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第3章「英雄を探して」
21, 最悪の再会
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「ウソだろ!」
俺はポーカーフェイスもふっ飛ばし、跳ねるように立ち上がった。
シアも険しい目で音源を見やる。
突如。
本当に突然、クレーフェ邸の中庭あたりで膨大な魔力が現れた。
自慢じゃないが、106回も死に戻った俺は危険や気配には敏感だ。
霊力にしろ魔力にしろ、微弱な変化であっても感じ取る自信がある。
それこそ眠っていたって分かるぐらいには。
でも、一気に自信がなくなったな。
こんな馬鹿でかい魔力が、これほど近づくまで気がつかないなんて。
……いや、前にもあったな。こういうこと。
まさか、な。
俺は慎重に部屋の片隅に置いてあった鎧を着込んだ。
イヤな予感がする。
最低限の装備は着けておかないとまずい。こういうときの直感は当たるんだ。
俺は手甲の位置を調節しながら、今にも部屋着のままで飛び出そうとしかねないシアに声をかけた。
「着替えてこいよ、シア。俺が先に出て時間を稼ぐ。万全の装備で来てくれ」
「そんな悠長なこと言ってられないでしょう!」
「いや、この魔力は半端な対応じゃ返り討ちにあう。しっかり備えをしてくれ。それにうまくいけば時間差で不意打ちできるかもしれない」
シアは一瞬で意識を切り替えたようだ。すぐに部屋を駆け出していく。
そうだ。戦力の逐次投入のように思えても、見方を変えれば俺が囮になりシアが大法術で不意をつく奇襲作戦になる。ものは考えようだ。
俺もまた、速やかに部屋をでた。
離れの裏側の窓から出て、物陰に身を隠しつつ相手の魔力を探る。
おかしい。
攻撃したのはさっきの一撃だけか?
膨大な魔力はそのままに、1カ所にとどまっている。
しかし、この魔力。
……まさかな。
俺は、本当に。
ホントーに嫌な予感に、心臓から脂汗を垂れ流し始めていた。
地を這い、木の幹に寄り添い、屋敷の影に身を潜め、少しずつ魔力のもとに近づいていく。
そしてクレーフェ伯邸の外壁に背を貼り付け、身をかがめつつ慎重に襲来者を伺おうとしたその瞬間。
「みーつけた。やっと会えたわね、カズマ!」
目の前にヤツがいた。
予感的中。最悪だ。
頭に血が上る。視界が真っ赤になり、奥歯が嫌な音を立てた。
最小限の動きで抜刀。そのまま振り抜く。
「うふふ、危ない危ない。ご挨拶ね。久しぶりなのに」
かわされた。だが、そんなことはどうでもいい。
そのまま、勢いを殺さずに二閃。間を置かずにさらに三振り。
当たらないなら当たるまで振り続けるだけだ。
「ちょ、ちょっとちょっと! いきなり殺し愛? 熱烈すぎて! ふふっ、ステキ!」
「……ほざけ、悪魔」
耳に突き刺さるような金属音。同時に手に伝わる重く鈍い抵抗感。
俺の剣を弾き返す、細身だが強靭なサーベルのような魔剣。
このやろう。相変わらず剣を使うのか。悪魔のくせに。
俺の表情をどう見たのか。
ヤツは頬を上気させ、よだれを垂らさんばかりにだらしなく唇を歪める。
つややかな黒髪を振り乱し、紫の瞳を爛々と輝かせ、薔薇のように麗しい唇から白亜の牙を覗かせた。
初めて見る姿。そして馴染みがありすぎる、掴みどころのない変幻自在の魔力。
何度騙されたか、数えるのが億劫になる。
見ているのもおぞましい。頭が熱くなる代わりに胸の奥は凍えていった。
それに比例するように、霊力が無制限に高まっていく。
前世界で魔王と戦ったときのように。
しかし、俺が霊力を高めれば高めるほど、ヤツは瞳をうるませて舌なめずりをした。
貫くような視線を俺に向け、恍惚とした笑みを見せる。
「やっぱり。やっぱり到達したのね! 凄いわカズマ。あなた最高!」
「うるさい、黙れ」
「つれないわね。何度も一緒に戦った仲じゃない」
「同じ数だけ裏切り、俺を殺したやつがよく言う」
「だってしょうがないじゃない。あなたの魂が私を呼ぶんだもの」
まるで幼馴染の恋人にでも話しかけるような気安さで、綺麗な顔をみだらに歪ませた。
そうなのだ。
コイツは今まで107世界をめぐる中、何度も何度も俺を邪魔してきた悪魔。
姿を変え、魔力を霊力に見せかけ、気まぐれに現れては手伝い、必ず裏切って俺を殺す。
しかも順調に事が進み、魔王に手が届くかと思われる時に限ってだ!
「ねぇ。呼んでよ、私の名前」
俺が冷たく睨むほどに、やつはただれた笑みを浮かべた。
「お前、頭が沸いてるだろ」
知っているわけがない、とはね除ける。
コイツは常に違う姿、違う名前で現れた。共通しているのは、美しい女性であることだけ。
「だから、よ。やっとこの姿で会えたんだもの。だから呼んで。私の本当の名前」
隙きあらば斬りつけようとする俺を前にしているのに、ヤツは悠然と貴族のように礼をして、上目遣いで名乗った。
「私はクナンサティ。狭間の悪魔、クナンサティよ」
俺はポーカーフェイスもふっ飛ばし、跳ねるように立ち上がった。
シアも険しい目で音源を見やる。
突如。
本当に突然、クレーフェ邸の中庭あたりで膨大な魔力が現れた。
自慢じゃないが、106回も死に戻った俺は危険や気配には敏感だ。
霊力にしろ魔力にしろ、微弱な変化であっても感じ取る自信がある。
それこそ眠っていたって分かるぐらいには。
でも、一気に自信がなくなったな。
こんな馬鹿でかい魔力が、これほど近づくまで気がつかないなんて。
……いや、前にもあったな。こういうこと。
まさか、な。
俺は慎重に部屋の片隅に置いてあった鎧を着込んだ。
イヤな予感がする。
最低限の装備は着けておかないとまずい。こういうときの直感は当たるんだ。
俺は手甲の位置を調節しながら、今にも部屋着のままで飛び出そうとしかねないシアに声をかけた。
「着替えてこいよ、シア。俺が先に出て時間を稼ぐ。万全の装備で来てくれ」
「そんな悠長なこと言ってられないでしょう!」
「いや、この魔力は半端な対応じゃ返り討ちにあう。しっかり備えをしてくれ。それにうまくいけば時間差で不意打ちできるかもしれない」
シアは一瞬で意識を切り替えたようだ。すぐに部屋を駆け出していく。
そうだ。戦力の逐次投入のように思えても、見方を変えれば俺が囮になりシアが大法術で不意をつく奇襲作戦になる。ものは考えようだ。
俺もまた、速やかに部屋をでた。
離れの裏側の窓から出て、物陰に身を隠しつつ相手の魔力を探る。
おかしい。
攻撃したのはさっきの一撃だけか?
膨大な魔力はそのままに、1カ所にとどまっている。
しかし、この魔力。
……まさかな。
俺は、本当に。
ホントーに嫌な予感に、心臓から脂汗を垂れ流し始めていた。
地を這い、木の幹に寄り添い、屋敷の影に身を潜め、少しずつ魔力のもとに近づいていく。
そしてクレーフェ伯邸の外壁に背を貼り付け、身をかがめつつ慎重に襲来者を伺おうとしたその瞬間。
「みーつけた。やっと会えたわね、カズマ!」
目の前にヤツがいた。
予感的中。最悪だ。
頭に血が上る。視界が真っ赤になり、奥歯が嫌な音を立てた。
最小限の動きで抜刀。そのまま振り抜く。
「うふふ、危ない危ない。ご挨拶ね。久しぶりなのに」
かわされた。だが、そんなことはどうでもいい。
そのまま、勢いを殺さずに二閃。間を置かずにさらに三振り。
当たらないなら当たるまで振り続けるだけだ。
「ちょ、ちょっとちょっと! いきなり殺し愛? 熱烈すぎて! ふふっ、ステキ!」
「……ほざけ、悪魔」
耳に突き刺さるような金属音。同時に手に伝わる重く鈍い抵抗感。
俺の剣を弾き返す、細身だが強靭なサーベルのような魔剣。
このやろう。相変わらず剣を使うのか。悪魔のくせに。
俺の表情をどう見たのか。
ヤツは頬を上気させ、よだれを垂らさんばかりにだらしなく唇を歪める。
つややかな黒髪を振り乱し、紫の瞳を爛々と輝かせ、薔薇のように麗しい唇から白亜の牙を覗かせた。
初めて見る姿。そして馴染みがありすぎる、掴みどころのない変幻自在の魔力。
何度騙されたか、数えるのが億劫になる。
見ているのもおぞましい。頭が熱くなる代わりに胸の奥は凍えていった。
それに比例するように、霊力が無制限に高まっていく。
前世界で魔王と戦ったときのように。
しかし、俺が霊力を高めれば高めるほど、ヤツは瞳をうるませて舌なめずりをした。
貫くような視線を俺に向け、恍惚とした笑みを見せる。
「やっぱり。やっぱり到達したのね! 凄いわカズマ。あなた最高!」
「うるさい、黙れ」
「つれないわね。何度も一緒に戦った仲じゃない」
「同じ数だけ裏切り、俺を殺したやつがよく言う」
「だってしょうがないじゃない。あなたの魂が私を呼ぶんだもの」
まるで幼馴染の恋人にでも話しかけるような気安さで、綺麗な顔をみだらに歪ませた。
そうなのだ。
コイツは今まで107世界をめぐる中、何度も何度も俺を邪魔してきた悪魔。
姿を変え、魔力を霊力に見せかけ、気まぐれに現れては手伝い、必ず裏切って俺を殺す。
しかも順調に事が進み、魔王に手が届くかと思われる時に限ってだ!
「ねぇ。呼んでよ、私の名前」
俺が冷たく睨むほどに、やつはただれた笑みを浮かべた。
「お前、頭が沸いてるだろ」
知っているわけがない、とはね除ける。
コイツは常に違う姿、違う名前で現れた。共通しているのは、美しい女性であることだけ。
「だから、よ。やっとこの姿で会えたんだもの。だから呼んで。私の本当の名前」
隙きあらば斬りつけようとする俺を前にしているのに、ヤツは悠然と貴族のように礼をして、上目遣いで名乗った。
「私はクナンサティ。狭間の悪魔、クナンサティよ」
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