毎月25日は椿くん感謝デー

佐々森りろ

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3 11月25日

ユリカの正体

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「こんにちは」

 お店の中に入ることにはもうすっかり慣れてしまって、あたしはそっとドアから覗き込みながら店に足を踏み入れた。

「いらっしゃいませー、あら、ニコちゃんっ。今日は奥の部屋でミーティングらしいわよ」
「……み、みーてぃん? ぐ?」

 お客様の髪を切りながら、まりあさんが奥の部屋へどうぞと微笑んでくれる。
 あたしは「お邪魔します」とお辞儀をしてから、この前も一度お邪魔した、奥の部屋へと向かった。

 ドアを開けると小上がりになっていて、靴を脱ぐのだけど、そこにすでにローファーが一つ、きちんと揃えて置かれていた。大きさ的に、女の子のものだ。
 おそるおそる中に入ると、部屋の中にはきちんと正座をして座る女の子の姿。
 さらりとした、いっさい癖のないストレートな黒髪が胸元まですとんっと落ちて、前髪は眉上で真っ直ぐに切り揃えられている。アイラインを引いたようなぱっちりとした大きな二重の瞳に、長いまつ毛。横顔だけですぐに、誰なのか分かった。

「……一条、さん?」

 あたしが小さく呟くと、スマホに落としていた視線がこちらに向いた。

「あ! きたきたぁー! ニコりーんっ!」

 さっきまでの厳かな雰囲気を一気にぶち破って、一条さんは高い声で笑顔で言った。

 ニコ、りん?

 圧倒的な威圧感に、あたしはこれ以上足が進まない。

「こっちおいでよー! 今、リヒがニコりんの分もお茶淹れてくれてるから、すぐくると思うよ」

 手招きされても、状況が状況だ。
 なにこれ? って言葉が、あたしの頭の中で増えていく。謎のメッセージの送信相手の名前は、ユリカ。そして、あたしの知っているユリカは、この人、一条百合香だ。
 まさか本当に本人だったなんて予想外すぎるし、あ、いや、想像の範囲内だったのかもしれないけれど、だけど、一条さんとはなんの接点もないあたしが、なんで彼女からメッセージを貰わないといけないのかも、よく意味がわからない。

 そして、この人、今理人先輩のことをリヒって言った?
 え? 知り合い? 友達なの? 陽キャ繋がり?

 疑問が頭の中を駆け巡って、オーバーヒートしそうだ。

「あ、ニコちゃんいらっしゃーい。そんなとこ突っ立ってないでこっちおいでー」

 トレーに2人分のマグカップをのせて理人先輩がやってきた。
 そして、呑気にそんなことを言うから、2人のことを交互に信じられないと言った顔をしながらあたしは見る。

「いきなりびっくりするよね。ユリカ、ニコちゃんにまだなにも言ってないんでしょ?」
「言ってないし。だって内緒なんでしょ? あたしだって約束ごとぐらいは守れるから」
「まぁ、内緒って言うか、2人はクラスメイトなんだし仲良くしてもらっていいんだよ?」
「お弁当は一緒に食べたよ。ねっ」

 同意を求められて、あたしは勢いに流されて頷く。決してあたしの意図ではないけれど。

「へぇ、仲良しじゃん」

 安心するみたいに「良かった」と微笑み座り込む理人先輩に、あたしは『一回きりの無理やりお弁当会だったし、仲良しではないのですが』と言いたいのを心の中でとどめる。そんなことを言って、一条さんのことを怒らせでもしたら、今後のあたしの生活が危ぶまれるから。
 ずっと入り口に立っているのもなんだか良くない気がしてきて、そろそろと2人から少し距離をとって座った。

「はい、どうぞ」

 マグカップを目の前に置かれて、あたしは軽く会釈をした。

「あと1人くるから、寛いでいようねー」

 のんびりマイペースに理人先輩がそんなことを言う。

 あと1人!? この状態でもあたしは今すぐ帰りたい衝動に駆られているって言うのに、あと1人くるの!? だれ!? だれ!? だれなの!?

 もはや、心の中は大パニックだ。
 チラリと視線を2人にむけてみれば、どこかの貴族のお茶会にでも呼ばれたんじゃないかと思うほどに、華やかな世界でお茶を啜っている。完全に場違いなあたしは、身を縮ませるしかない。
 2人の仕草の1つ1つが優雅で、表情は優美で、まるでここが宮殿なんじゃないかと妄想が膨らんでしまう。膨大な情報量に脳内が疲れを感じ始めた頃、カタンっと音がして、「お邪魔します」と控えめな男の子の声が聞こえてきた。

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