――ギャアアアァッ!
「大丈夫そうだね、咲夜が間に合った」
「え?あ…なんか、大樹じゃなくても”アニメみたい”って思っちゃうね、この光景」
吾川さんの声に誘導されて、視線を送ると、吾川さんの周りで宙に浮かんだお札。
人差し指と中指の二本をピシッとそろえて、咲夜さんはその指で邪の女を指し示す。
「行け、月宮・展開・鳥籠!!」
飛び立ったお札は邪の女の周りをぐるりと囲んで、放たれた光で格子のようなバードゲージを作り上げる。
――ガシャァァン!
進行方向にある格子に激突して、邪の女はついに地に落ちる。
「閉じ込めた…?」
「鳥籠というか、虫かごだな」
弱く羽ばたく邪の女の羽、再び立ち上がるにはまた相当魔力を収奪する必要がありそうだ。
黒い糸が魔力を探して伸びてこようとするけど、ゲージの外には出られないようで、バチンと弾かれる音がそこかしこで響く。
「おお、結界張れちゃったわ…」
出来ないと思ってたことができると、喜びよりもまず信じられない気持ちが先に来るんだなって咲夜さんの表情で知る。
「ほかの皆は無事だったかな?」って、吾川さんが残党の蟲を閉じた鉄扇で叩きつぶしながらお社の奥の方へ視線を向けた。
「僕、見てくるわ」
「一人で大丈夫か?」
咲夜さんは心配して聞いてくれたけど、吾川さんは顔の前で手を振って悪い笑みを浮かべていう。
「たぶん、悟なら大丈夫、悪運がとても強いはずだから」
「悪口!聞こえてるからなぁー」
僕は、道中の蟲を切り倒しながら言うと、吾川さんがハハッて笑う声が耳に届いた。
* * * * *
悟が去って、残った俺と咲夜。
邪の女を捕獲した鳥籠を前に、ポツリと咲夜が零す。
「吾川さん、ありがとうね」
「え?明日、雪振る?」
「えー酷い、オレ、お礼言わないキャラじゃないでしょー?」
「さあ、どうだかね」
「オレさ、夜烏が居なくてもう”視え”ないからさ…これからは吾川さんがオレたちに道を示してくれるかな?」
”夜烏が居ない”そう口にして、咲夜の目には涙が滲んでいた。
頭で理解しても、それを口に出して認める事はなかなか辛い作業だ。
「ゲームマスターも悪くないけど、たぶん、そうはならないと思うよ」
その涙に気づかない振りで俺は思わせぶりに告る。
「え?どういう事?」
「まあ、そのうち分かるから」
片眉をあげて、フフンって笑って見せると、
「え?ねえ、教えてくれてもいいでしょー」って食い下がってきた。
「さて、皆が戻ってきたら、撃退方法を確認しないとね」
「ねーえー、話変えようとしないでー」
もう、その瞳に涙はない。
気を逸らせたかなって、内心ホッとする。
「しつこいの、モテないよー」
「んー、つれないヒトっ!」
わき腹をツンツンと突かれたけど、無視して話を変える。
「待ってても仕方ないから、俺達も迎えに行こうか。俺は鳥居の方行くから、咲夜はご神木の方をお願い」
「はーい、はい。分かりましたよっ」
仕方ないなぁって言って咲夜は動き出す。
(こういう切り替えの早いところ、良いところだよね)
「気を付けてねー」
そういって、大きく手を振ると、真似して咲夜も手を振り返してきた。
「そっちもねー」
なんだかそのやり取りに胸が温かくなる。
どうか、この後、咲夜にもっと笑顔が戻りますようにって願った。
それぞれに赴く仲間を見送った後、吾川さんは咲夜さんの背中に向かってそう語り掛けた。
コンクリートブロックを机替わりに、札に何かを書き込んでいる咲夜さんの動きが一瞬止まる。
「――どこまで見えてる?」
ふっと優しい笑みを浮かべて、額に手を持っていくと、吾川さんは問いに応える。
「ほぼ、見通せてる。でも、咲夜の視ていた映像のような未来じゃない。フローチャートのように散りばめられた事象から、最良を選んでいくような感じ」
その答えに、咲夜さんは肩をすくめて見せる。
「そっか吾川さんにはそう見えるのか…それはそれで、たぶん凄く疲れるでしょう?」
「心配してくれるんだ?」
「いや、その疲れを知っているだけ――集中するから」
「ん、ごめん、、、頼んだ」
2人にだけ分かる未来という結末。
どんなに壮絶な世界を視たんだろうか…推し量ることもできない。
邪の女に目線を移してから、吾川さんは口を噤んだままだ。
「吾川さん?」
「ああ、気にしないで。さあ、そろそろ邪の女から反撃が来るんじゃないかな?」
僕の問いかけに、吾川さんはピクッと反応すると、取り繕うようにそう言った。
嵐の前の静けさのようだ、、、
黒い糸が侵食してくる以外、攻撃はピタリと止まった。
僕は肯定の意を示して頷く。
「だよね、イヤな予感がする」
「覚醒が終わっていないのは、あと3人…いや、4人だね」
吾川さんは、目線は邪の女に向けたまま、方向性を変えて話し続ける。
「え?来音ちゃんと、薫さんと、侑李さんで3人じゃ?」
「あと、悟も残ってるでしょ?」
「え?僕?!」
自分も数に入っていることに驚いていると、「当たり前でしょー」って吾川さんがビシッとこちらに人差し指を突き付ける。
「自分自身は精錬できないとでも?自分磨きっていう言葉もあるじゃない?」
「なーんか使い方違う気がするんやけど?」
「違わないって!この状況を打破出来たら、ぜひ一回試してみよう」
邪の女に次のアクションが見受けられ、身構える。
吾川さんの言葉が終わるかどうかというタイミングで、邪の女の羽から粉のようなものが地表に降り注いだ。
「なにあれ?鱗粉?」
「遠距離からの範囲攻撃かい!厄介やなぁ」
鼻の頭をカシッと掻いて、ボヤく僕。
吾川さんは背中越しに指の動きだけで手招く。
「行くよ!先手必勝!!――空間鑑定・Particle Counter」
「お、新技!何か分かります?」
「うん、あの鱗粉みたいなのを吸うと、魔力が奪われるみたい」
「危なっ?!え、どうすれば?」
「んー、たぶん大丈夫」
吾川さんは余裕の表情で、お社より少し下方に位置する辺りに目線を移す。
僕もつられてそちらを向くと、太陽の光と見まごう明るい火柱が邪の女に目掛けて斜めに放射された。
――ドッ!オオオォン!!
鱗粉に次々に引火して、爆発的に広がった炎は巨大な塊となり邪の女の真下で破裂した。
――ギャッ!!ギシャアァァッ!?
辺りに焦げ臭いにおいが充満して、邪の女の叫びが鼓膜を震わせる。
「はい、出ました粉塵爆発!お決まりというか…鉄板ネタだよね」
「お決まりなん…?」
耳を擦りながら尋ねると、吾川さんは興奮気味に「そりゃあ、粉といったらこの戦法でしょー」って笑う。
「来音が薫にくっ付いて行ったでしょ?鱗粉まき散らすとか、粉の出るチャンスがあったらやるかもなって思ったんだよね」
「予測済みかーい!」って僕のツッコミにVサインで応える吾川さん。
その背後で、デカい影が迫っていることに気づく。
「あ…邪の女、落ちて――来る、うわ、来る!こっち来る!!?」
「次は俺たちの番だね、落ちてくれたなら手が届く」
鉄扇をパッと広げて、顔の前で翳す吾川さんは、どこかのご令嬢のように優雅だ。
空中に何とか留まろうとする邪の女は、ヨロヨロとしているがなかなか落ちてこない。
僕も手にした双剣の感触を確かめながら、咲夜さんへ泣き言をいう。
「いざって時は咲夜さんも応戦してくださいよー?!」
「それは無理だと思う。今、声かけても気づかないと思うよ」
ほらって顎で示されて、咲夜さんを覗き込むけど、僕という存在にまったく反応を示さない。
何やら美しい魔法陣みたいな模様が描かれていて、その周りを見たこともない文字で囲っていく作業中だ。
(細かっ!?毛筆で米粒大の文字て…もはや達人やな)
その真剣な横顔に、なんだか新鮮な感覚を覚え、ほわーって声が漏れる。
「咲夜さんって、雰囲気美人さんやなぁって思ってたけど、実際、ちゃんと美人なんよねって…今、思った」
「今頃?遅いなぁ―」
俺は知ってたよって表情で、何故か得意げな吾川さん。
長いまつ毛、真剣な表情なのになぜか優し気な瞳。
白い肌に房飾りのピアスが揺れている。
「できれば、こんな危ない得物じゃなくて、カメラ構えてたかったな」
「まあ、仕事中ならいつでも見られる姿じゃない、日常に戻ったらお願いしてみれば?」
「絶対モデル料請求してくるでしょ、あの人なら」
「まあ、そこは否定しない」
ふふっ、ははっ、って二人して笑い声が零れた。
吾川さんは、ひとしきり笑うと、扇をヒラヒラさせながら、片眉を下げた。
「それにしても、双剣と鉄扇って…近距離攻撃しかできないって、結構分が悪いよね」
「それこそ、今頃?だわー。もし、吾川さんとボクがやられたらどうするん?」
「全員の覚醒が終わらなかったら、今後確実に詰むよねー。何としても生き延びないと!」
――グギギッ、、、シャギャァアアッ!!
ついに邪の女が空中で堪えられず、急降下してくる。
僕はビックリして堪らず叫んだ。
「来たぁああっ!」
「もー、そんな大声出さないで!咲夜がビックリして筆を誤ったらタイムロスが発生するんだからね!」
「そうおっしゃっても、いきなりブワーって来られたら叫ばないのムリやってぇ…」
墜落をギリギリで回避して、邪の女は超低空飛行で突っ込んでくる。
――ギヤワワァァッ!!
「ほら、しっかりして、ちゃんと捌く!」
「ひぃぃぃぃっ、脚がいっぱい、ムリー!」
闇雲に、双剣を振り回して何とか迫って来る脚を退け、伸びてくる黒い糸も断ち切る。
すると――切ったその破片が、小さく丸まって行くと、ウゾウゾと動く蟲となった。
ダンゴムシと芋虫の間のような姿に怖気が走る。
「え…うっそだぁ」
「厄介な――これ、魔力に反応して食いに来てるぞ」
吾川さんが、自分に這い上がって来ようとする一体を扇で払いのける。
これを相手にしつつ、親玉の相手もあるのかと、投げ出して逃げたくなる。
精神的にも削られて、意気消沈しかけたとき、バッと立ち上がる姿があった。
「できたぁぁぁ!!っしゃ、行くぞ!――蜜月・反復・模写」
咲夜さんがそう命じると、手のひらの上に書き上げたお札を捧げ持つ。
そうすると、残りの短冊が自動的に浮き上がり、咲夜さんの周りをぐるりと囲んだ。
かと思うと、手元のお札が光り出し、その光に焼かれるように白紙の短冊に同じ文様がプリントされていく。
プリントが終わったお札は、静かに咲夜さんの手の中に納まって行った。
「咲夜だけ、呪文が3段なのなんでだろうね、、、そういえば大樹は何か呪文言ってたかな?あとで聞いてみよう」
吾川さんは見た目に反して蟲は平気そうで羨ましい。
動き続けて、体力も気力も消耗して、僕は顎を伝う汗をぬぐいながら呟く。
「何体?蟲だから何匹か…何匹倒した??」
「双剣は連撃入れないといけないから消耗が早そうだね、さあ、次は親玉もご登場のようだよ…俺達で太刀打ちできるか…」
先ほどの低空飛行のまま、ぐるっと回って再度こちらに狙いを定めた邪の女の突進が来る!
――ギャアアアァッ!
「大丈夫そうだね、咲夜が間に合った」
「え?あ…なんか、大樹じゃなくても”アニメみたい”って思っちゃうね、この光景」
吾川さんの声に誘導されて、視線を送ると、吾川さんの周りで宙に浮かんだお札。
人差し指と中指の二本をピシッとそろえて、咲夜さんはその指で邪の女を指し示す。
「行け、月宮・展開・鳥籠!!」
飛び立ったお札は邪の女の周りをぐるりと囲んで、放たれた光で格子のようなバードゲージを作り上げる。
――ガシャァァン!
進行方向にある格子に激突して、邪の女はついに地に落ちる。
「閉じ込めた…?」
「鳥籠というか、虫かごだな」
弱く羽ばたく邪の女の羽、再び立ち上がるにはまた相当魔力を収奪する必要がありそうだ。
黒い糸が魔力を探して伸びてこようとするけど、ゲージの外には出られないようで、バチンと弾かれる音がそこかしこで響く。
「おお、結界張れちゃったわ…」
出来ないと思ってたことができると、喜びよりもまず信じられない気持ちが先に来るんだなって咲夜さんの表情で知る。
「ほかの皆は無事だったかな?」って、吾川さんが残党の蟲を閉じた鉄扇で叩きつぶしながらお社の奥の方へ視線を向けた。
「僕、見てくるわ」
「一人で大丈夫か?」
咲夜さんは心配して聞いてくれたけど、吾川さんは顔の前で手を振って悪い笑みを浮かべていう。
「たぶん、悟なら大丈夫、悪運がとても強いはずだから」
「悪口!聞こえてるからなぁー」
僕は、道中の蟲を切り倒しながら言うと、吾川さんがハハッて笑う声が耳に届いた。
* * * * *
悟が去って、残った俺と咲夜。
邪の女を捕獲した鳥籠を前に、ポツリと咲夜が零す。
「吾川さん、ありがとうね」
「え?明日、雪振る?」
「えー酷い、オレ、お礼言わないキャラじゃないでしょー?」
「さあ、どうだかね」
「オレさ、夜烏が居なくてもう”視え”ないからさ…これからは吾川さんがオレたちに道を示してくれるかな?」
”夜烏が居ない”そう口にして、咲夜の目には涙が滲んでいた。
頭で理解しても、それを口に出して認める事はなかなか辛い作業だ。
「ゲームマスターも悪くないけど、たぶん、そうはならないと思うよ」
その涙に気づかない振りで俺は思わせぶりに告る。
「え?どういう事?」
「まあ、そのうち分かるから」
片眉をあげて、フフンって笑って見せると、
「え?ねえ、教えてくれてもいいでしょー」って食い下がってきた。
「さて、皆が戻ってきたら、撃退方法を確認しないとね」
「ねーえー、話変えようとしないでー」
もう、その瞳に涙はない。
気を逸らせたかなって、内心ホッとする。
「しつこいの、モテないよー」
「んー、つれないヒトっ!」
わき腹をツンツンと突かれたけど、無視して話を変える。
「待ってても仕方ないから、俺達も迎えに行こうか。俺は鳥居の方行くから、咲夜はご神木の方をお願い」
「はーい、はい。分かりましたよっ」
仕方ないなぁって言って咲夜は動き出す。
(こういう切り替えの早いところ、良いところだよね)
「気を付けてねー」
そういって、大きく手を振ると、真似して咲夜も手を振り返してきた。
「そっちもねー」
なんだかそのやり取りに胸が温かくなる。
どうか、この後、咲夜にもっと笑顔が戻りますようにって願った。
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