「きみのためを思って追放するんだ」と説教していた元婚約者が、いまになって戻って来てくれと懇願していますが、もう幸せになったのでお断りです。

草部昴流

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第四話

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「あーっ、すっきりしました!」

 青々と晴れわたった空のした、わたしは両腕を伸ばします。いつかの屈辱を晴らせて、心もまた晴天です。

 我ながら性格の悪いことかもしれません。でも、ずっとあのセリフを云ってやりたかったのです。きょう、それが果たせて、ほんとうに良かった。

 と。

「クレオーラさま!」

「クレオーラ姫、大丈夫ですか!」

 口々に叫びながら、たくさんの騎士さまたちが集まって来ました。皆、心配そうな表情です。

 どうやら王子がわたしを連れ戻しに来たということが噂として広まってしまったみたい。

 わたしはあっというまに、その数、じつに数十人に及ぶ騎士たちに取り囲まれていました。そのなかにはアドルノやエッカルトの顔もあります。

「はい、わたしは大丈夫ですよ」

 わたしがほほ笑みかけると、かれらはようやく安堵したようです。そのなかのひとり、豪勇で知られるある騎士が、まだ心配そうに訊ねて来ます。

「クレオーラさま、もしかして王宮へ帰っちゃうんですか?」

「え? いいえ。わたしは帰ったりしませんよ。ご迷惑でなければ、ずっとここにいます」

 そう答えると、幾人かの騎士さまたちが、露骨に胸を撫で下ろす様子でした。

 そんなにわたしのことを思ってくれていたんですね。ちょっと涙が出そうです。王子に宮廷を追放された、あのときですら流れはしなかった涙が。

「良かった。ぼく、クレオーラさまが出て行くつもりなら止めないとと思っていたんです」

「そりゃ、アドルノは、クレオーラさまが大好きだものな。年上好きか、おまえ」

「うるさいな! からかわないでくださいよ。あなただってクレオーラさまなしじゃ夜も明けないくせに」

「お、おれは、べつに――」

 騎士さまたちがわいわいと騒ぎ始めます。わたしはあたたかい感動で胸がいっぱいでした。ここに、幸せがある。わたしの幸せは、紛れもなくここに存在している。そう思ったのです。

 ここに来て良かった。わたしはこの素晴らしい人たちといっしょに暮らしていく。それで良い。それが、良い。心からそのように感じられました。

 わたしはいやがるアドルノを思い切り抱き締めてその髪をくしゃくしゃにしてやりながら、大きな声音で云いました。

「皆さん、ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いします!」

 だれのためでもない、わたし自身の幸せのために、この場所を決して離れない。わたしは、たくさんの心優しい仲間たちに囲まれて、心のなかでそう誓ったのです。

 宮廷を追放されてほんとうに良かった。

 そう、ここは辺境、王都から遥か離れたアーシス騎士団領。わたしは、この地で、騎士たちとともに生きていく。
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