記憶喪失の僕は、初めて会ったはずの大学の先輩が気になってたまりません!

沈丁花

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氷王子とレポート課題②

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彼は頬杖をついて窓の外を眺めており、礼人たちが前に行っても気がついていない様子だった。

「あの。」

三澤が声をかけると彼は顔を上げ、切れ長の瞳をこちらに向ける。

その瞳を見た途端、PC室で初めて目があった時と同じように礼人の胸はざわついた。

数秒間、互いの瞳をじっと見つめ合う。

彼は何も言葉を発しないし、礼人も何を言っていいのかわからない。

痺れを切らしたように三澤が一歩踏み出し、彼に問いかけた。

「これ、この子のレポートなんですけど、この文字は先輩のものですか?」

彼は困ったようにわずかに眉を顰めながらも、小さく首を振り肯定を示す。

「そうですか。あの、なんで教えてくれたのか聞いてもいいですか?」

しかし三澤から次の質問をされた瞬間、どこか苦しげな表情を浮かべ、俯いてしまった。

机の上に置かれた手が硬く握りしめられ震えている。

そのことに気づいた礼人は慌てて頭を下げ、三澤の手を引き教室の外に連れて行った。

「…無視はひどくないか?」

廊下に出たあと、傷ついたような声で三澤が小さく漏らす。

「そうかなあ…?」

「えっ?」

「無視、だったのかな…?」

礼人は首を傾げ、覚えた疑問をそのまま呟いた。

三澤が無視されたと思ったのなら、それを否定しようとは思わない。

でも、礼人は彼が無視をしたのではなくなんらかの原因で話せなかったのだと確信していた。

三澤に質問をされてからの彼の様子が頭から離れない。

あの時、レポートの答えを書いてくれた理由を知りたいとは思わなかったが、彼にこれ以上苦しい表情をして欲しくないと思った。

初めて目を合わせた時から、自分でも意味がわからないほどに礼人は彼を気にしている。先日初めて会ったはずの人なのに、絶対的に彼が信頼できる人なのだと、本能が語っているのだ。

「…と、礼人。」

三澤の声とともに思い切り手を後ろに引かれ、なにかと思ったらすぐ目の前に壁が立ちはだかっている。

考え事をしているとすぐに周りが見えなくなるのは礼人の悪い癖だ。

「どうした?何か考え事?」

「うん、ちょっと。」

「ごめんな、変な風に巻き込んで。もうちょっと俺も冷静にならないとな。」

「ううん、大丈夫。それよりお腹空いた。」

“じゃあ学食行こうか”、と三澤に言われ、礼人は“そうだね”、と頷く。

お昼には少し早いから、きっと学食の中も空いているだろう。
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