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冬休み前と恐怖症①

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秋の過ごしやすい涼しさの時期など一瞬で過ぎ、外出にはコートが、室内では暖房が手放せない時期になった。

代わり映えのしない講義室で、礼人はすっかり暗くなった窓の外をぼんやりと見つめる。

「それでは以上で講義を終わります。最終日の6限なのに皆さんお疲れ様です。良い年末を。」

教授がそう言って講義室を出た途端、講義室には悪口が横行した。

冬休み前最終日の6限の授業に、よりにもよって英語の補講が入れられたのだからそうなるのも無理はない。

正直礼人も泣きたかった。

通知が来たのが今朝で、午後の授業がない葵はすでに旅行に行ってしまったし、英語のクラスが違うから三澤もそばにいないだなんて。

「久しぶりに泊まろうかな…。」

流石に今日は葵に連絡してもどうにもならないので、自販機のパンをお腹に詰め込み礼人はPC室に向かった。

昨日まではレポートや試験勉強で賑わっていたPC室も、冬休み前ともなれば流石に誰もおらずしんとしている。

__…なにしよう…。

レポートをやる気にはなれず、礼人はずっとリュックに入れっぱなしにしていた小説を手に取った。

“今まで恋なんてしたことないだろうから、これでも読んでみたら?”、と言って葵が貸してくれたものだ。

あらすじには高校生同士の甘酸っぱい恋愛物語と書かれている。

それを読み進める中で、礼人は主人公たちの高校生活と自分が高校生の時とのギャップに驚いた。

勉強ばかりしていたため、この物語の中で語られるようなおそらく青春と呼ばれるであろう思い出が礼人にはきっとほとんどない。

なんとなくどこか違う世界の御伽噺を読んでいるような感覚に陥る。

しかし終盤の主人公たちが図書室で一緒に勉強を教え合う場面を読んだ時、急に北瀬のことを思い出した。

そういえばあの日話したきり一度も会っていない。

__…先輩、今日は来ないのかな…?

考えながら時計に視線を移す。前の2回と同じタイミングならば、そろそろ彼が来る時間だ。

「会えたらいいなあ…。」

静かな室内に独り言がやけに大きく響く。

ぼうっと天井を仰いだ瞬間、何が起こったのか一瞬にして全ての蛍光灯が消え、礼人の視界が全ての光を失った。
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