毎月25日は椿くん感謝デー

佐々森りろ

文字の大きさ
49 / 59
5 12月25日

ヨリちゃんの恋

しおりを挟む
 みんなと別れた帰り道。あたしは太陽堂に寄り道した。ツバくん用にクリスマスの衣装を作ってあげたくて、生地を選びに来た。

「こんにちは」

 お店の中はシンっとしているけど、きっとヨリちゃんは奥でお茶でもしているんだと思う。あたしは声をかけてから、店内を眺め始めた。

「いらっしゃい、ニコちゃん」

 少ししてからヨリちゃんが現れた。あたしは振り返って小さく会釈する。

「あら? ニコちゃん少し雰囲気変わった
かしら?」
「え……」

 ゆっくり近づいてきたヨリちゃんがあたしの前で立ち止まると、にっこり微笑んだ。

「やっぱり、なんだか表情が前よりも明るくなった気がするわ。若いっていいわねぇ、どんどんかわいく綺麗になれるもの。私もねぇ、ニコちゃんくらいの時はまぁ、モテてモテて」

 よいしょっと言いながら、ヨリちゃんはレジカウンターの椅子に座って話を続ける。

「その中でおじいさんと出逢ったのは本当に奇跡みたいだったわぁ」

 懐かしむみたいにため息をついたヨリちゃん。

「私たちの時代はお見合いや親同士の決めた相手との結婚が多かったんだけどね、私は恋愛を突き通したの。障害はたくさんあったけど、後悔はしていないわ。だからニコちゃん、好きな人が出来た時は、その気持ちを大切にしてね」

 ほんのりと頬を赤らめたヨリちゃんが、すごくかわいいと思った。おばあちゃんなのに、なんだか恋する女の子みたいに照れている。旦那さんのことを本当に大好きなんだなって、伝わってくる。

「おぉーい、ヨリちゃん。俺のメガネどこに行ったか知らねぇかー?」
「あらあら」

 ふふふと笑って、ヨリちゃんは困ったような顔をしつつも嬉しそうにゆっくり奥の部屋に戻って行った。

『好きな人が出来た時は、その気持ちを大切にしてね』

 椿くんのことを、思い浮かべてしまった。
 推しなのか、好きな人なのか。
 そんなの、どっちでもいい。あたしのこの気持ちを、今は大切にするべきだと、ヨリちゃんの言葉でわかった気がする。

「ありがとうございます。また来ます!」

 あたしは、布を取ることなくなにも買わずに店から出た。
 そして、ゆっくり歩き出しながら椿くんのアイコンを表示してメッセージを開く。

『25日の予定、空いています』

 ツバくんと一緒に椿くん感謝デーのお祝いをする予定が入っているけど、もし、椿くんとの予定が入ったら、本人に直接感謝を伝えられるから。まだ、好きとは言えないけれど、好きって気持ちには気がつけたし、椿くんとの出逢いに感謝したいから。
 送信して、すぐにスマホはポケットにしまった。ドキドキ高鳴る胸を誤魔化すみたいに早足になる。もう薄暗くて風も冷たくなった家までの距離が、寒くも暗くも感じなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶

菱沼あゆ
キャラ文芸
 冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。  琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。  それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。  悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...