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2人の出会い
束の間の幸せ②
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「調子はどう?」
「問題ありません。」
彼が近づくことによる昂りに気付かれないように、彼が帰ってくると一定の距離を保つ。
アランという男は本当に謎だ。罪を犯してまでΩを助け、本来誇るべきαであることを隠そうとする。しかもその行為を全て、自分のエゴだと話す。
もちろんそれを尋ねることはしない。人にはそれぞれの事情がある。それにアルに聞き出す権利もない。
アルだって、復讐に染まりαを殺そうと図ったことなど話していないのだ。
しかし彼のその深い青に宿る孤独には、寄り添いたいと思う。それが今自分の生きている意味であり、果たすべき責任である気がするからだ。
化粧を落とし、ウィッグとコンタクトを取れば、その人と呼ぶには美しすぎる相貌が露わになる。
「いつもありがとう。いただきます。」
そして彼は食卓につき、アルに感謝を述べてからあるの作った料理を口にした。
その形の良い薄紅の唇に自分の料理した肉の塊が吸い込まれていくのに、向かいに座っているアルは見惚れてしまう。
肉を切り分けるためにナイフを持ち俯くと、糸のように細い金色の前髪が重力に従ってしなやかに落ちて、
背筋はスッと伸びていて、それ故に白く長い首が余計に映える。
真っ白な首筋にかかる肩までの髪は、サラサラと音がしそうなほど美しく散り、その間から覗く細いラインは、なんとも色っぽい。
口が開くだけで、少し首を傾げてその口に物を入れるだけで、どうしてか漂う官能的な雰囲気に目が釘付けになってしまう。
仕草の全てが、写真を撮ったら一枚の絵になりそうなほど繊細で美麗で、このような存在がいることさえも完全には信じきれないほどで。
「今日はどんなふうに過ごしていた?」
不意にアランの食事の手が止まり、俯き加減の前髪越しに、深い青がアルをじっとみた。
仕草だけでこんなに惹きつけられ、ドキドキするのだ。
その眼で見つめられたら危険な気がして、アルは彼と目を合わせないようにそっと目を伏せる。
「いつも通り、家事を。」
ひどくぶっきらぼうに答えてしまうのもいつものことで、アランは全く気にする様子もない。
「そうか。今日は少し面白いものを持ってきた。あとで一緒に見よう。」
よしよしとアランがアルの頭を優しく撫でていく。
…そんな風にしないでほしい、と思った。近づくたびにその甘やかな香りに惹かれてしまうから。
αはα同士結婚して、幸せな未来を築くものだ。わざわざΩが生まれる可能性をともなってまでΩといる者などいない。
そもそも娼館に来た客のように扱われたのなら、こんな気持ちは芽生えなかった。アランのアルに対する扱いは、常に優しく、自分が彼と同じ立場なのではないかと錯覚するほどなのだ。
「…子供じゃないんだから。」
温もりをもらえて嬉しいのにそんな悪態を吐いてしまうのは明らかな子供なのに、彼が哀しげにするのをわかって尚行ってしまう。
「子供だからこうしてるんじゃない。大切だからだ。」
そうやさしく言われて仕舞えば、もう何も言い返せず、彼の香りとその温もりに身を任せ、身体の中心に集まる熱に、ただ耐えるしかないのだった。
ある日、1人の昼食を終え、洗い物をしている最中、途端に体がほてり始めた。
アルはそれがヒートであることを理解する。いつも通り、自慰をしないと気が済まないような強いものではない。
問題はアランが帰ってきてからだ。
自分がどうなってしまうのかももちろんだが、ヒートのΩにあてられて、彼までどうにかなってしまわないだろうか。
これまで様々なαに侮蔑されながら抱かれてきたアルにとっては構わないことだが、アランにとってはそれが苦となるかもしれない。
…まあ、そんなこと考えたって仕方がないのだが。
アルはここ以外に居場所がないし、彼もまた、アルに異常な執着を見せる。2人は互いに運命の糸に惹かれあったかのようにぴったりと波長が合うのだ。
洗い物を終えると、そのままソファーに横になる。少し頭が痛む。
一眠りすれば良くなるだろうかとぼうっと考えながら、アルはゆっくりと目を閉じた。
風に混じって甘やかな花の香りが鼻をかすめる。甘く、官能的で、淫靡な香り…。
「アル、ただいま。」
ああ、そして優しい低い声が近づいてきて…
その声で目を覚ました時、アルは一瞬自分の身体の変化になにがあったのか把握できなかった。
Ω特有の小さな肉欲は痛いほどにそそり勃ち、秘孔からは洪水のように液が溢れて下着を濡らしている。
身体は極刑でウイルスを注射された後と同じほどに熱く、どくどくと脈打つ心臓は飛び出してしまいそうで。
そして、絶対に近寄ってはならないとなけなしの理性が警報を鳴らす中、本能の求めるままに、足はそこはかとなく甘やかな香りの方へと引き寄せられていく。
「アル!?」
ドアから入ってきたアランの程よく鍛えられた胸板に、反射的に顔をすり寄せる。胸いっぱいにその香を吸い込めば、脳がとろけるような感覚に襲われた。
…熱い…。
…欲しい。彼が欲しい。
アルの理性はどんどん欲望へと置き換わって行き、アルのその行動に、アランもまたその深く青い瞳を獣のようにぐらりと揺らしていく。
アルは背伸びをして、その形の良い唇に必死で吸いつこうとした。
「問題ありません。」
彼が近づくことによる昂りに気付かれないように、彼が帰ってくると一定の距離を保つ。
アランという男は本当に謎だ。罪を犯してまでΩを助け、本来誇るべきαであることを隠そうとする。しかもその行為を全て、自分のエゴだと話す。
もちろんそれを尋ねることはしない。人にはそれぞれの事情がある。それにアルに聞き出す権利もない。
アルだって、復讐に染まりαを殺そうと図ったことなど話していないのだ。
しかし彼のその深い青に宿る孤独には、寄り添いたいと思う。それが今自分の生きている意味であり、果たすべき責任である気がするからだ。
化粧を落とし、ウィッグとコンタクトを取れば、その人と呼ぶには美しすぎる相貌が露わになる。
「いつもありがとう。いただきます。」
そして彼は食卓につき、アルに感謝を述べてからあるの作った料理を口にした。
その形の良い薄紅の唇に自分の料理した肉の塊が吸い込まれていくのに、向かいに座っているアルは見惚れてしまう。
肉を切り分けるためにナイフを持ち俯くと、糸のように細い金色の前髪が重力に従ってしなやかに落ちて、
背筋はスッと伸びていて、それ故に白く長い首が余計に映える。
真っ白な首筋にかかる肩までの髪は、サラサラと音がしそうなほど美しく散り、その間から覗く細いラインは、なんとも色っぽい。
口が開くだけで、少し首を傾げてその口に物を入れるだけで、どうしてか漂う官能的な雰囲気に目が釘付けになってしまう。
仕草の全てが、写真を撮ったら一枚の絵になりそうなほど繊細で美麗で、このような存在がいることさえも完全には信じきれないほどで。
「今日はどんなふうに過ごしていた?」
不意にアランの食事の手が止まり、俯き加減の前髪越しに、深い青がアルをじっとみた。
仕草だけでこんなに惹きつけられ、ドキドキするのだ。
その眼で見つめられたら危険な気がして、アルは彼と目を合わせないようにそっと目を伏せる。
「いつも通り、家事を。」
ひどくぶっきらぼうに答えてしまうのもいつものことで、アランは全く気にする様子もない。
「そうか。今日は少し面白いものを持ってきた。あとで一緒に見よう。」
よしよしとアランがアルの頭を優しく撫でていく。
…そんな風にしないでほしい、と思った。近づくたびにその甘やかな香りに惹かれてしまうから。
αはα同士結婚して、幸せな未来を築くものだ。わざわざΩが生まれる可能性をともなってまでΩといる者などいない。
そもそも娼館に来た客のように扱われたのなら、こんな気持ちは芽生えなかった。アランのアルに対する扱いは、常に優しく、自分が彼と同じ立場なのではないかと錯覚するほどなのだ。
「…子供じゃないんだから。」
温もりをもらえて嬉しいのにそんな悪態を吐いてしまうのは明らかな子供なのに、彼が哀しげにするのをわかって尚行ってしまう。
「子供だからこうしてるんじゃない。大切だからだ。」
そうやさしく言われて仕舞えば、もう何も言い返せず、彼の香りとその温もりに身を任せ、身体の中心に集まる熱に、ただ耐えるしかないのだった。
ある日、1人の昼食を終え、洗い物をしている最中、途端に体がほてり始めた。
アルはそれがヒートであることを理解する。いつも通り、自慰をしないと気が済まないような強いものではない。
問題はアランが帰ってきてからだ。
自分がどうなってしまうのかももちろんだが、ヒートのΩにあてられて、彼までどうにかなってしまわないだろうか。
これまで様々なαに侮蔑されながら抱かれてきたアルにとっては構わないことだが、アランにとってはそれが苦となるかもしれない。
…まあ、そんなこと考えたって仕方がないのだが。
アルはここ以外に居場所がないし、彼もまた、アルに異常な執着を見せる。2人は互いに運命の糸に惹かれあったかのようにぴったりと波長が合うのだ。
洗い物を終えると、そのままソファーに横になる。少し頭が痛む。
一眠りすれば良くなるだろうかとぼうっと考えながら、アルはゆっくりと目を閉じた。
風に混じって甘やかな花の香りが鼻をかすめる。甘く、官能的で、淫靡な香り…。
「アル、ただいま。」
ああ、そして優しい低い声が近づいてきて…
その声で目を覚ました時、アルは一瞬自分の身体の変化になにがあったのか把握できなかった。
Ω特有の小さな肉欲は痛いほどにそそり勃ち、秘孔からは洪水のように液が溢れて下着を濡らしている。
身体は極刑でウイルスを注射された後と同じほどに熱く、どくどくと脈打つ心臓は飛び出してしまいそうで。
そして、絶対に近寄ってはならないとなけなしの理性が警報を鳴らす中、本能の求めるままに、足はそこはかとなく甘やかな香りの方へと引き寄せられていく。
「アル!?」
ドアから入ってきたアランの程よく鍛えられた胸板に、反射的に顔をすり寄せる。胸いっぱいにその香を吸い込めば、脳がとろけるような感覚に襲われた。
…熱い…。
…欲しい。彼が欲しい。
アルの理性はどんどん欲望へと置き換わって行き、アルのその行動に、アランもまたその深く青い瞳を獣のようにぐらりと揺らしていく。
アルは背伸びをして、その形の良い唇に必死で吸いつこうとした。
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