壊れた空に白鳥は哭く

番外編ss

誓いのピアス②

やけに長い時間調理時間の末、テーブルに並んだのはアルの好きなものばかりだった。

アルに嫌いなものはほとんどないが、とりわけ好きなものといえば面倒臭い。

ハンバーグにグラタン、コロッケ、ポテトサラダ…

自分でも歪だとわかっているが、アランの作った手のかかった料理が好きだ。

工夫の分だけ愛されていると感じるのは、自分のために料理をしてもらったことなどなかったから。

食卓いっぱいに並んでいたのは、ハンバーグにポテトサラダ、フライドポテト、細かく刻んだ野菜がたっぷりと入ったコンソメスープ。

バケットはこんがり焼かれている。

「俺の好きなものばかり。ありがとう、嬉しい。」

ありがとうの気持ちは本物だ。でも、素直に喜べなくて。

うまく笑えているだろうか、と不安になった。

彼の優しさを、もしかしてさようならの前だから？などと思ってしまう自分が嫌になる。

「「いただきます」」

席について一緒にいただきますをする。

美味しいはずなのに、味がしない。

「…？どうした？」

アランが心配そうな面持ちでこちらを見てきた。

…言えない。言えるわけない。だって、もし勘違いだったら傷つけてしまう。

「ううん、何も。ちょっと考え事してただけ。

それより、すごく美味しい、これ。」

「それならよかった。」

…嘘だった。アランもたぶん、その嘘に気づいている。

だって、全然安心していない顔だ。むしろその眼差しは不安そうで。

でも、彼は何も言わなかった。

そして俺も、何も言えずにいた。

食事を終え、一緒に洗い物を終えた後、少し話をしてベッドに入った。

ベッドの中、隣に彼の温もりを感じながら、俺の身体はおさまらない熱を持て余していて。

窓から差し込む青白い月明かりに、彼の白美な横顔が映える。

「…アランさん、起きてる？」

小さな声でそう問うと、

「…んっ…、アル… 」

彼は目を閉じたままうわ言のようにつぶやいて、寝返りを打って俺の身体をぎゅっと抱きしめてきた。

…困った。余計に熱くなっちゃうな。

でも、この香りに包まれるのは、幸せだ。

そっと彼の身体を抱きしめ返して、

「おやすみ、アランさん。」

と囁く。

美しく大人びた彼の、起きている時に比べて少し幼い寝顔が、少しだけ微笑んだように見えた。