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巳の神と付き人
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ここは、年神になった干支の神が、下界を見守るために作られた天上の屋敷だ。
去年の年神である辰の神様と交代するために、お仕えする巳の神と共にやってきた俺は、年末から新年にかけての神事に忙しく走り回っていた。
俺が巳の神に身の回りの世話をする付き人として選ばれ、神隠し・・・もとい、仕えるようになってから4回目の年神だ。
だが、何回やってもその忙しさに慣れることはない。
いつもなら付き人として巳の神のそばを離れず世話を焼く俺だが、この神事の時ばかりは、他の仕事をこなすことで手一杯になり、巳の神に会えない日々を送っていた。
「付き人殿、巳の神様をお見かけしませんでしたか?」
巫女装束の女性に声をかけられ、俺は嫌な予感に内心眉を顰めた。
「今は各神社・仏閣への祝詞をあげているはずですが」
「ええ、つい先程まで祝詞を奏上されていたのですが、守札を書いていただこうとお持ちしたら、どこにもいらっしゃらなくて・・・」
(あの野郎。逃げやがったな)
「誰かに呼ばれたのかもしれませんね。守札は部屋へ置いておいてください。私が探してみましょう」
俺は人の良い笑みを浮かべて指示すると、踵を返して歩き出す。
(新年のクソ忙しい時に仕事を増やしやがって)
******
年神が過ごす一年を過ごす広い屋敷を片っ端から見て回るが、巳の神の姿は見当たらない。
(たく、どこ行きやがったんだ。ぐうたら蛇め)
いいかげん見つけないと自分の仕事が進まない。
(辰の神の付き人から引き継ぎを受ける約束があるってのに・・・早くしねぇと間に合わねぇぞ)
自然と早足になり部屋の確認も疎かになっていく。
使用されていない客間をチラリと覗いて次の部屋に向かおうとした俺は、後ろから羽交い締めにされて、強い力で客間の中に引き摺り込まれた。
「こんなところにいたんですか、巳の神様」
「寒い。怠い。やる気出ない・・・」
真っ白な鱗のある手と尻尾を巻きつけてくる神様は、俺の体温を求めて乱れた着物の合わせから、容赦なく手を突っ込んでくる。
ひんやりとした手が直に肌に触れてきて、俺は思わず身震いした。
「今年の年神でしょう。しっかりして下さい」
「お前が温めてくれたら頑張れそう」
甘えるように首に額を擦り付けてくる。
(この自堕落やろう。そうやって俺をサボりの仲間にする気か。その手にはのらんぞ)
「そんな悠長なことを言っている余裕はないでしょうが。もう三が日が過ぎているのに、終わっていない仕事が山積みです!私だってこんなところで貴方とかくれんぼしている場合じゃないんですよ。早く行かないと。これから前任の年神付きと引き継ぎがあるんですから」
「・・・ほーう」
今まで眠そうにしていた巳の神の目がギラリと光り、俺は「マズい」と心の中で後悔した。
目がまわるほどの忙しさで焦るあまり、愚痴が溢れて余計なことまで言ってしまった。
巳の神はとても嫉妬深い。
他人との約束を理由に、自分が蔑ろにされるなど許しはしないだろう。
「私以外を優先するのか?お前は私の付き人であろう?」
後ろから回された腕にグッと力が込められたのを感じて、益々慌ててしまう。
「そ、それだけじゃありませんよ!他にも供物の整理や各神社からの祈願内容の確認やらなんやら・・・・。と、とにかく!色々仕事が山積しているんです!」
「ふ~ん。私よりも仕事が大事か?」
めんどくさい彼女のようなセリフも、脅しのように言われれば揶揄って笑い飛ばすこともできない。
「私は巳の神様の付き人ですよ?全て貴方のためにしていることではないですか!」
「私のためか・・・。では、私の苦痛も和らげてくれるよね?」
袴の隙間から潜り込んできた尻尾が、足に絡みついてくる。
事態はどんどん悪い方向へ進んでいく。
(・・・マズいぞ。このままじゃ)
「年神として上手くやっていけるか不安なんだ。慰めてくれないか?」
「・・・アンタ。年神やるの今年で何十回目だよ」
「さあ?数えたことないかな」
返事をはぐらかすと、細い二又の舌が俺の首筋を舐め上げる。
「バ・・・ッ!やめろ!穢れるだろうが!」
思わず強い口調で叱責し、巳の神の胸を肘鉄した。
突然暴れたことが不意打ちだったのか、腕の中から脱出することに成功する。
これ幸いと俺は、襖に向かって走り出した。
が、そんな俺の足を、器用な尻尾が引っ掛けて転ばせてくる。
盛大に転んで這いつくばる俺の上に覆い被さると、あっという間に押し倒してしまった。
「ここにきてからお前に会えず、私は不安で押しつぶされそうなんだよ」
「年神ってのはそういうもんです」
悲しそうな顔で頬に手を添えて口付けをしようとする巳の神。
そうはさせまいと、腕でガードして足で脇腹の辺りに蹴りを入れた。
「神事を台無しにする気か!?」
《年神に選ばれた干支の神は穢れを持ち込んではいけない》
それは年神の掟だ。
年神である間は殺生や性交は許されない。
干支の神は年神になる前年末に欲を発散して身を清めた後、一年の禁欲生活を迎えるのだ。
そのせいで俺は大晦日の行事が始まるギリギリまで貪り尽くされ、悪夢のような12月を過ごしていた。
「あんだけすりゃ十分だったでしょうが!一年くらい我慢しろ」
「4日も経てば、温もりが消えてしまったよ」
そういうと俺の体を確かめるように、首から胸、腹へと白い鱗の生えた手をゆっくりと這わせていく。
「やらねぇぞ。付き人の俺が、アンタを穢すわけにはいかない」
「・・・そのためのコレだろう?」
白い手が俺の陰茎まで辿り着くと、俺の根本を縛る金色のリングを撫でる。
「それが嫌なんだよ」
俺は自分の陰茎に巻き付いた忌まわしいリングから目を背けた。
それは年神を穢さずに、付き人と交わるために作られたアイテムだった。
何百年も前のことだが、性力旺盛な若い干支神が禁欲生活に耐えかねて付き人を殺してしまう事件があった。
初めての年神という大役と、付き人と離れて暮らす孤独な日々に耐えられず、病んでしまった末の犯行だった。
唯一の拠り所である付き人を不可抗力で殺してしまい、心が壊れてしまった干支神は、幽閉されてすぐに死んでしまったという。
同じことを繰り返さぬように、と干支神を統べる大神様は、年神になった干支神と付き人へあるチートアイテムを授けることにした。
それがこの陰茎につけるリングだ。
干支神が銀のリングを、付き人が金のリングを陰茎に嵌める。
二つは対になっていて、相手が触れることで能力を発揮する。
付き人が干支神のリングに触れれば、想像するだけで干支神の肉体に奉仕することができ。
逆も同じで、干支神が付き人のリングに触れれば、思うだけで付き人の身体を貪ることができる。
実際に触れることなく、互いが互いに触れている感覚を得ることができる。
それがこのリングの能力なのだ。
「・・・・ぅッ」
ざらりとした感覚が陰茎を刺激して、逃避していた思考を現実に引き戻した。
自分の下半身に目をやると、何もしていないのに徐々に立ち上がって反応している。
巳の神の両手は俺の腕を押さえているのに、俺のモノを優しく撫でる感触は紛れもなく目の前の男の手の感触だ。
「やめろッ!嫌だって言ったろう!俺はコレを使う気はない」
「お前になくとも私にはある」
俺は必死にもがいて腕の中から逃れようとするが、さすが神様。びくともしない。
「私はもう、これ以上お前の温かさを忘れたくない」
苦しそうに言われれば、拒絶するのも可哀想になってくる。
俺だって求められて嬉しくないわけがない。
「・・・一度だけです。いいですね」
俺は覚悟を決めて、巳の神の袴の右サイドに手を突っ込むと、布に包まれている彼の陰茎のリングに触れた。
「両方してくれないのか」
「強欲は全てを無にしますよ?」
蛇の神様である彼には陰茎が2つ存在する。
両方を慰めていては、本当に時間がなくなってしまう。
俺は巳の神の要望を跳ね除けると、口の中で彼の陰茎に奉仕している所を想像をする。
奉仕し慣れたソレを高みに持っていくなど簡単なことだった。
反応が良い裏側を舐め上げ、口に含んで舌で刺激する。
口の中のソレがビクビクと震え始め、終わりが近いことを知らせてくる。
(早くイかせて、身支度して・・・、その前に軽く禊をしておいた方がいいだろう)
目を瞑り口を動かしながら、頭の中は次の作業のことでいっぱいだった。
あとどれくらい時間があるだろうか。
あと何をしないといけなかったか。
「う゛んんぅッ・・・!?」
「私のことだけ考えていて。よそ見してはダメだよ」
突然腹の奥深くに巳の神の陰茎を打ち込まれ、衝撃で口の動きが止まった。
両手で俺の頬を包み、まっすぐ見つめてきた巳の神が、頭の中を見通すように覗き込んでくる。
俺の着衣は乱れていたが、もちろん脱いではいない。
ただ、彼のモノが挿入された感覚を味わっているだけだ。
それでもその感覚は、実際に挿入された時となんら変わらない質量と快感を俺に与えてきた。
卑猥な音がしそうなほど乱暴に突かれて、俺は奉仕を忘れて喘いだ。
「あぁぁぁっ、いッ・・・、あ゛ぁあ、あぁ、イ゛、イくぅ゛っ!」
もうダメだと思った瞬間。
リングにスゥッと吸われる感覚と同時に電流のように走った快感が消えた。
たった今まで昂っていた体が、嘘のように落ち着いていた。
久しぶりの感覚に俺はゾッとした。
このリングは、快楽を吸収して射精するのを防ぐ効果がある。
射精して年神を穢さないようにしているのだ。
さらに性欲を減退させることで体を落ち着かせるため、まるでイった後のような感覚になる。
問題は外す時だ。
リングを外した瞬間、吸収した快感や射精が一気に襲いかかってくる。
初めてリングを外した時は、押し寄せる快感と蓄積された体の反応に耐えきれず、廃人のようになってしまった。
巳の神から手厚い介護を受けて正気に戻った時には、夏が終わっていた。
体から性欲が消えた後のなんとも言えない虚無感の中、嫌な記憶を思い出した。
青ざめて深くため息をついた俺を、労わるように白い尻尾が背中を撫でる。
「どう?久々につけるリングの感触は」
「最悪だ」
俺はげんなりしながら答えると、乱れまくった着衣を整える。
まだ三が日が終わったばかりなのに、コレでは先が思いやられる。
「お前も着ろよ」
背を向けて「これ以上はやらないぞ」と暗に釘を刺すと、情けない返事が返っていた。
「むむぅ・・・コレはどうなっておるのだ?一人ではできぬ、手伝え」
「ああ、そうでしたね」
とりあえず脱げばいいと思ったのか、必要のないところまで脱いでほぼ全裸状態の彼の周りには服が散乱していた。
年神の衣装に苦戦する巳の神を笑って、彼の前に跪いた。
着丈を合わせようと、着物の前側を持って着物の長さを確認する。
ふと視線を感じて顔を上げると、こちらをじっと見入る巳の神と目が合った。
「何か?」
「いや、幸せだなと思っていたのだ」
「急になんです」
着物を握る手に白い手が重ねられる。
「お前が私だけを見て私だけの世話を焼いている、それが嬉しいのだ」
「いつもやってるでしょうが」
「・・・ああ、そうだったね」
だからもっと感謝しないといけないね。
そういうと、俺の手をぎゅっと握りしめる。
「ありがとう。お前の存在でどれだけ私が助かっているか知れないよ」
改めて言われると照れくさい。
俺は作業に集中している風を装い、顔を伏せた。
そのせいで、巳の神が不敵に笑ったのを見逃してしまった。
「だから、もっとお前に私の想いを伝えたい」
握られた俺の手が、巳の神のもう一つの陰茎に導かれる。
銀色のリングの感触に、慌てて手を引くがもう遅い。
「だましやがったな!感動してたのに!!」
「騙すなんて人聞きの悪い。私は、お前に愛を伝えたいと思っただけなのに」
「俺のことを思うなら、その節操なしのチンコをしまえ!仕事しろ・・・ぁッ」
突然グッと腹の中が圧迫される。
先程口の中を蹂躙したモノとは違う形のモノが胎内を埋める感覚に、体を支えられず前屈みに倒れ込んだ。
「う・・・ぁあ、あ・・・あぁ」
「あぁ・・・温かい。やっぱりお前の中は気持ちいいね」
満足そうな声で俺の中を堪能する巳の神は、快感をやり過ごそうと必死に耐える俺の頭を優しく撫でる。
「あ、、ん・・・うぅ・・、で、てけぇ、出てけ、よ」
「そんな悲しいことを言わないで。もっとお前を愛させて」
先ほどとは違い、ゆっくりと優しく奥を突く感覚に無自覚に腰が揺れる。
「あぁ、早くお前と繋がりたいよ」
熱に浮かされたように耳元で囁かれて、どうしようもなく昂ってしまう。
実際に触れているのは頭を撫でる手のひらだけなのに、下半身に絡みつく見えない手と中を侵食する陰茎に翻弄される。
「あ・・・、んぅ、くッ、あぅぅ・・・」
だんだんと思考が蕩けていき、まるで本当に抱かれているような気分になってくる。
口付けが欲しくて、顔を上げて巳の神に縋り付くと、困ったように頬を撫でられた。
口の中に2本の細い指が突っ込まれたような感覚がして、俺はだらしなく口を開いた。
「ごめんね、来年いっぱいキスしてあげるからね」
巳の神は愛おしげに俺の頭を撫でてくれる。
指で舌を弄ばれ、中を突き上げられて、俺の思考は真っ白に塗りつぶされて快楽に溺れていく。
何か重要なことがあった気がする。
なんだっけ?
まぁいいや、早くもっと、巳の神でいっぱいになりたい。
俺は考えることをやめた。
そうして全ての快感をリングに吸われるまで、巳の神を求め続けたのだった。
*******
年神としての仕事を終えた辰の神は、次の干支である巳の神へ交替し、年始の手伝いを終えると、自分の国へ帰る準備をしていた。
荷造りも終わり、さあ帰ろうという段になって、自分の付き人がいないことに気がついた。
「なんだ、こんなところで油を売っておったのか」
荷物を運び終えてがらんとした屋敷へ戻ると、座敷に座って書類に目を通している自分の付き人を見つけた。
「サボっていたわけではありません。巳の神付きの方をお待ちしているのです」
「なるほど。さては蛇の奴、辛抱たまらなくなったか」
きっと今頃、自分の付き人を連れ込んで楽しんでいるに違いない。
そう思うと、一年間押さえ込んできた欲望が沸々と湧き上がってくる。
辰の神は付き人の隣に座り込むと、着物の合わせに手を差し込む。
「あいたっ」
そこをすかさず叩かれて、イタズラをしようとした手を引っ込めた。
「なんだ、つれない。ワシはあんなオモチャも使わず、きっちり一年待ったぞ」
「当たり前です。我が神はそのように堪え性のない方ではありませぬ故」
付き人はツンとすまして言い、書類から顔を上げようともしない。
「もうお役御免だ」
「いいえ、辰の国に帰るまでがお役目に御座います」
ぴしゃりと言われる。
褒められもせぬ、誘いに乗っても来ぬ。
辰の神は不服そうに口をひん曲げた。
「ならば早う帰るぞ」
「一年の引き継ぎを終えたら帰ります」
「そんなもの放っておけ!来ぬ方が悪い」
「待てぬと言うならお先にどうぞ。私は仕事を終えたら参ります」
冷たくあしらわれて、辰の神の不満は頂点に達した。
「引き継ぎが終われば良いのだな、そこで待っておれ!」
ドカドカと音を立てて部屋を出ていくと、年神が過ごす屋敷へと向かっていく。
座敷に残された付き人は、嫌な予感がしつつもその背中を見送った。
しばらくして聞こえてきたのは、大きな落雷のような地響きと、何かが倒壊するような音だった。
付き人は大きなため息をつくと、後始末のことを考えて頭を痛めるのだった。
去年の年神である辰の神様と交代するために、お仕えする巳の神と共にやってきた俺は、年末から新年にかけての神事に忙しく走り回っていた。
俺が巳の神に身の回りの世話をする付き人として選ばれ、神隠し・・・もとい、仕えるようになってから4回目の年神だ。
だが、何回やってもその忙しさに慣れることはない。
いつもなら付き人として巳の神のそばを離れず世話を焼く俺だが、この神事の時ばかりは、他の仕事をこなすことで手一杯になり、巳の神に会えない日々を送っていた。
「付き人殿、巳の神様をお見かけしませんでしたか?」
巫女装束の女性に声をかけられ、俺は嫌な予感に内心眉を顰めた。
「今は各神社・仏閣への祝詞をあげているはずですが」
「ええ、つい先程まで祝詞を奏上されていたのですが、守札を書いていただこうとお持ちしたら、どこにもいらっしゃらなくて・・・」
(あの野郎。逃げやがったな)
「誰かに呼ばれたのかもしれませんね。守札は部屋へ置いておいてください。私が探してみましょう」
俺は人の良い笑みを浮かべて指示すると、踵を返して歩き出す。
(新年のクソ忙しい時に仕事を増やしやがって)
******
年神が過ごす一年を過ごす広い屋敷を片っ端から見て回るが、巳の神の姿は見当たらない。
(たく、どこ行きやがったんだ。ぐうたら蛇め)
いいかげん見つけないと自分の仕事が進まない。
(辰の神の付き人から引き継ぎを受ける約束があるってのに・・・早くしねぇと間に合わねぇぞ)
自然と早足になり部屋の確認も疎かになっていく。
使用されていない客間をチラリと覗いて次の部屋に向かおうとした俺は、後ろから羽交い締めにされて、強い力で客間の中に引き摺り込まれた。
「こんなところにいたんですか、巳の神様」
「寒い。怠い。やる気出ない・・・」
真っ白な鱗のある手と尻尾を巻きつけてくる神様は、俺の体温を求めて乱れた着物の合わせから、容赦なく手を突っ込んでくる。
ひんやりとした手が直に肌に触れてきて、俺は思わず身震いした。
「今年の年神でしょう。しっかりして下さい」
「お前が温めてくれたら頑張れそう」
甘えるように首に額を擦り付けてくる。
(この自堕落やろう。そうやって俺をサボりの仲間にする気か。その手にはのらんぞ)
「そんな悠長なことを言っている余裕はないでしょうが。もう三が日が過ぎているのに、終わっていない仕事が山積みです!私だってこんなところで貴方とかくれんぼしている場合じゃないんですよ。早く行かないと。これから前任の年神付きと引き継ぎがあるんですから」
「・・・ほーう」
今まで眠そうにしていた巳の神の目がギラリと光り、俺は「マズい」と心の中で後悔した。
目がまわるほどの忙しさで焦るあまり、愚痴が溢れて余計なことまで言ってしまった。
巳の神はとても嫉妬深い。
他人との約束を理由に、自分が蔑ろにされるなど許しはしないだろう。
「私以外を優先するのか?お前は私の付き人であろう?」
後ろから回された腕にグッと力が込められたのを感じて、益々慌ててしまう。
「そ、それだけじゃありませんよ!他にも供物の整理や各神社からの祈願内容の確認やらなんやら・・・・。と、とにかく!色々仕事が山積しているんです!」
「ふ~ん。私よりも仕事が大事か?」
めんどくさい彼女のようなセリフも、脅しのように言われれば揶揄って笑い飛ばすこともできない。
「私は巳の神様の付き人ですよ?全て貴方のためにしていることではないですか!」
「私のためか・・・。では、私の苦痛も和らげてくれるよね?」
袴の隙間から潜り込んできた尻尾が、足に絡みついてくる。
事態はどんどん悪い方向へ進んでいく。
(・・・マズいぞ。このままじゃ)
「年神として上手くやっていけるか不安なんだ。慰めてくれないか?」
「・・・アンタ。年神やるの今年で何十回目だよ」
「さあ?数えたことないかな」
返事をはぐらかすと、細い二又の舌が俺の首筋を舐め上げる。
「バ・・・ッ!やめろ!穢れるだろうが!」
思わず強い口調で叱責し、巳の神の胸を肘鉄した。
突然暴れたことが不意打ちだったのか、腕の中から脱出することに成功する。
これ幸いと俺は、襖に向かって走り出した。
が、そんな俺の足を、器用な尻尾が引っ掛けて転ばせてくる。
盛大に転んで這いつくばる俺の上に覆い被さると、あっという間に押し倒してしまった。
「ここにきてからお前に会えず、私は不安で押しつぶされそうなんだよ」
「年神ってのはそういうもんです」
悲しそうな顔で頬に手を添えて口付けをしようとする巳の神。
そうはさせまいと、腕でガードして足で脇腹の辺りに蹴りを入れた。
「神事を台無しにする気か!?」
《年神に選ばれた干支の神は穢れを持ち込んではいけない》
それは年神の掟だ。
年神である間は殺生や性交は許されない。
干支の神は年神になる前年末に欲を発散して身を清めた後、一年の禁欲生活を迎えるのだ。
そのせいで俺は大晦日の行事が始まるギリギリまで貪り尽くされ、悪夢のような12月を過ごしていた。
「あんだけすりゃ十分だったでしょうが!一年くらい我慢しろ」
「4日も経てば、温もりが消えてしまったよ」
そういうと俺の体を確かめるように、首から胸、腹へと白い鱗の生えた手をゆっくりと這わせていく。
「やらねぇぞ。付き人の俺が、アンタを穢すわけにはいかない」
「・・・そのためのコレだろう?」
白い手が俺の陰茎まで辿り着くと、俺の根本を縛る金色のリングを撫でる。
「それが嫌なんだよ」
俺は自分の陰茎に巻き付いた忌まわしいリングから目を背けた。
それは年神を穢さずに、付き人と交わるために作られたアイテムだった。
何百年も前のことだが、性力旺盛な若い干支神が禁欲生活に耐えかねて付き人を殺してしまう事件があった。
初めての年神という大役と、付き人と離れて暮らす孤独な日々に耐えられず、病んでしまった末の犯行だった。
唯一の拠り所である付き人を不可抗力で殺してしまい、心が壊れてしまった干支神は、幽閉されてすぐに死んでしまったという。
同じことを繰り返さぬように、と干支神を統べる大神様は、年神になった干支神と付き人へあるチートアイテムを授けることにした。
それがこの陰茎につけるリングだ。
干支神が銀のリングを、付き人が金のリングを陰茎に嵌める。
二つは対になっていて、相手が触れることで能力を発揮する。
付き人が干支神のリングに触れれば、想像するだけで干支神の肉体に奉仕することができ。
逆も同じで、干支神が付き人のリングに触れれば、思うだけで付き人の身体を貪ることができる。
実際に触れることなく、互いが互いに触れている感覚を得ることができる。
それがこのリングの能力なのだ。
「・・・・ぅッ」
ざらりとした感覚が陰茎を刺激して、逃避していた思考を現実に引き戻した。
自分の下半身に目をやると、何もしていないのに徐々に立ち上がって反応している。
巳の神の両手は俺の腕を押さえているのに、俺のモノを優しく撫でる感触は紛れもなく目の前の男の手の感触だ。
「やめろッ!嫌だって言ったろう!俺はコレを使う気はない」
「お前になくとも私にはある」
俺は必死にもがいて腕の中から逃れようとするが、さすが神様。びくともしない。
「私はもう、これ以上お前の温かさを忘れたくない」
苦しそうに言われれば、拒絶するのも可哀想になってくる。
俺だって求められて嬉しくないわけがない。
「・・・一度だけです。いいですね」
俺は覚悟を決めて、巳の神の袴の右サイドに手を突っ込むと、布に包まれている彼の陰茎のリングに触れた。
「両方してくれないのか」
「強欲は全てを無にしますよ?」
蛇の神様である彼には陰茎が2つ存在する。
両方を慰めていては、本当に時間がなくなってしまう。
俺は巳の神の要望を跳ね除けると、口の中で彼の陰茎に奉仕している所を想像をする。
奉仕し慣れたソレを高みに持っていくなど簡単なことだった。
反応が良い裏側を舐め上げ、口に含んで舌で刺激する。
口の中のソレがビクビクと震え始め、終わりが近いことを知らせてくる。
(早くイかせて、身支度して・・・、その前に軽く禊をしておいた方がいいだろう)
目を瞑り口を動かしながら、頭の中は次の作業のことでいっぱいだった。
あとどれくらい時間があるだろうか。
あと何をしないといけなかったか。
「う゛んんぅッ・・・!?」
「私のことだけ考えていて。よそ見してはダメだよ」
突然腹の奥深くに巳の神の陰茎を打ち込まれ、衝撃で口の動きが止まった。
両手で俺の頬を包み、まっすぐ見つめてきた巳の神が、頭の中を見通すように覗き込んでくる。
俺の着衣は乱れていたが、もちろん脱いではいない。
ただ、彼のモノが挿入された感覚を味わっているだけだ。
それでもその感覚は、実際に挿入された時となんら変わらない質量と快感を俺に与えてきた。
卑猥な音がしそうなほど乱暴に突かれて、俺は奉仕を忘れて喘いだ。
「あぁぁぁっ、いッ・・・、あ゛ぁあ、あぁ、イ゛、イくぅ゛っ!」
もうダメだと思った瞬間。
リングにスゥッと吸われる感覚と同時に電流のように走った快感が消えた。
たった今まで昂っていた体が、嘘のように落ち着いていた。
久しぶりの感覚に俺はゾッとした。
このリングは、快楽を吸収して射精するのを防ぐ効果がある。
射精して年神を穢さないようにしているのだ。
さらに性欲を減退させることで体を落ち着かせるため、まるでイった後のような感覚になる。
問題は外す時だ。
リングを外した瞬間、吸収した快感や射精が一気に襲いかかってくる。
初めてリングを外した時は、押し寄せる快感と蓄積された体の反応に耐えきれず、廃人のようになってしまった。
巳の神から手厚い介護を受けて正気に戻った時には、夏が終わっていた。
体から性欲が消えた後のなんとも言えない虚無感の中、嫌な記憶を思い出した。
青ざめて深くため息をついた俺を、労わるように白い尻尾が背中を撫でる。
「どう?久々につけるリングの感触は」
「最悪だ」
俺はげんなりしながら答えると、乱れまくった着衣を整える。
まだ三が日が終わったばかりなのに、コレでは先が思いやられる。
「お前も着ろよ」
背を向けて「これ以上はやらないぞ」と暗に釘を刺すと、情けない返事が返っていた。
「むむぅ・・・コレはどうなっておるのだ?一人ではできぬ、手伝え」
「ああ、そうでしたね」
とりあえず脱げばいいと思ったのか、必要のないところまで脱いでほぼ全裸状態の彼の周りには服が散乱していた。
年神の衣装に苦戦する巳の神を笑って、彼の前に跪いた。
着丈を合わせようと、着物の前側を持って着物の長さを確認する。
ふと視線を感じて顔を上げると、こちらをじっと見入る巳の神と目が合った。
「何か?」
「いや、幸せだなと思っていたのだ」
「急になんです」
着物を握る手に白い手が重ねられる。
「お前が私だけを見て私だけの世話を焼いている、それが嬉しいのだ」
「いつもやってるでしょうが」
「・・・ああ、そうだったね」
だからもっと感謝しないといけないね。
そういうと、俺の手をぎゅっと握りしめる。
「ありがとう。お前の存在でどれだけ私が助かっているか知れないよ」
改めて言われると照れくさい。
俺は作業に集中している風を装い、顔を伏せた。
そのせいで、巳の神が不敵に笑ったのを見逃してしまった。
「だから、もっとお前に私の想いを伝えたい」
握られた俺の手が、巳の神のもう一つの陰茎に導かれる。
銀色のリングの感触に、慌てて手を引くがもう遅い。
「だましやがったな!感動してたのに!!」
「騙すなんて人聞きの悪い。私は、お前に愛を伝えたいと思っただけなのに」
「俺のことを思うなら、その節操なしのチンコをしまえ!仕事しろ・・・ぁッ」
突然グッと腹の中が圧迫される。
先程口の中を蹂躙したモノとは違う形のモノが胎内を埋める感覚に、体を支えられず前屈みに倒れ込んだ。
「う・・・ぁあ、あ・・・あぁ」
「あぁ・・・温かい。やっぱりお前の中は気持ちいいね」
満足そうな声で俺の中を堪能する巳の神は、快感をやり過ごそうと必死に耐える俺の頭を優しく撫でる。
「あ、、ん・・・うぅ・・、で、てけぇ、出てけ、よ」
「そんな悲しいことを言わないで。もっとお前を愛させて」
先ほどとは違い、ゆっくりと優しく奥を突く感覚に無自覚に腰が揺れる。
「あぁ、早くお前と繋がりたいよ」
熱に浮かされたように耳元で囁かれて、どうしようもなく昂ってしまう。
実際に触れているのは頭を撫でる手のひらだけなのに、下半身に絡みつく見えない手と中を侵食する陰茎に翻弄される。
「あ・・・、んぅ、くッ、あぅぅ・・・」
だんだんと思考が蕩けていき、まるで本当に抱かれているような気分になってくる。
口付けが欲しくて、顔を上げて巳の神に縋り付くと、困ったように頬を撫でられた。
口の中に2本の細い指が突っ込まれたような感覚がして、俺はだらしなく口を開いた。
「ごめんね、来年いっぱいキスしてあげるからね」
巳の神は愛おしげに俺の頭を撫でてくれる。
指で舌を弄ばれ、中を突き上げられて、俺の思考は真っ白に塗りつぶされて快楽に溺れていく。
何か重要なことがあった気がする。
なんだっけ?
まぁいいや、早くもっと、巳の神でいっぱいになりたい。
俺は考えることをやめた。
そうして全ての快感をリングに吸われるまで、巳の神を求め続けたのだった。
*******
年神としての仕事を終えた辰の神は、次の干支である巳の神へ交替し、年始の手伝いを終えると、自分の国へ帰る準備をしていた。
荷造りも終わり、さあ帰ろうという段になって、自分の付き人がいないことに気がついた。
「なんだ、こんなところで油を売っておったのか」
荷物を運び終えてがらんとした屋敷へ戻ると、座敷に座って書類に目を通している自分の付き人を見つけた。
「サボっていたわけではありません。巳の神付きの方をお待ちしているのです」
「なるほど。さては蛇の奴、辛抱たまらなくなったか」
きっと今頃、自分の付き人を連れ込んで楽しんでいるに違いない。
そう思うと、一年間押さえ込んできた欲望が沸々と湧き上がってくる。
辰の神は付き人の隣に座り込むと、着物の合わせに手を差し込む。
「あいたっ」
そこをすかさず叩かれて、イタズラをしようとした手を引っ込めた。
「なんだ、つれない。ワシはあんなオモチャも使わず、きっちり一年待ったぞ」
「当たり前です。我が神はそのように堪え性のない方ではありませぬ故」
付き人はツンとすまして言い、書類から顔を上げようともしない。
「もうお役御免だ」
「いいえ、辰の国に帰るまでがお役目に御座います」
ぴしゃりと言われる。
褒められもせぬ、誘いに乗っても来ぬ。
辰の神は不服そうに口をひん曲げた。
「ならば早う帰るぞ」
「一年の引き継ぎを終えたら帰ります」
「そんなもの放っておけ!来ぬ方が悪い」
「待てぬと言うならお先にどうぞ。私は仕事を終えたら参ります」
冷たくあしらわれて、辰の神の不満は頂点に達した。
「引き継ぎが終われば良いのだな、そこで待っておれ!」
ドカドカと音を立てて部屋を出ていくと、年神が過ごす屋敷へと向かっていく。
座敷に残された付き人は、嫌な予感がしつつもその背中を見送った。
しばらくして聞こえてきたのは、大きな落雷のような地響きと、何かが倒壊するような音だった。
付き人は大きなため息をつくと、後始末のことを考えて頭を痛めるのだった。
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