元王女、革命を起こし戦場を駆ける〜弟と婚約者に嵌められた次期女王の革命〜

永遠ノ宮

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一章〜黒魔術と山賊頭領〜

四話『殺意の罠』

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 ◆


 森を少し進み、後ろを振り返ってももう街は見えない。
 まだまだ森は奥へ続いている。

 言うほど歩いていないが、日当たりの悪いここでは時間感覚と距離感が狂ってしまう。
 沢山歩いたようで実は全く歩いていなくて、近く見えるものはとても遠かったり。

 下手をすれば二人と逸れてしまう可能性だってある。
 狼の嗅覚は優れているが、しかし別の雑臭と混じって嗅ぎ分けられるか怪しい。

 いや、イヌ科の嗅覚を舐めてはいけない。

 しかしーーやたらと血生臭い。

「気をつけてね。この血生臭さは、獣を狩った残りです。ここは無風地帯で、狩られた獣は食料となる部位以外、その場で捨てられる。だからこうして、臭いが逃げず残ってしまう」

「通りで血生臭い」

「腐敗臭やってやつだな。これじゃテシェの狼でも、臭いを嗅ぎ分けることができないだろ? なあ?」

 ネロはしゃがむと、土を少し掴んで臭いを嗅ぐと狼の頭を撫でる。
 狼は目を閉じて、嬉しそうに吠える。

「狼じゃなくてベオ」

「ベオって言うのかお前ぇ! おーよしよし!」

「そこが仲良しになってどうするのよ……」

 私とテシェちゃんはため息を吐くと、先を急ぐ。
 テシェちゃんの狼、ベオに跨ったネロは後ろを一人と一匹で追いかけてくる。

 テシェちゃんが舌打ちをして、「浮気された……」と嫌悪そうに呟く。
 私にできることは、テシェちゃんの横で苦笑するのみだった。

 そこからまだ更に奥へ進む。
 そろそろ目印の一つや二つ付けながら進まないと、帰れなくなるだろう地点まで来た。

 代わり映えしない景色と、消えない腐敗臭。
 そして所々目につく獣の骨。

 気持ち悪くはないが気味は悪い。
 後ろからは一匹と一人が、全く気にする気配もなく着いてきている。

 テシェちゃんも、見慣れた景色だからか全く動じずさっさと足を前に運ぶ。
 私だけ精神疲労が激しいと思う。

「大丈夫、ジャンヌ?」

「え、ええ。ちょっと、精神的にくるものがあるかな」

「仕方ないと思う。でもこれが今の山の民の今の過ごす環境」

 森に住みながら山の民と称されるのは、ここからまだまだ奥へ行ったところ、森の最深部ーーそこに山があり、二百年前までは本来そこが国として成り立っていた。

 ……しかし今はもうない。

 彼ら彼女らここで過ごす全ての山の民はもう既に山の民でない。

「山の民に生まれて山を失い……本当にごめんね。謝っても意味はないって分かっているけど」

「それなら私じゃなくて、墓地に眠る二百年前の闘志達に」

「ーーいや、ジャンヌが謝っても意味ないだろう。これからどうするかだろ」

 ネロが後ろから口を挟んでくる。
 振り返って、近くの木の枝からぶら下がる硬い果実を掴んで投げつける。
 見事ネロの顔に直撃し、ベオから滑り落ちた。

「あんたは黙ってなさい! ずっと傍観者してたんでしょ?」

「傍観者ねぇ……。てか、そんな怒ることないだろ…………」

 起き上がろうとネロが地面に手を付いた瞬間ーーだった。
 ネロの顔が険しくなり、ベオが何かを悟ったように私とテシェちゃんを押し倒すように飛んできた。

「ーーお前らそのまま伏せえろよっ!」

「何よネロ!」

「トラップ魔法だーー【爆風(ビッグストーム)】!」

 黒魔術が瞬きをする間もなく発動し、爆風が地から天へ向かって吹き荒れ、私達は木よりも高く舞い上がった。

 空中で器用にベオへ跨ったテシェちゃんは、ダガーナイフを瞬時に取り出し構え、ネロは宙を蹴って私を片腕で抱きしめ更なる黒魔術発動の為に構えた。

 私は何もできない足手まとい……黒魔術もたった一つしか発動できない。
 しかし、ここで何もしない訳にはいかない。
 
 頭でイメージして、自信を持って唱える。
 
 ーー私ならできる、と。

 ネロの瞬時の判断で、爆風で舞い上がった私達はトラップ魔法による爆発に巻き込まれず済んだ。
 しかし、爆発が起こった箇所は木々が倒れ地面が抉れ、更に地盤から大量の杭が逆さを向いて突き出ている。

「トラップ魔法の下に人体用トラップか!」

「ーー私がやってみせるわ!【異空間移動】!」

 見様見真似のその場しのぎ程度にでもなれば十二分な【異空間移動】を発動する。
 時空の狭間が開き、吸い込まれるように落ちていく。


「ーーうぅっ!! お願いだから……回避できてええぇぇ!!」


 狭間の中で叫び、出口を引っ張ってくる。
 落下状態で出口を出ると、下はちゃんと地面だった。
 しかし、一メートル後ろはトラップだった。

「危な過ぎるわぁ……マジで」

「死ぬかと思ったわ……はぁはぁ」

「ありがとうベオ。大丈夫?」

「くぅん」

 何とかトラップへ向かって真っ逆さまに落ちなかっただけマシだろう。
 息を整えながら、ネロと二人立ち上がり周囲を警戒する。

「ーー気をつけて二人共」

 ベオに再度跨ったテシェちゃんが、私の背後からそう言うと、ダガーナイフをブーメランのように投げて木々の間に張り巡らされた糸を切る。

 私とネロの目の前に、二十本を超える弓矢が降り注ぐ。
 何処から飛んできたのか、私には分からなかったが、ネロには見えていたらしくトラップ装置を黒魔術で破壊する。

「透過魔法だ。弓矢を自動的に飛ばすだけの装置だ、見えないようにしておかないと勘づかれるってか……山賊らしいな」

「古典的なトラップだよ。でも、対人用に作り直されて設置されてた」

「……なるほど。こりゃ面白くなってきたぜ!」

 ネロは不敵笑うと、両手を合わせ、


「久しぶりに楽しめそうだぜーー」


 両手をゆっくりと離していくと、静電気に似た漆黒のオーラが発生しそこから獣の頭蓋骨が付いた大鎌が出てくる。

「ジャンヌは【守備の門】で囲いをつくれ。天井も塞げよーー俺は全部! ブッ壊してくる!!」

 頷くしかできなかった……。

 ネロの不敵な笑みは悪魔の微笑みたく、恐怖を感じた。
 大鎌と笑みの二つの凶器ーーそして狂喜。

 私は言われた通りに、イメージを膨らませ小さめの箱型防御を作りだす。
 ベオとテシェちゃんと息を潜めながら、ネロの合図を待つ。

 一度成功させている【守備の門】においては自信がついているのか、イメージ以上のものができあがった。

 ーー合図を待つなんて全くだ。

「しまった……自信が付き過ぎて防音仕様にまでなってる」

「ね、ねえ。ずっと気になっていたんだけど、ジャンヌとあのロリコンの魔法じゃないよね……?」

「あ……うーん。まあ、魔法じゃなくて……黒魔術?」

「黒……魔術? それってあの伝説の、存在が定かでない力そのものが伝説とされた? 凄い、本当にあるんだ黒魔術」

「なんかね、そうみたい。あはは……」

 バレても構わなかったが、それより興味津々にグイグイ来られると魔術の維持が上手くできない。

 精神統一がまだできていない。

 気が一度散ると再度魔術の維持へ集中することが難しい。
 攻撃を受けていないにも関わらず、門に亀裂が入る。

「駄目……これ!」

「どうしたの!?」

「集中力が切れると魔術は魔法よりも維持が難しくなるの!」

「何それ! ……ベオ! 押すよ!」

 テシェちゃんは責任を感じたのか、ベオと一緒に亀裂の入った部分を内側から押してくれる。
 
 気合いと自分に言い聞かせながら、門の修復に集中する。
 体の芯からーー魔力を絞り出して注ぎ続ける。

 ……音を拒絶しろ、何も見るな、何も外部からの情報はいらない。

「……うぐっ! ぐぐぐ……!」

「……うぅっ!」

 一度亀裂の入った門、その修復に体力が次から次へと放出され失われていく。
 このまま門を一度破壊して再度黒魔術を発動するーーだが、もしまだ矢が飛び交っていたらと考えると恐ろしくてできない。

「このまま……保って、お願い……!」

 くちびるを噛みしめ、額から溢れ出る汗が目に入らないよう強く閉じーー
 
「お願いだからこのーーえ?」

 だが、小さな箱型の門は……粉砕された。
 内側からではない、外からだった。

「終わったぞジャンヌ。いつまで隠れてんだよ、座って待っても出てこないから壊しちまっただろ?」

「……え、ええ!?」

「声掛けてんのに全然出てこねーし。魔力注ぎまくって何してたんだ?」

 ニヤニヤと笑いながら、ネロは大鎌をクルクル片手で回しながら近付いてくる。

「汗だくじゃねーか……どうしたんだ?」

「も、門に亀裂が入ったから……修復、してたのよ」

「そうだったのか。まあ、声が聞こえていなかったのは良いとして、悪い。頑張ってんのに人差し指だけで壊してしまった」

 ひ、人差し指……だけって。

 私とテシェちゃんはがくりと膝から崩れ落ちる。
 頑張った結果が人差し指一本で全て壊されるなんて。

「もう……過度な自信は持たなああい!」

「……はあ?」

「自信満々に発動したら防音仕様になっちゃったのよおお!!」

「す、凄いことだと思うが……お疲れ様でーす」

 大鎌を何処へ目に見えぬ速さで消して、ネロはななめ四十五度で上半身を倒してくる。
 無性に殴りたくなってくる。

「ーーで、トラップ装置は全部破壊したがどうするよ……山猿共?」

 上半身を上げると、今度は反対にエビ反って誰も居ない木々の頭辺りに話し出す。
 私とテシェちゃんが首を傾けると、ネロは器用に踵だけで反転して指を鳴らす。

 一本の木が、根本から頭まで禍々しい闇の炎で燃やすとその場で胴回し蹴りの行動をとった。
 一人で何をしているのか不思議になり、ネロの袖を引いてみる。

「ネロ?」

「下がってろジャンヌ。テシェちゃんとベオを守ってろ」

「な、何よ一人で! 教えてよ!」

「……姿を見せたらどうだ? まあ、俺には見えているがなーー山の民」

 ネロがそう言うと、四方八方私達を囲むように木の太い枝の上でしゃがみながら弓を構えるーー


「……山の民」

「過激派の連中……!」

「かくれんぼは終了だ、さあーー次は何して遊ぶ?」


 獣の顔が彫られた仮面を付けた、多数の山の民が私達を狙っていたのだった。
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