壊れた空に白鳥は哭く

沈丁花

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2人の出会い

束の間の幸せ③

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もう、やめられない。いけないとわかっていても、この甘やかで官能的な香りをもっと貪りたい。禁断の果実を前に、一握の理性などやはり何にもならないのだ。

しかし、2つの唇が重なることはなかった。アランが自らの手をその間に挟み、全ての欲望を吐き出すように自らの指を強く噛んだのである。

「…くっ… 」

苦しげな吐息が、アランの口から漏れる。それを見てもアルはなお、その甘やかな唾液に吸い付きたくてたまらない。

しかしアランは半ば振り払うようにアルから離れ、自らの口に何かを含んでいく。そして水とともにそれを嚥下し、悲しげな瞳でアルを見つめた。

今のアルは獣のように、理性など崩壊し、本当に自らの欲求のみで動こうとしていた。だから熱を持っておぼつかない足取りで彼にすぐに駆け寄ろうとする。

そして。

アルの方を見たアランの瞳を見て、一瞬だけ、理性を取り戻した。

その、深い青の中には、愛おしさと悲しさが、たっぷりと詰まっていた。どうしてそんなに苦しそうに、そして優しく笑うのだろう。

一瞬取り戻された理性も束の間、すぐにまた欲求に支配され、アルはアランに駆け寄った。アランはもう、おそらくアルを欲しがってはいない。

それをわかっていてなお、アルはただどうしようもなく彼が欲しくて、懸命に唇を突き出し背伸びをした。

アルのほおをしなやかな指が優しく伝っていく。そして、泡雪が降り注ぐような優しいキスが、アルの唇に落とされた。

美しい形をした薄い唇は、アルが思っていたよりもずっと柔らかい。求めてやまなかったその香りがたっぷりと体内に流れてきて、腰が砕け、足がガクガクと震える。

アランはそれを優しく、しかししっかりと支えると、お姫様抱っこのような形でアルを運んだ。

彼に包まれて、全身にぞくぞくと刺激が走る。

…ああ、もう、我慢できない。身体が熱くてたまらなくて、どうにかなってしまいそうだ。

自分は、今まで一度もこうじゃなかったのに。

そして。

「…おか…して…。」

今まで誰に対してだって願ったことのないことを、アルは彼に求めた。本当に意味がわからない。どうしようもなく欲しくて欲しくてたまらないのだ。

なかなかベッドにおろしてくれない彼に、目元からも、そして下からも、涙が溢れていく。

「…わかった。」

渋々発された澄んだ美しい声は、どうしてか深い悲しみをまとっていた。

アルをベッドにおろし、アランはかちゃかちゃと音を立て、何かの準備を始めた。求めていたものが満たされる期待に、アルの心が躍る。

アルの淫液にまみれた下着を、アランがゆっくりとおろして行き…

「尻をあげて…

…そう、上手だ。」

優しい手と声に獣のような体勢にさせられたあと、アルの後孔に柔らかなものが押し当てられた。身体中が歓喜に震え、羞恥にも構わずアルは腰を高く上げ、その挿入を自ら受け入れる。

たっぷりと溢れた蜜に覆われた秘孔はいともたやすくそれを引き込んだ。

「…ぁっ…、ぁんっ… 」

ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立て、まずはその棒はアルの浅い部分、1番感じるところを執拗に刺激した。大きな昂りが、何度も何度もアルの中を往復する。

もちろんそこは気持ちよく、甘やかな声が止まらない。それでもより深いところに刺激が欲しく、アルはだらしなく腰を振り、尻を上下した。

雄棒の動きとは反対に尻を上下させれば、より激しい律動がアルの中を刺激する。

しかしそこで、違和感に気づいた。

今までずっと、娼館で受け入れてきたそれとは全く違うのだ。芯を持った柔らかさはあるが、その硬さは変わらず、うねることもない。また、冷たくはないが特有の熱さも感じられない。

アランの方を見ると彼はきっちりと服を着ていて、その代わりに彼の手だけが何かを手早く動かしていた。

「ぁんっ…っ!!

…なんでっ… 」

与えられる快楽の強さと、真に欲しているものが与えられないもどかしさに、アルは涙をこぼしながら彼を見た。

問いかけに応えることもなく、彼の手はどんどんアルの深いところを擦っていく。

やがてαのものをかたどった大きなそれはアルの1番深いところに到達した。

「あっ…あぁっ…ぁ"ー!!!

だらしない嬌声を声が枯れるまで発しながら、何度も何度も中で達してしまう。

身体はガクガクと痙攣し、意識を手放してしまいそうなほど強い快楽の波が何度もなんども往復する。

とくとくと収縮する自らの中を感じながら、少しずつ戻ってきた理性が考えていた。

なぜアランは自分の手を血が出るほどに噛みながらも、アルに自らを挿入しなかったのだろうかと。

考えてみれば当然のことだ。αがΩと交わることなど娼館などの性的サービス以外にはほとんどなく、番などというリスクを伴う関係だって、ほとんど存在しないのだから。

アランが随分と自分に甘いから、いろいろなことを勘違いしていた。

きっと、人生で1番満たされたその日、

初めてアルは性の喜びとともに、

…手の届かないものを望む虚しさを知った。
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