一番近くに。

沈丁花

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ss2「サンタさんの正体は」

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家から会社までは汽車で通う。片道30分の道のりは、時に途方もなく長い。

早く会いたい。アシュリーといる時間を少しでも多く作るために、目を閉じながらイメージを固めていく。

かれこれ予定が合わず、同じ家で過ごしているはずなのに二週間もご無沙汰だ。今日は絶対ゆっくり過ごそう。誰にも邪魔されない。

朝アシュリーより早く家を出なくてはならなくて、テオは少し憂鬱になっていた。

それに気づいたアシュリーが、今夜はゆっくりできるよ、と優しい笑顔で抱きしめてくれた温もりを何度も反芻する。それだけでくすぐったくて、嬉しくて、今日も1日頑張れた。

30分汽車に乗ったあといつもなら20分弱かかる家までの徒歩の道のりは、楽しみで走ったから10分とかからない。

「はぁっ…はぁ…

ただいまっ!」

「おかえり。走ってきたの?」

声の方を見ると、驚いたように目を丸くした大切な人が、そのあとふわっと微笑んで、大好きな温もりに包まれた。

「…っ、いまっ、汗かいてるからっ…!」

この温もりから離れるのは寂しいが、アシュリーの服を汗で汚してしまってはいけない。慌てて離れようとすると、より強い力で抱きしめられる。

戸惑って上を見上げると、綺麗なアクアマリンの瞳が愛おしそうにこちらを見ている。

「いいよ。早くこうするためにかいた汗でしょう?まだ身体を洗ったわけでもないし。」

その綺麗な唇から出た優しい言葉に、仕事の疲れが一気に溶かされていく。幸せだ。

「…うん。」

上を向いてキスをねだると、両頬をしなやかで大きな手が包んでいく。

キスの時は目を閉じるものだと思うけれど、アシュリーのことをずっと見ていたくて、かえってこの瞬間を逃すまいと集中する。それはアシュリーも同じだったようで、二人の唇はお互いの目がぱっちりと開いたまま重なった。

唇が触れた瞬間にここまでお互いのことを凝視したのは初めてで、そのまま二人で真っ赤になる。

「目、なんで開けるのっ!?は、恥ずかしいっ!」

全くのブーメランでも、とりあえず言わないと気が済まなくて、真っ赤になり口を押さえながら早口でまくし立てる。

「だってテオの可愛い顔を逃したくなくて。テオこそなんで?」

「…同じ理由です… 。ごめんなさい…。」

つい毒を吐いてしまった罪悪感に苛まれながらも、アシュリーも真っ赤にして口を押さえながら自分と全く同じことを言うので、なんだか嬉しくて、おかしくて。

アシュリーがふふっとわらうから、テオもそれにつられて笑ってしまう。同じだね、おかしいね、と。

「ご飯にしようか。できてるから。」

「うん、ありがとう。」

この人といる時間が、一番好きだ。そう迷いなく答えられる。

アシュリーとの時間は、始まるまでは楽しみで早くきて欲しいと願い、始まってからもその先が楽しみでどんどん次を求めてしまうのに、過ぎてしまうと一瞬だ。

もっとゆっくり楽しめばよかったと、終わったあとはいつも後悔する。

自分はこんなに幸せでいていいのかと、そんなふうにさえ感じるほど、夢のように素敵な夜の始まりだ。
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