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2 10月25日
……見られた
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外に出て、校庭横を歩く。視界の隅に入り込んできた椿くんは、顔をあげて話をしているみたいに見えた。もしかしたら、先輩とまだ話しているのかもしれない。
とにかく、急に声をかけてくる先輩には驚いた。断ったし、もうきっと次はないと思う。大丈夫。
胸を撫で下ろして、ようやく落ち着いて来た気持ちに深呼吸を繰り返した。
家に帰ってきて部屋のドアを開けると、ツバくんが今日もつぶらな瞳で出迎えてくれる。
「ただいまツバくーん。今日はなんだか疲れちゃったよ」
大きなため息を吐き出して、あたしはカバンを置いて机の椅子に座った。
出来上がっていたハロウィンスーツをツバくんぬいに着せてみる。
「わぁ、かっこいい」
やっぱりツバくん似合うなぁ。嬉しくなって、沈んでいた気持ちが高まってくる。
「あ! 今日の日記も書かなくちゃ」
また忘れてしまっては大変だと、あたしはカバンから手帳を取り出した。
日記をつけることを習慣にするのは、なかなか難しくて、1日サボってしまうともういいやとなってしまう。そんな自分の性格を知っているから、思い出した時にやらないといけない。
椿くんと出会う前は3日と続いたことがなかったけれど、今は椿くんのおかげで毎日続いている。まぁ、その大半が「今日も椿くんが尊かった」の一言で終わりなのだけど。
もう一度椅子に座り直して手帳を開いた。
「なに、これ……」
時が止まったように動けなくなってしまう。
開いたのは、さっき教室で開きっぱなしにしていたページだ。
昨日の日記を書いて、そのままにして窓の外を眺めに行った。
あれほど日記を開く前は、周りを警戒して何度も誰もいないことを確認していたと言うのに、肝心の日記は無防備すぎた。
今日の日付のところに、見覚えのない文字が書かれている。
『千葉理人3年。ここに連絡ちょうだい。よろしく~』
綺麗な整った文字とSNSのメッセージIDが並んでいた。
「なにこれ!?」
思わずガタッと立ち上がってしまうと、目の前に置かれていたツバくんぬいがコロンと横たわる。
「……見られた」
全身の血が引いていくのを感じる。あの企みのある笑みをした理由が今わかった。先輩が椿くんを窓から呼んだことも。あたしのことをからかうためだ。そして、きっとこれを理由にモデルになれと脅される……いや、ちょっと待って。
深く息を吸い込み吐き出して、一度冷静になってみる。
そんなことをして、先輩にはなんのメリットがあるの? あたしが漫画やドラマのヒロインだったら、先輩が椿くんを推すあたしから自分の方に振り向かせようと、奮闘し始めるのかもしれないけれど、あたしは絶対そんなヒロイン的立場じゃない。
こんなのおかしい。やっぱりなにか、企んでいる、絶対に。
頭を抱えて座り込み、机にうつ伏せた。
やっぱり学校に手帳を持っていかなきゃよかった。後悔が押し寄せる。だけど、もう遅い。あたしは一体どうしたらいいんだろう。友達もいなくて、学校に行くのも単なる自分の将来の通過点で、その中で見つけた椿くんという光を、ただ平和に推し続けられたらそれで良かったのに。
あたしが一体何をしたって言うの?
16歳って、試練とかある歳なの?
そんなの知らないよ、もう、どうしたらいいのあたし。せめて、理人先輩が椿くんに日記のことを話していませんようにと祈るしかない。
教室と校庭での2人のやり取りをしっかり聞いておけば良かったと、また後悔する。
帰り際に見た椿くんの上を向く楽しそうな笑顔。きっとあんな嬉しそうな顔をしていたんだからあたしの話はしていない。うん、していない。
納得させようと必死になるけど、グルグルと頭の中はそのことばかりが気になって、夕飯も喉を通らなかった。
「ニコ、大丈夫?」
「うん、もう寝るね」
夕飯を終えて、心配する母に頷いて早めに布団に潜り込んだ。暗い部屋の中でまだ、あたしの頭の中は後悔が渦巻いていた。
結局、一睡もできずに朝を迎えた。
眠いはずなのに、目が冴えて思考が巡って眠れなかった。
「おはよう……」
ぼぅとする頭でリビングに行くと、父がのんびりとソファーに座って、溜め込んでいたアニメを見ている。母はあたしが来たことに気がついて、キッチンから出て来てくれた。
「おはようニコ。体調は平気?」
昨日早く寝たことを心配してくれているんだと思って、笑って頷いた。
そっか、今日は土曜日だ。学校は休み。一気に安堵して体がポカポカと眠気を誘い出す。
「トーストでいい?」
「うん、お願いします」
座ってあたたかいスープの入ったカップを両手で包み込むと、ホッとする。
「ニコ今日予定なにか入ってた?」
「ううん、別になにも」
サラダの入ったガラスの器とドレッシングボトルを手に、母が戻ってきて聞く。
「そしたら、まりあさんの所にこれ届けに行ってくれない?」
テーブルにサラダの器を置いて、パタパタとスリッパを鳴らしながら、リビングの戸棚前まで行く。
小皿にサラダを取り分けながら見ていると、母は綺麗にラッピングされた袋を持って戻ってきた。思わず、ため息をついてしまう。
どうしてあたしが。と、言いそうになってやめた。
「ニコの誕生日の時に色々してもらったお礼に焼いたチーズケーキ、気に入ってくれたみたいでね。今日まりあさんのお誕生日なんですって。だから張り切ってまた焼いたのよ。でも、お母さん今日用事があるから届けにいけなくて」
とっても困った顔をしてこちらを見ている。母の頼みを断ったことは今までない。そんなに難しい頼み事をしてくるわけじゃないから断ることもなかったんだけど、今回ばかりは少し考えさせてほしい。
「今日まりあさんち土曜日でお店忙しいだろうから、ほんと置いてくるだけでいいの。まりあさんにもそう言ってあるから」
「置いてくるだけ?」
「そう」
はい、ときつね色にこんがりと焼けたトーストをお皿に乗せて目の前に置いてくれた。
「……それなら」
「良かったぁ、お願いね。ニコの分のチーズケーキも冷蔵庫に入ってるからね。おやつに食べてね」
「うん」
両手を上げて喜ぶ母の姿を見つつ、トーストの表面にバターを塗った。
とにかく、急に声をかけてくる先輩には驚いた。断ったし、もうきっと次はないと思う。大丈夫。
胸を撫で下ろして、ようやく落ち着いて来た気持ちに深呼吸を繰り返した。
家に帰ってきて部屋のドアを開けると、ツバくんが今日もつぶらな瞳で出迎えてくれる。
「ただいまツバくーん。今日はなんだか疲れちゃったよ」
大きなため息を吐き出して、あたしはカバンを置いて机の椅子に座った。
出来上がっていたハロウィンスーツをツバくんぬいに着せてみる。
「わぁ、かっこいい」
やっぱりツバくん似合うなぁ。嬉しくなって、沈んでいた気持ちが高まってくる。
「あ! 今日の日記も書かなくちゃ」
また忘れてしまっては大変だと、あたしはカバンから手帳を取り出した。
日記をつけることを習慣にするのは、なかなか難しくて、1日サボってしまうともういいやとなってしまう。そんな自分の性格を知っているから、思い出した時にやらないといけない。
椿くんと出会う前は3日と続いたことがなかったけれど、今は椿くんのおかげで毎日続いている。まぁ、その大半が「今日も椿くんが尊かった」の一言で終わりなのだけど。
もう一度椅子に座り直して手帳を開いた。
「なに、これ……」
時が止まったように動けなくなってしまう。
開いたのは、さっき教室で開きっぱなしにしていたページだ。
昨日の日記を書いて、そのままにして窓の外を眺めに行った。
あれほど日記を開く前は、周りを警戒して何度も誰もいないことを確認していたと言うのに、肝心の日記は無防備すぎた。
今日の日付のところに、見覚えのない文字が書かれている。
『千葉理人3年。ここに連絡ちょうだい。よろしく~』
綺麗な整った文字とSNSのメッセージIDが並んでいた。
「なにこれ!?」
思わずガタッと立ち上がってしまうと、目の前に置かれていたツバくんぬいがコロンと横たわる。
「……見られた」
全身の血が引いていくのを感じる。あの企みのある笑みをした理由が今わかった。先輩が椿くんを窓から呼んだことも。あたしのことをからかうためだ。そして、きっとこれを理由にモデルになれと脅される……いや、ちょっと待って。
深く息を吸い込み吐き出して、一度冷静になってみる。
そんなことをして、先輩にはなんのメリットがあるの? あたしが漫画やドラマのヒロインだったら、先輩が椿くんを推すあたしから自分の方に振り向かせようと、奮闘し始めるのかもしれないけれど、あたしは絶対そんなヒロイン的立場じゃない。
こんなのおかしい。やっぱりなにか、企んでいる、絶対に。
頭を抱えて座り込み、机にうつ伏せた。
やっぱり学校に手帳を持っていかなきゃよかった。後悔が押し寄せる。だけど、もう遅い。あたしは一体どうしたらいいんだろう。友達もいなくて、学校に行くのも単なる自分の将来の通過点で、その中で見つけた椿くんという光を、ただ平和に推し続けられたらそれで良かったのに。
あたしが一体何をしたって言うの?
16歳って、試練とかある歳なの?
そんなの知らないよ、もう、どうしたらいいのあたし。せめて、理人先輩が椿くんに日記のことを話していませんようにと祈るしかない。
教室と校庭での2人のやり取りをしっかり聞いておけば良かったと、また後悔する。
帰り際に見た椿くんの上を向く楽しそうな笑顔。きっとあんな嬉しそうな顔をしていたんだからあたしの話はしていない。うん、していない。
納得させようと必死になるけど、グルグルと頭の中はそのことばかりが気になって、夕飯も喉を通らなかった。
「ニコ、大丈夫?」
「うん、もう寝るね」
夕飯を終えて、心配する母に頷いて早めに布団に潜り込んだ。暗い部屋の中でまだ、あたしの頭の中は後悔が渦巻いていた。
結局、一睡もできずに朝を迎えた。
眠いはずなのに、目が冴えて思考が巡って眠れなかった。
「おはよう……」
ぼぅとする頭でリビングに行くと、父がのんびりとソファーに座って、溜め込んでいたアニメを見ている。母はあたしが来たことに気がついて、キッチンから出て来てくれた。
「おはようニコ。体調は平気?」
昨日早く寝たことを心配してくれているんだと思って、笑って頷いた。
そっか、今日は土曜日だ。学校は休み。一気に安堵して体がポカポカと眠気を誘い出す。
「トーストでいい?」
「うん、お願いします」
座ってあたたかいスープの入ったカップを両手で包み込むと、ホッとする。
「ニコ今日予定なにか入ってた?」
「ううん、別になにも」
サラダの入ったガラスの器とドレッシングボトルを手に、母が戻ってきて聞く。
「そしたら、まりあさんの所にこれ届けに行ってくれない?」
テーブルにサラダの器を置いて、パタパタとスリッパを鳴らしながら、リビングの戸棚前まで行く。
小皿にサラダを取り分けながら見ていると、母は綺麗にラッピングされた袋を持って戻ってきた。思わず、ため息をついてしまう。
どうしてあたしが。と、言いそうになってやめた。
「ニコの誕生日の時に色々してもらったお礼に焼いたチーズケーキ、気に入ってくれたみたいでね。今日まりあさんのお誕生日なんですって。だから張り切ってまた焼いたのよ。でも、お母さん今日用事があるから届けにいけなくて」
とっても困った顔をしてこちらを見ている。母の頼みを断ったことは今までない。そんなに難しい頼み事をしてくるわけじゃないから断ることもなかったんだけど、今回ばかりは少し考えさせてほしい。
「今日まりあさんち土曜日でお店忙しいだろうから、ほんと置いてくるだけでいいの。まりあさんにもそう言ってあるから」
「置いてくるだけ?」
「そう」
はい、ときつね色にこんがりと焼けたトーストをお皿に乗せて目の前に置いてくれた。
「……それなら」
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