VRMMOの世界で薬屋を開いたレベル1の薬師

永遠ノ宮

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売れ行きが伸びない日々

不発

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 姉とアグナさんが店内で何か話しているのが聞こえる中、私と霧ちゃんは笑顔でチラシを店前で配る。
 カイトさんは……怯える猫のように横のお店との合間に隠れて顔を出している。
 さすが世界最高のVRMMORPG【ディーヴェルクオンライン】、一つ一つの細かな表情も現実と変わらない。
 だからこそ……たからこそ可愛い人がゲーム内でしか見せない表情を見せると……可愛いんだよね!

「おー! 可愛いメイドのお姉ちゃん達だな!」
「良かったらこれをどうぞー!」
「お! ポーションか……。あ! あのちょい有名な薬師ちゃんか!」
「はいそうです!」

 男性プレイヤーは群がってきてくれるけれど、女性プレイヤーは来てくれない。
 ここで必要なのはカイトさんの男の娘としての可愛いさ。
 でも……隠れちゃってるよねカイトさん。

「カイトさんダメですねー」
「うーん……。やっぱり平均して両性集めたいんだけど……」
「カイトさんが女の人集めてくれないと、これ不発で終わりになりますよ」

 カイトさんの案にカイトさんを巻き込んで女性プレイヤーを集めるつもりが恥ずかしがったまま出てこない。
 これでは、霧ちゃんの言うように不発で終わることになってしまう。
 不発となれば、メイド服代で結果マイナス。
 なんとしてもマイナスだけは避けておきたい。

「……不発……ピンチをチャンスに女性。アグナさーん!」
「……どした? 俺今、リミアちゃんのお姉さんと話しているんだが──」
「ホストです!」
「……はぁ?」

 何か思いついたように足を漫画のように高速でバタつかせ、煙を立てながら店内へと飛び込んで行った。
 そして、中からは大声で「ホストです!」の一言が聞こえた。
 アグナさんにホスト風イメージチェンジを施して女性プレイヤーを集めようと考えたらしい。
 霧ちゃんナイスアイデア! それは私も個人的に見たい!

「おい! こんな服で俺を着飾らすな!」
「いいですよー! アグナさんイケメン、マジ王子様です!」
「こーれは最高作だな! うんうん! これは抱かれたい!」

 多分霧ちゃんに着替えさせられたのだろうアグナさんの声が店内から響き、霧ちゃんからは褒められ、姉は……問題発言を。
 私も見たいところだけれど、霧ちゃんが現在欠けている今は頑張らなければいけない。
 だからこそ、見たさに負けないよう強く気持ちを持たなければいけない……いけない……でも見たい。

「アグナさんを見せてください!」
「リミアちゃん待て今は──!」

 私が店内に勢い良く入ると、お客様も混じってアグナさんの頭をイジっていた。
 見ると髪の毛はホストように束がいくつも作られていた。
 
「やめろ! 見るな! これは──」
「アグナさんいいです!」
「よくね────よ!」

 現実と同じ赤髪が、ふわりふわりと束が沢山浮き、髪のトップのボリュームが増していく。
 美容師のような手さばきでアグナさんの髪型を仕上げていく剣士のお客様は大笑いしている。
 アグナさんも顔を赤くして恥ずかしがるものなんだ。

「クッソ! 俺まで客寄せかよ!」
「文句言わずに頑張ってください! アグナさん似合ってるのですから! ポーション、お薬、色々と売っていますよー、見ていきませんかー?」
「仕方ねーな……。ポーションに粉薬、その他諸々売ってまーす。見ていきませんかー?」

 ──あの人、もの凄くイケメンじゃない!?
 ──行ってみようかしら。
 ──あのイケメンの人に接客してもらえるみたいだよ!?

 などと、突如女性プレイヤーが遠くで騒ぎだした。
 アグナさんは何もしていなくともイケメンで、ゲーム内ではとてもイケているプレイヤー。
 そんなアグナさんが、スーツを着てホスト風に髪型を変えれば──

「接客してくださーい!」
「私もー!」
「やばいイケメーン!」

 遠くで騒いでいた女性プレイヤーが一瞬にして群がるのは確定だった。
 霧ちゃんの思いつきがしっかりとハマったから、これで女性プレイヤーは集まりそうかな。

 客寄せを続けて10時間、カチーシェさんから閉店時間になったと声が掛かった。
 私と霧ちゃんは外に出してあった看板を中に運び、カイトさんとアグナさんは暖簾を外して中に入ってきた。

「じゃ、じゃあ……運命の瞬間いくよ?」
「「「「「「「……よしこい!」」」」」」」

 カチ……ガシャンッ!

「カイトちゃん確認をお願い……」
「君ですけど……ま、任せてください!」

 レジドロワーが開き、コインストッカーに入っているコインと札を全てカイトさんが回収し、電卓を高速で打ち始める。
 ドキドキと、みんなの心臓の音が聞こえるような気がした。
 ちなみに、レジドロワーはレジ機の引き出し部分の名称らしい。
 そして、結果が出たのかカイトさんが電卓を打つのを止めた。
 私の額からは変な汗が垂れ、床に落ちた。

「昨日の売り上げ金額は50万ロト……今日の売り上げ金額は──」

 ドクンッ……ドクンッ……。

「……70万ロト!」
「「「「「「「い、よっ……しゃ──────!」」」」」」」
「と言うのは嘘で50万ロトと変わらない結果でした」

 カイトさんの絶妙な嘘に、私達は一気に脱力して膝から崩れ落ちた。
 そして、目覚ましい活躍を見せてくれたアグナさんが──

「チキショ─────────────!」

 と、叫んで床を殴った。
 結果、客寄せのために行ったメイド作戦及びホスト作戦は不発となってしまったのでした。
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