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第3章「英雄を探して」

05,頼もしいパートナー

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「今はまだ詳しく話せないけれど、私は『名なしの英雄』が行方不明だってことを知っているわ。だから私もずっと探してきたのよ。そんな私と、カズの行動が似ていたから、疑問を持ったの」

 シアは、まっすぐ俺を見ている。

「もしかしたらカズも『英雄』を探しているんじゃないか、と思った。だから……」
「いつもついてきたのか。なるほど、俺が新しい情報を持っているかもしれないって考えたんだな?」
「……そうよ。今更だけれど、迷惑だったわよね。ごめんなさい」

 謝る態度すら堂々としていた。
 偽りを感じさせない。
 真摯と言ってもいいほど、シアは真正面から俺に向き合っていた。

「そんなカズに教団が接触して、即日ギルドも手のひらを返したでしょう?」
「英雄を探しているせいで国やギルドに警戒されていたはずの男の立場が急に変わった。そりゃ気になるよなぁ」
「そう。英雄の行方についてなにか進展があったから、対応が変わったんじゃないか、と思ったわ。教団があなたに依頼したのも、もともとあなたが英雄を探していて、何か掴んでいるからじゃないの?」

 さすがのシアも、本物の女神様から神託があって依頼になりました、なんてトンデモ事実には、調査も想像も届かなかったようだ。

 まぁ、真実はもっと奇天烈だけどね。
 異世界から来た俺が女神様と一緒になって、この世界で起こる「何か」に対処するために頑張ってます! とか、頭がおかしいと思われるよなぁ。

「こんなことが頼める立場ではないことはわかってるわ。でも、もしカズの目的が『英雄』を見つけることなら、一緒に連れて行ってほしいの。邪魔はしないし、私の目的は彼女に会って話をすることだから、それ以上は望まない」

 シアの言葉も態度も、信用に値するように思える。
 第一、たかが40日程度といっても、仲間として付き合ってきた相手だ。
 俺自身、すでにシアを信頼し始めている。

 それにシアと英雄の間には、なんらかの関係があるのは本当のようだ。

 これって俺から情報を引き出すために、カマをかけているのかな。
 わざと口を滑らせてみせて、一定の情報を持っていることをアピールしているのか?

 それはともかく、俺も決断のときだな。

「依頼である以上、守秘義務がある。それは分かってるよな? だから、英雄云々に関してはノーコメント。関係あるとも言えないし、ないとも言えない」
「……そう。そうよね。無理を言ってごめんなさい」

 シアは、かすかに自嘲気味の笑みを浮かべて、引き下がろうとした。

 ……らしくないなぁ、シア。
 ここはそうじゃないだろ?

「シア。英雄に関しては何も言えない」
「ええ、分かっているわ」
「だけど、一緒に来る分にはかまわないよ」
「え?」

 俺の言いたいことが伝わったみたいだ。
 うつむいていた顔を跳ね上げ、みるみるうちに瞳に生気が戻ってくる。

 これだけの告白を受けて、旅の同行を認めるということは、シアの質問に肯定で返したも同じことだもんな。

 俺はわざといつも通りに、軽口を叩いてみせる

「ダメって言ってもついてくる。それがシアだろ?」
「ッ! そ、そうよ。一緒に行くわ! 当然でしょ!」
「うん。知ってた。分かってた」
「なによ。その投げやりな言い方は! 私じゃ不満なの?」

 シアも合わせてきた。
 そうそう。この方が俺たちらしいよな。

「不満もなにも、残念だな。うん」
「え? なにが?」
「あの熱烈なアタックの裏にそんな思惑が隠されていたとは、ぜんぜん気が付かなかった。もうちょっとで俺のことを本気で好きなのかと勘違いするところだったよ」
「え……。あ、それは……」
「トリーシャやハリエットも焚き付けるからさ。もしかしたら、って思い始めていたのに」
「え、えっと。その。あ、あのね?」
「女の子って怖いな。もう騙されないぞ?」
「……だ、騙していたわけじゃないんだけど」
「うん。知ってるよ」
「え?」
「俺のこと、男扱いしてないだけだよなー」
「って、なによ! そもそもカズが私のことを女扱いしてないじゃない!」
「そんなことないぞー」
「またそんな投げやりな言い方で!」

 いつものノリで話している内に、シアも緊張がほぐれたみたいで、やっと自然に笑ってくれた。
 うん。やっぱり美人は笑っている方がいいよな。

 ……半分は怒りに満ちた野獣のような微笑みなので、生命の危険を感じるけど。
 からかいすぎるのはやめておこう。イメージワード8の大法術なんて、本気で死ねる。

 明日の出発も早いことだし、これ以上はシアの堪忍袋が切れそうでもあるので、俺はあてがわれた部屋に戻ることにした。

 ギルドはちゃんとシングルルームを2つとってくれたんだよ。
 ありがたや。昨晩のような苦行はもう経験したくありません。

「あ、シア。1つだけ忠告というか、約束ごとな」
「なに?」
「世間一般では、英雄は男ということになっているから。知ってると思うけど発言には気をつけて」
「あ……」

 シアは、何かに気がつき目を瞬かせると、噛みしめるように頷いた。

 まぁ、情報交換というか、サービスというか。
 さっきの発言のなかで、シアは英雄のことを『彼女』と呼んでいた。
 確信をもってそう言ったのか。それとも、本当に英雄が女なのか確認しようとしたのかは分からない。
 どちらにしても「英雄は女性で確実」ということを伝えて、シアの推理を認めておいたほうがいいだろう。
 
 これからは、一緒に英雄を探すパートナーだ。
 シアが持っている情報と今までの考察も頼りにしている、と伝えておくことは大切だと思う。

 どういう経緯で、シアがその真実にたどり着いたのか。
 それはもっと信頼してもらえたら、説明してくれるだろうし。

 今後を楽しみに、信じてもらえるように頑張るとするかな。

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