朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

沈丁花

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第二部

※お泊まりと2度目の事件※②(静留side)

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一日中離れたことは東弥と出会ってから一度もなかったので、我慢できるかと尋ねられた時は正直不安だった。

けれど東弥はとても苦しそうな表情でその話をしていて、それに静留を心配して谷津達と話までつけてくれて。

それが嬉しかったから、静留は悲しくなかった。

「静留くん、明楽、一緒にお菓子作りしない?」

谷津の家のソファに座りどうしていいのかわからず、ぬいぐるみを抱えながら固まっていると、真希が明るい声でそんなことを言った。

「えっ、うそうそ、マキちゃんのお菓子食べれんの!?」

谷津が楽しそうに声を上げる。

「手伝ってくれたらねー!」

「やるやる!!静留くんも手伝おう?楽しいよー!それにマキちゃんのお菓子、すごく美味しいんだよ。」

__おいしいおかし…。

それを聞いて、静留は脳裏に東弥の顔を浮かべる。

「東弥さんにもあげられる…?」

恐る恐る尋ねると、真希が口元を押さえてうっと唸った。“てんし”、と聞こえた気がしたが、方言か何かなのかもしれない。

「もちろん。上手にできたのを持って帰ろうね。静留君が作ったお菓子なんて言ったら、東弥君はもう大喜びよ。」

真希の言葉に、静留は目を輝かせた。

東弥が大喜びするだなんて、それはもうやるしかない。

「おてつだい、します。」

静留が言うと、真希は嬉しそうに笑んだ。

「やった!じゃあ私のエプロンを… 」

「俺とってきたよー!!」

「明楽ありがとうー!天才!!」

「えへへ、やった。」

エプロンを手に持ってきた谷津を抱きしめ、真希がよしよしと頭を撫でる。

谷津は幸せそうで、なんだか東弥と自分みたいだなと思った。

__東弥さん、元気かな…?

まだ新幹線の中にいるであろう彼は、どんな表情をしているのだろう。いつものように眼鏡をかけて難しそうな方を読んでいるのだろうか。

そんなことを考えながら静留は真希と谷津につられキッチンに向かった。

ちなみに静留はエプロンと三角巾を自分で付けられず、結局真希が全てつけてくれた。


「明楽、これ白っぽくなるまで混ぜて。こぼさないようにね。」

「はーい!わっ、結構硬い…。」

真希が計量した材料を入れたボウルと泡立て器を谷津に渡し、谷津はそれを受け取ると指示通りに泡立て器を動かし始める。

谷津が混ぜ初めてしばらくするとバターの香りがうっすら漂ってきて、その優しい香りに静留はぎゅっと目を細めた。

「静留君は、普段東弥君とお休みの日何をしてるの?」

ずっと手持ち無沙汰の静留に、真希が優しく問いかけてくる。

「えっと、お花にお水をあげたり、ピアノをひいたり。」

「そっか。東弥君は?」

「むずかしそうな本をよんだり、レポート?したり。」

静留は誰かと話すのが少し怖い。これはもともと他人と話し慣れていないからだ。しかし東弥の友人である谷津、真希、幹斗、由良たちとは少し話すことができるようになった。

全て東弥のおかげだと思うと、くすぐったいような気持ちになる。

しばらく話していると、谷津が息を切らせながら“できた!”と言って、真希にボウルの中を見せた。

「うん、これで大丈夫。よくできました。じゃあ次はこれを入れて…っと。静留君、混ぜてみる?」

「うん。」

先ほどのボウルの中に卵と砂糖を入れたものが静留に渡される。

真希は静留がこぼさないようにとボウルを支え、泡立て器もはじめは一緒に回してくれた。

「そうそう、上手。こんなもんかなー。このあとちょっと準備するから、明楽たちはちょっとソファーで休んでてね。」

「はーい!行こっ、静留君。」

谷津に手を引かれ、静留はソファーに誘導される。

そういえば前にもこの手に救われたな、と、ふと思い出し、彼の手を頼もしく感じた。









「普段どんなプレイしてんの?」

「えっと、ボールあそびしたり、おくちさわってもらったり…?」

真希が準備をしている間、ソファーの上で突然谷津に小声で尋ねられた。

彼が小声だったので、静留も自然と小声で答える。

「じゃあ夜のアレはどんなことしてんの?東弥上手いでしょ?」

今度はさらに声を小さくして耳打ちされた。

耳の近くで喋られたので、少しくすぐったい。

しかし谷津の言葉の意味がわからず、静留は首を傾げる。

「よるのアレ… 」

「ほら、…えっと、お互いに恥ずかしいとこ触り合ったり。」

__そ、そんなこと、聞くの??

静留は真っ赤になって口を押さえた。

けれど静留がそう思うだけで案外普通の会話内容なのかもしれない。

「おたがい…じゃなくて…、僕がさわってもらってるだけ…。」

真っ赤になりながら答えると、今度は谷津が、驚いたように大きく目を見開き口を押さえる。

「うそっ!!それじゃ東弥生殺しじゃん!」

「ころし…?東弥さん、死んじゃう!?」

「…うーんいずれ死ぬかも。我慢のしすぎで。」

あまりにもびっくりして、静留は涙目になった。

__東弥さんが僕のせいで死んじゃうなんて…

「…ど、どうしたら死なない?」

「…んー、静留君も東弥にしてあげればいいんじゃないかな?」

「あーきーらー…。」

いつの間にか声が大きくなっていたようで、話を聞きつけた真希がやってきて谷津のほっぺたを強く引っ張った。

「ひえっ…。俺何かした!?」

「静留君に何吹き込んでるの!!静留君、明楽が言ったことは気にしなくていいからね。」

にっこりと笑う真希の目が笑っていなくて、静留はさらに涙目になる。

しかも、気にしなくていい、と言われても気にしない方が無理だ。

静留がぐずぐずと泣いていると、静留のスマホの着信音が鳴った。

番号を知っているのは東弥だけだから、着いたという連絡だろう。

「東弥さん…。」

“どうしたの、静留。泣いてるの?なにかあった?”

電話の向こう側で、彼の声は慌てていた。

おそらく静留が涙声だったからだろう。

東弥に心配をかけてはいけないと思い、静留は涙を拭って、声を治すためにオレンジジュースを一口飲んだ。

「なにもない。東弥さんは?」

“ああ、こっちは無事着いたよ。本当に、何かあったら連絡してね。…あっ、ごめん、迎えが来ちゃった。じゃあまたね。”

「いってらっしゃい…。」

ぷつり、と電話を切ると、当たり前だが東弥の声は聞こえてこなくなる。

「じゃ、準備も終わったから、お菓子作り再開しよっか。」

寂しさや不安に浸る余裕はなく、静留は真希キッチンへと連れられた。

「こうやって、クッキーの型をぬくの。いろいろな形があるから、明楽も一緒にやってね。」

__まずは東弥さんにおいしいおかしを作ろう…。

静留は雑念を払うようにごくんと息を呑んでから、真希に渡されたクッキーの型をにぎったのだった。
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