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5 12月25日
メイク失敗!?
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そして放課後。あたしは一条さん、来栖さん、金原さんに教室の隅の一角で囲われていた。周りから見たらあたしが3人にいじめられているんじゃないかとも取れそうな構図かもしれないけれど、決してそうではない。
心配そうに見てくるクラスメイトが、ちらちらと視界に映るけれど、心配しないでと心の中で呟く。
ジャラッとした音に驚くと、机の上にメイク道具が散らばる。金原さんが自分のポーチをひっくり返して中身を全部広げたのだ。
「やば、これ探してたやつ~!」
その中から一本のペンシルを手に取って喜んでいる。
「アンのポーチ汚すぎ! ちゃんと整理整頓しな?」
来栖さんがあからさまに嫌な顔をしながら突っ込む。
「ついかわいいコスメ見つけると買っちゃうじゃん? で、ポイってポーチん中入れるでしょ? 増える、失くす、見つけるのループ。まぁ、それが楽しくもある」
ふふっと笑う金原さんは、ポーチが汚いことは気にしていないようだ。
一方の来栖さんのポーチは小さくてまとまりがある。
「あたしは逆に気に入ったのしか使わないかなー。自分に似合う色ってあるじゃん。そこに辿り着くまでが大変だけど、ピッタリハマるとめちゃくちゃ気持ちいいし、もう運命って思ってこの子達しか使えなくなっちゃう!」
愛おしそうにピンクにウサギ柄の女子力満点なポーチを抱きしめる来栖さん。
「まぁりんだって新作出ると飛びつくじゃん」
「そりゃ、かわいいと思ったら一度は使ってみたいじゃんっ」
「それあたしと一緒でしょ」
「でもぉ、あたしはポーチには一軍しか入れてませーん」
「あたしだってこれみーんな一軍ですからぁ」
目の前でケンカ、なのかな? 二人の言い合いが始まるから、あたしはどうしたらいいのか分からずに唖然としてしまう。
「ちょっと2人ともぉ、ニコりんが引いてるからぁ」
一条さんがストップをかけると、すぐに2人とも言い合いが収まるからホッとした。
そして、今度はあたしの顔をじっくり見ながら、どの色が似合うとか、これ使ってみようよとか、もはや実験台のようにこねくり回される。
嫌とも言えずにやりたい放題。その結果。
「ごめんっ、やりすぎた!」
渡された手鏡を覗き込んで、思わず悲鳴をあげそうになった。
「……と、トイレ、行ってきます」
静かに立ち上がって、あたしは俯いたまま教室を出て急いでトイレへ向かった。
黙ったままでいたあたしが悪いのか、一生懸命にあたしを可愛くしようとしてくれてやりすぎたみんなが悪いのか。
いや、どちらも別に悪くない。
失敗したっていいんだ。あたしは前に進むって決めたんだから。
「……え、待って。落ちないんだけど」
ぬるま湯を使っても、マスカラも引かれたアイラインも、大袈裟に作られた涙袋も全然落ちない。
「ニコりんごめん! コレ使わないと落ちないよー!」
慌てたようにやってきたのは、金原さんだ。手にはクレンジングオイルとタオルを持っている。あたしの酷い顔を見ても笑ったりしないし、むしろこうなることを想定していたみたいな展開。
「……準備、してくれてたの?」
「そりゃあね、失敗するって自覚あったし」
自覚あったんだ。と、なんだか堂々と言い切る金原さんに笑いそうになる。
「もう、笑っていいってばー、あたしマジでメイク上手くないからさ。自分のだっていまだに下手すぎて笑っちゃうし。だから、ニコりんのことだってちゃんとメイクしてあげられるか自信なかったんだー。でも、素直にされるがままなニコりんが可愛くて、つい張り切りすぎちゃったよ」
あははと笑いながら、「ごめん」と謝る金原さんに、あたしは首を振った。
「……ありがとう。あたしのために」
「お礼とかいいんだってばー、楽しいじゃん。ただそれだけっ。それ、めっちゃ落ちるからおすすめ! 教室片付けて待ってるね」
「うん」
照れた笑顔で金原さんはトイレから出ていく。メイクをしっかりしていてクールな見た目の金原さんのこと、本音は少し怖いと思っていた。だけど、関わってみると優しいって気がついて嬉しい。
心配そうに見てくるクラスメイトが、ちらちらと視界に映るけれど、心配しないでと心の中で呟く。
ジャラッとした音に驚くと、机の上にメイク道具が散らばる。金原さんが自分のポーチをひっくり返して中身を全部広げたのだ。
「やば、これ探してたやつ~!」
その中から一本のペンシルを手に取って喜んでいる。
「アンのポーチ汚すぎ! ちゃんと整理整頓しな?」
来栖さんがあからさまに嫌な顔をしながら突っ込む。
「ついかわいいコスメ見つけると買っちゃうじゃん? で、ポイってポーチん中入れるでしょ? 増える、失くす、見つけるのループ。まぁ、それが楽しくもある」
ふふっと笑う金原さんは、ポーチが汚いことは気にしていないようだ。
一方の来栖さんのポーチは小さくてまとまりがある。
「あたしは逆に気に入ったのしか使わないかなー。自分に似合う色ってあるじゃん。そこに辿り着くまでが大変だけど、ピッタリハマるとめちゃくちゃ気持ちいいし、もう運命って思ってこの子達しか使えなくなっちゃう!」
愛おしそうにピンクにウサギ柄の女子力満点なポーチを抱きしめる来栖さん。
「まぁりんだって新作出ると飛びつくじゃん」
「そりゃ、かわいいと思ったら一度は使ってみたいじゃんっ」
「それあたしと一緒でしょ」
「でもぉ、あたしはポーチには一軍しか入れてませーん」
「あたしだってこれみーんな一軍ですからぁ」
目の前でケンカ、なのかな? 二人の言い合いが始まるから、あたしはどうしたらいいのか分からずに唖然としてしまう。
「ちょっと2人ともぉ、ニコりんが引いてるからぁ」
一条さんがストップをかけると、すぐに2人とも言い合いが収まるからホッとした。
そして、今度はあたしの顔をじっくり見ながら、どの色が似合うとか、これ使ってみようよとか、もはや実験台のようにこねくり回される。
嫌とも言えずにやりたい放題。その結果。
「ごめんっ、やりすぎた!」
渡された手鏡を覗き込んで、思わず悲鳴をあげそうになった。
「……と、トイレ、行ってきます」
静かに立ち上がって、あたしは俯いたまま教室を出て急いでトイレへ向かった。
黙ったままでいたあたしが悪いのか、一生懸命にあたしを可愛くしようとしてくれてやりすぎたみんなが悪いのか。
いや、どちらも別に悪くない。
失敗したっていいんだ。あたしは前に進むって決めたんだから。
「……え、待って。落ちないんだけど」
ぬるま湯を使っても、マスカラも引かれたアイラインも、大袈裟に作られた涙袋も全然落ちない。
「ニコりんごめん! コレ使わないと落ちないよー!」
慌てたようにやってきたのは、金原さんだ。手にはクレンジングオイルとタオルを持っている。あたしの酷い顔を見ても笑ったりしないし、むしろこうなることを想定していたみたいな展開。
「……準備、してくれてたの?」
「そりゃあね、失敗するって自覚あったし」
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「もう、笑っていいってばー、あたしマジでメイク上手くないからさ。自分のだっていまだに下手すぎて笑っちゃうし。だから、ニコりんのことだってちゃんとメイクしてあげられるか自信なかったんだー。でも、素直にされるがままなニコりんが可愛くて、つい張り切りすぎちゃったよ」
あははと笑いながら、「ごめん」と謝る金原さんに、あたしは首を振った。
「……ありがとう。あたしのために」
「お礼とかいいんだってばー、楽しいじゃん。ただそれだけっ。それ、めっちゃ落ちるからおすすめ! 教室片付けて待ってるね」
「うん」
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