毎月25日は椿くん感謝デー

佐々森りろ

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5 12月25日

椿くん感謝デー

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「ここ、理人先輩から聞いて俺は初めてなんだけどめちゃくちゃかわいいランチ出てくるらしいよ」
「え、かわいい……?」

 椿くんと入ったのは、学校近くにある古民家カフェ。学校の生徒が利用してるのは教室内で聞いたことはあったけれど、くるのはあたしも初めてだ。東京から移住してきた店主が出してくれるランチプレートは日替わりで違うらしい。という情報だけは知っている。

「今日はクリスマスランチらしいよ」

 古い建物をリノベーションしておしゃれに作られたカフェ。窓にはイルミネーションの飾り付けがしてあって、ガラス扉を開くとあたたかい空気といい香り。店内に流れるクリスマスソングで、一気にクリスマスを感じた。
 椿くんが名前を伝えると、暖炉近くの席に案内される。2人がけのテーブルの上には予約席と表示が。

「予約、してくれた?」
「うん。今日だけは予約制らしいから。理人先輩は去年のクリスマスにきたみたいで、すごく良かったって聞いて」

 キャンドルの炎がゆらゆらと手元を明るくする。
 理人先輩、椿くんとそんなに仲が良かったんだ。単なる先輩後輩だと思っていたのに、なんだかあたしの気持ちを見透かされて、椿くんとも話してたとか、少しモヤっとする。

「理人先輩にさ、椿は外見だけしか見えてないのか! って、怒られてさ」
「……え」
「ニコちゃんのこと。俺何にも知らなかったから、先輩が事あるごとに教えてくれて。ダブルデートの時にようやく、あ、もしかしたら俺ニコちゃんのこと好きだからこんなに気になってるのかって気がついて。だから、あの日は本当に楽しかったんだよ。帰ったはずなのに、戻ってきてココアくれたのも、すごく嬉しかった」

 目の前に椿くんがいることも、微笑んであたしとのことを話してくれていることも、やっぱり夢みたいで、ふわふわした気分だ。

「……ココアが好きって、あたしも理人先輩から、聞いて」
「え! そうだったの?」

 驚く椿くんに、あたしは頷く。

「だからかぁ。なんで俺がココア好きなこと知ってるんだろうって不思議だったから」

 そうだよね、教えてもいないのに好きなもの知ってるとか、本当なら不思議だし怖いよね。椿くんの知らないところで、あたしは椿くんのことを知っていた。なんだか、申し訳なくなる。

「あの、ハロウィンのプリンも……」
「え?」
「あたしが理人先輩に買ってきたものだったの」

 まさか、椿くんがそれを食べていたなんて、あの時椿くんが話に出さなかったら知らないままだった。

「え! あの美味しいやつ? え、なんで? 理人先輩に買ってきたって、ニコちゃん先輩の家に行ったりする仲だったの?」
「……え」

 急に焦り出す椿くんに、あたしは理人先輩があたしのことを話したりはしていないんだということがわかる。これは、どこまでが内緒なんだろう? と、言うか、内緒にする意味ってあるのかな。

「理人先輩のお母さんとうちの母が友達同士で、それで、ヘアモデルになって欲しいって頼まれて。それで、ヘアサロンまりあに行くことになったの」

 そう。そうだ、それで、さいちのプリンとかいらないからーとか言って、そんなこと言われたら買ってこいってことだよね? ってなって、あたしは素直に買って持っていったんだ。理人先輩って、最初はほんと嫌な人だった記憶が蘇ってくる。

「あのプリンだって、先輩が買ってこいって言うから買っていったのに、なぜか椿くんが食べたって、どう言うこと!? って思った。あの先輩あたしに失礼なことしか言わないし、最初はすごく嫌だったけど、でも……」

『俺が必ずかわいくするから』
 先輩は宣言してくれた。だけど、あたしが変わらないと変われないって、教えてくれた。あたしが、きっと一歩を踏み出すことができたのは、理人先輩のおかげだ。

「やっぱり理人先輩には敵わないなぁ」
「……え」
「めちゃくちゃかっこいいよね、理人先輩って。見た目はもちろんだけど、中身が」

 そうだ。どんなに見た目が綺麗でかわいくても、中身が見た目に見合ってないと全然自信もっては歩けない。

『ニコちゃんが変わろうとしない限りは、俺がどうにかしようとしても無理だろうから』
『もう少し自信もって歩けたら合格なんですけどねぇ』

 理人先輩も、一条さんも言っていた。あたしは、自信なんてなかったし変わろうなんて気持ちなかった。だけど、あたし、2人のおかげで前に進めたから、今ここにいるんだ。
 紙袋の中に入っているニコツバぬいに視線を下ろしてから、あたしは真っ直ぐに椿くんのことをみた。

「椿くん、あたし変わる」

 突然のあたしの宣言に、椿くんは目をぱっちりと見開く。

「これからは、中身も見た目に見合うようになれるように変わりたい。みんなが、あたしに教えてくれたから」

 自分を変えられるのは、自分だけだ。
 気がつくのが遅すぎる。母もまりあさんもヨリちゃんも、理人先輩も一条さんも、ツバくんも椿くんも、みんなあたしが変わることを待っている。そんな極端には変われないけれど、一歩ずつ。

「うん、かわいいニコちゃんに変な虫がつかないように、俺も気を引き締めます」

 姿勢を正して、椿くんが真面目な顔で言うから、そんな心配は要らないのにと笑ってしまう。
 そして、あたたかいスープと理人先輩イチオシのかわいいクリスマスプレートのランチを食べながら、推しぬいの話をした。

 なんだか、まだ夢なんじゃないかなって。
 サンタさんが、今日だけ特別に夢を見せてくれたんじゃないかって、そんな風に思えるくらいに幸せな時間だった。
 夕方には帰ると椿くんには伝えてあったから、帰りは家まで送り届けてくれた。
 玄関前で「またね」って手を振り合ったことが、もう幻だったんじゃないかとも思って、まだ信じられない。

「メリークリスマース!! ニコ!」

 クラッカーの音にも動じないほど、あたしの心は椿くんでいっぱいだ。
 家族で夕飯を食べながらクリスマスパーティーを過ごして、12月25日はあっという間に過ぎていった。

「おやすみなさい」

 部屋に戻って眠りにつく前に、スマホに届いていたメッセージに気がついて、布団に潜り込みながら開いてみた。

『今日はすっごく楽しかった。これからもよろしくお願いします』

 椿くんからのメッセージに、夢じゃなかったって、ようやく現実だと受け止める。
 嬉し過ぎて、あたしの長い長いクリスマスは日付を超えるまで眠れない夜となった。

 ニコツバぬいが机の上で寄り添うように並んでいる。ツバくんノートは今日でちょうど最終ページだった。これからはもうノートはいらない。あたしの記憶の中にしっかり記していきたい。大好きな人のこと。そして、大切な友達との毎日を。
 明日から始まる新しい日々が、楽しく幸せでありますように。メリークリスマス。
 12月25日、椿くん感謝デー。

 Fin♡
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感想 5

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みんなの感想(5件)

burazu
2025.12.28 burazu

最終話まで拝読しました。最後の最後で忘れられないクリスマスになって良かったです。この感謝の日から始まる新しい日々を大切に。

2025.12.29 佐々森りろ

burazuさん
最終話まで読んでくださりありがとうございました!アニバーサリー記念の25に関する物語だったので、クリスマスまででうまくまとめられたかなと思っていますが、その後の2人のことも書きたいなと思っていたりしました。プロットだけあってコンテストの期間内には書き終わらなそうだったのできりのいいところでFin♡とさせていただきました!

「感謝の日々を大切に」と素敵な言葉をありがとうございます!ぜひニコツバの2人に伝えたいです!

解除
burazu
2025.12.18 burazu

忘れられない日拝読しました。

月は違うが同じ日付が誕生日ですよって言われたら忘れられないでしょうね。

2025.12.21 佐々森りろ

burazuさん
いつも感想ありがとうございます!
引き続きよろしくお願いしますっ。

解除
burazu
2025.12.11 burazu

ファーストコンタクト拝読しました。
これは運命の出会い!

2025.12.12 佐々森りろ

burazuさん
感想ありがとうございます!
そう!運命の出会いです!ここから椿くん感謝デーがはじまります!!

解除

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