VRMMOの世界で薬屋を開いたレベル1の薬師

永遠ノ宮

文字の大きさ
6 / 45

聖女

しおりを挟む
「やってまえー可憐さん! いぇーい!」
「分らず屋には──お仕置きよ! 聖の光る剣エクスカリバー!」
「なに──!? うわぁあああぁあぁああ!」

 宙を飛んだ可憐さんは、空中で剣を振り下ろしてエクスカリバーと呼ばれる光属性の強攻撃を放った。
 エクスカリバーは、邪悪な者を鎮める力がある。
 この商人には、お似合いの強攻撃なわけで──

「体が……動かね!」
「聖女にかかれば清めることくらい簡単なのよ! 精霊達のおかげで、私は聖女には特定アイテムでしか開放されない攻撃型リミッターを解除してるのよ!」
「参った参った……。分かったよ! 今回は引いてやる!」
「「「「二度と来るなー!」」」」

 商人はそそくさと、荷物をまとめて街を出ていった。
 商人を撃退した可憐さんは、また治癒ボランティアを再開し、私達も中に戻って販売を再開した。
 今日はお客様の出入りが激しいから、生成しているのペースか追いつかなくて貧血になってきている。
 と言うか、今日は異常なまでに怪我をしたプレイヤーが多い気がする。

「お兄さん達、何かあったん?」
「聞いてないのかお前さんら? 今、街の外でレッドドラゴンが襲撃してきて、緊急クエスト態勢へと運営が変えたらしい。なんでも、運営が用意した敵ではないらしい」
「それって……モンスター制御システムが、本社の方で不具合もしくはオーバーヒートして起きる暴走だよ?」

 開発本社、つまりゲームの運営側が用意をしていない謎のモンスターの暴走。
 モンスター制御システムは、世界全プレイヤーが共通の【ディーヴェルクオンライン】内では一番大事なシステム。
 突然のモンスターレベルの急上等を防ぐためのシステムが、不具合もしくはオーバーヒートで異常が起きているなんて……あってはいけない。

「行くしかないよね。けど……店はどうする?」
「私と……休憩がてらにリミアちゃんを連れて行くね!」
「私ですか!? ポーションを……えーと……これ持っていきます!」
「気をつけてな姉ちゃん達! ただのレッドドラゴンじゃない! いいことも教えておくぜ? 報酬金は500万ロトだぜ!」

 突然の緊急クエスト。
 運営も予期していなかった自体での緊急クエストは、やっぱり高額報酬なんだ。
 500万……お店を改築できる費用になるから是非とも倒しておきたい。
 移動は可憐さんにおんぶをしてもらっている。
 精霊の羽を生やして、空から倒す作戦。

「ドラゴン見えてきたよー! しっかりと手前で落とすから、ポイズンポーションを浴びせてきてね! その後、旋回して戻ってきた私が一撃で仕留めるから!」
「でも、大丈夫ですか? レッドドラゴンのレベルを見る限り……100ですよ?」 
「ポーションは確か、レベル差関係なく効くよ?」

 軽い会話をしているうちにレッドドラゴンが姿を現し、私はレッドドラゴンの鼻先ギリギリかすめるかの位置で降ろされた。

「もう唱え終えてるんで、毒をどうぞ!」

 ポーション解放の詠唱を、移動中に済ましておいた私は瓶を投げつけた。
 そのまま凄い速度で私は落下していくも、素早く旋回してきた可憐さんがレッドドラゴンの首を一撃で刎ね、地面とギリギリのところで拾われた。

「危なかったねー! リミアちゃんが地面に落ちるところまでは私考えていなかったよー」
「そこは考えておいて欲しかったですうぅぅ……」

 レッドドラゴンは、運営のパトロールプレイヤーが駆けつけて処理されていった。
 私達は、パトロールプレイヤーから一枚の紙を渡された。

「500万って本当に書いてあるものなんだねー」
「凄い金額ですね! 現実で欲しいくらいですけど……」
「あれ? ここってゲーム世界?」
「それ……無限ループになりますよ可憐さん」

 ゲームの世界と現実の世界の区別がつかなくなっている可憐さんは、笑顔で紙を頬にスリスリしている。
 辺りを見渡すと、ほとんど人がいなかった。
 多分、みんなレベル100のレッドドラゴンに傷を負わされたのか、戦闘不能でスタート画面へ戻されたかのどちらかだと見て分かる。
 レベル100のレッドドラゴンは、可憐さんの話では見たことが無かったと言うほどの大物だった。

「おかえり! もう運営からのメールで名前上がってるよ!」
「緊急クエスト、任務達成者は可憐、リミアの女戦士だって。いい書き方されるなほんま」
「アグナも何回か乗ってるよね? 確か……ヴァルキリー狂乱イベントの緊急で、みんな戦闘不能になる中で残った俺が一撃で急所を貫いた件な」

 笑い話だったり、負けた時の悔しい話だったりと、ポーションを求めて来てくれたプレイヤーさん達も交えて話をする。
 本当の町の薬屋さんみたいな雰囲気が出ていていい感じだと思う。
 治癒ボランティアも、気づけばSNSで拡散されて有名になっているからこれはまた大繁盛。

「薬師のお姉ちゃん! 今日はガルブラから買いに戻ってきたぜ!」
「いつもありがとうございます! と言っても、転移ゲートを抜けて移動してきてるじゃないですか! アハハハ!」

 毎日のように来てくれるプレイヤーの皆さんは、どこの街、大陸、洞窟に居てもわざわざ来てくれるよう。
 街のいい薬屋になった。
 けれど、やっぱり私のレベル1固定スキルは治らずにいる。
 それどころか、一週間が経っているのに運営は何も言ってこない。
 やっぱり、私個人のレベルは見放されているのだと思う。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...