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明日の君が笑顔なら 17

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「…や、あや。」

どこまでも優しい低い声に鼓膜を揺らされて、礼人ははっと意識を戻した。

そして、ぱちぱちと瞬き周りを見回し、今の自分の状況を思い出そうと試みる。

まず、なぜかベッドの上にいる。服は着ていない。お腹の中にが何か熱いもので満たされているような、変な感覚がする。そして、北瀬の顔がすぐ目の前にある。

__…あれ、なんで裸…?というか、この体勢…あっ、そうだ、僕、莉杜さんと…、、、

気づいた礼人は、あまりの失態に穴があったら入りたいと思った。

今、北瀬のもので礼人の中は完全に満たされている。

ということは、ゆっくりそっと中に挿入される過程で、それはそれは驚くことに礼人は眠ってしまったらしい。

「痛くない?」

頭を撫でながら、北瀬が尋ねてくる。ふわふわと、綿菓子みたいな声だ。

「えっ、と…、いたくない、です…。」

「よかった。…えっ、あや、どうしたの?やっぱり痛い?」

「また寝ちゃう、なんてっ…、ぅっ…、ごめん、なさいっ…うぅっ…。」

礼人の身体を気遣って丁寧に北瀬が行為を進めてくれている間に、眠ってしまうなんてありえない。

そう思ったら、泣いてしまった。デート中に何度も眠ってしまったけれど、今日は大丈夫だと思っていたのに。

自分は本当にだめな人間だ。恋人として、失格だ。

ぼろぼろと涙が溢れる。

これ以上泣いたら北瀬を困らせてしまうとわかっていても、止められないことが心底腹立たしい。

けれど、北瀬は不快そうな顔をするどころか、首を横に振って本当に幸せそうな微笑みを浮かべた。

その笑みがあまりにも幸せそうなことに驚かされて、礼人の涙はぴたりと止まる。

「どうして?俺の前で幸せそうにうとうとしているあや、かわいいよ?痛くないならいいんだ。してる間あやがずっと幸せそうに笑って、寝ながらうわごとみたいに俺の名前を呼んでたから、勿体無くて起こせなかった。」

「えっ…?」

「俺のそばにいるとそれだけで安心してくれるってことでしょう?俺にとってはあやがそういう存在だから、俺もあやのそんな存在に慣れていたら嬉しい。」

どこまでも甘い。罪悪感があっさりと拭われて、代わりに、身体の中が愛しさでいっぱいに満たされた。

前世でどれだけ徳を積めば、こんなに素敵なせりふを言ってくれる恋人に出会えるのだろう。

不思議すぎてぽかんと口を開けたままでいると、“そろそろ動いていい?”、と耳元で囁かれた。

北瀬の言うことならなんでも肯定したくなって、訳がわからないまま頷けば、腹の中に収まったまま静止していた熱欲がゆっくりと抽挿が開始される。

内壁を擦られるたびに許容範囲を大幅に超える快楽に蝕まれて、それをどうすることもできなかったかは、礼人は行為が終わるまでずっと甘ったるい喘ぎを続けたのだった。

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