壊れた空に白鳥は哭く

沈丁花

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2人の選んだ道

伝える思い

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「アル。」

低く落ち着いた声が、大切そうにアルの名を呼んだ。そんなに愛おしそうにしないでほしい。期待してしまうから。

「はい。」

なるべく感情を含まないように冷静に返事をする。優しい彼が困ってしまわないように。

「俺が、死んだことになっているのは、調べた?」

「…はい。」

アラン・クロフォードが死んだことになっていると、ネットの情報で確認した。

「俺たちが運命の番、という存在であることは?」

「…知っています。」

カイとロルフと運命の番について話した時、彼がそれなのだろうと実感したことを覚えている。

「じゃあ… 」

そこで彼は言葉を切った。静かな空間に、彼がすっと息を吸い込む音が響く。

その呼吸とともに、彼は苦しそうに目を伏せた。

「…俺に、人として大きな欠陥があると言うことは…?」

アランの身体が、声が、あまりに震えていたから、アルは伝えたかった。

あなたに何があったとしても、それは絶対に大きな欠陥ではないと。

震える彼の手を一回り小さい自分の手で包み込み、ぎゅっと力を込める。

大丈夫、そんなに苦しまないで。

「俺は、αに産まれながら、精子を作ることのできない身体を持った。どう頑張っても、子孫を残すことができないんだ。だから人と交わる資格などない。

今回の件だってただ自分が達成感を得るためのエゴで…

…こんな俺と、運命の番だなんて、本当にアルには申し訳なっ…!?」

震えている、掠れた声。

聞いていられなくて、アルは無理やり彼の口に手を当て、言葉を止めた。

彼の目が大きく開かれ、ぱちぱちと二回、瞬きをする。

「それが、俺と交わった後、苦しそうにしていた理由ですか?」

アルが静かに問えば、彼は記憶を辿るようにしばらく目を泳がせた後、ああ、と頷いた。

「…もしも番ってしまったら、君の身体を俺と同じ、子孫を残せないものにしてしまう。

それに厄介な身だ。一緒にいたらいつか君に面倒がかかるかもしれない。」

「…あなたはどうなんですか?」

「…?」

「俺は子孫を残すだとか残さないだとか気にしない!

一度死んだことになっているのは同じだし、あの時俺はあなたに助けられた!!」

強めた声は、掠れ、震えていて、自分で聞いていてひどいと感じるほどだった。

いきなりアルが口調を強めたから、アランは唖然としている。

もちろん相手が何を考えているのかわからない中で、自らの意志を伝えるのには恐ろしく勇気がいる。

それでも一緒にいられるなら、そばに寄り添うことができるなら、それ以外いらないとわかって欲しかったから、その言葉を伝えようと思い、アルは続ける。

「…あなたが好きです。もしあなたも同じ気持ちなら、一緒にいて欲しい。

どんな道でも、隣にあなたがいればいい。」

苦しくて、ここから逃げ出してしまいたい。受け入れられなかったら、今までよりずっと、遠くなってしまう。そんな恐怖をぐっとこらえた。

「…一緒に生活していたあの頃、日に日にアルが好きになっていった。君といるとどうしようもなく満たされたんだ。

運命の番だからと言うだけではなく、君の優しさや仕草、全てに惹きつけられて。

だから俺は、君を不幸にするのが怖い。」

不幸?彼と一緒にいる幸せを打ち消すほどの不幸など、この世に存在するのだろうか。

そんなもの絶対に存在しないだろうと、アルは確信する。

「アランさんの隣にいる幸せなら、どんな不幸だって打ち消してくれます。一緒にいて欲しい。何かあっても、いつでも俺が護るから。」

「…頼もしいな。」

ふわり、と彼が陰りのない柔らかな笑みを浮かべて、その屈託のない笑顔に、アルは思わずどきりとした。

嬉しい。もしこの告白が断られたとしても、彼のこの表情を作ったのが自分であることに変わりはない。

そのまま彼は目を瞑り、アルの顎を優しく持ち上げた。どちらからともなく重なった唇からは、

…甘い、甘い、香りがした。

「君といることが幸せだ。

だから、一緒にいてほしい。」

涙声は、それでも芯を持って凛と響いた。

「俺も、一緒にいたい。」

2人のほおを、静かに水滴が辿っていく。

寂しくも悲しくも苦しくもない。

なのに溢れたから、これを幸せと言うのだろう。
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