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第五章 カフェ巡り好きの同級生
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「お、お邪魔します」
「相原さんと話してみたかったから嬉しいよ」
「……え」
杉浦くんは照れ笑いしながら梅ジュースのグラスを自分の方へ寄せた。
「僕、高校生活をスタートさせたのが周りより少し遅かったんだよね。相原さんが学校に来始める三日前に、僕は学校に行き始めたんだよ」
「え……そう、なの?」
あたしみたいに、途中から来ていた人が、いたんだ。
「僕、運が悪いんだろうね。入学式当日に季節外れのインフルエンザに罹ってしまって。高校生活のスタートに、完全に出遅れてしまったんだ」
情けなさそうに笑う杉浦くん。あたしは自分と同じ境遇だった彼になんだか少し嬉しくなってしまう。
「あたしもです! あたしも実は体弱くて、入学式直前に体調悪くなっちゃって……それで……出遅れて、友達なかなか、出来なくて」
嬉しい反面、なんだか悲しくなってくる。言いながらどんどん落ち込んでしまって、ついにはため息をついた。
「うん、なんか、いつも一人でいるなぁって、僕と一緒だなぁって気になって見ていたから、知ってる」
「え……」
「あ、ごめん。見てたとか、嫌だよね」
慌てて、杉浦くんはグラスを手に取りストローを口にした。
「あ、美味しい」
微笑む杉浦くんの表情が優しくて、なんだか泣きそうになる。
学校ではひとりぼっちで、誰もあたしのことなんて知らないんじゃないかって思っていたけど、杉浦くんは、あたしのことを知っていてくれたんだ。なんだか、心の奥がじんわり温かくなる。あたしも梅ジュースを飲んでみた。
「あ、ほんとだ。美味しい」
ひんやりとのどを通る、濃い梅の風味にほんのり酸っぱさが残る甘い梅ジュース。家庭的な母の味とはまた少し違う気もする。咲子さんの梅ジュースはすごく上品でとても美味しい。
「ごめん、邪魔かもだけどあたしもまぜて!」
突然、明るい声が響いてくると、日向子ちゃんが梅ジュースを片手に隣の椅子に座った。あたしと杉浦くんの反応を確かめるように交互に見る日向子ちゃんに驚きつつ、「どうぞどうぞ」と、思わず簡単にあたしも杉浦くんも同じように言っていた。
「なんか二人雰囲気似てるー!」
その反応に、日向子ちゃんは目を見開いたかと思えばそう言いながら笑った。
杉浦くんはカフェ巡りが趣味らしく「和やか」にもずっと来たくて、うずうずしていたらしい。だけど、初日から大盛況の店内には足を踏み入れる勇気がなくて、今日まで我慢していたそうだ。
あたしがここでバイトをしていることは、何度かここを通っていたにもかかわらず、全然気が付かなかったらしい。今日、「偶然でも会えて嬉しい」と言ってくれて、あたしも嬉しくなった。
「じゃあ、また来るね」
「うん、またお待ちしております」
日向子ちゃんも交えて楽しくおしゃべりを終えて、杉浦くんを見送る。
結局、話が弾んでずっとテラス席にいたからか、なんとなく体が疲れたような感覚になっている。
店内に戻ろうとした瞬間「相原さん!」と呼ばれて振り返った。帰ったはずの杉浦くんが、急いで戻ってきたのか息を切らせて近づいてくる。
「ごめん、連絡先、聞き忘れた。教えてもらえる?」
「え……」
「あ、あれ。聞いちゃダメ、だった?」
あたしがキョトンとしてしまったからだろう。バツが悪そうに杉浦くんが「じゃあ」と背を向けてしまうから、あたしは慌てて引き留めた。
「あ、いや、違うの。あたし、そう言うの慣れてなくて……えっと、」
デニムのポケットからスマホを取り出して、あたしはどうしたらいいのか困った顔で杉浦くんを見上げた。
「僕、もう相原さんの友達でいいよね?」
「……う、うん。そうだと、嬉しい」
あたしが照れながら笑うと、杉浦くんまで照れたように笑ってくれた。スマホを取り出して、お互いに不慣れな連絡交換の仕方にあたふたしながらも、なんとか連絡先を交換し終えた。
また、手を振って杉浦くんが見えなくなるまで見送ると、熱くなってしまった体を冷やしたいと急いで店内に戻るために踵を返した。瞬間、なにかにぶつかる。
「うっ! ……一葉、くん?」
すぐ後ろにいたのは一葉くん。胸元に思い切り顔面を強打したあたしは、鼻を摩りながら一葉くんを見上げる。
「なにそれ、梨紅、顔真っ赤!」
「……え?」
ああ、確かに外の気温のせいかな、さっきからなんだか顔から頭から、全身が熱い。
「なに? あいつ彼氏なの?」
「え?」
なんだか怒っているような一葉くんの声。だけど、それが遠くから聞こえる気がする。
あれ? 一葉くんは目の前に居るはずなのに。どうして……?
クラクラしてくる視界。
「梨紅!」
もう一度だけ聞こえた一葉くんの声は、やっぱり遠く、くぐもって聞こえた。
「相原さんと話してみたかったから嬉しいよ」
「……え」
杉浦くんは照れ笑いしながら梅ジュースのグラスを自分の方へ寄せた。
「僕、高校生活をスタートさせたのが周りより少し遅かったんだよね。相原さんが学校に来始める三日前に、僕は学校に行き始めたんだよ」
「え……そう、なの?」
あたしみたいに、途中から来ていた人が、いたんだ。
「僕、運が悪いんだろうね。入学式当日に季節外れのインフルエンザに罹ってしまって。高校生活のスタートに、完全に出遅れてしまったんだ」
情けなさそうに笑う杉浦くん。あたしは自分と同じ境遇だった彼になんだか少し嬉しくなってしまう。
「あたしもです! あたしも実は体弱くて、入学式直前に体調悪くなっちゃって……それで……出遅れて、友達なかなか、出来なくて」
嬉しい反面、なんだか悲しくなってくる。言いながらどんどん落ち込んでしまって、ついにはため息をついた。
「うん、なんか、いつも一人でいるなぁって、僕と一緒だなぁって気になって見ていたから、知ってる」
「え……」
「あ、ごめん。見てたとか、嫌だよね」
慌てて、杉浦くんはグラスを手に取りストローを口にした。
「あ、美味しい」
微笑む杉浦くんの表情が優しくて、なんだか泣きそうになる。
学校ではひとりぼっちで、誰もあたしのことなんて知らないんじゃないかって思っていたけど、杉浦くんは、あたしのことを知っていてくれたんだ。なんだか、心の奥がじんわり温かくなる。あたしも梅ジュースを飲んでみた。
「あ、ほんとだ。美味しい」
ひんやりとのどを通る、濃い梅の風味にほんのり酸っぱさが残る甘い梅ジュース。家庭的な母の味とはまた少し違う気もする。咲子さんの梅ジュースはすごく上品でとても美味しい。
「ごめん、邪魔かもだけどあたしもまぜて!」
突然、明るい声が響いてくると、日向子ちゃんが梅ジュースを片手に隣の椅子に座った。あたしと杉浦くんの反応を確かめるように交互に見る日向子ちゃんに驚きつつ、「どうぞどうぞ」と、思わず簡単にあたしも杉浦くんも同じように言っていた。
「なんか二人雰囲気似てるー!」
その反応に、日向子ちゃんは目を見開いたかと思えばそう言いながら笑った。
杉浦くんはカフェ巡りが趣味らしく「和やか」にもずっと来たくて、うずうずしていたらしい。だけど、初日から大盛況の店内には足を踏み入れる勇気がなくて、今日まで我慢していたそうだ。
あたしがここでバイトをしていることは、何度かここを通っていたにもかかわらず、全然気が付かなかったらしい。今日、「偶然でも会えて嬉しい」と言ってくれて、あたしも嬉しくなった。
「じゃあ、また来るね」
「うん、またお待ちしております」
日向子ちゃんも交えて楽しくおしゃべりを終えて、杉浦くんを見送る。
結局、話が弾んでずっとテラス席にいたからか、なんとなく体が疲れたような感覚になっている。
店内に戻ろうとした瞬間「相原さん!」と呼ばれて振り返った。帰ったはずの杉浦くんが、急いで戻ってきたのか息を切らせて近づいてくる。
「ごめん、連絡先、聞き忘れた。教えてもらえる?」
「え……」
「あ、あれ。聞いちゃダメ、だった?」
あたしがキョトンとしてしまったからだろう。バツが悪そうに杉浦くんが「じゃあ」と背を向けてしまうから、あたしは慌てて引き留めた。
「あ、いや、違うの。あたし、そう言うの慣れてなくて……えっと、」
デニムのポケットからスマホを取り出して、あたしはどうしたらいいのか困った顔で杉浦くんを見上げた。
「僕、もう相原さんの友達でいいよね?」
「……う、うん。そうだと、嬉しい」
あたしが照れながら笑うと、杉浦くんまで照れたように笑ってくれた。スマホを取り出して、お互いに不慣れな連絡交換の仕方にあたふたしながらも、なんとか連絡先を交換し終えた。
また、手を振って杉浦くんが見えなくなるまで見送ると、熱くなってしまった体を冷やしたいと急いで店内に戻るために踵を返した。瞬間、なにかにぶつかる。
「うっ! ……一葉、くん?」
すぐ後ろにいたのは一葉くん。胸元に思い切り顔面を強打したあたしは、鼻を摩りながら一葉くんを見上げる。
「なにそれ、梨紅、顔真っ赤!」
「……え?」
ああ、確かに外の気温のせいかな、さっきからなんだか顔から頭から、全身が熱い。
「なに? あいつ彼氏なの?」
「え?」
なんだか怒っているような一葉くんの声。だけど、それが遠くから聞こえる気がする。
あれ? 一葉くんは目の前に居るはずなのに。どうして……?
クラクラしてくる視界。
「梨紅!」
もう一度だけ聞こえた一葉くんの声は、やっぱり遠く、くぐもって聞こえた。
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