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3 11月25日
もうやめよう
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椿くん、もしかしたらもう先に行っちゃったのかな。
駅のホームを眺めてがっかりしながら、踵を返した。
「……如月、さん?」
振り返ってすぐ目の前に、椿くんがいた。
驚き過ぎて、動きがぴたりと止まってしまう。
いつもの制服姿じゃなくて、私服だ。しかも、あたしがツバくんぬいに編んであげたグリーンのカーディガンにそっくりな色合いのカーディガンを着ている!?
え、かわいい……!
思わず、口からこぼれてしまうんじゃないかと思うくらいに感動してしまって、あたしは心の中で叫んだ。
「今日は私服だからかな、雰囲気全然違うね」
椿くんの頬が緩んで、ほんのり赤らむ。
照れる椿くんなんて、今まで見たことがない。尊い照れ顔にシャッターを切りたい衝動に駆られながら、あたしは記憶に残すべく、瞬きで瞳のシャッターを切り続ける。あたしの瞳に! 脳裏に! 焼き付け、椿くんの照れ顔!
「行こっか?」
向きを変えた椿くん。照れ顔をしっかりと目に焼き付けたあたしは、大満足かもしれない。もう帰って日記をつけて、今日は終了で良いです。
「如月さん? 行くよー?」
少し離れた場所から、椿くんがあたしの名前を呼ぶ。
あれ? いつの間にそんな遠くへ?
そして、そんな大きな声で名前を呼ぶなんて、なんだか嬉し恥ずかしい。
つい、周りを見回してしまうけれど、誰もあたしを気にする人などいない。みんな目的地に向かって足を進めている。
あたしだけが、椿くんの一挙手一投足に過敏に反応しているだけだ。
こんなことで、あたしは無事に椿くんと誕プレ探しができるのだろうか。
「そんな離れて歩かなくてもよくない?」
椿くんの3歩後ろをついてゆく。控えめに、奥ゆかしく。なんてことはない。ただ単に隣を歩くことが恐れ多いだけのこと。
「一緒に出かければ少しは俺に慣れてくれるかと思ったけど、なんか、ごめんね」
「え! あ、いや、そんなこと」
なんで椿くんが謝るの!?
あたしが後ろを歩きたくてこうしているだけなのに。
そもそも、椿くんに慣れるってなに? そんな考えはやめていただきたい。あたしにとって椿くんは推しだし、そんな慣れるなんてことはたぶん一生かかってもないことだ。毎日が、毎瞬間が、新鮮で尊くて、あたしの心が潤うんだよ。だから、椿くんは何も考えずに誕プレだけに集中してもらえばそれで良いの。うん。
「誕プレ探しに集中しましょう」
「え、ああ。うん」
目的地をまっすぐに見据えて、あたしは歩く。
「理人先輩はおしゃれな人だから、俺のセンスで選んでいいのか不安なんだよね。如月さん、理人先輩と友達だし、よかったらアドバイスもらいたくて」
は!? あたしが理人先輩と友達!? しかも、椿くんにアドバイス!?
「いや、椿くんの方が、先輩とは仲良しなので……」
椿くんが好きなのを選べばいいじゃないか。と、つい他人事に思ってしまう。
「理人先輩のことは、すっごく尊敬してるから、仲良しとはまた別な気がして。だから、友達にあげるようなノリともまた違うよなぁって、昨日もすげぇ悩んじゃって」
困ったようにため息を吐き出す椿くんの横顔。すごく切なくて、胸が苦しくなる。
そっか、大切な人への贈り物だから、大切に選びたいよね。それは、分かる気がする。
あたしだって、もしも椿くんに何かプレゼントするってなったら、悩み過ぎてハゲてしまうかもしれない。まぁ、あたしが椿くんにプレゼントだなんて、そんな日は来ないだろうけど。
理人先輩の欲しいもの。さっき聞いておけばよかったな。失敗したと落ち込む。
「如月さんさ、今日、なんで来てくれたの?」
「え……」
それは、推しの椿くんが誘ってくれたから。だけど、それは言えない。断ろうと思ったけど、でも、理人先輩と一条さんが背中を押してくれたから。だから、来れたんだ。
「もしかして、理人先輩に頼まれたから仕方なくきた?」
「……え?」
「ダブルデートだって、全然乗り気じゃないし、なんか俺、申し訳ないなって思い始めてさ。俺のわがままに付き合わされて、つまんないよね。ほんと、ごめん」
こちらに振り向いて、椿くんは深く頭を下げた。
なんで、椿くんが謝っているのか、あたしには意味がわからない。
たしかに、あたしは一条さんみたいにキャピキャピした行動はとれないし、椿くんのことをすっごく推しているのに本人にはバレたくないって思ってる。
だから、本当はすごくすごく嬉しいのに、その感情全部押し込んで、椿くんに興味がないふりをしているだけだ。だから、つまらなそうに見えてしまうんだ。
でも、考えてみれば確かに自分に興味のない人と一緒にいたって、楽しいわけないよね。興味がない人は、普通は一緒にいたりしないんだし。あたしはそれを知っている。
だって、あたしの周りには、今まで誰も寄り付かなかったから。誰も、あたしになんて興味を持ってくれなかった。そんな人が、あたしに興味もないのに突然近くに来られたら、不安になる。どうしようって困る。
椿くんだって、理人先輩からの助言がなければ、あたしに声をかけたりしてこなかったはずだ。
そうだよ。やっぱり、はじめから、こんなことやめればよかったんだ。
あたしが嘘をついているから、みんなが嘘をついちゃうんだよ。
「……ごめんなさい、椿くん」
あたしがバカだった。
推しと少しでも近づけるかも。なんて考えてしまったばかりに、あたしだけが得をして、椿くんにはこんなふうに困らせたり謝らせたり、悪いことばかりさせてしまっている。
推しには、いつも笑っていてほしいのに。
もうやめよう。理人先輩にも、謝ろう。
明日のダブルデートも行けない。
あたしは、椿くんと一緒にいることが、嬉しいけど、つらいから。
駅のホームを眺めてがっかりしながら、踵を返した。
「……如月、さん?」
振り返ってすぐ目の前に、椿くんがいた。
驚き過ぎて、動きがぴたりと止まってしまう。
いつもの制服姿じゃなくて、私服だ。しかも、あたしがツバくんぬいに編んであげたグリーンのカーディガンにそっくりな色合いのカーディガンを着ている!?
え、かわいい……!
思わず、口からこぼれてしまうんじゃないかと思うくらいに感動してしまって、あたしは心の中で叫んだ。
「今日は私服だからかな、雰囲気全然違うね」
椿くんの頬が緩んで、ほんのり赤らむ。
照れる椿くんなんて、今まで見たことがない。尊い照れ顔にシャッターを切りたい衝動に駆られながら、あたしは記憶に残すべく、瞬きで瞳のシャッターを切り続ける。あたしの瞳に! 脳裏に! 焼き付け、椿くんの照れ顔!
「行こっか?」
向きを変えた椿くん。照れ顔をしっかりと目に焼き付けたあたしは、大満足かもしれない。もう帰って日記をつけて、今日は終了で良いです。
「如月さん? 行くよー?」
少し離れた場所から、椿くんがあたしの名前を呼ぶ。
あれ? いつの間にそんな遠くへ?
そして、そんな大きな声で名前を呼ぶなんて、なんだか嬉し恥ずかしい。
つい、周りを見回してしまうけれど、誰もあたしを気にする人などいない。みんな目的地に向かって足を進めている。
あたしだけが、椿くんの一挙手一投足に過敏に反応しているだけだ。
こんなことで、あたしは無事に椿くんと誕プレ探しができるのだろうか。
「そんな離れて歩かなくてもよくない?」
椿くんの3歩後ろをついてゆく。控えめに、奥ゆかしく。なんてことはない。ただ単に隣を歩くことが恐れ多いだけのこと。
「一緒に出かければ少しは俺に慣れてくれるかと思ったけど、なんか、ごめんね」
「え! あ、いや、そんなこと」
なんで椿くんが謝るの!?
あたしが後ろを歩きたくてこうしているだけなのに。
そもそも、椿くんに慣れるってなに? そんな考えはやめていただきたい。あたしにとって椿くんは推しだし、そんな慣れるなんてことはたぶん一生かかってもないことだ。毎日が、毎瞬間が、新鮮で尊くて、あたしの心が潤うんだよ。だから、椿くんは何も考えずに誕プレだけに集中してもらえばそれで良いの。うん。
「誕プレ探しに集中しましょう」
「え、ああ。うん」
目的地をまっすぐに見据えて、あたしは歩く。
「理人先輩はおしゃれな人だから、俺のセンスで選んでいいのか不安なんだよね。如月さん、理人先輩と友達だし、よかったらアドバイスもらいたくて」
は!? あたしが理人先輩と友達!? しかも、椿くんにアドバイス!?
「いや、椿くんの方が、先輩とは仲良しなので……」
椿くんが好きなのを選べばいいじゃないか。と、つい他人事に思ってしまう。
「理人先輩のことは、すっごく尊敬してるから、仲良しとはまた別な気がして。だから、友達にあげるようなノリともまた違うよなぁって、昨日もすげぇ悩んじゃって」
困ったようにため息を吐き出す椿くんの横顔。すごく切なくて、胸が苦しくなる。
そっか、大切な人への贈り物だから、大切に選びたいよね。それは、分かる気がする。
あたしだって、もしも椿くんに何かプレゼントするってなったら、悩み過ぎてハゲてしまうかもしれない。まぁ、あたしが椿くんにプレゼントだなんて、そんな日は来ないだろうけど。
理人先輩の欲しいもの。さっき聞いておけばよかったな。失敗したと落ち込む。
「如月さんさ、今日、なんで来てくれたの?」
「え……」
それは、推しの椿くんが誘ってくれたから。だけど、それは言えない。断ろうと思ったけど、でも、理人先輩と一条さんが背中を押してくれたから。だから、来れたんだ。
「もしかして、理人先輩に頼まれたから仕方なくきた?」
「……え?」
「ダブルデートだって、全然乗り気じゃないし、なんか俺、申し訳ないなって思い始めてさ。俺のわがままに付き合わされて、つまんないよね。ほんと、ごめん」
こちらに振り向いて、椿くんは深く頭を下げた。
なんで、椿くんが謝っているのか、あたしには意味がわからない。
たしかに、あたしは一条さんみたいにキャピキャピした行動はとれないし、椿くんのことをすっごく推しているのに本人にはバレたくないって思ってる。
だから、本当はすごくすごく嬉しいのに、その感情全部押し込んで、椿くんに興味がないふりをしているだけだ。だから、つまらなそうに見えてしまうんだ。
でも、考えてみれば確かに自分に興味のない人と一緒にいたって、楽しいわけないよね。興味がない人は、普通は一緒にいたりしないんだし。あたしはそれを知っている。
だって、あたしの周りには、今まで誰も寄り付かなかったから。誰も、あたしになんて興味を持ってくれなかった。そんな人が、あたしに興味もないのに突然近くに来られたら、不安になる。どうしようって困る。
椿くんだって、理人先輩からの助言がなければ、あたしに声をかけたりしてこなかったはずだ。
そうだよ。やっぱり、はじめから、こんなことやめればよかったんだ。
あたしが嘘をついているから、みんなが嘘をついちゃうんだよ。
「……ごめんなさい、椿くん」
あたしがバカだった。
推しと少しでも近づけるかも。なんて考えてしまったばかりに、あたしだけが得をして、椿くんにはこんなふうに困らせたり謝らせたり、悪いことばかりさせてしまっている。
推しには、いつも笑っていてほしいのに。
もうやめよう。理人先輩にも、謝ろう。
明日のダブルデートも行けない。
あたしは、椿くんと一緒にいることが、嬉しいけど、つらいから。
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