輪廻、六つの道、いずれ誰が為にも不成(ならず)

獅子野 れいら

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第一章 日常の終わりと崩壊の始まり

2話 日常はもうとっくに終わったから。

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 ——何もしてこなかった。何一つやってこなかった。ただひたすら、自分の人生が有利に動く様にいつまでも容量だけはよく動いてきた。

その均衡が崩れ出したのは高校受験の年になってからだった。

成績はそこそこ優秀、スポーツの部活動もこれといって目立った形跡などないが、県大会ベスト4に入るくらいの能力を有するのは確固たる俺の強みにもなっていたし、クラスの中では人気者、俺の名を呼ぶ声が商店街に響き渡る。ちょっとした厄介ごとが起きればきっと彼がなんとかしてくれると、そうやってみんなが俺を頼りにした。

 そんな中でも、昔からの俺の親友でもある六道りくどういつきとは、周囲にも知れ渡る程に仲が良く、樹がいればどんな困難だろうと立ち向かえるくらいに如何なる時でも前に進む勇気を貰っていた存在だった。

 ——そんな俺の中で樹の死は自身の人生に於いて甚大な影響を与えた。そこからの自分の落ちぶれる様子は校区の住人達全てに喧伝された。無論、これはあいつが居なくなった事への同情等である。と思ってる。

 樹は、原因不明の失踪。そして、一週間後に死体で発見された。ニュースにまではならなかったが、昨年末はこの話で街中がその話題で持ちきりだった。樹も頭は冴えていて、ある程度普通の俺とは違って容姿端麗で、俺と同じくらい、いや、それよりも人気者だったからみんながショックで好きだった女の子に墓標の前で泣き喚く子も居た。

 何かに「挑戦する」事もやめ、立ち止まるまま、周りが変わっていく時の流れだけを見て、自分だけがこの時代に取り残された。

そう感じた俺は、遂に人生を為すがままに生きる、いや、人生を放浪すると言えば正しいのだろうか。とにかく、もう疲れたんだ。

幾つかの高校からスポーツ推薦を貰っていたが、それも全て断った。

もう、何もしたくなかった。

夢も希望もない俺に何をしろと?そう言わんばかりの対応で全てを跳ね除けてきた。

 挙句には担任の夕華梨ゆうかり先生にせめて高校には行ってくれと頭を下げて懇願までされる始末だ。今日も……また、最後の通常登校日の最後。残るのは一般入試のみだった。それも残りわずかの日にちで始まるから、間に合うとしてもその後の二次試験。無論行く気はないが。先生だけは、とことん縋りついてきた。明日卒業式だってのに、帰り際にわざわざ止められて。

「頼む!颯、高校にはせめて……、せめて!行ってくれ」

 手を合わせて頼み込む先生に対して、両肘を机について頭を抱える俺はボソボソと呟いた。

「……それも先生のポイント稼ぎみたいなもんなんでしょ」

「それが仕事だバカやろうっ。ははは!」

 アホらしい笑い声と、それを遮るかの様に夕焼けに囀る小鳥の鳴き声が、たった二人だけの教室で響く。

「……言ってろよ。俺はどこにも行かねえ、行ったって何もする事ねえもん」

 先生然り、誰かを卑下するつもりなんて毛頭ない。ただ、ひたすら自分自身が情けなかった。樹が居なければ何もできない事を自覚してから勉強机に身が入る事もなかったし、誰かに話しかけられる度にイライラが止まらなかった。もう誰も俺の事を見ないでくれ、話しかけないでくれと、何度思ったか……なんてセリフなど先生に吐ける度胸すら無かった。

 ただ、先生だけはいつまでも諦めてはいなかった。樹が死んでから四ヶ月もの間、放課後はずっと隣でバカみたいに笑って茶化してくれていた。

 毎日、樹の事で頭がいっぱいで、どうしようもなかった俺に、先生は俺の机に埋まるぐらいの地図を広げて一つの場所に指差した。

「なんだよこれ?」

「まあ見てみろ」

「これって……」

「何度か先生がさ、地理の授業で時間に余裕ができたら話してたの覚えてるよな?」

 そこに指された場所、確か……、

「先生の地元?」

「ああ、私はここの出身でな」

 俺はいつもの話かと、その話を黙らせる様に口を挟む。

「それ聞くのこの三学期で14回目な」

 正確な回数は覚えていなかったが大体これくらいは本当に喋っていた。

「まあ聞けって、ここのとある場所に行って欲しいんだよ」

「俺一人でか?」

 先生は小馬鹿にしながら話を続けた。

「アホか、中坊一人で68キロも離れた場所に行かせるバカな大人がどこに居る?」

「そこに居るじゃん」

「ははは!」

「なんで笑ってんだよ」

「先生も一緒に行くよ、途中までだけどな。それで、んー、そうだな、うん。私の家に泊まっていけ」

 突拍子な発言に、ついていた肘から顎が落ちる。

「はぁ⁈わけわからん、なんであんたの家に泊まる必要があるんだよ。別に興味ねえし行かねえよ」

 すると、夕華梨先生の顔がいつもより真剣な表情になった。いや、それどころかどこか曇っている様に見えた。
 
 少し間を置いて、先生は俺を見ていた顔を窓に向け、腕を組む。
そして、重たくなった口をゆっくりとあけた。

「……樹の死んだ原因が、その町にあるかも知れない」

 気がついた時には俺の瞳孔は完全に開いていた。
 は?嘘だろ?なんで今そんな事を?
 何一つとして言っている意味がわからず、彼女を凝視する表情の俺を差し置いて、先生は話を続けようとした。

「私が……アイツに話したから——」

 勢いのまま立ち上がり、先生の服の肩を思いっきり掴んだ。

「——おい、何言ってんだよ!どういう事だ?はっきり言え!樹はどうやって死んだんだ?何か知ってんのか!」

  曇る表情は頑なに、俺をどう慰めようかと考えていた。俺自身は身任せに胸ぐらを掴み直し、アイツが死んでから初めて、先生の顔を見た。

「……!」

 コイツ、目の周りめちゃくちゃ腫れてんじゃねえか。
 毎日泣いていたであろうその目は、四ヶ月の俺独りの時計の針をやっと動かした。

「あんた、もしかして……あん時からずっと……」
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