記憶喪失の僕は、初めて会ったはずの大学の先輩が気になってたまりません!

沈丁花

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次の日の夜と恋の始まり

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「えっなに、それは恋でしょ!男とか女とか関係なく!!」

一緒に夕食を摂りながら北瀬に抱く感情について話すと、葵は目を輝かせながらそう断言してみせた。

「そっか。僕は男の人が好きなのかな?」

礼人の問いかけに、葵はハンバーグを咀嚼しながら難しそうな表情を浮かべる。

「そういうわけじゃないんじゃない?そもそも1人だけでしょう?」

「n=1じゃサンプルが足りないってこと?」

「数学っぽく言うのやめて。」

「ごめんなさい…。」

「ああ、怒ってるわけじゃないってば。」

しゅんと頭を下げて謝れば、慌てた様子で訂正された。

「よかったあ…。」

葵が怒っていないことがわかり、礼人はほっと息を吐く。

そのあとは葵のサークルのことや互いの授業について話をした。

他の学部の情報は聞いていて楽しいし、学部ごとに建物の呼び方や授業の略し方が違うことも面白い。

そしてお皿が空になった頃に、礼人は葵に今日の本題を持ち出すことにした。

「あのね、葵。お願いがあるんだけど…。あとこれ、デザート。」

「なに何?キューピッド??」

「…キューピー…マヨネーズ…?えっと、そうじゃなくて、水曜日の6限のあと一緒に帰って欲しいんだ。サークルもあるから、だめだったらいいんだけど…。」

がたん、と音を立て葵がその場に立ち上がる。

「6限って、聞いてないんだけど!そんなの帰る頃には真っ暗じゃん!なんで言ってくれなかったの!!」

頬を膨らませものすごい剣幕で怒る彼を前に、礼人は若干涙目になりながら口を開いた。

「…終わってから気づいて、葵は飲み会があったから…。」

「それで?燕芽と一緒に帰ってこれた??」

今度は心配そうな声で尋ねられる。

「…ううん。PC室で徹夜した。それで北瀬先輩とも会って…い、いひゃい(痛い)よ…。」

葵が怒ったり心配したりする理由がわからないまま続ければ、彼にほっぺたを思いっきり引っ張られた。

可愛らしい見た目からは想像できないほどに力が強くて痛い。

「言ってよ!飲み会で一瞬抜けるくらいどうってことないんだから!それにPC室で2回も徹夜するとか何考えてるの!!身体に悪いでしょう!!!」

__…そっか。僕を心配して怒ってくれてるのか…。

「ふぁい(はい)…。ごえんらふぁい(ごめんなさい)…。」

意図を理解した礼人は、素直に彼に謝った。

すると頬を掴んでいた手が離れ、よしよしと頭を撫でられる。

「うん。わかればいいよ。俺もどうしてもだめな時は言うから、とりあえずそう言う時一言ちゃんと相談して。水曜日はできる限り迎えに行くね。」

「ありがとう。」

「年は同じだけどあやは俺の可愛い弟だからね!」

その日を境に、授業で遅くなる時は葵が講義室まで礼人を迎えにきてくれるようになった。

男だらけの工学部の中で葵が天使だと密かに囁かれるようになったことは、また別の話である。
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