108界目の正直:異世界召喚はもうイヤだ!

阿都

文字の大きさ
46 / 57
第3章「英雄を探して」

16,決意の表明

しおりを挟む
「実はギルドから馬6頭の殺害および誘拐未遂の件で、直接報告書と犯人が護送されてきまして」

 クレーフェ伯邸の応接間でテーブルを囲い、コリーヌの言葉に耳を傾ける。

「あまりの暴挙に、今まで主義主張の違いはあって当然とおっしゃっていた神官長もさすがにお怒りになりました。すぐさま教団内の調査を徹底的に行い、大方の者たちは拘束できたのですが……」
「一部、取り逃がしましたか?」
「……恥ずかしながら、その通りです」

 コリーヌは、深々と頭を垂れて謝罪した。

「野放しになった彼らがどのような行動に出るか分かりません。そこで急ぎ連絡をとるために参りましたが……」
「素晴らしく最悪なタイミングで入れ違いになった、と」
「本当にお役に立てずに申し訳ございません……」

 ますます小さくなっていくコリーヌ。さっきから置かれた茶すら口にしていない。

 でも、それはコリーヌのせいでも、教団のせいでもないと思う。
 教団は想像以上にやるべきことをやってくれている。
 まぁ、相当数の神官がヴァクーナから直接メッセージを受けているのだから、本腰を入れて取り組むのも当然かもしれないけれど。

 とにかく、そこまでコリーヌが恐縮することはないんじゃないかなぁ。

「私は特に気にしておりません。今回の誘拐に関しても私の油断が招いた面が大きいですし、教団の皆様のご厚意には感謝しております」

 そう返事して、コリーヌを落ち着かせる。
 だけど……。

「ただ私の独断とはいえ、シンシアを巻き込んでしまったことに関しては責任を感じております」
「ッ! カズ、それは私が……」
「今回は彼らを説得しました。しかし、もしまた同じような暴挙に出るなら、今度は手加減できません。教団には、そうなった時に彼らを討ってもいいという許可をいただきたい」

 できるだけ穏やかに要請したつもりだったけれど、コリーヌは少し表情を曇らせた。隣りにいるシアも身を固くしたのが気配で分かる。
 怒気が漏れてしまっただろうか。
 ラドルが片眉上げて俺を見たので、すまんと視線で謝った。

 逃げ出した奴らは、すでに破門されている。
 しかし教団に所属していた以上、正当防衛以外で生命を奪えばやはり問題になるだろう。

 そう。正当防衛以外で生命を奪えば。

 俺が教団に許可を求めたのは、今度襲われた場合はこちらから積極的に排除にかかりますよ、いいですね? という念押しのためだ。
 コリーヌはすぐに真意を理解したのだろう。だから、悲しそうにうつむいた。

 こちらの世界のコリーヌも、やはり俺の知っているコリーヌと同じだ。
 魔族であってもむやみに生命を奪いたくないと言っていた。しかし、そんな気持ちが通じる相手ではないことも十分すぎるほど理解していたから、歯を食いしばって戦っていた。

 コリーヌはそういう優しい女性だ。

 まして今回は人族で、同じ神官だった者たち。しかも、本来は神への信仰心がとても厚い人たちだ。こんな特殊な状況でなければ、神官として尊敬されていたかもしれない。
 そんな元同僚を、必要なら始末するので許可をくれ、という俺。

 ……分かっちゃいるけど、コリーヌの悲しそうな顔は見ていて辛いな。
 前世界での別れの時を思い出す。
 でも、これは譲れない。

 106回死に戻って、嫌というほど学んだ事がある。
 敵は魔族だけじゃない、ということ。
 ときには背後にいる人族こそ、最悪の敵になる場合もあるということだ。

 俺は英雄ではないし、救世主でもない。世界を覆すほどのチートな力も持ってない。
 どんなやつが来ても必ず仲間を守れるなんて自信は、これっぽっちもありゃしない。

 だから、せめて今隣りにいるシアやラドルを守るために、できることは全力でやらないといけないんだ。

 そのためなら相手が人族であっても倒す。
 魔族がはびこる異世界では、その覚悟がないと生き残れない。
 目的を達成できない。

 俺は黙ってコリーヌの返事を待った。
 全員が口を閉ざしたまま。
 カップから立ち上る湯気だけが、ゆらゆらと揺れている。

「……分かりました。神官長に伝えます。しかし、おそらく是とされるでしょう。それに相手は待ってくれません。ですから今この場で、私の名において認めます。後ほど書面をお渡ししましょう」

 コリーヌは迷いのない瞳で、しっかりと俺を見てそう言った。
 無言で頭を下げて、感謝の意を伝える。

 これだ。
 彼女はいつもそう。優しくて迷って傷つきやすいくせに、いざという時は素早く決断し、そしてその結果をためらいなく背負う。
 本当にこちらの世界でも、コリーヌはコリーヌなんだな。

 ラドルが、何故か俺を見てニヤリと笑った。
 ……なんだよ。何が言いたいんだ?

「さて、難しい話はひとまずここまでとしよう。コリーヌお嬢ちゃんも、シンシアお嬢ちゃんも部屋を用意するからくつろぐといい」

 ラドルの勧めで、ひとまず解散となった。
 シアとコリーヌはメイドさんに案内されて、応接間を出て行く。

「あ、ラドル様」
「なんじゃ?」

 扉から出ようとしたコリーヌが振り向き、珍しくいたずらっ子のような顔ではにかんだ。

「カズマ様とお知り合いだったのですか?」
「うむ。そうじゃが」
「ふふ、なんだかやっと私の知っているラドル様に戻ったように思えたので、ちょっと嬉しいです。あとでカズマ様のこと、教えて下さいね」
「あの。本人を目の前にそういう事を言うのは……」
「私も聞きたいわ。カズ、あなたからも、ね」
「……はい」

 シアとコリーヌが、視線を合わせて微笑み合う。
 なんだよ。なんで女性って、こういうときは一瞬で団結できるんだよ。

「ふむ。今宵の尋問は厳しそうじゃな」
「尋問って言うな。恐ろしすぎる」
「なら、審問か査問か? 詰問がいいかの?」
「……ただの雑談にしようよ」

 他人事のように面白がる腹黒爺を前に、俺は急速に襲いきた胃痛に苦しめられていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...