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2 10月25日
ツバくんと夕日
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風が、サラサラになった髪の毛を舞いあげる。今ならシャンプーのCMにも出れそうだ、なんてことを思いながら、あたしは家に帰った。
部屋の中で待っていたのは、ヴァンパイアの服を着たツバくんぬい。
「ただいま、ツバくん」
いつものあいさつをして、かけてあった厚手のカーディガンを制服の上から羽織る。10月も終わりだと、日中は秋の日差しがまだまだ強くて暖かくても、夕方は一気に気温が下がる。
気がつけば、今日は10月31日。ハロウィンだ。ツバくんぬいと夕日。やっぱり、しっかり理人先輩には日記を見られていたと、また落ち込む。
でも、いい場所とは一体、どこだろう。
トートバッグに、座らせるようにツバくんぬいを丁寧に入れて、スマホを確認する。
理人先輩が指定してきたのは、学校の校庭。いつも見ていたあの景色。あたしが思い描いていたツバくんぬいと夕日が、撮れるかもしれない。
期待を胸に向かうと、校庭に人影を見つけた。傾き始めた夕日が、ちょうどよく校庭を照らしている。光を浴びて走る姿。毎日放課後に見ていた、椿くんの走るフォームに似ている。
遠くから、じっとその姿を見つめた。
「椿のフォーム綺麗だよな」
後ろから聞こえてきた理人先輩の声に驚きながらも、あたしはキラキラと輝くように走る椿くんから目が離せない。
やっぱり、こうして見ているだけであたしは幸せだ。こんなに胸の奥がぎゅっと満たされる。話せなくても、目が合わなくても、そんなの別にいい。
「ツバぬい持ってきた? 撮ってあげるよ。ニコちゃんも一緒に」
「え、あたしも一緒に?」
「そう。ニコちゃんが変われる第一歩」
あたしが、変わる?
あたしは、変わりたいなんて、思っていない。今のままで十分だ。
「ほらほら、ツバくんとスマホを先輩に貸しなさい」
急かすようにトートバッグを指さすから、あたしはそっとツバくんを取り出した。
「うわ、かっわいー! 椿そっくりじゃん! えー、俺もほしいなこれ。あ、ちょっと夕日沈んじゃう! ほらほら、そこに立ってこっち向いて!」
「え、あ、はい」
やっぱり、あたしは流されてしまう。
「はい、撮るよー!」
でも、理人先輩が撮ってくれた写真は、自分でいつも撮ってきたツバくんぬいとの写真よりも、ずっとずっと椿くんとの距離が近くて、遠くに夕日に照らされて走る椿くんが、一緒に写ってくれたような感覚になる。
「……ありがとうございます」
なんだか、泣きそうだ。
「え! まさか、泣いてる?」
驚く理人先輩の声に、あたしはズッと鼻を啜った。
「な、泣いてない、です!」
目が潤んだだけだ。きっと、前髪を切ったせいでそう見えるだけ。瞳に夕日の煌めきが、映り込んだだけだ。
「健気~」
よしよしと頭を撫でてくれる先輩の手が、あたたかい。
椿くんに近づけるってことが、こんなに嬉しいなんて思ったのは、今日が初めてだった。
部屋の中で待っていたのは、ヴァンパイアの服を着たツバくんぬい。
「ただいま、ツバくん」
いつものあいさつをして、かけてあった厚手のカーディガンを制服の上から羽織る。10月も終わりだと、日中は秋の日差しがまだまだ強くて暖かくても、夕方は一気に気温が下がる。
気がつけば、今日は10月31日。ハロウィンだ。ツバくんぬいと夕日。やっぱり、しっかり理人先輩には日記を見られていたと、また落ち込む。
でも、いい場所とは一体、どこだろう。
トートバッグに、座らせるようにツバくんぬいを丁寧に入れて、スマホを確認する。
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期待を胸に向かうと、校庭に人影を見つけた。傾き始めた夕日が、ちょうどよく校庭を照らしている。光を浴びて走る姿。毎日放課後に見ていた、椿くんの走るフォームに似ている。
遠くから、じっとその姿を見つめた。
「椿のフォーム綺麗だよな」
後ろから聞こえてきた理人先輩の声に驚きながらも、あたしはキラキラと輝くように走る椿くんから目が離せない。
やっぱり、こうして見ているだけであたしは幸せだ。こんなに胸の奥がぎゅっと満たされる。話せなくても、目が合わなくても、そんなの別にいい。
「ツバぬい持ってきた? 撮ってあげるよ。ニコちゃんも一緒に」
「え、あたしも一緒に?」
「そう。ニコちゃんが変われる第一歩」
あたしが、変わる?
あたしは、変わりたいなんて、思っていない。今のままで十分だ。
「ほらほら、ツバくんとスマホを先輩に貸しなさい」
急かすようにトートバッグを指さすから、あたしはそっとツバくんを取り出した。
「うわ、かっわいー! 椿そっくりじゃん! えー、俺もほしいなこれ。あ、ちょっと夕日沈んじゃう! ほらほら、そこに立ってこっち向いて!」
「え、あ、はい」
やっぱり、あたしは流されてしまう。
「はい、撮るよー!」
でも、理人先輩が撮ってくれた写真は、自分でいつも撮ってきたツバくんぬいとの写真よりも、ずっとずっと椿くんとの距離が近くて、遠くに夕日に照らされて走る椿くんが、一緒に写ってくれたような感覚になる。
「……ありがとうございます」
なんだか、泣きそうだ。
「え! まさか、泣いてる?」
驚く理人先輩の声に、あたしはズッと鼻を啜った。
「な、泣いてない、です!」
目が潤んだだけだ。きっと、前髪を切ったせいでそう見えるだけ。瞳に夕日の煌めきが、映り込んだだけだ。
「健気~」
よしよしと頭を撫でてくれる先輩の手が、あたたかい。
椿くんに近づけるってことが、こんなに嬉しいなんて思ったのは、今日が初めてだった。
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