僕のイシはどこにある?!

阿都

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第一章 白道

旅は道連れ、世は情け……なし? その2

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 坂道をのぼりきると、すぐに車道にでる。
 さっきまで古道の雰囲気を色濃く残した石畳だったから、まるでタイムスリップしたみたいに感じた。

 この車道に寄り添う道が本来の通学路で、ここから5分も歩いていけば右手に我が学び舎の校門が見えてくる。
 当然、生徒の姿も増え、僕は唐突に自身のおかれた立場を自覚した。

 女の子と2人で登校。
 しかも、入学早々クラスで人気を集めている白道さんと。

 知り合いに見られたら。
 特にクラスメイトに見つかったら、非常にまずいのではないだろうか。

 こういう時は一番見つかりたくないやつに出会ってしまうのが法則というもので、僕は強烈な視線を感じて思わず振り向いた。

「おっす、ヨースケ。いやー今日はいい天気だね。いい朝だね。……そしていい身分だね」
「おはよう、達也。言いたいことは分かるけど、誤解だ。マジで落ち着いてくれ」

 爽やかに軽やかに挨拶かわしながら、問答無用に首を絞めてくるこいつは、風祭達也。
 僕が中学に転入した時からの友人で、ついでに現在クラスメイトという、まさに見られたくない人物の条件をこの上ないほど満たしている男だ。

 見た目は某アイドル事務所にだって入れるだろうレベルで、スポーツも勉強もそつなくこなし、男女問わず友人も多い。
 親友と言っていいほど仲良くつきあってきたやつだけど、とにかく軽いのが玉にきず。

 こいつに見られたからには、朝一番でクラスどころか学校中に知られる可能性だってある。

 とにかくまず誤解を解かないと。
 僕一人なら自業自得とも言えるけど、白道さんを巻き込んではシャレにならない。

 僕の必死な抵抗に少しは興味がわいたのか、達也は手の力を抜いて片眉をあげた。

「何か言い訳あるのか、ヨースケ?」
「言い訳も何も、たまたま道が同じで、たまたま時間が同じで、たまたま進む方向も同じだった。それだけだよ」
「ふ~ん。たまたまね」

 懸命に相槌を打つ。
 ここは瀬戸際。背水の陣。
 今踏ん張らないで、何時ねばるのか。

 視界の片隅では白道さんが、状況を掴めずに目を白黒させていた。

 達也はなんとなく僕と白道さんを交互に見やると、ついに手をほどき僕の目を覗き込んだ。
 右手にはスマホをかざして。……やっぱりSNS系アプリを開いてたな。

「お前がそこまで言うなら信じるけどな。ササラちゃんもよく分かってないみたいだし。ただし2度目はないと思え」
「オッケーわかった了解です。目がマジ怖いので、このぐらいで勘弁してください」

 今度は同意を示すために、ひたすら頷き返す。
 鼻息荒くふんぞり返った悪友は、これみよがしにスマホをしまい、横柄に僕の肩に手を置いて了承の意を表した。

 一段落したことを確認したのか、白道さんがおそるおそる声をかけてくる。

「えっと。風祭くん、おはよう。あの、ところで何の話なの?」

 本当にこの状況を理解していなかったのか。
 彼女は大きな目をさらにまんまるにして、僕たちの答えを待っていた。

 どうやら僕は、異性としてはこれっぽっちも意識されてはいないらしい。

 白道さんの質問を聞いて達也は小首を傾げたが、直後にすごくいい笑顔を浮かべ、僕の肩を何度も叩いた。

 言葉が無くても意味は通じる。
 ちょっと残念なのは事実だけど、ここまで露骨に同情されたくはない。

「悪いね、ササラちゃん。こっちの話」
「そうなんだよ。気にしないで、白道さん」
「? ならいいんだけど」

 疑問符を頭上に飛ばしながら、とりあえず納得してくれる白道さん。

 僕はその場の空気を変えたくて、とにかく歩き出した。
 ついてくる白道さんをはさんで一緒に歩く達也は、満面に笑みを浮かべている。

 まあ、当然かな。達也は入学式のときから白道さんに注目してたから。
 ちなみに、白道さんを『野菊』と例えたのはコイツだ。

 車道に出てからは、糸川高校はすぐだ。
 古い石垣が高校の敷地を取り囲んでいる。その塀にそって歩いていくと校門が見えてきた。

「なんだか騒がしいな」

 悪友の言葉を聞く前に僕も気がついた。
 門の周辺に人だかりができている。

 遅刻寸前って時間ではないし、何がおこっているのだろう。
 達也はすでにスマホをとりだして素早くタップしていた。

「なるほどね」

 友人から情報を得たのか。達也はスマホをポケットにおさめながら呟いた。
 無言で次の台詞を待つ僕と白道さんをスルーして、門へ向かう。

 軽い割に誠実なところもある達也がこんな行動をとる時は、見る方が早いってことだと知っている。
 百聞は一見に如かず、だ。

 近づくにつれて、集まっているのは僕たちと同じ1年生だと分かった。
 学生服やセーラー服の胸ポケットに縫い付けられている、プラスチック製の名札が緑色のラインで縁取られているから。

 人の群れに混ざって注目の中心を確認する。

 右の門柱のそばに机が一脚置いてあり、その後ろに二人の女生徒が立っていた。
 名札のラインは赤と青。2年生と3年生だ。

 机の上には、紙束とボールペン、その横には木製の標本箱。
 中に見えるのは……天然石?!

「パワーストーンに興味はない? 金運、勉強運、もちろん恋愛運まで、どんな運気も呼び寄せるわよ」
「部活が決まってない人、ちょっとでも興味があったらとりあえず来て見て触って感じてみて。今日の放課後、化学実験室で説明会しますー!」

 2人の先輩のきれいな声と笑顔に、周囲の同級生たちはざわめいた。
 机の前に貼ってあるポスターに大きく書いてある名前は『パワーストーン同好会』。
 って、PS倶楽部以外にもパワーストーンのサークルがあったのか。

「ヨースケ、お前、たしか石に興味あるんだろ。聞いてきたらどうだ?」

 達也が耳元でからかうように囁いてくる。

 こいつは僕の興味関心を知っていて、ことあるごとに茶化してくるんだ。
 大抵は一言だけで終わってしまうから、本気で馬鹿にしている訳ではないらしい。

 いつもの事だから僕も軽く流そうとしたとき、隣から白道さんのよく通る声が遮った。

「黄塚くんはPS倶楽部に入ったんだから大丈夫だよ。ね、黄塚くん」
「PS倶楽部?」

 反応したのは僕でも達也でもなく、人込みの中心で勧誘活動をしていた2人だった。
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