108界目の正直:異世界召喚はもうイヤだ!

阿都

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第3章「英雄を探して」

11,英雄失踪の真実

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「何から話せばいいかのう」
「全部に決まってる。洗いざらい話してもらおうか、この腹黒親父!」

 俺は、乱暴に怒鳴りながらも、笑みを消すことができなかった。
 ラドルもまたニヤリと笑って、肩をすくめる

「なんじゃ。久しぶりに会ったというのに、ひどい言い草だの」
「その久しぶりに会った仲間を試すような真似をしておいてよく言うよ」
「そういえば、あんなにかしこまったカズマ殿は、初めて会った頃以来じゃな」
「あっちの世界のラドルだと知っていれば、礼儀に気をもむこともなかったのに。ムダに精神すり減らしちまった」
「なぁに。たまにはそのぐらい気を使わんと、いざという時にぼろが出るぞ」

 ああ。このノリ。この雰囲気。
 本当に俺の知っているラドルだよ!

 腕相撲をするように、がっしりと相手の手をにぎる。
 前世界でラドルに教わった、戦友に会ったときの挨拶だ。

 ちくしょう。マジで涙が出そうなほど嬉しいんだけど。
 今まで108世界を巡ってきて、仲間に再会できた試しはなかった。
 なぜ召喚転生できたのか。誰が導いたのか、とか疑問は山ほどあるけれど、今この場では全部脇においておく。

 ラドルは俺にお茶を勧めて、一旦落ち着く時間をとると、表情を改めて話しだした。

「積もる話は後にして、まず結論からじゃな。カズマ殿が言った通り、この世界の英雄ティナはおそらく『向こう』にいる」
「おそらく?」
「うむ。はっきり言い切れないのは、彼女とほぼ入れ替わるように儂がこちらに来てしまったからじゃな。正確に言うと儂の魂が、じゃが」

 続くラドルの説明から、なんとなく状況が分かってきた。


 前世界で俺がヴァクーナに召喚されたその直後、再び召喚陣が描かれた。
 ラドルたちは、俺が戻ってきたのか、と思ったそうだ。
 しかし現れたのは、見知らぬ女戦士。

 その時、ラドルはその召喚陣の向こう側に、自分自身を見た。おそらく「こちら側のラドル」が英雄失踪の現場に駆けつけた時だろう。
 瞬間、意識がブラック・アウトし、気がつけば消えていく召喚陣と英雄の後ろ姿を見送っていたという。
 そして、かすかに見えた、向こう側で同様に驚いているもう一人のラドル。


「その時はさすがに状況が飲み込めずにおったのじゃがの。お嬢ちゃんたちや周囲の者たちの話を伺っている内に確信した。これは似て非なる世界じゃ、とな」

 前世界で、俺が「ヴァクーナ神の御使い」として召喚されて来たと、コリーヌから聞いていたこと。
 さらに目の前で実際に俺が召喚されたのを見ていなかったら、とても信じられなかった、とラドルは苦笑した。

 同時に召喚直後の状況を思い返してみるに、召喚陣を通ってきたというよりも、魂が入れ替わったといったほうが感覚的に正しいのではないか、と考えたようだ。

「儂らがいた世界には、こちらの世界の英雄ティナと、魂が入れ替わったこちら側のラドル・エル・クレーフェがいるということになる。しかし、確認する方法がないからの」
「じゃあ、貴族たちからの追求に、無言で応じたっていうのは……」
「一つはこちら側の状況が分からなかったから下手なことは言えないと判断したんじゃ。もう一つは、勝手に憶測させてその言動を観察することで、それぞれの意図と勢力図を見極めたかった。また、各勢力にティナを探し続けさせることで、情報収集を狙って、じゃな」

 うぉーい。さすが正義の狸親父。
 俺やシアが考えていたよりも、さらにいろいろ布石を打っているよ。

「もしかしたらお主もこちら側に来ているかもしれん。儂が『ラドルらしからぬ』行動をとっていると伝われば、何かしら接触があるだろうと考えたのじゃが、1年もかかるとは思わなんだ」
「俺がこの世界に来て、まだ60日ぐらいしか経ってないんだよ。なぜかは分からないけれど、時間にズレが生じたみたいだな」
「ふむ。そういうこともあるのか。世界を渡るなど奇跡を経験すると何が起こっても不思議ではないがの」

 ラドルは腕を組み、首をかしげた。
 これは俺にも分からないから、なんとも言えない。常に一方通行だった俺には、世界間の時間差なんて知りようがなかったからだ。
 この世界での魔王討伐が一年前だったと聞いたときも、そんなものなのか、としか感じなかった。

 しかし、今は違う。大きな疑問が湧いてきた。
 ラドルの言葉から想像すると、英雄ティナは身体を伴った異世界移動をして、しかもタイムラグがない。ティナの移動は、どっちの世界でも魔王を倒した直後だ。
 なのに、俺は魂データから肉体を構築する召喚転生で、しかも1年ものズレが生じている。

 なんだ、この違いは。
 ティナの異世界移動は、ヴァクーナの召喚転生とは違う御業なのか?
 とすると、ヴァクーナ以外の神によるもの?
 もしかしたら「本番の相手」の仕業か?

 考えに沈んだ俺に対して、ラドルが呟いた。

「さっきお主は、『英雄は真っ白な召喚陣に包まれて』と言ったのう」
「ああ。俺が召喚されたときもそうだっただろ?」
「……ティナの召喚陣は、黒い輝きじゃったぞ?」
「……黒?」
「うむ。間違いない」

 どうやら、本当にヴァクーナではないらしい。今まで経験した108回の召喚転生で、黒い召喚陣など一度たりともなかった。
 では、何が目的で英雄を移動させた?
 ラドルはなぜ魂が入れ替わった?

 謎が深まるばかりで、何も分からない。

「まだ60日しか経っていないなら、調べてはおらんか」
「何を? この世界の状況なら調べたけど」

 ラドルが男くさい笑みを浮かべて、俺を見る。
 これは何か隠し玉があるようだ。

「この世界に来たこと自体が、儂には不思議での。何か手がかりはないかと、ツテを頼って色々と調べてみた」

 召喚転生や異世界移動について、か?
 でも、あれはまさに神の御業。神話には出てくるかもしれないが、詳しい書物なんてあるはずないと思うのだけれど。

「たしかに異世界移動については、おとぎ話ぐらいしかなかったのう。しかし、異世界を垣間見る法術については情報があったぞ」
「は? 本当に?」
「うむ。しかも、儂らが知っている男の研究という話じゃ」

 異世界を覗くような、神の御業に近い無茶苦茶な法術について研究していて、しかも俺たちが知っている男?
 ……それって、一人しか思い浮かばない。

「もしかして師匠?」
「その通り。デズモンドじゃよ」

 大法術士デズモンド。前世界で俺に秘法術を指導してくれた師匠。
 どうやら英雄を探し出すには、この世界でも身元を隠してさすらっているだろう彼の助けが必要らしい。

 これはまた難問が出てきたなぁ……。
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