108界目の正直:異世界召喚はもうイヤだ!

阿都

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第3章「英雄を探して」

17,絆の自覚

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 豪華さはないけれど、十分にボリュームがある夕食が終わった。

 現在の当主であるクレーフェ伯は、領地の見回りでこの数日帰って来ていないそうだ。
 伯爵夫人とご子息とは挨拶を交わして、食事を共にした。

 前世界でも一度会ったことがあるけれど、やはり印象はそう変わらない。
 7歳にしては大人しいが、冒険者を前にして興味津々に瞳を輝かせているラドルの孫は、おしとやかで美しい夫人に連れられて、ダイニングルームを後にした。
 かなり残念そうだったな。きっと冒険の話が聞きたかったのだろう。

 そして、俺も心の底から残念に思った。
 彼がいれば、話を誤魔化せたのになぁ。

 ……シアの目が怖いです。

「ふふふ、カズ」
「は、はい。なんでしょうか」
「キリキリ喋ってもらいましょうか?」
「シ、シアさん、キャラが変わってませんか?」

 食後のお茶を優雅に楽しみながら、なんでこんなプレッシャーを放てるのか。
 まさにヘビに睨まれたカエルの俺に、腹黒タヌキが手を差し伸べる。

「まぁまぁ、そんなに力むものではないぞ、シンシアお嬢ちゃん。カズマ殿が隠し事をしていたのがそんなに気にいらんのか?」
「い、いえ。そんなつもりでは……」
「んん? なるほど、気に入らんのではなく、気になってしょうがないのか?」
「ッ! か、からかわないでください!」

 ラドルが年の功でシアの気をそらす。
 俺もラドルもこの世界の人間ではないから、あまり細かくは追求されたくはない。
 シアもさることながら、俺たちの様子を優しい笑顔で見つめているコリーヌがやばい。

 前世界で俺たちの参謀はラドルだったが、知恵者としてラドルのサポートをしていたのはコリーヌだった。
 特に人の心の機微を読む眼力はラドルですら舌を巻くほどで、さすが民を導く神官職に就いているだけはある、と感心したものだ。

 ……つまり、隠し事をしているときは、これほど恐ろしい存在はいないわけで。

 実際、さっきも今までのラドルが彼らしからぬことを、密かに案じていたと発言している。
 しかも、ただ「ラドルらしくない」ではなく、「私の知らないラドル様」というニュアンスだった。

 怪しむよりも心配するのがコリーヌの性格だから問題ないようにも思える。
 でも「異世界」というキーワードは英雄の失踪にも関わっているからなぁ。
 異世界人だとバレた時、頭がおかしい人だと思われるならまだいいけれど、英雄をこの世界から消した犯人とされたらたまらない。

 コリーヌはそう思わないかもしれないが、国家中枢の者たちは違うだろう。
 王族、教団、ギルドを敵に回したら、ヴァクーナの言う『*****』に対処する前に、俺の首が飛ぶ羽目になる。

 だからこそ、まずはあちらの世界に移動しているだろう英雄ティナと連絡できる手段を見つけることが肝心だ。
 コンタクトが取れればバレたとしても、今度は逆に俺たちが異世界人であることが「英雄を救える可能性」に見えてくるはずだから。

 あちら側のラドルとも接触できる。
 ラドルの考え通り、召喚陣の影響で魂が入れ替わったのかどうかも確認できるだろう。
 もしかしたら肉体ごと移動したティナとは違い、魂だけが入れ替わったラドルのほうがもとに戻せる可能性が高いかもしれない。
 それがティナを呼び戻す手がかりになるかも……。

 ……って、あれ? 魂が入れ替わる、か。
 なんか今、ひっかかったけど。
 なんだ?

「何をすっとぼけた顔しているのかしら?」
「え、あ! いえ、何でもないでございますよ?」

 やば! すっかり考え込んでいた。
 シアの視線がいつぞやのように、魔眼の域に達している!

 うぅ。また怒らせちゃったかなぁ。
 俺は、素直に謝ることにした。

「あー。ごめん。考え事をしていた」

 しかし、シアの返事は予想したものじゃなかった。

「……そんなこと分かってるわ。何度あなたが悩んでいる姿を見てきたと思ってるの? 私が言いたいのは、ね。ここまで来てまだ1人で悩むの? ってことよ」
「あ……」
「前にも言ったでしょう。『本当に助けが欲しい時は言ってよね』って」

 シアが少し悔しそうに唇を噛み締めている。
 でも、その瞳は明らかに俺のことを心配していた。


 さすがに。
 さすがにさ。
 ここまで言われて、態度に出されて、気がつかないほど鈍感じゃないつもりだ。

 そうか。そうだよなぁ。

 シアから望んだこととはいえ、旅の同行を許したのは俺の判断だ。
 ラドルのことが分かったのは今日だけど、シアからすれば騙されたように思えただろう。会見のために、散々下調べや対策を練ったのはなんだったのか、って怒っても当然だよな。
 さらにシアを助けた時にはかなり力を見せた挙句、ヴァクーナの使徒だなんて宣言してしまっている。彼女にしてみれば、まさに寝耳に水な爆弾発言だ。

 俺はシアを振り回してしまった。
 それでもなお彼女は俺を信じている。
 むしろ俺が1人で悩んでいると、心配までしている。

 なんだよ。それって完全な仲間じゃないか。
 もう、巻き込んだってレベルじゃないよな。

 シアは、この旅のパートナーだ。
 少なくとも英雄を見つけるまでは。

 本当に俺は脳筋だなぁ。
 きっと俺は、今の今まで、シアのことを「お世話になっている恩人」として見ていたんだ。

 これって、彼女に対してめちゃくちゃ失礼じゃないか!

「あのさ、シア」
「なによ?」

 シアはそっぽ向きつつも、視線だけはしっかりこちらを見ていた。
 俺は苦笑いしていることを自覚しながら、心から真剣に伝える。

「まだどうしても話せないことはある」
「ん。それは私も同じよ」
「うん、そうだな。でも今の時点で話せることは、全部説明するよ」
「本当に?」
「ああ、シアはこの旅のパートナーだ。最後まで付き合ってもらうからな」
「ッ! いいわ、まかせて!」

 ……。
 ……びっくりした。
 本当に驚いたんだ。

 シアが、すごくきれいな笑みを浮かべたから。

 今まで108世界を巡ってきても、こんなに嬉しそうな、きれいな笑顔なんて見たことはなかった。
 そのぐらいの破格の笑顔だった。

 言葉を失ってしまった俺の耳に、ラドルとコリーヌの面白そうな声が聞こえてくる。

「これはこれは。まさかのライバル出現かのう。『あちらのお嬢ちゃんたち』が血相を変える様が目に浮かぶわ」
「もしかしてカズマ様とシンシア様はそういうご関係なんですか? 素敵ですね!」
「……ううむ。違うと分かっていても『あのコリーヌお嬢ちゃん』の言葉とは思えんなぁ」
「? どういう意味ですか?」
「こちらの話じゃよ」

 ラドル、俺にも意味がわからないぞ?

 
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